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53話「急なイベント展開」

 意識がぼんやりと覚醒すると、頭の中に入ってきたのは楽しそうなしゃべり声だった。

 柳瀬さんとエドさん、エーゼさんの声だ。

 二度寝に入りたい気持を抑えて俺は起き上がる。



「あ、ツカサ君おはよう」


「……ん、おはよ」



 俺が起きると、柳瀬さんがいち早く声をかけてくれる。

 俺はまだ働かない頭を何とか働かせて答えると「のっそりと起き上がっただけなのに、俺が起きた瞬間に声をかけてくれるなんてエスパーなの?見張ってたの?」と考えていると柳瀬さんがあったかいスープを持って来てくれた。

 昨日の晩御飯?の残りを温め直した物で、寝起きには何とか口に入る物だ。

 三ヶ月も一緒にいると、お互いの事が何となく分かって来ている証拠だと思う。


 ゆっくりとスープを飲んで頭を目覚めさせると、野営の片付けをしながら柳瀬さんを待つ。

 焚き火後を片付けて、食べた食器類を魔法で出した水で洗い流す。

 多分オリジナルの『暖温』で水気を飛ばしてアイテムボックスの中に放り込む。

 普通の人からすると、魔力が勿体無いとか思うのだろうが、俺の場合十分の一にも満たない消費量だし、鍛錬だと思えば安いものだ。

 エドさんとエーゼさんはもう無詠唱魔法の事について気にしなくなったし、アイテムボックスについては収納スキルや魔法袋と言った下位互換があるので何も言われない。

 というか、冒険者にとっては必需品レベルなので二人も持っていた。


 柳瀬さんが朝食を食べ終わり片付けも終わると、俺と柳瀬さんは十階層を目指してダンジョンを下らなければいけない。

 エドさんとエーゼさんは登りなのでここでお別れだ。



「お世話になりました」


「じゃあ、また今度お会いしたらよろしくです!」


「えぇ、気を付けて下さいまし」


「そうだね。十階層付近がいつもと違う空気がしたから、出来れば早めに戻ってくるのがいいよ」



 最後にエドさんが忠告みたいなのをしてくれた。

 俺は頭の隅に置きながら休憩所を出て、危険なダンジョンへと戻っていく。


 やることは昨日の繰り返しだ。

 俺がマップ機能で索敵と地形の把握、最短ルートで下りの階段に向かって進んでいく。

 昨日との違いは、索敵に引っかかったモンスターは全て撃破していってアイテムの回収をメインにしていたが、今日は進むルートを断ちふさいでいるモンスターだけを撃破していった。

 やっぱりエドさんが言っていた事が気になったからだ。



 十階層の雰囲気がいつもと違う+俺と柳瀬さんが初ダンジョン。

 テンプレ臭が凄いするぞ。

 フロアマスターみたいなが来ちゃったりするのか?

 辞めてくれとは言わないけど、決死の戦いになるのは面倒だなぁ。

 ま、まだ十階層だし、難易度的には初めてのボス戦みたいな感じだと思う。

 初戦から激ムズな難易度だったらこのゲーム辞めるぞ?

 あ、これはゲームではなく現実世界だったか。



 あれから……と言っても昨日からだが、特に苦戦する様なモンスターとは出会わないので、サクサクとダンジョン攻略は進んでいった。

 九階層に降り、子休憩取ってから同じ様に攻略を再開。

 そして、遂に十階層に続く階段を見つけた。

 これまでと同様にただの階段だ。

 だけど……。



「なんか雰囲気がガラッと変わったね」


「十階層と言う節目だからか?それとも、エドさんが言っていたのはこのことなのか」


「どっちにしても、注意は怠らないようにね!!」


「あぁ、マップに集中するから柳瀬さんは視界内に警戒をしてて」


「うん!!さぁ、どっからでもかかって来い!!」



 いや、かかって来れられたらダメでしょう!!?

 柳瀬さん、この世界に来てから好戦的になった?

