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54話「なんだかんだ言って」

「俺は……戦いに行くつもりだよ」


「えっ!!?」



 俺の言葉に驚いた表情を浮かべる柳瀬さん。

 俺が撤退を選ばずに戦いに行くと言う選択が意外だったのだろう。

 だが、考えてみてくれ。

 俺は確かに目立つのは嫌いだ。

 しかし、ラノベみたいに俺TUEEEはしてみたいと思っている。

 今起きているのは異世界転生で、予想通りなら初中ボス戦と言うイベントだ。

 女神様の言う通り俺に勇者としての力が備わっているなら、このくらいのイベントは簡単にこなせると思う。

 剣についての才能はからっきしだが、魔法についてはチート並みの力を持っているはずだ。

 実際に、俺は今まで本気の戦いはした事が無かった。

 毎回命をかけているのだから一応全力は出そうとはしていたが、ガチで全力を尽くす前にどうにかなってきたから。

 だから、もう少し行けるんじゃないか?と考えてしまっている。

 一度、痛い目を見ないと俺のこういうのは止まらない。


 俺が考えて事をすべて話すと時間がかかってしまうし、何よりも恥ずかしい気持ちがある。

 戸惑っている柳瀬さんに俺の考えを要約して伝えよう。



「だって、こんなイベントを逃す訳にはいかない」


「そ、そんな理由で………っ!!」


「柳瀬さんは帰っても良いよ。俺のわがままに付き合わせるわけにはいかないから」



 俺はそれだけ言いうと、杖を握りしめてモンスターが居る方向に歩き始めた。


 ゲームとかでボス戦に挑むとき、そのまま何も知らずに特攻して攻略する人と攻略情報を見ながら戦略を立ててから挑む人がいるだろう。

 俺の場合はどちらかと後者に当たるタイプの人間だ。

 攻略サイトを見てその場で即席に立てれる戦略を組んでボスに挑む。

 アイテムを買って装備を整えてレベル上げをある程度して、初めの方でレベルMaxまで耐久してから攻略に進むとかの苦労まではしないが、それでも十全に備えてボスの部屋にたどり着く。


 ゲームなら事前に情報さえ知っていれば幾らでも対策は練れるが、ここは現実世界。

 一応エドさん、俺たちに振り向きもせずに通り過ぎて行った冒険者パーティーと幾らでも引き返せる場面があったけど、ゲームでないから基本出来事は全て突然やって来る。

 ゲームならここで引き返してレベル上げやアイテムを整えに帰ることも可能だけど、イベントは二度と起こらないはずだ。

 初めにすれ違った冒険者パーティーがギルドに話を持って行っているなら、低階層で周回している人が勝てないモンスターでも中階層、最下層と潜れる冒険者をギルドが討伐体として潜らせるはず。

