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59話「想いは動く」

やっとこさ一章の最終節に入ります。

 今日も今日とて冒険者稼業。

 初めてダンジョンに入り、異形のフロアマスターを討伐してから二週間ほどが経過していた。

 初めは、いつもと違うフロアマスターをたった二人で倒した冒険者って感じで、ギルド付近に近寄ると注目を集めていたが、人の噂も七十五日というやつで直ぐに話題性はなくなり、二週間もすれば注目は殆ど浴びなくなった。

 七十五日どころか二十日も経っていないが、ただちょっと強いフロアマスターを二人で討伐しただけのことであり、直ぐに他の話題で消えていったらしい。

 注目を集める事が苦手な俺は願ったり叶ったりだ。

 その後、時に注目を浴びるような事を成し遂げなかったので、ちょっとした時の人で済んのだと思う。

 俺としては、フロアマスター戦の様なイベントがそうそうあってたまるか!と言ったところなので、最近は平穏でいい。


 魔力量やら単なる強さやらマップ機能やらと言ったアドバンテージのお陰で、他の冒険者よりも少ない日数でそれなりの生活が送れる俺と柳瀬さん。

 今日は依頼を受ける為に冒険者ギルドに来ていた。


「いらっしゃいませ~。こんにちは~!!何時も元気であなた方の担当者、メリーさんですよ~!!」

「メリーちゃん、こんにちは~」


 呼んでもいないのに出迎えてくれたメリーさん。

 彼女は暇なのだろうか?

 前から担当担当言っているけど、そんな役職ないよな?

 少し前から担当者と行って来るメリーさんに、挨拶を交わす柳瀬さんはホントに優しい人だと思う。

 あ、友達だったら挨拶交わすのは当たり前ですか。

 友達居ないんで知りません。


 普通なら受付カウンターで待っているメリーさんだが、今日は受付カウンターの外だ。

 何かあったのだろうか?と、受付カウンターをチラ見すると、メリーさんがいつも座っている場所だけ空白。

 他の場所には冒険者の列が出来ており、受付に居る受付嬢も忙しそうに対応している。

 やっぱりただのサボりならしい。

 よくこれでクビにならないなぁ?と思うが、ギルドセイバーの上位の地位にいると思われるレインさんでもメリーさんの行動を抑えられない所から、やはり何かを俺たちに隠しているんじゃないか?とも思わざる得ない。


 っと、そんなことはどうでもいい。

 サボりか休憩中か知らないが、折角出迎えてくれたなら色々と手間が省ける。

 俺は早速、柳瀬さんとの会話を繰り広げているメリーさんに声を掛けた。


「話している所悪いんだけど、何かいい依頼とかない?」

「えーっと依頼ですか?そうですね~~」


 ポンコツそうに見えるメリーさんだけど、仕事上では優秀だ。

 出来るのにやらない。

 そんな感じの人だと言うことが、ここ三ヶ月弱の交流で分かった。

 元の世界にもこんな感じの天才がいるとネットで読んだことがある。

 最も、メリーさんは天才でも何でもないし。

 ただ、普通に仕事はできるけど、やらない、ふざけて出世出来ないだけだ。


 と、メリーさんは早速よさげな依頼をピックアップしてくれるた。

 依頼の掲示板を見なくても、一応ある程度の依頼を把握しているのは何気に凄い。


「私的には、『ワイバーンの巣から卵を取って来て!!』というものが非常に興味深く感じますねぇ!!」

「却下で」

「何でですか!!ワイバーンくらいホノカさんとツカサさんは余裕でしょう!!Cランク冒険者はこれくらい冒険しないと!!」


 確かにメリーさんの言い分も一律ある。

 俺と柳瀬さんならワイバーンくらい余裕で狩れると思う。

 報酬も割に合っている。

 お金に困っていて、Cランク冒険者パーティーなら挑戦するかもしれない。

 断る理由なんかないと思うのが普通なんだが、俺は普通とは違った。


「ホノカさ~ん!!ツカサさんを説得してくださいよ~」

「わっ!!ちょっと急に抱き着かないでよ、メリーちゃん。 それで、何でも却下したの?ワイバーンっていうのが、どんなのかあんまり分かんないけど、理由も無しに断るのは酷いよ」


