48話「そして時間は今に至り」
「何それ、私聞いてないよ?」
俺がゴーヴァストさんと出会った日の事をかいつまんで話すと、柳瀬さんの口から出た言葉がそれだ。
言葉の雰囲気からして理不尽っぽさがにじみ出ている。
俺は突っかかってくる柳瀬さんをどうにかして抑えないといけない。
勿論、物理的には不可能なので、言葉でだが。
「や、柳瀬さん落ちついて。別に俺が休日出勤しても柳瀬さんには関係ない事でしょ?休みの日まで何をしていたかなんて別に知らせる必要ないよ」
「た、確かにそうだけど。……うぅん~~~。でも、一人で依頼は危険だったかも!!」
「問題ない範囲で行動してたから危険はない。ゴーヴァストさんも一緒だったから一人で依頼は間違っているし」
「あぁ~~もう!!分かった、今回のことには目を瞑る!!でも次回からは一言声を掛けてね!!コンビなんだから!!!」
「わ、わかった」
何故俺が怒られなければいけない。
それに、強引に約束させられてしまったけど、休日に街の外に出るのに柳瀬さんに伝える意味なくない?
なに、リア充ってそんなにも人の行動を知りたがるの?
この世界を柳瀬さんとコンビを組んで冒険者やってるけど、それは成り行きであって元々は俺一人で何とか生きていくつもりだったんだけどなぁ。
今では柳瀬さんと一緒にいることが当たり前になってきている。
一人でロックヘッジホクを狩っていた時もそうだ。
柳瀬さんも一緒にいたならもっと効率よく狩りが出来ていただろう。
あ~、一人でも何とか出来るのは当たり前だけど、二人の方が居心地がいいと感じ始めている自分が居る。
何故だろう?
幾ら自問自答しても納得のいく答えは出てこない。
もしかしたら、その答えを出すのを何処かで拒否していたからなのかもしれない。
ただ俺が出来ることは、現状維持だけだ。
閑話休題。
ひと悶着治まった所でゴーヴァストさんに今日の訪問理由を尋ねられた。
「それで、うちに何の用じゃ?彼女を自慢するためだけじゃなかろう?」
「か、彼女っ!?」
「いや、彼女じゃないですから。単なる同郷でコンビ組んでいるだけですからって。ここを訪ねた理由ですが、貯金が幾らか貯まったので何か良い装備品はないかな?って相談に来たんですよ」
「そうかそうか。確か……あれがあったはずじゃ。ちょっと待っとれ」
ゴーヴァストさんはそう言うと、工房に戻って行った。
店側に置いてない物を取りに行ったのだろう。
と、ここで柳瀬さんが疑問に思った事が出来たようで、俺に質問して来る。
「相談?何買うのか決めてないの?」
「まぁな。使えるお金の上限もあるし、既存品だけでなく自分の溜めている素材で作ってもらえるかもしれないから相談だ」
「そっか、モンスターを狩ってるんだから、自分達で材料を持ち込むのも有りなんだね。あっちじゃあ到底できないよ!」
「そうだな」
柳瀬さんに肯定したが、元の世界にも似たようなものはある。
一番例え安い例で言うと、魚料理店。
自分で釣った魚を店に持っていき捌いて貰うと、自分で狩ったモンスターの素材を店に持っていき加工して貰う。
こうして並べると似たようなものだ。
俺よりも頭の良い柳瀬さんがそこまでの思考が回らないのは、この世界での在り方と元の世界での在り方を全く別のものと捉えているからだろうか?