 だから、二度と起こらないイベントなんだ。


 話がそれてしまった。

 俺は早歩きになりながら、今すぐ出来るだけの準備をする。

 ゲームでは戦闘画面に入らないとハブ系の魔法は大抵使えないがここは現実世界、何時でも好きな時に魔法をかけておける。

 俺は自身に防御障壁を張ると、何時でも攻撃魔法を発動できる様に集中した。


 マップで確認すると、フロアマスターと戦っている冒険者は撤退を始めている。

 人数を指す点の数も初めに確認した時に比べて少なくなっており、複数人の冒険者が死んでしまった事を示す。

 何回か道が左右に分かれいるけど、真っ直線に進んで行けばいいはず。

 あと少しで戦線が見えるはず、というところで後ろから声が聞こえて来る。



「ツカサ君!!!待って、私も戦う!!」


「柳瀬さん………」



 俺が勝手に逃げたはずだと思っていた柳瀬さんが走って追いかけて来ていた。

 何があったのか分からないけど、目が赤くなっている。

 柳瀬さんは俺に追いつくと決意を俺に宣言してきた。



「私も一緒に戦うから!!ツカサ君は魔法使いなんだから前衛は苦手でしょ?私がツカサ君の前を守るから、ツカサ君は後ろからお願い!!」


「……えっと」


「わっ!!え、えっこれは、その……とかじゃなくて……。でも似たような感じでも……」



 急な物言いに俺はどう返答したらいいのか迷ってしまう。

 柳瀬さんも自分で何を喋っているのか混乱してきているようだ。



 告白みたいな物言いだと思うけど、それは絶対に違うことだろうなぁ。

 多分、何時も見たいに柳瀬さんがバンバン前に出て敵に攻撃するから、俺は後ろから後方支援して欲しい。

 みたいな感じの意味だろう。

 後方支援って言っても、ハブ系の魔法は無詠唱でしにくいから苦手なんだけどなぁ。

 ま、何時もみたいに防御障壁をかけて、柳瀬さんが攻撃を気にせずに特攻できるようにして、俺柳瀬さんが対処できない取り巻きを俺が仕留めれば問題ないか。

 やっぱり、俺一人だとできることに限界があるのかもしれないな。



 柳瀬さんが居る事に依存しまいと思っているのだが、なんだかんだ言って頼ってしまう。

 そのことについて内心で気にかけながらも、俺はあたふたしている柳瀬さんに頼った。



「だから、要するにこれは……」


「柳瀬さん……。いつも通りに前は任せた。俺は後ろから指示と攻撃をするから」


「……といいますか。……っへ?あぁ!!分かったよ!!いつも通り頑張れば良いんだね!!……だと思ったのに」



 柳瀬さんは最後にゴニョニョと俺に聞こえない声で呟いていたが、とりあえずいつも通りと言うお願いに了承する。

 柳瀬さんにも防御障壁をかけて、「助けるなら急がないと!!」と柳瀬さんが走り出したので俺も走る羽目になった。

 流石に全力で走られると俺は瞬く間に置いてけぼりにされるはずだが、如何やら手加減して俺が追いかけれるギリギリのスピードで先導する柳瀬さん。

 戦法についてもう少し考えたかった俺だが、走ることに精一杯で何も考えれない。

 結局、「もう着くから一人で行って」と伝えることが出来たのは視界上でモンスターの姿が確認出来た頃まで進んで時だった。


 「やぁぁぁ!!!!」と柳瀬さんが気合のこもった声を上げながらモンスターの集団に突っ込んで行く。

 モンスターの種類はここまで潜って来た時によく見たゴブリンだ。

 しかし、ただのゴブリンではなくボブゴブリンやゴブリンウォーリアと言った上位種。

 ボブゴブリンは普通のゴブリンよりも大柄で武器を持っている事が多いが、戦い方はただ武器を振り回すだけの事が多い。


 柳瀬さんは難無くボブゴブリンを切り伏せて行く。

 切って避けての繰り返してゴブリンたちの数を減らしていくが、横から邪魔をする影があった。

 ゴブリンウォーリアだ。


 ゴブリンウォーリアはボブゴブリンの更に上位種で名前の通り戦士だ。

 姿はボブゴブリンに似ているが、鎧も装備しており武器の扱いが長けているのが特徴的。

 初めて目にするモンスターだが、モンスター図鑑で読んだことのある俺は一目で分かった。

 柳瀬さんはゴブリンウォーリアの攻撃を凌ぎきるが、すかさず別のゴブリンウォーリアが柳瀬さんを襲う。



「『ファイヤーボール』!!」


「っ!!ツカサ君ありがとう!!」


「どういたしまして」



 後方支援は俺の分野だ。

 柳瀬さんの周囲を見ていた俺はようやく戦場にたどり着くと、柳瀬さんを別角度から襲っていたゴブリンウォーリアにファイヤーボールを当てた。

 外すとは微塵も思わない。

 今までの経験上、俺の視界に写るターゲットカーソルは絶対だ。

 敵が逃げようとしても俺がイメージしてやれば追跡して当ててくれる。

 誤射を警戒してファイヤーボールでなくウォーターボールでも良かったのだが、水ではゴブリンウォーリアの鎧を貫通出来るか不安だったのでファイヤーボールにした。

 しかし、それが幸いしてファイヤーボールに当たったゴブリンウォーリアは真っ黒に焼け焦げて絶命する。

 念の為ただのファイヤーボールじゃなくて、熱量を上げておいたのが正解だったみたいだ。


 ようやくモンスターの群れに追いついた俺は、まず初めにさっきまで戦っていた冒険者を保護することにする。

 一人一人防御障壁を張っている時間はないので範囲防御の『結界』を張り、状況説明と把握を兼ねて冒険者に接触した。

