50話「ダンジョン一階層」
早いことでもう50話。朗報か悲報か分かりませんが、自分の構成と進行速度が遅いせか、100話までの折り返し地点に来てもまだ1章の3分2にくらい。全部で5章くらいだと仮定すると、先はまだまだ長い。最後まで付き合って下さると嬉しいです。
ダンジョン第一階層に挑む為に階段を下っていると、柳瀬さんから質問が飛んでくる。
「ね、ツカサ君?聞いてもいい?」
「いいけど、周りの警戒はしておいて。俺のマップ機能も万能じゃないかもしれないから」
「階段を下っているから一本道だけどね、分かった。それで質問なんだけど、一階層ってなに?」
柳瀬さんの質問に又してもテンプレ設定が分からないのかと思う。
だけど、異世界物のラノベどころかゲームすら殆どしない柳瀬さんに理解しておいてって言うのも理不尽な要求だ。
逆に言うが、テレビに出ている有名人がどうこう、街中のオシャレな店の場所が……と俺に質問されるのと全く同じことなのだから。
俺は元の世界からの知識と、この世界で得た知識を上手く繋げて説明をしてあげる。
「文字通り一階層は一階層。このダンジョンは地下に潜っていく系統のダンジョンなんだ。他にも上に登て行くダンジョンもあるけど、皆共通して一つ上や下に行くと一階層二階層三階層と区間分けみたいにしているんだ」
「それなら、地下一階でも良く無くない?」
「そこまでは知らない。初めに言い出した人がそのまま伝わったとかじゃない?深く意味を考えても無断だと思うよ」
「じゃあ終わりって何階層?」
「このダンジョンが機能停止していないことからも分かるように、ボスモンスターが出現する最下層が発見できていないらしい。今のところ、最下層は六十七階層。階層が深くなるに連れて敵も強くなっていくから、Sランク冒険者でないと太刀打ちできないらしい」
「へー。私達には関係ないね!」
関係ない!って元気に言ってるけど、攻略されていないダンジョンは危険なんだよ?
低階層は殆ど調べつくされているかもしれないけど、ゲームの様に完璧な攻略情報があるわけでもないし、見落とされた罠で一気に最下層まで転移させられるのもダンジョン編のテンプレだぜ。
俺のマップ機能も罠まで見つけれる程万能かは分からない。
一応、柳瀬さんに罠の危険性を言っておかないと。
「柳瀬さん、壁とかにはむやみに触らないで。罠が起動するかもしれないから」
「罠!そんな物騒なのがあるんだ。矢が飛んで来たり!!大きな岩が転がって来たり!!」
「さぁ?どうだろ?とにかく、触らないように。難易度が太鼓を叩くリズムゲーの鬼レベルだと、罠を感知出来るスキルを持った人が先頭に立って、足跡が残る靴で色をつけながら後ろの人はそれしか踏む事が出来ないダンジョンもあるらしいから」
「うわぁ~。そんな面倒くさいダンジョンもあるんだ。そうそう、ここは足跡は残さないでいいの?」
「最下層だと考えた方がいいけど、低階層は全く問題ないらしいよ。数十年も足場からの罠は発動例がないそうだから」
「良かった~。私、そんな面倒くさい事チマチマと出来ないもん」
俺と柳瀬さんが挑んでいるこのダンジョンは罠類が少ないと伝えると、柳瀬さんはあからさまにほっと安心した表情を作る。
やはり体育会系なのか、チマチマとしたダンジョン攻略には向いていないらしい。
初めに挑んだダンジョンがここで良かったと俺もほっとした。
このダンジョンはダンジョンの中でも比較的モンスターの出現率が高い事で有名なダンジョンなのだから。
その証拠に、やっと階段の終わりが見え第一階層にたどり着いた途端に、俺のマップ機能にモンスターの反応が表れる。
「柳瀬さん、さっそくだけど敵反応あり。階段を降り切った直線五メートル付近に右折出来る角から一体やって来る」
「了解!!私が特攻かけるから防御障壁と援護用意よろしくね!」
俺が出来るだけ的確に素早く伝えると、柳瀬さんは持ち前のスピードを活かして素早い特攻を仕掛に行く。
初めの頃とは大違いの反応速度だ。
やはり柳瀬さんもこの生活に慣れてきている証拠だろう。
柳瀬さんに防御障壁を張って援護態勢に構えていると、曲がり角からモンスターが出てきた瞬間、柳瀬さんの新しい剣がモンスターを捉えた。
完全に油断しきっていたのだろう、モンスター…ゴブリンは角から出てきた瞬間柳瀬さんのブラッドレイピアに右腕を切り落とされ、驚いた所を柳瀬さんが更に追撃。
切り上げた剣を振り下ろすようにしてゴブリンの背中を切り裂くと、俺の視界に映るゴブリンの体力ゲージが一気に減っていき無くなった。
俺は辺りに音を聞きつけてこちらに向かってモンスターが向かって来ないかを確認した後、安全が確認出来ると戦闘終了だ。
俺は柳瀬さんの元に向かう。
「柳瀬さんお疲れ」
「ツカサ君もお疲れ様。指示ありがとね。で、見た見た?」
柳瀬さんに戦闘後の声掛けをすると、柳瀬さんはテンションが上がっている。
見たか?と聞かれても、何を見たのか分からない俺は柳瀬さんに「何が?」と聞き返す。
返事は直ぐに返ってきた。
「この剣だよ!!前よりもイメージ通りに動けたの!!ゴーヴァストさんから貰ったこの剣は最高だよ!!」
「そ、そうなんだ。やっぱり剣のレア度が高いと、動きにも変化が現れるのか?」
あれか?