それとも、俺がこの世界を元の世界で身近に感じ過ぎていたせいか。
どちらにせよ、元の世界とこの世界は全くかけ離れているものではない。
今はそれだけで十分だ。
「戻ったぞ」
「あ、おかえりなさい。わぁ!!剣だよツカサ君!!」
「……剣か」
ゴーヴァストさんが戻って来ると、手には針にも似た剣があった。
柄は黒く、鞘は岩色をしている。
ゴーヴァストさんが少しだけ鞘から抜き出して、刃を見せてくれると真っ赤色をしていた。
剣ということもあり、俺よりも柳瀬さんがはしゃいでいる。
「凄く綺麗色をしているよ!!」
「ほぉ。なかなか目の付け所が良い者じゃの。この剣は『血の針剣』その名の通り、ロックヘッジホクの素材で造った物じゃ」
「へぇ!!ツカサ君が倒したモンスターで出来ているんだ。あの試して見ていいですか?」
「もちろんじゃとも。その為に持って来たのじゃからな」
柳瀬さんがゴーヴァストさんから剣を受け取って鞘から抜いた。
俺も自分が使えなくても剣には興味がある。
俺はゲームのような視界の機能の一つ、アイテム説明使った。
『軽い血の針剣』(ブラッドレイピア)
・ロックヘッジホクのレア素材を剣芯につぎ込んだ剣。レイピアと書かれているが実際は細剣に近い。血と言う負のイメージがあるが、特にデッメリットは存在しないのが特徴。名前負けな剣
・スピード+25
攻撃力+30
ゴーヴァストさんが何も言わないところ見ると呪いの類は付いていないと思っていたが、一応俺の方でも確認するが問題はない。
デハブの様な効果もなく、ホントにただの中級ランクの剣だ。
ゴーヴァストさんの腕が良いおかげか付属効果も付いており、その効果も柳瀬さんにピッタリ。
「私これを買いたいです!!幾らですか?」
「ふむ、ホントはツカサに使ってもらいたかったのじゃが、魔法使いじゃもんな。ツカサのパートナーが使ってくれるから良しとしようかのう。銀貨十枚じゃ」
「た、高い!!えーっと…」
「と言いたい所じゃが、五枚で充分じゃよ」
「半額!?なら直ぐに払えます!!」
銀貨十枚、元の世界価格にすると十万。
バイトをしていた俺にはひねり出せなくもない値段だけど、恐らく部活動で忙しい身だったはずの柳瀬さんが出せる値段でない。
それが半額セール。
五万でも高校生にはちょっときつすぎる値段だが、ここは異世界で俺達は冒険者。
実力もそれなりある方なので、貯金の金額の差は元の世界と比べるまでもない。
しかしほんとに良かったのだろうか?
五万分も差し引いてくれても。
「ゴーヴァストさん良かったんですか?銀貨五枚ってそこそこ大きいじゃないですか」
「いいんじゃ、いいんじゃ。それにな、ツカサが狩った中に『血針』が数個有ってな、ツカサのお陰であの剣が作れたも同然なのじゃ。おんし等の役に立てるなら割引はさせて貰う」
流石にただはこちらも経営なんで無理じゃがな、と俺に笑うと、柳瀬さんから代金の銀貨五枚を受け取りつなぎのポケットの中に放り込んだ。
そんな所に入れるのかよ!?と思ったが、元の世界にもポケットの中にお金を入れる人が居たことを思い出す。
無駄な買い物をしないし、レシートもちゃんと受け取る俺には理解出来ない習慣だ。
と、こんな事はどうでもいい。
柳瀬さんの新しい武器が手に入ると言う嬉しい誤算があったが、本来の目的は俺の装備品の相談だ。
俺はゴーヴァストさんに話を切り出す。
「俺の装備品のことなんですが……」