 本当は柳瀬さんの方がこういったのは得意なんだが、あいにくと前線を維持してもらわないといけない。

 ここは接客モードで頑張ることにする。



「ヤバそうだったんで、助けに入りました。迷惑でした?」


「そんなことはない!!一人でも多く戦力が欲しかったところだった!!」


「小僧ありがとよ!!」


「状況把握したいんですが………ボスはどれですか?」


「ゴブリンロードだ!!今までこんな浅い階層で出たこと無かったのによう!!」


「ゴブリン……ロード」



 ゲームのような視界の効果でモンスター一体一体の名前が分かるのだが、一応確認を取る。

 案の定、一番奥に鎮座しているゴブリンウォーリアよりも更に巨体のゴブリンだった。

 ゴブリンロード…その名の通り「ゴブリンの支配者」だ。

 道理で知能数の低いゴブリンにしては集団で統率が取れているはず。

 俺はどうやってこの状況で戦闘を終わらせるか考える。



 全滅させるのが一番早い方法なんだけど、これじゃあこっちの体力が持つか分かんない。

 俺と柳瀬さんならゴブリンウォーリアにも太刀打ちできるけど、この人達や今も前線で戦ってくれている人達では五分五分。

 時間が経ちすぎると余計不利になってくるはず。

 だったら、答えは一つしかないよなぁ。

 でもこれだと俺と柳瀬さんが一番危ない目に合うんだけど………そんなの今更か。



「回復して前線に戻れそうな人はどのくらいですか?」


「あぁ、お前の仲間が前線を維持してくれているお陰で、半分くらいは復帰できそうだぜ」


「このままでは撤退しか道筋がない貴方たちに唯一の勝ち筋がありますけど、自分の作戦に乗ってくれますか?いや、無理なら無理と言ってくださって結構です」


「そんなの決まっているよなぁ!!お前ら!!」


「おお!!!勝てるなら従ってやろうじゃねぇか!!」


「これだけの『結界』を張れる魔法使い様だ!!お言葉に従おうじゃねか!!」



 体育会系のノリで怪我をしているにもかかわらず、勝てるかもと知った途端に騒ぎ出す冒険者達。

 このノリは嫌いなんだけど、今はどうこう行っている暇は無し。

 利用させて貰う。

 俺は早速、考えた作戦を説明した。

 説明を受けた冒険者達は「それで本当に勝てるのか?」などの疑問も持たずに承諾してくれ、作戦は実行となる。



「じゃあ、魔力維持が難しいので結界は解きます。撤退は各自で判断してください」


「「「おおおおぉぉぉ!!!!!」」」


「「「やったるぜ!!!」」」



 冒険者達は一時的な安全時間を使ってこれまでに受け傷を回復し、もう一度前線復帰を果たしてくれる。

 主にボブゴブリンを中心に戦闘を開始した。


 と、先ほどまで前線で戦ってくれていた冒険者が複数のゴブリンウォーリアに囲まれているのを見つける。

 俺はターゲットカーソルを使い狙いを定めると魔法を発動。

 ファイヤーボールで一体のゴブリンウォーリアを仕留める。

 仲間が急にやられて驚き戸惑っているゴブリンウォーリアのところに閃光がきらめいた。



「はぁぁぁ!!!!」



 柳瀬さんだ。

 俺が作った隙を活かしてゴブリンウォーリアの集団に特攻を仕掛けてくれたのだ。

 一撃で武器を持つ手を切り裂いて、二撃目で首の筋を切る。

 三撃目は別の獲物に狙いを定めて武器を落とす。

 とにかく一瞬でも敵を無力化する動きだ。


 俺は柳瀬さんが作ってくれた時間を無駄にしない為に、急いで冒険者の元に駆け寄る。

 ホントはこんな事出来ないのだが、今は緊急事態と言うこともあって普段の俺ではできないような行動がすんなりと動ける。

 今までゴブリンウォーリアと戦えていた戦力をここでダウンさせるわけにもいかない。

 俺は肩を切られて出血している冒険者に回復魔法を唱えた。

 省略演唱まではいかないが、回復魔法や補助魔法を他人にかけるときはイメージだけでは補えなので、魔法名も一緒に唱える。

 魔法名も一緒に唱えることでイメージの手助けをするのだ。



「『ヒアリング』」


「おおぉ!!回復魔法か!?こんなに早く治るなんて初めて見たが、ありがとうよ!これでまだ戦えるぜ!」



 俺のイメージ通り傷口が見る見ると塞がっていき怪我は治る。

 傷口を塞ぐだけならイメージでもなんとかなるのが良かった。

 ただ、流れてしまった血は元に戻す事は俺には出来ない。

 そこまでもイメージが湧かないから。

 同じ様に病気や内臓の欠損と言った目に見えない部分の回復は俺にはできない。

 この世界の人なら回復魔法を唱えたら治るという常識に基づいて治っていくが、俺の場合は身体の構造をこの世界の人よりも詳しく知っているのが仇となり、どうしても元の世界の常識を意識してしまっているのだと思う。


 とにかく、外傷だけは『ヒアリング』で治した冒険者は、またゴブリンウォーリアに突っ込んで行く。

 怪我をしてピンチに陥っていたというのに凄い気合だ。

 柳瀬さんが一体一体に少なくないダメージを与えていたのが幸いし、冒険者は一撃一撃でゴブリンウォーリアに止めを指した。

 そして、今度は囲まれないように注意しながらゴブリンウォーリアの殲滅に足を向ける。


 一方で柳瀬さんは、冒険者たちが幾らか復帰したことによって余裕ができ来たのか、俺の傍にやって来る。

 丁度良かった。

 作戦を伝えるにはいいタイミングだ。


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