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51話「只今ダンジョン攻略中」


「これで、最後っ!!!」



 柳瀬さんの剣がボブゴブリンを捉える。

 俺の視界に映るボブゴブリンのHPゲージが減っていき、無くなると同時にサラサラとボブゴブリンが消えていく。

 俺はマップを確認すると、防御障壁を解いた。


 現在はダンジョン第五階層。

 中堅レベルの実力があると踏んでいる俺と柳瀬さんは二階層に降りてもサクサク進んでいき、三階層四階層と問題なく只今五階層を攻略中だ。

 五階層に入って難易度が上がるのか、一度に現れるモンスターの数が多い。

 今さっきも、7対ものゴブリン倒したところ。


柳瀬さんが剣を鞘にしまうと、俺の側に駆け寄って来る。

あの顔は疑問を持って来る時の顔だ。



「ねぇツカサ君、ちょっと聞きたい事があるんだけど。いいかな?」



 ほら、やっぱり。

 マップでは敵反応が見れないので俺はokを出す。



「いいよ。何?」


「最後のゴブリンの色が違ったんだけど、普通のゴブリンと違うの?」


「あぁ、ボブゴブリンって言って上位種だよ。さっき戦った群れのリーダーだったはず」


「へー。あっ!ボブゴブリンが武器を落としているよ!」



 柳瀬さんがボブゴブリンの死骸があった場所を指差して知らせてくる。

 俺も柳瀬さんが指差す方向に視線を動かすと、鉄らしき物で作られている棍棒が落ちていた。

 手に取る前にアイテム説明を見て見る。



『ボブゴブリンの棍棒』


 ボブゴブリンが使っている棍棒。純度の低い鉄を使っているため折れやすい。ボブゴブリンのレアドロップ


 ・打撃+20

  ゴブリン特攻+20



 へー、レアドロップなのか。

 普通のゴブリンの棍棒と同じだな。

 いや、ボブゴブリンの出現率を考えるともっとレアドロップだな。

 折れやすいのが難点だけど、ドロップ率を考えると高くなりそうだ。



 といっても、ボブゴブリンを倒したのは柳瀬さんだから、所有権は俺にはない。

 柳瀬さんに渡す。



「特に呪いの類はないから、はい。適当なところで売ったらいいと思うよ」


「うん。棍棒は使えないしね。ツカサ君そう言うならそうする。メリーさん相談してみるね」



 と言ってボブゴブリンの棍棒を、毎回俺に素材を運んでもらうのが悪いと言って買った魔法袋にしまった。

 容量は所有者によって変わる物を買ったらしいので、適性は無くても魔力量は高い柳瀬さんなら俺に容量不足で俺を頼り事はないだろう。


 それとメリーさん。

 クレーミヤの街でお世話?になったギルドの受付嬢のことだ。

 彼女はあろうことか、一ヶ月前にアルケーミのギルドに現れた。

 ついにクビになったのか?と思ったら、何と移動でこの街に来たらしい。

 辺境の町から大都会に移動って普通有り得るのか?って思ったら「ふっふっふ、私に貴族もたじろぐ巨大なコネがありますからねぇ」と言っていた。

 多分嘘だと思う。

 実際はサボり過ぎなのが遂に怒られて忙しい場所で働けって意味だと俺は考える。

 というわけで、柳瀬さんの気軽に相談できるメリーさんはアルケーミに居るのだ。



「ねぇツカサ君?ねぇ~?」



 と俺が思考の海に沈んでいると、柳瀬さんが俺を引き上げてくれる。



「っとごめん。トリップしてた」


「それ、よくあるよね。何か重要な事を考えてくれるのは嬉しいけど、ほどほどにしないと危ないからね」


「注意しとく」



 三ヶ月も一緒にいると、柳瀬さんが俺の心配をするのを簡単にあしらえるようになる。

 初めの方は、何で俺なんかを……と思っていたけど、最近はこういう人なんだ、と気にしなくなってきた。

 優しいから、勘違いしそうになる。

 だが、こういう人ほど素でやっているんだと俺は小説で習ったんだよ。



 俺は思考に浸るのをそこまでにして、ダンジョン攻略に集中する。