新しい物を使うと、テンションが上がって動きがよくなったりする心理現象なのか?
まぁ理由はともあれ、柳瀬さんの動きが良くなっているのは嬉しいことだと思う。
ダンジョン攻略も楽に進めるからな。
「取りあえず、このゴブリンをアイテムボックスにしまって……」
「えぇ!!ツカサ君このゴブリン消えかけているよ!!何で!!?」
俺は何時も通り倒したゴブリンをアイテムボックスに入れようと(自動回収もされるが、任意で出し入れを行った方が早い)死体に目を向けると、ゴブリンが光に包まれてサラサラと消えかかっていた。
今までに無かった現象に柳瀬さんが目を開き、俺に質問をぶつけてくる。
何でもかんでも人を頼るのは悪いこと、分からない事は人に聞くのが一番と言う矛盾が頭の中によぎったが、俺は落ち着いて柳瀬さんの質問に答える。
「ダンジョン内のモンスターは外のモンスターと違うって事だな」
「違うって?見た目も動きもゴブリンだったよ?」
「ゴブリンなのは間違いよ。えーっとどういったらいいかな。生まれの違い?外のモンスターは普通に繫殖して増えているけど、ダンジョン内のモンスターは瘴気で生まれて来るっていうのがテンプレ設定だったはず」
「瘴気?もう少し分かりやすくお願い」
「簡単に言えば悪い空気の事。ダンジョンとか異世界に直すなら濃い魔力黙りかな?ダンジョン内は常に魔力に満ちていて、それが瘴気。そこからの生まれて来るのがダンジョン内のモンスター。だから死体が残らないで吸収されて行っているんだと思う」
「……よくわかんないけど、ダンジョン内では倒したモンスターは消えるって事だね」
「その解釈でいいよ。小説でもダンジョン内のモンスターは消えたり消えなかったりと色んな設定だったから先に言えなくて……」
「でも、モンスターの死体が消えるのは見た目とか衛生上全然嬉しんだけど、素材は?これだとみんなモンスターを倒さないよ?」
「それは多分見た方が早いと思う」
更なる質問に対して俺は、柳瀬さんに消えかかっていたゴブリンに視線を向けさせる。
消えかかっていたゴブリンは完全に消滅し、死体の代わりに爪が落ちていた。
アイテム説明をかけると、普通に『ゴブリンの爪』
ただの素材アイテムだった。
俺は拾って柳瀬さんに見せながら説明を再開する。
「死体が残らない代わりに何かアイテムをドロップするんだ」
「ドロップって?」
「そこからか。落とすって意味。こんな風に、剝ぎ取らなくても素材が勝手に落ちているんだよ」
「あ!そっか。剥ぎ取りはしなくてもいいし、モンスターは探さなくてもダンジョン内に居れば出会う確率は高いから楽なんだね。だからダンジョンは人気スポットって事なんだ」
その解釈は正解だ。
俺は「その考え方でいいよ」と言ってから、ゴブリンの爪をアイテムボックスにしまった。
懸念していたモンスタードロップがどうなっているのかを知ることができ、後は不安要素はない。
俺と柳瀬さんはダンジョン攻略に集中する。
幸いダンジョン内でもマップ機能は問題なく機能を発揮し、モンスターの早期発見が出来て曲がり角からの奇襲は受けずに済んでいる。
柳瀬さんが特攻を仕掛けて倒したり、俺も昨日貰った杖を使ってモンスターを倒していく。
途中で他の冒険者とすれ違ったが、挨拶程度で何も起こらない。
テンプレ展開を期待しているわけではないが、何処かあっけない感を感じる。
マップの縮小機能を使い、二階層に降りる階段を探しつつ反応を示したモンスターを倒していく。
そんな感じで小一時間程経った。
今はギルドが設置した休憩所の様な場所に来ている。
「こんな場所あったんだね」
