56話「新しい魔法」
反撃開始は柳瀬さんが居ないと始まらない。
俺は柳瀬さんを助けるために魔法を発動させる。
「そろそろ柳瀬さんを離せっ!『ファイヤーバレット』」
「ぐぎゃぁぁぁ!!!」
柳瀬さんに当たる可能性もあったが、並みの攻撃では先ほどの二の舞になるだけだ。
俺は速度重視の炎の弾丸をゴブリンロードにぶつける。
炎が高速でゴブリンロード目掛けて飛んで行き、頭にぶち当たった。
ゴブリンロードは頭が消し飛ぶ………なんてことにはならずに、それでも俺の視界に映るHPゲージは減っており、ダメージ与える事に成功する。
と同時に、攻撃を受けた反動でゴブリンロードは柳瀬さんを離した。
流石に高速で飛んできた魔法を利用する事は出来ないみたいだ。
遅い魔法よりも速い魔法を主体として使った方がいいと判断する。
柳瀬さんは受け身を取って地面に転がると、急いで起き上がって俺の方に走って来た。
申し訳なさそうな顔をしているようにも、怒っているようにも見える。
俺の目はこんな時には当たっていたようで、柳瀬さんは開口一番に「勝手な行動した挙句捕まってしまってごめんさい」と謝ってきた。
「ごめんね。私、冷静じゃなかった。助けてくれありがとう」
「それはいいけど、怪我とかはない?」
「……うん!ツカサ君がかけてくれていた魔法障壁が、ダメージを和らげてくれてたよ」
なら良かった。
と言って、そろそろ復活しそうなゴブリンロードに追撃を開始しようと考えた俺に、柳瀬さんが待ったをかける。
如何やら柳瀬さんには、ゴブリンロードの討伐よりも大事な何件だったらしい。
柳瀬さんは嬉しそうだった顔を急に真顔に戻すと、ジト目で俺を見つめてくる。
「でもね、もう少し取り乱したり早目に助けてくれなかったのかな?それはどういう事なの?」
「えっ?柳瀬さん?急に怖いけど………」
「私、モンスターに捕まったんだよ!!もうちょっと何かあってもいいでしょ!?」
「あ、はい」
真顔から急に感情を爆発させる柳瀬さん。
初めてと言っていいレベルでモンスター相手に失態を犯してしまった事が、柳瀬さんの中では許せないことなんだろうか?
それを、俺が真っ先に助けなかったり、取り乱したりしないからって八つ当たりですか。
でも、だからといって言い返したりはしないで、俺は柳瀬さんのお言葉をしっかり聞き受ける。
だって、俺が柳瀬さんが捕まった事を取り乱さなかったり、真っ先に助けようとしなかったのは事実だからだ。
怒られるのは嫌いで、怒られると自分の自信を無くしそうで、負の感情のスパイラルだと思っていたけど、柳瀬さんのは聞いていて何処か違う。
聞き入れなければならない、ではなく聞きれるか。
柳瀬さんの言葉を聞いていくと、自分が変われるのではないか?
自覚無しにそう思っている自分がいた。
だから俺は、柳瀬さんの怒りを無視や聞き流したりせずに聞き入れる。
頬を紅くして俺に不満のお言葉を並べる柳瀬さん。
擬音を付けるならぷんすか!と表現されるだろう。
何と無く可愛いと思い始める自分がいるが、これも無自覚の域を超えない。
ここが街中の安全地帯なら柳瀬さんが満足するまで時間を浪費するのだが、あいにくとここはダンジョンの十階層。
しかもフロアマスターの目の前だ。
俺の魔法を喰らってのたうち回っていたゴブリンロードは、起き上がり俺と柳瀬さんに向かって槍を突き刺してくる。
「がるるるぅぅぅ!!」
「ゎあっ!!」
「っと」
間一髪、俺と柳瀬さんは左右に分かれて槍を回避する。
更に俺の方に槍を振りかざして来たので、連続し転がる事で回避。
ゴブリンロードは、己にダメージを与えた俺を中心的に攻撃を繰り出してくる。
俺はゴブリンロードの猛攻を回避や防御障壁でガードしたりするが、これが中々キツイ。
防御障壁を常時発動すればいいのだが、発動している間は魔力を常に消費し続けている。
さらに攻撃を防ぐ度に大きく魔力を持ていかれるのだ。
魔力が規格外に多いらしい俺でも、常時発動は難しいのがわかる。
「もぅ!!!ツカサ君ばっかり攻撃しないでよねっ!!」
俺ばかり攻撃するゴブリンロードに、柳瀬さんは業をなして攻撃を繰り出す。
俺の魔法も注意すべき点なのは明確だが、柳瀬さんの剣撃でもダメージは与えられている。