 必殺「柳瀬さんに泣きつく」を繰り出したメリーさんに、柳瀬さんは驚きながらも役割を果たしてくる。

 女の子が二人で抱き合っている絵面に、俺は若干目を逸らしながら答えた。

 俺も理由なしに断っているわけでないのだ。


「ワイバーンの巣ってここから遠いだろ?」

「若干ですね!!二、三日遠征すれば問題ないですよ!!」

「……遠征だるい。日帰り最高」


「ただの私情だよね!!?ツカサ君!!??」


 そう、だたの俺の気分的な問題なのだ。

 日帰りだと、帰ってから宿でゆっくりと読書ができる。

 野宿でもアイテムボックスがあるので、本くらい持ち運べるんだけど、こればっかりは気分的な問題。

 後、依頼の後は休日にしているから、依頼休日依頼が依頼依頼依頼休日依頼と日帰りの方が完全に休める回数が多い。

 冒険者として生計を立てているけど、やっぱり働きたくないでござる。


「……………………」

「……………………」


 二人揃ってなんだよ?

 こうもジッと見つめられると、気まずい。

 状況を打破しようと話の続きを促そうとするが、どう続けばいいのか分からない。

 故に、俺も黙る。


 ギルドの入り口付近で、黙ったまま固まっている三人。

 うん、邪魔だよな。

 とりあえず、酒場エリアの席に移動する。

 メリーさんは仕事中なのだが…………俺にはどうすることも出来ない。




 場所を酒場の席に移動した俺と柳瀬さんとメリーさん。

 酒場のウエイターさんが注文を受けにくるが、俺と柳瀬さんは依頼前だし先ほど朝食を食べったばっかりなので何も頼まない。

 席に座ってから何も注文しないのは悪いと思うが、メリーさんが果汁ジュースを頼んでいるから気は楽だ。

 というかメリーさん、何度も言うが仕事中だよな?

 ここまでのやりたい放題に、呆れを通り越して関心すらする。

 尊敬は全くしたくないけど。


 頼んだ果汁ジュースは直ぐにテーブルにやってきた。

 メリーさんが仕事終わりのお酒を煽るようにして、コップの中身を半分飲み干した。

 良い飲みっぷりだ。

 これが仕事中でなければ。

 メリーさんは口元を拭いながら、話の続きを切り出した。


「で、受けてくださいますか?ホノカさんはどう思いますか?」

「私は受けても良いと思うよ。難易度も私達にピッタリだし、メリーさんがオススメするってことはきっと報酬も良いんだよね?」

「はい、そりゃあ勿論!!Bランクの依頼ですし………あ」


 あ、じゃあねぇよ!!

 Bランク依頼って言ったよな。

 明らかに口が滑ったって顔になっているぞ。


 目線を俺から逸らすメリーさん。

 残念、反対方向には柳瀬さんがいる。


「…………」

「…………」

「………ひゅ~ひゅ~~♪」


 口笛吹き始めたメリーさん。

 あんまりうまくはない。

 ある有名なキャラクターが頭の中に思い浮かんで、そういや続きはどうなったんだろうか?と少しだけ元の世界に未練が出てくる。

 が、そうやって思い出すと、完結していない本全てに未練が出てくるので、振り切って目の前の事に集中させた。


「……Bランク依頼。メリーさん、私達Cランクだよ?」


 柳瀬さんの言う通り。

 俺と柳瀬さんは二週間前のフロアマスター討伐でCランクに上がったばかりだ。

 ランクが、少々違う気がする。


 そのことについてメリーさんの言い分はというと。


「えーっと……ほら!!冒険者ランクの一つ上のランクの依頼までは受けても問題ない決まりですから!!私がお二人に勧めても、全くもって問題は無いのです!!」

「そ、それはそうだけど……」


 冒険者ランクの一つ上までは受けてもいいと言う、方法で攻めてきやがった。

 でもな……メリーさん。


「そういう問題じゃないんだけど?」

「と、おっしゃいますと?」

「ランクの差は上に行けば行くほど跳ね上がる。今まではランクの差は特に感じないほどだっただろうけど、CランクとBランクだと今まで以上に差が激し過ぎると思うけど?そう説明したのは一体誰だったでしょうか?」

「…私ですね~。てへっ☆」


 てへっ☆じゃねぇよ!!


