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49話「いざダンジョンへ」


 朝目を覚ますと、眠たい気持ちを我慢しながら部屋を出て階段を降りる。

 階段を降りて食堂に入ると、柳瀬さんが俺を待っていた。

 昨日寝付けなくて遅くまで本を読んでいたせいだ。



「ツカサ君おはよう!」


「ん、おはよう」



 このやり取りももう慣れてきている。

 取りあえず起きた事を柳瀬さんに伝えると、硬いパンとスープを取りに厨房へと向かう。

 朝ご飯は食べない主義だったが柳瀬さんがうるさいので、こうやって簡単に取れる食事を毎回摂っている。

 柳瀬さんの様にご飯に野菜、更にデザートらしきものまでは無理だが、パンをスープに浸して食べるくらいなら食べる気になった。


 厨房を任されている女の子に「何時ものお願いします」と使えると、用意されていたかのように出てくる。

 殆ど毎日同じもの頼んでいるからか、それともスープは常備で作っていて、パンを出してお皿に盛り付けるだけなのかは分からないが、スープは何種類かのバリエーションがある。

 毎日食べても飽きないようになっているのが良い所だ。


 お盆を持って柳瀬さんが座っている前に座ると「いただきます」と心の中で手を合わせて食べ始める。

 この世界に来た頃は本を読みながら食べていたのだが、一回不注意で汚してしまった事と柳瀬さんに怒られたので辞めた。

 硬いパンを千切ってスープに浸してながら食べていると、話題作りなのか柳瀬さんが今日の予定を確認してくる。



「えっと、今日はダンジョンに行く、だったよね?」


「……そう言えばそうだったな。忘れてた」


「忘れないでよ!?それで、ホントにダンジョンに行くんだよね?」


「あぁ、行く予定だよ。柳瀬さんはダンジョンについて何か調べた?」


「何か物凄い人気な場所なんでしょ?」



 柳瀬さんに今日の予定地について尋ねてみると、物凄くざっくりした回答が返ってきた。

 特に調べたりはしていない様子なのが分かる。

 俺は朝食を食べながらダンジョンについて軽くレクチャーしてあげた。


 ダンジョンとはモンスターや魔物が半永久的に湧き出る場所の事を指し示す。

 洞窟だったり塔だったりある地帯だったりと色々な種類があるが、共通してモンスターや魔物が半永久的に湧き出ている。

 半永久的というのは、ダンジョンの最下部にあるボスモンスターを倒しすとダンジョンとしての機能が停止するらしい。

 

 大抵のダンジョンは街から離れた場所にあるのだが、南都アルケーミはダンジョンを産業の中心として大都市に成長した街だ。

 冒険者ギルドより南下すると、そこにダンジョンの入り口がある。

 街の南部に冒険者ギルドがあったり、冒険者ギルドが利用する店や宿がその区画に固まっているのはそのためだ。



「なるほど、そんな成り立ちがあったんだね」


「柳瀬さん、調べたりしなかったの?」


「うっ!?お恥ずかしながら全く気にならなかったです。……ほら、役割分担だよ!!ツカサ君が調べたりこの世界の情報を教えてくれて……くれて…」



 急に黙り込んでしまう柳瀬さん。

 如何やら自爆してしまったみたいだ。


 そう言えば柳瀬さんは俺についてきているだけで、殆ど何もしていない。

 勿論、依頼の時は率先してモンスターを倒してくれているのだが、その他の例えばモンスター知識を集めたりとか、自分でこの世界について調べてたりはしていない。



 柳瀬さんは元の世界にも帰りたいと思わないのだろうか?

 俺の場合は死んでしまったたり、この世界で生きていくのが楽しかったりするんだけど、柳瀬さんは急に召喚された人だ。

 こういった場合は元の世界に戻りたいと考えるのが普通なんだけど……。

 もしかして俺について行けば何時かは帰れるとでも思っているのか?

 だとしたら、完全に間違えている。

 俺はあんな世界帰りたいとも思わないし、例えば帰る方法があったとしても帰らない。



 何時かは分かれなくちゃな、と思っている内に朝食のパンは食べつくしていた。

 パンが無ければお前に用はないとばかりにスープを飲み干してテーブルを立つ。

 まだ「くれて、くれて…」と呟いている柳瀬さんに一声かけて現実に戻す。



「柳瀬さん、食べたなら行くよ。早く行動しないと時間が無くなる」


「はっ?ご、ごめんね。今行くから」


「別に急がなくてもいいけど……」



 食べ終わった食器をお盆ごと厨房に持っていき、規定の位置に置いたら後は厨房係の女のが片付けてくれる。

 元の世界では食べた食器は自分で洗っていた俺にとって楽だ。

 手伝いたいなどとは思わない。

 厨房を任されている彼女の仕事を奪うことになるからだ。

 それに、元の世界でもレストランなどで、自分の食べた食器を洗わせて下さい、なんて事誰もしないだろ?