そのことを理解しているらしいゴブリンロードは、俺への攻撃を一旦止めると柳瀬さんに向かって槍を突き刺す。
柳瀬さんは突き刺された槍に、ブラットレイピアを横から殴りつけるようにして逸らすと、ダッシュしてゴブリンロードに接近する。
元の世界でも県屈指の速さを誇る柳瀬さんだが、この世界に来てからさらに磨きがかかっていた。
俺の目でやっと追える程のスピードでゴブリンロードに接近すると、先ほどとは反対側の足の筋を切った。
前回はその後油断をしてゴブリンロード捕まってしまった柳瀬さんだが、前回の失敗を過ぐに学んで焼きまわしの様に視界外から迫ってくる手を、振り向きざまに切る。
俺の視界に見えるHPゲージは半分を切った。
柳瀬さんがヘイトを引き受けている間に、俺もボーっと突っ立っていた訳ではない。
俺から柳瀬さんにゴブリンロードのヘイトが集まり、攻撃を引き受けて貰っている間に、反撃の魔法構築に集中する。
威力が大きくても先ほどのように利用されるから、変に大きな魔法はかえってこちら側全滅してしまう。
だけど、小さくても威力を込めた素早い攻撃なら対処できないはず。
俺は素早い魔法をイメージする。
速い魔法。
バレット系も攻撃が通ったけど、あれは初めて使った魔法だった。
ゴブリンロードが普通の種と違うなら、二度目以降は通用するかも怪しい。
初めのうちは通用するかも知れないが、段々と慣れてそのうち対応してくるかもしれない。
だったら、初見で仕留めるつもりで。
高威力であり高速で発射出来る魔法をイメージする!
誰もが驚く魔法。
雷撃をイメージしろ。
光よりも速い速度は存在しないはずだ。
例えるならスタン系の魔法。
雷ほど大きな雷撃でなくてもいい。
コンセントからでも発せられるような電撃。
イメージだ。
物理法則なんて元の世界基準なものは考えるな。
過程をイメージしろ。
結果をイメージしろ。
想像で魔法は発動できる。
柳瀬さんが振り向きざまにゴブリンロードの手を切りつけHPゲージを半分くらい削ると、俺のイメージが魔法発動へと変わる。
一撃離脱を得意とする柳瀬さんがゴブリンロードから離れると、俺は魔力を押し出して電撃へと変えた。
「『エレキショック』!!」
「ガガガガァァッ!!!!」
当たれば感電。
流石にこれは避けれないし、跳ね返すことも不可能。
ゴブリンロードはエレキショックを受けると、感電し行動不能状態に陥る。
これによりゴブリンロードのHPゲージが残り僅かまで減った。
俺は、最後の一撃を柳瀬さんに託すように叫んだ。
「柳瀬さん!!」
「分かってるよ!!任せて!!はぁぁぁぁぁっ!!!」
柳瀬さんは消えるように見える程素早い動きでゴブリンロードに接近。
ゴブリンロードに一撃、二撃、三撃と連続して剣撃を放った。
唸り声を上げていたゴブリンロードは最後に柳瀬さんと俺を睨み付けると、地面に倒れてダンジョン内のモンスター同様に消えていく。
フロアマスターの討伐完了だ。
「う、うぉぉぉ~~!!!」
「やりやがった!!!」
ゴブリンロードが倒されると、数えるのが馬鹿らしくなるほどいた取り巻きのゴブリン達も消えた。
戦っていたりして急に目の前の敵が消えたのを見て、冒険者達は戸惑ったのだろう。
が、最終的にゴブリンロードが消えて無くなりアイテムがドロップしているのを見ると、勝利の雄叫びを叫ぶ。
嬉しいのは分かるが、そんなにも声をあげなくてもいいじゃないか?と思うが、体育会系が多い冒険者は叫ばずにはいられないのだろう。
俺は絡んでくる冒険者を柳瀬さんに押し付けると、ゴブリンロードが落としたアイテムを拾った。
『磨きかかったゴブリンロードの巨槍』
ゴブリンの支配者たるロードの巨槍。巨大故に常人には扱えないが、ゴブリンに対して圧倒的な力を誇るだろう。ゴブリン金属という特殊な金属で作られている。種の繁殖が取り柄なゴブリンならではの武器。
攻撃力+60
ゴブリン特攻+80
魔防+50
やっぱりあの槍がドロップアイテムか。
っていうか、説明文の最後、下ネタじゃねぇかよ!
直接的じゃないから大丈夫だと思うけど、それでいいのか?と言いたくなる。
誰が考えているんだろうか?