「低階層はマッピングが終わっていたり、モンスターが弱いからこういった場所が転々とあるのがよくあることなんだ」
ゲームとかでは休憩所なんか必要なく、疲れたらポーズメニューを開いて放置していればいいが、現実のダンジョンではそうもいかない。
そこで小説などではよくある設定の一つとしてこの休憩所みたいな場所だ。
周回の様にダンジョンを潜っている人からしたらこの場所は安全な休憩室。
何日もダンジョンに潜る人からしても仮眠が出来る安全地帯。
モンスターが嫌うお香を使ってこんなスペースを確保しているらしい。
設定の中では珍しくギルドが運用しており、ボロいけど椅子やテーブルなんかも簡易的に置いてある。
もっとも、こんな設備は低階層のみで中階層は安全地帯の確保がやっと、最下層付近は安全地帯の確保すら出来ないでの、交代で仮眠を取るのが当たり前。
その辺はダンジョンらしい。
休憩所に入った俺と柳瀬さんは誰もいない事をいいことに、スペースを大きく使う。
柳瀬さんは椅子に座ると、どべーとテーブルに身を乗り出して伏せる。
「疲れた~!」
「寝ないでね。少し休憩したら二階層に行くから」
「うん、分かったよ」
柳瀬さんは体を起こして、アイテムポーチから携帯食料と水筒を取り出して栄養補給をし始めた。
一時間程モンスターと戦闘をしたが、朝ご飯を食べたばかりなのによくも食べられるよなぁと俺は思う。
もっとも、ダンジョンに限らず街の外では休める時に休み、食べれる時に食べるのが基本だから柳瀬さんの行動は正しい。
俺は魔力ゲージを確認してから、魔法薬を一本飲み干すとアイテムボックスの整理を始めた。
ただのバックの様に全部出して…としなくてもいいのだが、ソート機能を使い入手順で手に入れたアイテムを確認する。
ゴブリンの爪、ゴブリンの棍棒、スライムジェル、コボルトの牙、一階層は三種類しかモンスターが出現しないらしく、ドロップ品の種類の多くない。
ゴブリンの爪やコボルトの牙なんかは売るとそこそこの利益になると思うけど、ゴブリンの棍棒なんかは売る価値があるのか分からない。
ゲームだと、ドロップ率が低かったりレア度が高いと売却価格も高い設定だけど、現実世界でもあるここはインフレやデフレと言った価格市場がキチンとある。
多く出回っていると価格は安くなり、希少だと高くなる。
ゴブリンの棍棒は一個しかドロップしていないことからレアドロップだと思うけど、正直ドロップ品である意味がない。
アイテム説明を見てみた所、
『ゴブリンの棍棒』
・ゴブリンが使う棍棒。
硬い木で作られているが普通の棍棒と変わらない。
ゴブリン特攻が付いている。
・攻撃力+10
ゴブリン特攻+5
正直いるかどうか分からないレベルの能力だった。
俺がこの三ヶ月で色んなアイテム説明を見てきた感じだと、+値は20くらいまでは微小の効果、~+50までは効果が目に見えて分かる位。
それ以上の数値は目にした事がない。
+100がMaxだと考えると、普通に手に入れるのは50が最高だろう。
それ以上は、それこそ有名なドラゴンやバジリスクとかいうモンスターの素材をふんだんに使ったアイテム出ないとお目にかかれないはず。
なので、このゴブリンの棍棒は安いはず。
普通の棍棒と攻撃力も変わらないし、ゴブリン特攻が付いているけど付いていないのと同じ位の差。
どの世界でもいる特殊収集家が買いあさる程度の価値しかない。
どっかのダンジョンの奥深くの岩に刺さった聖剣でもないかなぁ、と思いながら、アイテムボックスを閉じる。
今のところ収益としてはまぁまぁだけど、まだ一階層だ。
下に降りればドロップ品も良くなっていくはず。
取りあえず、安全第一で進んでいくとしますか。




