52話「ご教授」
10階層を目指す途中、8階層で休憩を取ることにした俺と柳瀬さん。
先客としていた男女1組を一緒に夕飯を取ることに!!
ボッチでコミュ障な俺の運命は如何に!!
と前回の説明をしたところで現状報告。
柳瀬さんは先客の男と楽しくお喋りをしている。
初対面であれだけ親しく話ができるのは流石だ。
自己紹介も自然としている。
「俺はエド。Cランクの冒険者で剣士をやっているんだ。こっちはエーゼ。俺と同じでCランクで魔法使い」
「私はホノカだよ。冒険者ランクはDで、剣士?です。で、この人がコンビを組んでいるツカサ君。エーゼさんと同じ魔法使いで物凄く頼りになる人なんですよ」
男の方は、サラサラな金髪に美形、瞳がブルーで性格も良さそう。
俺が感じた第一印象は人の良い人。
エドと言う名前らしいが、略称だと俺は思う。
女性もエドに劣らず綺麗な方だ。
薄いクリームに近い髪色にシミ一つない肌。
良いところのお嬢様と俺はみた。
それぞれ相方に紹介された俺とエーゼさんは「どうも」「よろしくですわ」と挨拶を返す。エーゼさんの言葉遣いに俺は、エーゼさんお嬢様説をますますホントじゃないのか?と加速を掛ける。
後は楽しく二人でお喋りを再開する柳瀬さんとエドさん。
異世界なので身長が日本人よりも大きい事を考えると、二人は俺と柳瀬さんと同じ位の年齢ぽい。
夕飯の支度をしながら、ダンジョン内のことや剣士としての動き、個人の事と花を咲かせている。
その姿を見ると、やっぱり柳瀬さんは俺なんかと一緒にいるべきではない人だと、再確認した気持ちになっていく。
どこかむなしい気持ちになりながら眺めていると、柳瀬さんが俺に火を求めてきた。
「ツカサ君、火お願い」
「はいはい」
いつものように、柳瀬さんが組んだ木に火を付けるイメージをしてから、魔力を流して火を着火。
いつもやっているので、イメージを明確にする為の詠唱も必要なし。
何気なくやったのだけど、普通の魔法使いには無詠唱魔法が珍しいどころか、ほとんどいない事を忘れていた。
「なっ!!あ、貴方今、無詠唱で魔法を発動させましたわよね!!」
「え?あ、あぁそうですよ」
物静かなイメージがあったエーゼさんが俺に食いついて来る。
魔法使いの常識を知っているらしいエドさんも、俺に驚きの表情を向けてくる。
対して柳瀬さんは何が起こったのか全く分からない様子。
俺以外の普通の魔法使いを知らないから当然だ。
「驚いたな。まさか無詠唱で魔法が使える人がいるなんて。エーゼは知ってたかい?」
「知らないに決まっていますわ!!ツカサさんでしたっけ?その魔法は何処で!!?」
エーゼさんが俺に詰め寄ってくる。
美人さんだし胸もそれなりになるので、こうも近寄られると口が乾いて上手く喋れない。
「ぅっ!!えっとこれはその……何と言いますか」
「さぁ!!早く教えて下さいまし!!」
断られたり、上手く喋れない者と喋った事がないのだろう。
エーゼさんは俺がどうにかして言い訳を考えてうめき声を出していると、更に詰め寄ってくて俺が下がって答を出せないの無限ループ。
俺が返事を中々出せないのは、ボッチでコミュ障なのと珍しいを超えている無詠唱魔法の言い訳を考えているからだ。
いい案が思い浮かばなくて、柳瀬さんとエドさんに目線を送る。
顔を赤くさせてわなわなと震えさせている柳瀬さんに、やれやれだぜと言った表情のエドさん。
俺の目線を受けてエドさんが動いてくれた。
彼は後ろからエーゼを羽交い絞めして俺から引きはがししてくれる。
「ストップだエーゼ。ツカサ君も困っているだろ?」
「は、離しなさいエド!!同じ魔法使いにとっては無詠唱魔法は悲願でもあるのですよ!!」
「だからって強制するのは悪いことだ。エーゼにとっては普通に質問していたのかもしれないけど、傍から見れば脅迫も良いところだよ」
「そ、そんな!!」
「他の冒険者の事を強引に聞き出すのはマナー違反だ。俺とエーゼだって来れても困る事があるだろ?」
あちらではそんなやり取りが行われている。
対して俺の方はというと。
「ツカサ君……嬉しかった?」
ハイライトが消えた目で俺に迫ってくる柳瀬さんがいました。
どちらも美人さんだったけど、こっちは完全ホラーだ。
しかし、まだ柳瀬さんの方が返答出来る余裕がある。