気になると言えば気になる。
それに、武器自体の能力も今まで一番高い。
+値80とか初めてみた。
これ使えばゴブリン系統のモンスター相手には先ず負けることは無くなるのではないだろうか?
そう思える程の特攻値だな。
まぁ、ゴブリンの支配者が使っていた槍だと考えれば妥当な数値かもしれない。
それに、俺の『ファイヤーボール』を突き刺して運用する事が出来たのも、高い魔防のお陰様か。
防具だけじゃなくて、武器でも魔防が高いとあんなことが出来ると改めて知った良い経験だな。
ただ問題があるとすれば………。
俺が問題視していることは簡単である。
巨槍や説明文にも書いてある通り、常人には扱えない程デカイのだ。
長いだけならまだしも、単にデカイ槍。
これは使える人が限られている。
柳瀬さんとも相談してみるが、多分お蔵入りかマニアの手元に届くだろう。
アイテムボックスなら大きさ関係なしにしまい込む事が可能なので、持って帰ったり保管場所に戸惑ったりはしない。
俺は『磨きかかったゴブリンロードの巨槍』をアイテムボックスにしまい込むと、やっとフロアマスターの討伐が終わったんだと実感する。
実感が湧くと意識していなかった事が急に意識するようになるのと同じで、俺はふらっと地面に倒れ込んでしまう。
「あ、おい兄ちゃん大丈夫か?」
「あ~はい。魔力枯渇を起こしただけなので時間が経てば良くなります。魔法薬もあるので」
「そ、そうか?俺は魔法使いじゃねぇから分かんねぇんだけどよ。無事なら良かった」
倒れた原因は明白だった。
魔力ゲージを見ると、ゴブリンロードと戦闘し始める前から魔法を使いまくったせいでカラカラ状態。
かなりの威力を込めた『ファイヤーボール』に新しい魔法『エレキショック』
どちらも俺の魔力ゲージを一割も飛ばす消費魔力量を持つ燃費の悪い魔法だ。
その代わり威力や使い勝手が良い魔法なのは当たり前のこと。
近くにいた名前も知らない冒険者の一人が、俺に大丈夫か?と声をかけてくれる。
本当に魔力枯渇だけが原因なので、魔法薬を見せながら大丈夫アピールすると、笑いながら俺の前から立ち去っていく。
目線だけ動かして追いかけると、他の冒険者がしているバカ騒ぎの輪に入り込んで行った。
俺は魔法薬を一瓶一気飲みすると、転移門を探そうとマップ機能に意識を振り込む。
すると、冒険者が十数名こちらから少し離れた場所に現れた。
何もない場所から、ではなく転移魔法陣らしきマークのある部屋からだ。
位置は、俺と柳瀬さんが降りて来た九階層からの階段とフロアマスターが居た部屋を挟んで反対側。
俺と柳瀬さんが転移魔法陣を目指していたから、フロアマスターと遭遇するのは必然の結果だと思う。
現れた十数名の冒険者らしき集団は一直線にこちらに向かって来る。
ただの冒険者かもしれないが、一応ギルドからの増援かもしれない。
フロアマスターを討伐したのは俺と柳瀬さんだけど、討伐を決意したのは俺だけど、終わった後の厄介ごとは面倒だと感じる。
身勝手な自分だと自覚しているが、それが俺だ。
直ぐには変えれない。
この場を自然に脱出、は無理かもしれないが、状況の説明とかを誰かに押し付けてられればすんなりと終わるかもしれない。
目立たない事で有名な俺だ。
今回の適当にやり過ごせるはず。
そんな淡い期待を抱いた俺は、出来るだけ集団に紛れる様に後ろに下がった。
既に数十名の冒険者たちは部屋の前まで来ており、そこにはフロアーマスター戦で共闘した冒険者たちが集っている。
全員が全員出入口付近に集れいるわけではない。
怪我人や疲れて動けない者は少し離れた場所から遠目で見物している。
俺はその人達に紛れるようにして背を向けて………。
「あ!ツカサ君!!この人達がフロアーマスターを討伐した私とツカサ君に話があるって言っているけど……」
「何でこうなるかなぁ?」
騒いでいた集団の中に置き去りにしていた柳瀬さん。
現れた増援らしき冒険者の対応にも駆り出されていたらしく、俺はあっさりと目立たないという希望を打ち砕かれた。
柳瀬さんが重そうな鎧を着た女性を引き連れて集団から出てくる。
女性は柳瀬さんが声をかけている俺を見ると、怪しそうに目を細めた後強い口調で尋ねてくる。
「貴殿がフロアマスターを討伐したという者か」