 五階層も難なくクリアし六階層、七階層と潜っていく。

 本当ならマッピングをしながら進まないと正解のルートを見つけるのは困難なんだけど、俺のマップ機能は今の所階層全てを見渡せる優れもの。

 階段のある場所から逆算してルートを導き出すだけで、簡単に次階層に進める。

 もっとも、低階層なら地図も売っているみたいなので、この辺は誰でも簡単にサクサク進めるのではないかと俺は思う。


 八階層に突入したところで先頭を進んでいた柳瀬さんがくるっと振り返って俺に予定を聞いてくる。

 急に顔を向けられた事に心臓が跳ね上がり、目を逸らしてしまった。



「ねぇ。大分潜ってきたけど、どこまで進むの?」


「あっ……特に考えてなかった」



 柳瀬さんに聞かれて初めて気づいた。

 今回の目標地点を話し合っていなかったことについて。

 俺は目をウロチョロさせながらそれっぽいことを言う。



「潜れる所まで潜ろうと考えてたけど、モンスターの強さ的にはまだまだ行けるよなぁ」


「どうするの?時間的にもう戻る?」


「いや、折角ここまで来たんだ。十階層までは行った方が効率が良い」



 俺はどうせならともう二階層潜る事を提案する。

 すると、柳瀬さんが何時も通り不思議そうな顔をした。



「何で十階層だと効率がいいの?確かに覚えやすいけど……」


「そう言えば、言ってなかったな。十階層ごとに転移の魔法陣が使えるんだ。折角深くまで潜ったのに、都合で地上に戻らないといけなくなった時に、また初めからは辛いだろ?」



 ゲームでもよくある、一定のポイントから開始出来る設定と同じ原理だ。

 ゲームではコマンドを選ぶだけで行けたけど、現実世界であるこっちは転移魔法陣を使っている。

 この世界で『転移魔法』は使える者などは宮廷魔術師でも無理ならしく、ダンジョンで発見された魔法陣や古代文明の事が書かれている文献の中の存在らしい。

 研究家はどうにか魔法陣を解析して複製や人間が使えるように、と日々頑張っているが結果は著しくないようだ。

 つまり、この世界では転移は一般的ではなく、ル〇ラと唱えても行ったことのある場所に転移する事が出来ない。



「そんなのがあったんだね。受付でギルドカードを提示した時に分かるのかな?」


「多分そうだと思う。転移魔法陣が使える場所まで行っている人は受付嬢に聞かれるんだと思う」


「転移魔法陣……あんまり聞きなれない言葉だね。私は初めて聞いたよ」



 これは解説よろしく、と言っているのだろうか?

 可愛らしい表情で首を傾げて俺の方向を向いているので、そうだと思う。

 俺は元の世界ではこの様な話を誰とも出来なかったので、水を得た魚の様に解説を開始する。

 うざかったら言ってくれよな。

 陰で言われるのが一番キツイんだから!



「転移って言うのは、瞬間移動と殆ど同じかな?」


「殆ど?何が違うの?」


「瞬間移動は消えたように見えるほど早く移動しているだけで、スピードパラメータが高いとできないことないのが鉄板。柳瀬さんも出来るようになるかもね」


「そ、そんなことないよー!」



 俺が柳瀬さんなら瞬間移動を使える様になるかも、と珍しく褒めると嬉しそうに頬を緩めている。

 元の世界でもいろいろと出来る人だったから、褒められるのは慣れているはずなんだけど……。

 俺はそんな疑問を抱きながら説明を再開する。



「それで、転移は本人のパラメータじゃなくて魔法を使って移動しているのが相違点。この世界だと使える人は居ないみたいだけど、瞬間移動よりも転移の方が戦闘では有利になることの方が多いんだ」


「ん~~…………。あ、瞬間移動は物体がとても素早いけど軌道上に移動しているけど、転移はそれがないから?」


「正解。軌道上に武器か物を置いておくだけで瞬間移動の方は対処出来る。一方で転移の方は魔法を使っているから相手の魔力に介入したりと攻略法はあるけど遥かに難しいからな。まぁ使える人間がいないから意味のない情報だけど」