「嬉しい訳ないだろだろ?俺がコミュ障なのを忘れてもらったら困る」
「…そっか!!良かった!!」
正解の返答をお答えできた様だった。
時折柳瀬さんはハイライトを消す事があるので怖い。
理由は何となく想像がつくけど、あり得ないことと思って期待していない。
「ごめんね。なんか私のせいでツカサ君に迷惑かけちゃったみたいで」
「いいや、俺も気が抜けていた。柳瀬さん相手だと普通なことが他の人だと普通じゃないことを忘れてたし」
お互いに謝ってこれで終わり。
蒸し返したりしない。
変に気を使わなくても良い関係まで持ってこれたのが奇跡だが、柳瀬さんが誰とでも仲良くなれる性格については感謝している。
俺の無詠唱魔法についてはいったん置いておくとして夕飯だ。
硬いパンに干し肉をこちら側提供して、向こう側がスープの材料を提供する事になった。
この辺の分担は柳瀬さんとエドさんがいつの間にか話し合って決めてくれていたのだ。
野営でスープを作る材料を持っていることからも、向こう側はCランク冒険者に見合った懐があるらしい。
食事の途中で柳瀬さんが「私達もスープを作って見よう」と言って来た。
美味しいご飯が食べられればそれはそれで嬉しいっちゃ嬉しいのだけど、俺は今まで通り干し肉とパンで十分だと思う。
食事にお金をかけるくらいなら装備品や本に使いたい俺は「勝手にどうぞ」とだけ答える。
本当に欲しいなら柳瀬さんが自分のお金で勝手に揃えるだろう。
食事が終わると眠くなるまで読書タイムだ。
どちらが先に起きていて見張りをするかは決めていないが、夜型な俺が読書をしながら見張りをしてその間に柳瀬さんが寝る。
正確な時計がないので、体内時間で大体経つか柳瀬さんが自然に起きると交代だ。
今回は他のコンビさんがいらっしゃるので、柳瀬さんはまだ起きてエドさんとお喋りをしていらっしゃる。
小休憩と言っても時間を決めていないので、交代で寝て起きたら出発でいいと思うし、遅くなりそうなら俺が先に寝たらいいだけの話。
普段は俺しかいなから、他の話せる人がいてテンションが上がっているのだろう。
なんなら俺とのコンビを解消して、向こうに移籍しても全然問題なんいんだよ?
前衛が居なくなったら戦闘を見直さなくちゃいけないけど、然したるさでもないし。
元々俺一人で生きていく予定だったから、心構えは出来ている。
それに、柳瀬さんに気を使って依頼を受け続けなくてもいいしな。
俺一人だとお金がない時に働けばいいだけの話だけど、柳瀬さんも居ると向こうの残金が分からないから余裕を持って依頼を受けなければならない。
柳瀬さん、俺よりも出費が多そうだし。
まぁ、柳瀬さんが望まないと俺はあれこれ言う権利はないし、向こう側が承諾してくれるかも分からない。
ぱっと見、仲の良さそうなのでカップルかもしれないから気を付けないと。
エドさんの性格を見るからにあり得ないと思うが、柳瀬さんを放り込んで修羅場になったら面倒くさい。
物語として眺めるのは好きだけど、当人になるつもりは全くなし。
俺はただ平穏に暮らしたいだけなんだ。
とか、読書と並行して考えていると、エドさんが柳瀬さんと話しているので手持ち無沙汰になったエーゼさんが俺の隣りに座ってくる。
座って来られても、自分から会話などする気もない俺は無視して文字を追いかけた。
用があるならそっちからどうぞ?話しかけて来たら流石に辞めるからさ状態だ。
「……先ほどは、失礼いたしましたわ。心からお詫び申し上げます」
「いえ、大丈夫です。このくらいなら俺も話しやすいですから」
知らない人との会話が出来ない訳ではない。
コンビニでレジをしていると話しかけてくる客もいるので適当に対応したりする。
ただ、知り合いや名前だけ知っている人程度と話すのが、つかみどころが分からなくて対応に困るのだ。
後はさっきみたいにテンションが高い人との会話も。
「やはり、無詠唱魔法の秘訣を教えてはいだだけないのでしょうか?」
「秘訣と言われましても……。俺は普通に魔法を使っているだけなんですよね。それに、田舎も田舎から出て来たので、無詠唱魔法と言われましも俺にはどの位凄いのかピンと来ないんです」
「まぁ、そうですか……。もし魔法ギルドや王宮に報告なされば、多くの褒賞金や地位が獲得出来るでしょうに」