 ランクごとの差が上に行くほど上がっているのは、ゲームや小説でも学んだ知識だ。

 FランクからEランクはモンスターを数体と依頼を数件達成すれば誰でも簡単にランク昇格出来る。

 EランクからDランクに上がるなら、俺と柳瀬さんみたいにゴブリンの群れを全滅させると言った一回の依頼で大量のモンスターを討伐、もしくは討伐したモンスターの総数などで昇格出来るらしい。

 DランクからCランクに上がるなら今度は難易度が上がり、ボスレベルのモンスターを一体以上の討伐が条件。

 以上が、今までの俺と柳瀬さんが昇格した時の条件を考えて、俺が勝手に思っているランクの昇格条件だ。

 多分、他にも色々と見られている部分はあると思うが、詳しいことは一介の冒険者である俺には知る由もないだろう。


 依頼掲示板でBランク依頼もチラホラ貼ってあった。

 なので、全部依頼を確認したりする俺は、当然内容も漠然と見ている。

 大抵は大型モンスターや魔物の討伐が目立って目に入ったが、Bランク依頼ともなると数自体が少ない印象だ。

 依頼の少なさも上位冒険者の数に影響を及ぼしているんだと思う。

 依頼が無ければ昇格条件を満たせないと言う、根本的な問題だ。

 最も、数が少ないのは平和で良いと思うが、魔族との戦争中なのでそれ関連の依頼も合ったが。

 北に行けば魔族や魔物系の依頼も増えてくるのだろうか?

 それは、ギルドの上層部と国のお偉いさん、後は現地でしか分からない事だろう。

 出来るだけ北には近寄らないで置こう。


 俺が呆れ混じれに「魔族に関わらないようにしよう」と思っていると、柳瀬さんが言った。


「ツカサ君、依頼の危険性は分ったけど。………それを踏まえてメリーちゃんは勧めてくれたんだと思うよ?」

「………それで?」


 柳瀬さんのまさかの援護に、メリーさんは期待した目を向けてくる。


「メリーちゃんが出来ると思ったのなら、出来るんじゃないかな?それに……」

「…………………」

「それに、少しは冒険してもいいかな?って思った」


 そう来たか。

 いつもは俺の意見ばっかり気にする柳瀬さんだが、今回は俺に聞かれているわけでもないのに自分の意見を述べた。

 成長。

 そんな言葉が俺の中に出てくる。

 技術的な面は、転生直後よりも成長しているのが目に見えて分かっていた。

 俺に合わせてばかりだった柳瀬さんが、冒険者職に慣れてきて向上心を持ち始めた。


 向上心を持つことはいいことだ。

 ほとんどの人がそう思うだろうが、俺には絶対に良いことだとは思わないでいた。

 学生時代は勉強、部活動での向上心。

 いい点数を取りたい、大会などで好成績を収めたい。

 誰もがそう思うだろうが、俺にはそんな気持ちは湧いて来なかった。

 点数を取ったからどうなる?好成績?だから何?

 社会人になると、昇進するために仕事を熱心に覚えようとして、一所懸命に頑張る。

 昇進したら何なる?