 俺は部屋に戻って支度はしなくても問題ないのだが、柳瀬さんは支度が必要なので俺と柳瀬さんは一旦部屋に戻る。

 用意が出来たら部屋をノックしてくれるのが毎回の日常となりつつなっていた。

 それまでの間、アイテムボックス内に入っているダンジョン探索中に必要なアイテムを確認する。

 念入りにとまでは行かないが、一通り確認し終えた俺はアイテムボックスから昨日貰ったマントを取り出して羽織っておく。

 杖は大きく行動の邪魔になるので、アイテムボックスにしまったままだ。

 ダンジョンに入る前に取り出せば良いと思う。


 自分の支度が数秒で終わった俺は、柳瀬さんの支度が出来るまで読書に興じる。

 たまにできる待ち時間を有効に活用しなくては、手持ち無沙汰になって何をしていればいいのか分からないからだ。

 例えほんの五分位の時間だったとしても、数ページは読めて気分を上昇させてくれる。

 俺にとって一種のハブの様なものだ。


 やはり数十ページ目を読んでいると、部屋の外からノック音と俺を呼ぶ声が聞こえてくる。

 柳瀬さんの支度が終わったみたいだ。

 俺は本に栞を挟んでアイテムボックスにしまうと、部屋を出て柳瀬さんと合流する。



「お待たせ」


「ううん、待ってないから大丈夫だよ。私の方が待たせてる感あるんだけどね。じゃあ行こっか!」



 と何時もの通り似たような会話をしてから宿を出る。

 宿の受付にボーっと座っている厨房に居る子とは別の子に「仕事に行って来ます」と伝えれば、相槌をして手元に置いてある名簿みたいな物に書き加えていた。

 多分、部屋の状況を簡単に纏めた帳簿なのだろう。

 一言声をかけて出ていくと、帰って来ても同じ宿を使いますよ、と言う印だ。

 この宿を紹介してくれたオングとイリが教えてくれた。

 この宿は表通りに面していないこともあり、利用数がそこまで多い宿ではなく、事前に伝えて置けば宿を数日間訪れなくてもキープしておいてくれるのだ。

 そう言った宿があるのは知識として知っているが、実際他の宿ではそのような余裕は無いとのこと。

 偶然にも設備やサービスが整った宿に泊まれてラッキーだ。


 マップ機能を使わなくてもギルドまですんなりと行ける様になった俺は、何時も通りの道を歩いて街の南部を目指す。

 途中で裏道を通るとエンカウントしてくるチンピラや孤児を、マップ機能で回避しつつ表通りに出た。

 ここまでくれば安心して歩ける。

 いつもなら入るギルドを素通りして更に南部に向かう。

 柳瀬さんがゆっくりしているせいもあり、人は段々と少なくなってきた。

 あたりには明らかに冒険者しかいない。


 そして、マップ上に階段を表すマークが表示されると、視界でもダンジョンの入り口を目視することができた。

 いや、入り口とは言えない。

 入り口の入り口だ。


 石で作られた壁が何重にもあり、その中心にはひっそりと一軒の石造りの小屋が建てられていた。

 中に入ると、冒険者が一列に並んでいる。

 その数も少なく、けして多いとは言えない。

 柳瀬さんが「少ないね」と俺に囁いてきたので、ちょっとした小ネタを披露する。



「あれ?ダンジョンはこの街の人気スポットじゃなかったっけ?」


「人気スポットって。少ない理由は時間だよ。大抵の冒険者は日帰りで挑むものなんだ」


「あ、早く入って少しでも長く潜り続けるみたいな。だから少ないんだね」



 現在の時刻はお昼前、ダンジョンに潜るなら完全に乗り遅れた時間だ。

 しかし、俺と柳瀬さんには関係ない。

 何故なら日渡でダンジョンに挑むつもりだからだ。

 要するに、浅い階層で雑魚敵を倒して毎日の給料を得るのではなく、複数日潜って深い階層まで潜る攻略するみたいな感じだ。


 と、列が前に進んで行き俺と柳瀬さんの番になった。

 受付カウンターがあり、その奥は真っ暗。

 あれが正真正銘のダンジョンの入り口なのだろう。



「こんにちは。冒険者カードを提示してください」


「はい、お願いします」



 ご丁寧に柳瀬さんは受付嬢に笑顔を振りまきなががら冒険者カードを渡す。

 俺と柳瀬さんのカードを受け取った受付嬢は、読み取り機の魔法具にかざしてチェックを入れると、返してくれる。

 カードを返して貰うと、読み取った内容にダンジョンへは初めてだと出ていたのか、受付嬢が説明をしてくれる。