「目立つのが嫌いなんですよ」
「そうですか。人それぞれですので無理強いは致しません。私とエドも決して他の人に喋らないと誓いますわ」
「ありがとうございます」
それを終わりにエーゼさんはぼーっとして俺に話しかけてこなくなった。
チラッと横目で確認すると、柳瀬さんとエドさんを見ている。
心なしか、エドさんと楽しそうに喋っている柳瀬さんを睨みつけているのは気のせいだろう。
気のせいだと思いたいな。
俺は文字を追う作業に入った。
いつの間にか本の世界に入り込んでしまい、俺は慌てて周囲の警戒を再開させた。
いつもならこんなことありえないのに、野営ではなくダンジョン内と言う室内にも似た雰囲気が仇となってしまったのだろう。
モンスターが現れると言ったような緊急事態なら気づくはずなので、本当に何もなかったんだと思いたい。
マップを確認すると、休憩所の入り口がモンスターに囲われたいる……何てこともなく、静かな空間だ。
柳瀬さんとエドさんの喋り声もなく、本から視線を上げると二人とも別の場所で寝ていた。
休憩所にはパチパチと焚き火の炎が鳴る音しか聞こえない。
取りあえず何も起こっていない事にほっと一安心。
そう言えば、とエーゼさんが起きているはずなのに音が全くしない事に気づく。
マップには他の冒険者を示す点が二つあるのでこの場所にいることは分かる。
二つある点の内一つはエドさんなので、もう片方に視線を持っていくと、彼女は目をつむって瞑想のような事をしていた。
少しばかり気になって眺めていると、エーゼさんはため息を吐いて目を開ける。
寝ていた訳ではなさそうだ。
「はぁ、やはりだめですわ……一体どのように行えば出k………きゃっ!!?ご、ご覧になっていらしたの!?」
「っ!?す、すみません。落ち着いてください。他の二人が起きますって」
「そ、そうですわね。読書に集中していらっしゃったので、ビックリしてしまいましたわ」
「今集中が切れたんです」
二人してエーゼさんはエドさんを、俺は柳瀬さんをそれぞれ確認をするが、二人とも起きなかった。
寝てないと不自由なわけではないが、読んでいた本のページ数を見るからにはまだ一時間弱、せめて後二、三時間は寝かせてあげたい。
何故か柳瀬さんの身を心配する思いを抱きながら、俺はほっと一息。
一回集中が切れたこともあり、続けて本を読む気にもなれず、俺はエーゼさんに話しかけていた。
元の世界にいた頃なら絶対にしない。
柳瀬さんとこの世界で三ヶ月過ごしている影響かなのかもしれない。
「何をしていたんですか?」
「さっきのことですの?」
「そうです。気になったので。答えたくないなら構いませんが……」
「そうですわね……」
エーゼさんは悩む様に目を閉じた。
悩む様な事をしていたのだろうか?
もしかしたら聞かない方がよかった?
エーゼさんが悩んでいると、こちらも聞いてよかったのか?と悩みたくなる。
やはり引き下がろうと思った時、エーゼさんが口を開いた。
「当人にアドバイスをもらった方が成功するかもしれませんわね。実は無詠唱魔法の練習をしていましたの」
「…魔法の練習ね」
そうか、だから瞑想みたいな感じで眼を閉じて集中していたのか。
イメージを高めるために目を瞑るのも大切な妄想の一つだけらな。
話しかけたからには一緒に考えないとだめだよな。
と言っても、俺にアドバイスできることなんてないと思うけど……。
「簡単な魔法でも無詠唱で発動が可能になれば相手の不意を突くことができますし、出来ないとされていた事を出来る魔法使いっと言うのも相手から「こいつは凄い魔法使いだ」と思わせる事があるなら戦闘を優位に行えますわ」
「それもそうか。アドバイスね……」
「何でも構いませんわ。当人にとっては些細な事かもしれませんが、他人から見れば画期的な考えということもございますわ」
何でもとか言われるのが、一番何を言えばいいのか困るんだよなぁ。
アドバイス、アドバイス、アドバイスねぇ。
俺とエーゼさんの違うところはなんだ?
まずそこから考えるべきだ。
男女の違い……は魔法には余り関係無かったはず。
思い出せ、俺と柳瀬さんが魔法について習った時のことを。
………あ、魔力量はどうだ?