「あぁ、ツカサは魔法使いじゃからな。儂としても前衛職の装備品の方が作り甲斐があるから、魔法使い職の装備は余り置いておらん」
「そうですか。まぁ、今の装備でも」
「じゃが、ロックヘッジホクの素材が有り余っておるからのう。マントと杖を作ってみたんじゃ。見てくれんか?」
「あ、わざわざありがとうございます」
前衛職はより攻撃力の高い武器やぼう防御力を上げる為に、モンスターの素材を使う装備を求める。
しかし、モンスターの素材は加工が難しく、専門の職人技が必要だ。
ゴーヴァストさんも例に漏れず、モンスターの素材で加工するが、出来上がる物は基本的に前衛職向けの装備ばかり。
というのも、後衛職というか魔法使い職は装備よりも己の才能が何よりも大切なのだ。
装備品で実力の底上げは出来ても、装備を付けたら急に攻撃が入りやすくなる、何てことは起きない。
魔法使い職は自身の魔力量が全てを物語っている。
どんな長い詠唱を唱えられたとしても、術者の魔力が足りなければ魔法は発動しない。
よって、魔法使い職にとって装備はないよりはマシ、と言った程度の認識。
それは勿論、ゲームで言う最強クラスの装備だと装備の有無はある。
と言った様に、俺にとって魔法とはイメージが全てなんだと思っている。
装備品はあくまでも付属品。
剣が無いと敵に攻撃すら出来ない剣士と違って、魔力とイメージできる意識さえあれば攻撃は可能だ。
なので、魔法使い職が余り装備品にお金をつぎ込む事は少なく、職人もわざわざ売れない物に素材を使わずに前衛職の装備に回している。
と言った事情があるものの、わざわざゴーヴァストさんが作ってくれた物だ。
有難く試させて貰おう。
高校生になるのに、厨二が未だ発動状態な俺は、見た目のカッコよさもある程度考える。
ゲームとかでも、幾らステータスに影響しないからと言って、丸裸でやってる奴はいないだろう。
ゲームや小説っぽい姿になれる異世界の装備品は、俺にとって一種の憧れとも言える。
お金をためてでも装備してみたいのは当然のことだ!
とやっている間に、ゴーヴァストさんが工房からマントと杖を持って来た。
マントは鼠色でフード付き、裾の部分にロックヘッジホク外殻の岩でちょっとした装飾が施されている。
一方で杖は剣と見間違える程鋭く光っていおり、先端は杖っぽく魔石らしきものが付いているのだが、地面に付ける方が針の様に鋭くなっている。
俺はゴーヴァストさんから受け取ると、アイテム説明を二つに使ってみた。
『針鼠のマント』
・なんて事のないマント。主に防御力アップにお使いください。針要素はない!
・防御力+40
土属性魔法耐性+50
『鋭い針杖』
・ロックヘッジホクの針をふんだんに使った杖。先の尖った部分で攻撃の出来る優れもの。グサッと止めを刺しちゃってくださいな。
・土属性魔法威力+60
魔法攻威力+50
物理攻威力+30
マントの方は特に述べる事のない普通のマントだ。
ロックヘッジホクの皮を使っているのか、布のマントに比べて防御力が上がり、土属性魔法の耐性も付いている。
一方で見るからに杖をとは思えない杖の方は、属性魔法の威力増加と普通の魔法の威力増加が付いており、まぁ素材にあった効果内容だと感じれる。
が、前半部分だけを見ればの話。
後半部分が可笑しい。
物理攻撃力が上がるってなんだよ!
槍の様にして使ってもいいのか?この武器!?
説明文でも推奨するな、ってかこの文誰が考えてんだよ!
女神様か?
あの真面目そうで人の話を聞かない女神様か?
それとも別の神がいるのか?