「ダンジョンに入るのは初めてみたいなので、ご説明させていただきます。まず、先程読み取ったのがダンジョン内にどの冒険者が入っているのかチェックする為の物です」


「あの、チェックってなんでですか?」


「はい、どちらの冒険者が戻って来られたのか、戻って来られなかったのかを確認するためです。時には救難隊を編成しなければならないこともありますので」


「戻ってこない……。そっか、そういうこともあるもんね。続きをお願いします」


「ダンジョン内での注意事項ですが、この街の法はダンジョン内では適応されません。が、殺人行為は認められていませので変な気は起こさない様におお願いします。ギルドの登録を剝奪されます」


「あ、当たり前のことだ!?」


「後、マナー程度ですが、基本的にダンジョン内のモンスターは見つけた者勝ちです。強引に割り込みはやめてください。いざこざに発展してしますので。また、ダンジョン内で見つけた物は全て発見者が権利を獲得いたします。低階層だとあまりありませんが、深階層だとお宝が見つかることもありますので」


「へぇー、お宝なんてあるんだ」


「勿論、ギルドとしてはギルドに売って頂きたいのですが、無理強いをいたしませんよ。以上になりますが質問などはございますか?」


「えっと…?」



 柳瀬さんが受付嬢の説明に相槌を打つ様に反応してくれるお陰で、俺は話を聞くだけで良かった。

 こういった時に柳瀬さんのコミュ力は便利だと感じる。

 受付嬢の問いに柳瀬さんが俺の顔を見てきた。

 勝手に返事を出していいのか悩んでいるみたいだ。

 俺は今の説明で大体の事が予想通りだったので質問は無いと答える。



「問題ないです」


「分かりました。では最後に一つ。最近街で行方不明者が増えてきておりますので、お気を付けください。この先の階段を下ればダンジョン第一階層です。他の方と鉢合わせになる可能もありますがくれぐれもマナを意識してくださいね。登り優先でお願いします」


「わかりました。ツカサ君行こっか」


「急がなくても良いと思うけど……」



 テンションが上がってきたのか、柳瀬さんに引っ張られるようにして俺は奥に進んでい行く。

 初めはただの洞窟っぽく、元の世界で行ったことがある鍾乳洞の入り口みたいに岩肌があったが、次第に岩肌が見えなくなり逆に人工物らしき壁になってくる。

 普通の洞窟に見える付近では壁に松明が掲げられて光源になっていたけど、人工物の壁になると松明は無くなっていった。

 異世界のダンジョンっぽく壁が一定の明るさに光っていて、視界は安定している。

 柳瀬さんはテンプレっぽく光る壁に反応してくれた。



「見てみて!!壁が光っているよ!!綺麗…………。どうやって光っているのかツカサ君は知ってる?」


「多分だけど、壁自体が特殊なんだと思うよ。テンプレ設定では、ダンジョンの壁は破壊不能で周囲の魔力を吸い上げて発光している。ま、深く考えずに松明や魔法で視界を安定させながら戦うよりはマシだから」


「そっか。やっぱりツカサ君は私の知らないことを沢山知っているね」


「別に……小説読んで得た知識だから……」



 俺が光る壁について説明すると、柳瀬さんは俺を褒めてくれる。

 褒められる事が殆ど無かった俺は「これくらい然るべき本を読んで人なら誰でも知ってる」とお褒めの言葉を素直に受け取ら無かった。


 常に自分の評価は最底辺。

 俺に出来る事は誰にも出来る。

 俺だけにしか出来る事などありはしない。

 そうやって自分の事を肯定しないで生きてきた俺は、今回も柳瀬さんからの評価を受け取らず、「お世辞だ」と自己解釈をしてしまう。




 ダンジョンを更に進んで行き、やっとこさ第一階層にたどり着く頃には洞窟感が溢れる岩壁は全く無くなり、その代わりにダンジョンの壁になっていた。

 階段の下は暗くてここからでは見えなく、ちょっとした雰囲気になっている。

 俺は異世界のテンプレダンジョンにようやく挑めるのだとテンションが上がり、つい口元が緩んでしまう。

 そんな俺を見た柳瀬さんが俺に向かって笑顔を振りまいてくる。



「ツカサ君、楽しそうだね」


「まぁ、そりゃ……。それなりに。じゃあ、ダンジョン攻略行きますか」


「うん!頑張ろうね」



 改めて気合を入れ直して、俺と柳瀬さんはダンジョン一階層に挑む為、薄暗い階段を下って行った。



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