「エーゼさんの魔力量はどの程度なんですか?」
「ふふ、聞いて驚きなさい。わたくしの魔力総量は大ランクの魔力測定器を虹色に光らせれるSランク相当ですわ!」
「魔力量は俺と変わらないですね。……だったら」
「ちょっと待ってくださいまし。わたくしはSランクの魔力量ですわよ。国に20人も居ない逸材ですわよ。それと変わらないって貴方!?」
「あー俺は中ランクの測定器で虹に光ったんですよ。その時、まだ余裕があったので同じくらいかと」
「…そうでしたか。ちょっと安心致しましたわ。大ランクと中ランクの測定器では測れる魔力量が桁違いですの。中ランクで虹色ならばAランク相当、確実に測るなら大ランクの測定値で測ってみる事をオススメ致します」
「そうですか。すみません、こんな奴と同じくらいの魔力量だと言ってしまって」
「いえいえ、ツカサさんも十分誇れる魔力量ですわ。Sランクのわたくしが規格外なだけですから」
ごめんなさい、エーゼさん。
実は測定器で測った時も三倍以上余裕があったし、三ヶ月前に比べて魔力量が増えている節があるんだよなぁ。
同じ魔法でも、三ヶ月前に比べて使った後の魔力ゲージの減りが明らかに減少している。
だから、見えなくてもレベル制みたいな感じでモンスターを倒す度に成長していっているんだと思う。
これは俺に限っての話ではなく、柳瀬さんも同じ現象が起こっている。
レベル制なんて本で見たこともないし、魔力量に関する書籍を見ても、魔力量は体の成長と共に増えていき一定の年齢になると成長が止まるらしい。
この世界の人がそうで俺と柳瀬さんだけが違うのか、それともこの世界の人の認識が間違ているのか。
どちらか分からないけど、俺の認識がこの世界の人とは違うってことだ。
となると…魔法に関する認識か?
それともスキルなんて元の世界では不可思議な(小説を読みまくっている俺にとっては普通な)設定が関与している可能性もなくない。
もしかしたら「無詠唱」なんてスキルがあって、異世界召喚なんて状況によるチートが働いて初めから持っているのかも。
そうなれば、無詠唱スキルを開放する為の条件を満たしていないとダメな場合がある。
もっとも、収納スキルの様に才能は関係ないスキルだったら完全にお手上げだ。
とりあえず認識の違いを確認して見よう。
「エーゼさんは魔法についてはどの様に認識していますか?」
「は!?えっと、どの様に認識とはどういう意味でしょう?」
「どう言えばいいのか分からないんですが、魔法の発動時に意識していること?」
「あぁ、それなら勿論詠唱ですわ。省略詠唱もありますが、普通に詠唱を唱えた方が効果が高いのは検証済みですわ。詠唱が一番大切なのは貴方も良くいご存知でしょうに」
「詠唱かぁ。そうなるかぁ」
「??一体どういう意味ですの?」
「怒らないで聞いてもらいんですけど、俺の場合は詠唱何て殆どしません。ぶっちゃけ最後の技名しかしたことないです」
「っ!!?それはつまり、魔法を使う時は全て無詠唱だと?」
「えぇそうですわね。大切なのはイメージを持つことですよ。詠唱が上手く行かなくてもイメージさえあれば何とかなるものです。その認識の違いが無詠唱と詠唱の差ではないかと思っています」
「詠唱をしなくても魔法が発動できる……認識の違い…ですわね」
俺が出来るアドバイスは終了。
後は俺が無詠唱魔法を使える事をエーゼさんに秘密にしておいてもらうだけだ。
「俺が出来るアドバイスはこのくらいのものです。後…」
「秘密ですわね。勿論秘密の秘匿はしますわ。このわたくしの名とビエントルナー様に誓って………。ご教授ありがとうございました」
そこまでしなくてもいい誓いに、俺は一先ず安心する。
そして「ビエントルナー様ってちゃんと女神様やっているんだなぁ」と別の事を考えていたのがいけなかった。
「ツカサ君?何を話しているのかな?」
「っ!や、柳瀬さん!!」
後ろから接近してくる音に俺は全く気づかないでいたので、心臓が飛び跳ねるかと思う程の驚きを感じた。
それが単に驚いただけなのか、それとも柳瀬さんの声が近くで聞こえたからなのかは、俺自身にも分からない。
「うん、おはよう。で、エーゼさんと何の話をしていたの?」
「あ、あぁ、無詠唱魔法の話だよ。エーゼさんがアドバイスして欲しいって」
「えぇ、とても為になる話でしたわ。ホノカさんはとってもいい方とコンビを組まれているのね」
「えへへへ、ありがとうございます。あ、ツカサ君はもう寝てもいよ。私は十分だからさ」
エーゼさんが俺を褒めると、何故か柳瀬さんが嬉しそうにお礼を言う。
訳が分からないが、俺は柳瀬さんの好意に甘えて寝させて貰う事にする。
少し離れた場所でエーゼさんがエドさんを叩き起こす声が聞こえる。
途中から本が読めなかったけど、まぁまぁ有意義な時間ではなかったかと俺は思いながら横になった。
初ダンジョンで八階層も下って行き、その後何時間も起きていた事で疲れが溜まっていたらしく、俺は直ぐに瞼を閉じて意識を手放した。