そこら辺はあんまり勉強してないからな。
今度は教典みたいな物や神話系の本でも買ってみるとしよう。
受け取るだけでは何も始まらない。
ゴーヴァストさんに断って、マントを羽織って杖を構えて見た。
「…思ったよりも軽い?」
「皮と言っても、モンスターの物じゃからな。普通の牛なんかじゃとそうもいかないからのう」
「か、カッコイイよツカサ君!!」
装備してみた結果、思ったよりも軽いという事が判明した。
ゴーヴァストさんの話から推測すれば、モンスターから造った装備品は見た目に反して軽いらしい。
もしかしたら、適正がなる無しで変わるものなのかもしれない。
流石異世界、質量保存の法則が全く役立たない世界だ。
装備品を試している俺を見て、柳瀬さんがカッコイイと評価をくれる。
俺はそれをお世辞を受け取っておく。
お世辞ではなかったなら、ビックリだ。
「どうじゃ?着心地は良いかのう?ちょっとした修正なら幾らでも可能じゃ」
「マントの方は全く問題ありません。杖の方は慣れが必要でしょうが、軽いので直ぐに慣れると思います」
ゴーヴァストさんが俺に感想を聞かせてくれ、と頼んできたので素直に話した。
マントは重くなく、元々使っていた物が汎用品だったので全体的にグレードアップした感覚。
土属性魔法に対する耐性が上がっているが、今のところ俺の防御障壁を破る様な敵には合っていない為、余り意味はないと思う。
魔力枯渇中や不意打ちに備えて、と考えておけばいい。
一方で杖の方だが、今まで俺はスタッフを使ってきている。
安さで選んだ物だが、小さく振り易い。
重くないと言う使い勝手で選んだものだった。
なので使うにはあたって不安だったが、マントと同じく思ったよりも軽い。
流石にスタッフと同等の軽さまでとはいかない様だったが、持って走るくらいなら難無くこなせる位の重さだ。
これまたマントと同じく汎用品だったスタッフから杖に変えても問題いは無い。
想像だけで魔法を使える俺は、結構使うの忘れたりするが、備えなれば憂いなしだ。
俺は決定と決めると、ゴーヴァストさんに商品の値段を尋ねる。
しかし、ゴーヴァストさんは俺が値段を尋ねると黙り込んでしまう。
「う~~~ん。はて、どうしたものか」
「えっと何をそんなに悩んでいるんですか?」
「いやのう、ツカサにはタダで提供しても良いと考えておったのじゃが……」
「あ!私が一緒に来て先に剣を買っちゃたから……」
「そういう事じゃ。普通に値引き価格かのう」
如何やらゴーヴァストさんは、柳瀬さんが先に剣を買ったせいで、俺にタダで進呈するのが柳瀬さんに対して申し訳ないと思っているらしい。
柳瀬さんもこの状況に言葉を詰まらせている。
自分のせいで……とか考えてそうな顔だ。
俺としてはタダで貰える物は貰いたいが、元々お金を出して買うつもりだったので問題ない。
「大丈夫です。普通に買いm……」
「ううん!この素材はツカサ君が倒したモンスターから作られた物だから、私がお金を出して買ったのは間違いじゃないよ。ゴーヴァストさんは私を気にしないで下さい」
俺は普通に買うと言いかけて…柳瀬さんに遮られた。
ゴーヴァストさんは柳瀬さんの言葉を受けて悩むのを辞め、俺に「タダで良い」と言う。
俺も「それもそっか」と柳瀬さんの言葉に納得してタダで武器を貰うことにした。
「ホノカも結構言うではないか。ツカサは結構謙虚な所がある。お前が引っ張ってやると丁度良いコンビじゃと思うのう」
「ほ、ホントですか?いいコンビ……」
「やっぱりツカサに………のか?」
「えっ!!?分かるんですか?」
俺が受け取った杖とマントをアイテムボックスにしまっていると、柳瀬さんとゴーヴァストさんが固まって話をしていた。
声が小さく聞こえずらい所もあるが、俺について話しているらしい。
俺はもう少し装備品についてゴーヴァストさんに相談したかったので会話が終わるのを待った。
「あ、ツカサ君待たせてごめんね。会話が長引いちゃって……」
「ホノカも話の分かる奴じゃのう。ん?何を読んどる?」
こんな時の暇つぶし。
ちょっとした時間が空いても本を読んでいれば問題ない、と俺は読書をしていたが、ようやく会話が終わったみたいだ。