 いや、元々運動部だし、似たようなものか。



 柳瀬さんが好戦的に剣を鞘から抜いて、構えたままキョロキョロと辺りを警戒し始めた。

 俺もアイテムボックスから鋭い針杖を取り出して構える。

 今まで使って来なかったけど、持てる物は全て用意しておくのが良いだろうと思ったからだ。



 決して、忘れていたとかそんなんじゃない。

 土属性魔法の威力アップなどのメリット面が見えるけど、ダンジョン内などの室内では俺の背丈にも劣らない大きさがあだとなって行動に制限がかかってしまう点がデメリットだ。

 扱いづらさではスタッフの方が良いとか文句はこの際言ってられない。



 いつも以上にマップに集中して進むこと三十分。

 順調と言ったら順調なのだが、一つ気がかりな事がある。

 それは、



「敵反応が全くしない!?」


「順調で問題ないんじゃないの?」


「マップに一切反応が引っかからないんだよ。逆に不気味な感じだ」


「そうだよねー。ってあれ?前から何か来るよ?」



 会話の為にほんの一瞬、マップから目を逸らしたのがあだとなった。

 柳瀬さんがパッと剣を構えて、俺がチラッと視界の片隅に視線を向けてマップを確認をとる。

 と、会話の直前まではモンスターを示す赤点は無かった。

 結構な広範囲カバー出来るマップ機能にも一つだけ弱点のようなものが一つ。

 敵以外の反応は俺から近距離でないと点が表示されないということだ。

 現に前からやって来きたのは冒険者だった。



 もしこれがマップに表示されない系のモンスターだったら危なかったな。

 一瞬といえどもここは敵地、ゲームではリスポーンやコンテが出来るけど、今やっているのは正真正銘の自分の命を掛けた現実の仕事だ。

 夢に見ていた事が現実に起こって嬉しいのは分かるが、やはり気を引き締めて行かないと。

 ニヤけるのは町に帰った後で振り返った時でも良いだろうよ。

 あ、それだと、自分の行動を振り返って逆に羞恥心で死ぬな。

 っと、こう言った事が一番いけないんだった。



 俺は思考の海に飛び込むの辞めて、目の前で怒っている出来事に集中をする。

 とは言え、脳内の思考速度は人間が思っている以上に速いものだ。

 長ったらしく考えているように見えて、現実の時計の秒針は半周もしていない。


 しかし、それだけあれば先方から来た冒険者と接触出来る距離になる。

 俺たちを見つけると、初めはモンスターに警戒して武器を構えていた向こう様も、ただの冒険者であると分かると武器をしまった。

 前方から来た冒険者パーティーは、至って普通だ。

 エドさんやエーゼさんみたいに、目立つような容姿や武器も持っていない本当にただの冒険者パーティーだが、何やら焦っている風にも見える。


 しかし、それ以上観察をする暇などはなかった。

 向こうは武器をしまうと、猛スピードでこちらに走って来たから。

 とっさの出来事に俺はどう判断すれば良いのか分からない。

 ただ走り去りたいのか、それとも俺と柳瀬さんを狙って特攻を仕掛けてきたのか?

 でも、後者なら武器をしまう理由が分からない。

 普通にこの場を急いで過ぎたいと考え着いた俺は、一応防御障壁を展開しつつ壁際に寄って道を開け渡す。

 すると彼らは「お前らも早く逃げろ!!」先頭の冒険者が一言だけすれ違いざま叫ぶと、あっという間に見えなくなってしまう。



「早く逃げろって言ってったよね?」


「あぁ、俺もそう聞こえた。多分、この階層で何かが起こっているんだと思うけど………。どうする?」


「どうする?って言われても……」



 俺たちと大差のない様に見える冒険者パーティーが焦って逃げかえる程の何かが、この階層で起こっている。

 エドさんの言っていたいつもと違う空気は、多分このことだ。

 テンプレ展開に期待するなら、フロアボスが出現してそいつが恐ろしく強い。

 もしくは下の階層からモンスターが上の階層に向かって溢れ出てきている。

 即座に考えられるのはこの二種類だ。

 そして俺と柳瀬さんが今から行うべき行動も、冒険者パーティーの忠告を聞いてすぐさま回れ右して全速力で地上に帰るか、このまま警戒しながら進んで帰還用の転移魔法陣を探すかの二択。