「ツカサ君なら何となくできそうな感じがするよ!」



 俺が柳瀬さんなら瞬間移動を覚えてもおかしくないと言ったように、柳瀬さんも俺なら転移魔法を使えるようになってもおかしくないと言う。

 俺の方はお世辞もあるけど、本気でできそうだからいったけど、柳瀬さんの方は多分お世辞だろう。

 誰もできない魔法を俺が出来る訳ない。



 ………………………………………。

 誰もしてない魔法………………。

 俺の頭によく使っている『ウオーターバレット』が思い浮かぶ。

 いや、あれは完全な新作魔法でもないから。

 ウオーターボールを小さくして素早く発射させてるだけだからセーフだ、セーフ。

 いや待てよ、俺が魔法を使う時は詠唱よりもイメージを大切にしているからもしかしたら………。

 って俺は誰に言い訳をしているんだ。

 これ以上は考えるのは辞めよう。

 目立つのは嫌だけど、何も出し惜しみするわけにもいかないからな。

 便利だから一応練習してみるものいいかもしれない。

 わざと弱くするほど俺は強くないなら当たり前のことだ。



 柳瀬さんのお世辞に言葉が詰まってしまってた俺は何とか言葉を返す。



「柳瀬さん、まぁありがと。で、説明のラストになるんだけど魔法陣は分かる?」


「幾何学模様みたいなやつ?」


「そう。魔力を込めたインクや自分の血なんかで描くのが一般的で、ただ適当に書いているんじゃなくてライン一本一本に意味がある。特徴的なのは、魔力を込めたら誰にでも使えるのがメリット。デメリットは魔法陣を書くのが難しく、書ける人が少ないので普及してない」


「ツカサ君は分かるの?」


「俺はサッパリ分からないよ。そこまで俺の異世界に関する知識は万能じゃないから」


「やっぱりツカサ君でも分からない事があるんだね」



 えぇっと柳瀬さん?

 俺を何だと思っていらっしゃるので?

 俺が知ってるのはラノベで知った知識の一部であり、その中に魔法陣について詳しく書かれているわけがないじゃないですか。

 だいたい、使えもしないのに誰がラノベでこのラインがこうで……こっちの模様が……ってあるわけないよ。

 もしあったとしたも、俺は一々覚えていられないし、この世界の魔法陣とピッタリ一致している訳ない。

 一致していたらその作者様スゲーな。異世界転生経験者だよ。

 という風に、俺は何でもかんでもこの世界の事について知っているわけじゃないからな。

 知ってる知識とこの世界の本を読んで得た知識を統合して、細かい修正をしながら柳瀬さんに教えているんだから。

 楽しいからいいけど、結構な労力を使うんだよ。頭のな。



 とまぁ、現実では言葉に出せないことを頭の中で一通り出していた俺は、柳瀬さんの呟きによって現実に返ってくる。



「………良かった」



 何が?と疑問に思うが、聞かない。

 柳瀬さんの思っている事が分かるからではなく、聞く勇気がないからだ。

 自分の知識披露なら何のためらいも無く話せるのに、相手の気持ちに踏み入った話は出来ない。

 だから俺は、この時柳瀬さんがどう思っていたのかを知ることが出来たのは、ずいぶん後のことだった。


 呟いた声を聞こえなかったふりをして、俺は話をもとの話題に戻す。



「で、十階層まで潜る理由に理解できた?それとも今すぐ戻りたい?」


「理由がちゃんとあるなら十階層まで潜ってもいいよ。でも、そろそろ晩ご飯の時間だと思うんだけど………」



 柳瀬さんが何かを訴えかけてくる目で俺を見つめてくる。

 柳瀬さんはよくしてくるが、女の子に見つめられるのは慣れてないどころか有り得ない俺は、自然を装って顔を背けた。

 柳瀬さんが訴えかけているのは「晩御飯にしよう」だ。

 柳瀬さんは基本的に三食をキッチリと食べる人なので、依頼中だとたまにこうやって訴えかけてくる。

 一人だけで食べればいいものの、何故か俺にも同じ事を求めるので、面倒だ。


 と言っても、朝昼は食べないが夜は食べるので俺も空腹感を感じてきたところ。

 俺は了解を出すと、八階層の休憩所をマップを使って探した。

 幸いとんでもなく遠くはなかったので、道中見つけたモンスターを数回やり過ごして休憩所にたどり着く。

 休憩所には誰も居なかった、こともなく男女一組が居た。

 男の方が俺と柳瀬さんに気づくと声をかけてくる。



「こんばんは」


「あ、こんばんは!」



 流石スクールカースト上位者、挨拶を普通に出来る。

 対して俺は、知らない人となると声が出にくくなるので、最低限のマナーとして会釈を返す。

 最低限のマナーが終わったのでこれで終わりかと思われたが、男が会話を促してくる。



「下り?それとも上り?あ、良かったら一緒にどう?今用意している所だから」


「え!?いいんですか?じゃあお言葉に甘えて。えっと私たちは下りです。十階層まで行くつもりだったので休憩でもと……」



 おぉ、流石(以下略)

 男の方も、金髪で美形。如何にも好青年って容姿だ。

 多分彼もリア充なのだろう。

 明らかに普通の冒険者とは違う空気を纏っている。



 俺は偶然出会った男女一組の冒険者と同じ空間にいなければならない。

 リア充同士なら問題ないが、生憎こちらはボッチの陰キャ。

 この一人気まずい空間をどうやってやり過ごそうかと考える。

 取りあえず、本を読んでおこう。


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