 給料は増えると思うが、その代わりに責任が増える。

 そもそも、働きたくない。


 まぁこんな感じで、向上心には良い想いはない。

 仕事の為に努力するなんか馬鹿らしい。

 社会不適合者の個人的な感想が以上だ。

 だから、冒険者もある意味趣味として活動しているだけであって、楽しく自分のペースでやっているのが現状だ。

 誰かに強制されたり、お金の為に仕方なく無理をするなどは断じてしない。

 異世界の冒険者は、自分の理想の職業の一つだと思っていたから、いざ異世界に転生してまとまったお金が出来た今でも続けていのだ。


 ここでメリーさんに流されて依頼を受けるのは、俺が決めたルールではグレーゾーンだろう。

 向上心の無い俺が、命の危険が多くなるBランク依頼には手を出すべきではないと訴えている反面、柳瀬さんに言われて受けたのなら、それは自分の意思を少なからず持って受けた事になる。

 だから、



「受けて見ない?」


「あ…………」



 柳瀬さんの言葉に言い返えせないでいた。

 答えに困った俺は目をウロウロさせて、柳瀬さんと目が合う。


 人と話す時は目を見て話そう。

 会話の基本だ。

 大人になるにつれて、皆が出来る様になるスキルの一つ。

 しかし、真っ当な大人を目指さなかった……異世界で生きること夢見ていた俺には普通のサラリーマンなど眼中になかった……為、若干のコミュ障も入り、そのようなスキルを持ち合わせていない。

 俺としては普通に生活していただけなのに、何処で手に入れれるスキルなのだろうか?

 日常系のRPGゲームなら「友達を○○人作りましょう!」から派生するスキルだと判断。

 あ、初めから積んでましたわ。


 とにかくだ。

 本物のコミュ障には及ばないが、人のコミュニケーションが壊滅的に皆無な俺は、人の顔を見れない。

 ましてや、目線を交わすなどは不可能にも近かった。

 そんな俺が、転生してから数度体験していると言えど、柳瀬さんと目を合わせてしまったら?

 何が起こるか大体は予想が付くだろう。


 心臓がキューッと締め付けられる感覚が、身体を支配する。

 その感覚は手足にまで及ぶ。

 息が上手く出来ない。


 そのまま長い時間が過ぎた様に感じた。

 俺は深い深呼吸を一回行うと、余裕が生まれて視界がクリアになる。

 一方で柳瀬さんは、まだ目を潤ませて俺を見上げていた。

 これが恋愛物でよく見る上目遣いか……などと戯言を考える暇すら生まれる。


 俺が受けないなんて言ったら、柳瀬さんは諦めるのだろうか?

 分からない。

 諦めないかもしれないし、諦めるかもしれない。

 だが、そこはどうでも良くて、問題は俺の気持ちだ。

 初めは、Bランク依頼だから、遠出しないといけないから、と言った俺の私情が強かった。

 が、二度に渡る柳瀬さんからの提案。

 俺の心は揺れた。


 柳瀬さんからのお願いだから別にいっか。

 柳瀬さんの言葉は出来るだけ否定したくない。

 何故かそう思っていた。

 理由は見当が付きそうで付かない。

 もしかしたら、ホントは気がついていて、それでも気がついていない振りをしているだけではないのか?

 この話はもう何度目かになるが、この時にそれが大きくなった。


 だから、俺はもう一度軽い溜息を吐くと答えを出した。


「はぁ。そこまで言うなら………。ただし、危険だと思ったら速攻で逃げるから」

「……っ!!うん!!!ありがとね!!!」


 パーっと顔を明るくさせる柳瀬さんに、俺は又もやドキッとする。

 答えは出ていのだ。

 だけど、先入観が邪魔をする。

 違う。そんな訳ない。ただいい人なだけ。


 喜ぶ柳瀬さんにメリーさんがルンルンな様子で笑った。


「良かったです~!!実はこの依頼、誰も受けなくて困っていたんですよ~」


 おい。やっぱり受けるのやめようかな?


「ツカサ君抑えて。抑えて。 メリーちゃんもそんな裏情報要らないから!!言うんだったら、先に言ってよ!!」


 柳瀬さんが俺の表情を察したらしく、メリーさんに怒っている。

 いや、怒るっていうよりは悲鳴をあげて説教しているって言った方が正しいのか?

 それよりも、何で俺の心の声に気づかれた?

 そんなに表情に出ていたのか?

 別に、無表情でいようと努めているわけではないが、自分の気持ちを察せられるというのは、複雑な気持ちだ。


 それに………。

 もうやめよう。


 俺はある決意を決めてこの依頼を受けた。

 話すのは、終わった後だ。



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