 俺は柳瀬さんにそのことについて尋ねたんだけど、あまりピンと来ていない様子。



「このまま一階層一階層登って帰るか、進んで転移魔法陣で帰るか。柳瀬さんが選んでいいよ、十秒以内に決めて」


「そんな大事な事を私に決めさせるのは酷いよぉ!!…………このまま進むよ!!あと少しで到着なんだから警戒していれば大丈夫なはず!!ツカサ君、頼よりにしているよ!!」



 柳瀬さんはそう言うと、再び剣を構えて辺りの警戒を強めた。

 一方で俺はというと、他人に頼られる事が無かったので柳瀬さんの「頼りにしているよ!!」に固まってしまう。

 この世界にて柳瀬さんと行動を共にしていると、初めの方は良く口に出していた言葉だ。

 最近は依頼などもパターン化していって全然聞かなかったんだけど、こうも不意打ちに言われるとドキッとしてしまう。

 俺は「柳瀬さんはただ頼る人がほかに居ないから言っているだけだ、俺以外が一緒なら俺に向かてこんな事言うはずがない」と微かに抱いている期待を振り落とすと、目の前に集中する。



「分かった。俺はこれよりマップに集中力を殆ど割く。だから近場の緊急事態には柳瀬さんが対処よろしく」


「うん!!あと少し、頑張ろう!!おーーう!!」



 柳瀬さんは剣を持っている手を上に突き出して、やる気を出して叫ぶ。

 見ていて可愛らしいと思ってしまうが、すぐさまその気持ちを抑えてマップに集中する。

 マップ機能の一つである縮尺を一番広げて、マップの位置を視界の片隅から中央に配置して移動を開始した。

 マップはホログラムの様に透けているので、移動に不便は無い。

 ただ、戦闘となると流石に消すか配置を隅に戻さないと邪魔だ。


 警戒を強めたこともあって、移動はこれまでよりも格段に遅くなった。

 まぁ、警戒を捨てて急いで転移魔法陣に行くのとどちらが正しいのかと言われても、俺には正解が分からないからどうも言えない。

 多分、一個一個の判断と運要素が絡むこの状況では、何が正しい選択で悪い選択なのかは分からないけど、これだけは言える。

 パニックだけは起こしてはいけない。

 俺はもとより、柳瀬さんも初めの方はパニック状態陥る事も少しだけあった事を考えると、成長していると感心せざるを得ない。


 慎重に、慎重に進む事数十分。

 このまま転移魔法陣まで何事も起こらずに行けると思い始めた時、その考えが甘かったと思わずにはいられない異変が起き始める。

 始まりは柳瀬さんが感じ取った。



「ねぇ、何か聞こえないかな?ほら、ゴゴゴォォォォって空気が振動している地鳴りみたいな感じがさ…」


「本当?マップには異常が見当たらないけど……」



 耳に集中して柳瀬さんが聞き取った地鳴りみたいな音を聞き取ろうとするが、聴力は平均レベルな俺には何も聞き取れない。

 だけど、自分が聞き取れないからと言って無視する程、俺は無謀ではない。

 マップを見て警戒を更に強めて、防御障壁を発動しておく。

 そこから更に攻撃魔法も発動寸前までキープすると、柳瀬さんも俺に習って剣を定位置で構えた。


 そして慎重に進もうと足を踏み出した瞬間、俺にも地鳴りが聞こえてくる。

 微かに聞こえる程度ではなく、聞き間違いではないレベルでだ。

 同時に、複数の冒険者と思われる喧騒まで風乗って俺の耳に届いている。



「つ、ツカサ君!!!これはっ!!」


「俺にも聞こえたから安心して。………あ、これは不味い!!!」


「どっ!!どうしたのツカサ君!!!こんなに取り乱す何て……」



 俺が珍しく取り乱した原因は、前からやって来る少し前にすれ違った冒険者パーティーよりも血相を変えてこちらに向かって走っている冒険者の一団だった。

 俺がマップで確認出来た一部が彼らなのだ。

 一部と言う表現は、その後ろにも沢山の反応があるから。


 俺は直ぐさま戦闘に直面する事は無いと思い、詠唱を解除した。

 そして、柳瀬さんに重要な選択肢を与える。



「俺がマップで見たのはこちらに向かって来る彼らと、その後ろでモンスターと戦っていると思わしき反応だ。モンスターの数も十体以上はある。さて、これからどうするかだけど………」


「分かるのはそれだけだよね?一応まだ緊急事態と決まった訳じゃないんだよね?だから、あの人たちから説明を受けてからでも遅くはないと思うよ」



 俺が逃げるか?向かい打つか?と聞く前に柳瀬さんは結論を出した。

 困っている人が目の前にいたら、手をさし伸ばす事を躊躇しない柳瀬さんらしい考えだ。

 でも、優しい人ほど死にやすいのがこの異世界。

 そう思ったが、俺は柳瀬さんと全く別の感情を抱きながら柳瀬さんの提案に乗った。



「分かった。俺はコミュ障だから柳瀬さんが状況把握よろしくね。聞いた情報から俺が何が起こっているのか考えるから」


「……っ!!うん!!すみませ~ん!!」



 役割分担だ。

 異世界のテンプレ展開をよく知っている俺が頭脳担当で、コミュ力のる柳瀬さんが実際に会話して情報を集める行動担当。

 うん、実に推理小説みたいな役割分担だと思う。

 だがそんなことは今はどうでもいい。


 柳瀬さんは、前からやって来る冒険者達がこちらの声が届く範囲に入ると直ぐに声を上げて呼び止める。

 これが俺だったなら、緊迫した状況もあって呼びかけを無視する可能性もあっただろうが、そこは俺目線からでも普通に美少女とハッキリ言える容姿を持った柳瀬さんが呼びかけの相手だったのが功を奏した。

 彼らは後ろを気にしながらも止まってくれる。



「あの、そんなに慌ててどうしたんですか?」


「えっと、お前らはダンジョンは始めてか?だったら分からないのも当然だよな。でも俺たちも撤退しなきゃならねぇ。手短に行くぜ」


「助かります」


「フロアマスターが出やがったんだ。フロアマスターってのはダンジョンの所何処で出現する強いモンスターって思っとけばいい。出現頻度は…一か月に一度くらいだ。この辺で周回しているパーティーなら問題無く倒せるレベルさ」


「なら、そんな血相を変えて逃げなくても……」


「今回ばかりはダメだ。この階層で出てきていいレベルじゃねぇんだよ。だから俺たちはけが人が出る前に撤退する訳だ。一応俺たちよりも強いパーティーが抑えてくれているしな。早く地上に帰ってギルドに報告したら討伐隊が組まれるだろうよ」



 話しながらもちらちらと後ろを振り返っては、フロアマスターが来ていないか確認を取っているリーダーらしき人。

 俺の耳にも段々と喧騒が近づいてきているのが分かる。

 実際にマップの反応も、段々とこちらに押され始めているのが見えた。

 やがて、これ以上は限界だと感じたのか「お前らも悪いことは言わねぇから撤退するんだな!」と言い残して走り去っっていく。


 得られた情報としては、上々な結果になった。

 俺は得た情報を元から持っている知識と照らし合わせながら、冒険者さんから聞いた話を自分の頭で理解しようとしている柳瀬さんに捕捉で説明をする。

 本当なら自分で考えてもらえるようになるのが一番なのだけど、一応緊急事態っぽいので今はそんな時間は無い。



「フロアマスターは中ボスのような者だよ。これがゲームに例えるなら、初めての中ボスってところかな」


「なるほど。じゃあ私達はその中のボスと戦いわないといけないの?」


「いや、ゲームみたいに確定戦闘じゃないから回避しようと思えば出来ると思うよ。………それで、柳瀬さんはどうしたい?命を掛けて戦うか、それもと命を大事に逃げるか?」


「それは…………」



 最後の選択に、柳瀬さんは言葉を詰まらせる。

 やはり命を掛けるとなると、平和な元の世界のに慣れている柳瀬さんだと即決はできないみたいだ。

 一秒、二秒………五秒が経過する。

 中々決めかねない柳瀬さんに、俺は自分の気持をぶちまける。



「俺は戦い行くつもりだよ」


「えっ!!?」


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