俺は栞を挟み、ゴーヴァストさんに表紙を見せる。
「『気ままに生きるメイドは世界最強』?ツカサ君こんなの読むようになったんだ」
「え?あ、ラノベにハマったのは高校からだから知らなかったのか。普通に面白いよ?読んでみる?貸すけど?」
「へえっ!!?うん。ちょっと興味あるかも。帰ったら貸してね」
「おんしが何を読んでおるのかは興味あったのじゃが、内容まではちっと無理じゃ。本を読むくらいならハンマーをふるっているわ。儂から言っておいてすまんのう」
良し、布教完了。
柳瀬さんは読書をするタイプじゃなかったから少しばかり驚きだ。
俺としても本の話が出来る人が増えるのは喜ぶべきこと。
もっとも俺の素に近い部分を見せることになるが、これだけ一緒にいるんだ、遅かれ早かれだろう。
一回素で語ってしまった時に謝ったが、柳瀬さんは素でいても良いよと言ってくれたから問題無い。
そろそろ知り合いから友達にレベルアップしても良い段階だ。
まぁ、俺一人が勝手に思ってただけで柳瀬さんは同郷人だから、と捉えられていたら自爆もいい所なので自分からは友達とは言えないがな。
あくまでも同郷人だからコンビ組んでいる、と言う態度を貫かないと。
俺の読んでいた本に興味を示していたゴーヴァストさんだが、表紙を見るとやっぱりと言っていいほど興味を持たなかった。
寧ろ興味を持ったら意外しかない。
自分からふったのに俺の勧めを断る事に謝ってくれた。
でだ、話を戻して俺の持っている素材から何か装備品が作れないかどうか?と相談をゴーヴァストさんにする。
俺にはアイテムボックスに入っている素材の一覧が分かるのだが、他人には見える訳ではないので、取りあえず全部出してみた。
すると、ゴーヴァストさんは素材見ると、紙を取り出してメモ書きの様に書いて俺と柳瀬さんに見せてくれる。
「リスト?これ全部作れるの?」
「いや、多分片っ端から作れる物を書き留めただけで、全部が全部は無理だと思うよ」
「そうじゃ、儂が覚えておる限りで作れる装備品を書き留めてみたわ」
リストには完成形の名前にどんな効果が付くのか、必要な素材の種類と量が載っていた。
ご丁寧に武器類、防具類、アクセサリー系と纏めて書いてある。
こんな短期間によく思い出せれるなぁと思うが、ゴーヴァストさんによると鍛冶屋のスキルのお陰ならしい。
ファンタジー世界らしくシステム的な感じなのか、元の世界の様に単に記憶力と経験上の技能としてあるのか。
ちょっと気になる『スキル』だが、収納スキルがあると考えれば前者だと信じたい。
リストを眺めて、取りあえず剣や槍、ハンマーなどの前衛職向けの武器は除外する。
マントや杖も先ほど貰ったので除外。
予備も必要だが、先ずはアクセサリー系の方が優先度が高い。
パラパラと眺めて候補を決めると、ゴーヴァストさんが『完成模造』と言うスキルで見た目を紙に書いてくれた。
俺が選んだのは指輪、ネックレス、腕輪、ピアスがそれぞれ一つずつ。
効果はどれもいいと思ったやつなので、後は見た目で選ぶだけだ。
という事があり、現在ゴーヴァストさんと柳瀬さんがそれぞれ良いと思った装備品を俺に進めて来ているわけだ。
「ね、やっぱり私の方がいいよね!!カッコイイもんね!ちゅうにって物を患っているツカサ君なら私のを選ぶよね!!?」
「儂の方がツカサにとって役に立つんじゃ!!見た目も大丈夫じゃが、結局は効果が優れている物が選ばれるのじゃ!!」
回想じみた事が終わった今でも二人は言い争いを続けている。
窓から入ってくる日差しを考えれば、お昼過ぎに差し掛かっているはずだ。
柳瀬さんに酷い言われようを受けた気がするが、そこは置いておいて。
この買い物が終わったら書店に行く予定だった俺は、そろそろ限界に近い。
この柳瀬さんが選んだカッコ良さがある装備品を選んでも、ゴーヴァストさんが選んだ効果重視の装備品を選んでも、選ばなかった方が嫌味を言ってくるに違ない。
だからと言って全く違うのを選んだら嫌味が倍増してしまう。
なので、俺がとる行動は一つだ。
「どっちを選ぶの!!?!?」
「どっちを選ぶんじゃ!!?」
「どっちもでお願いします」
「「あ……」」
どちらも選んでしまえば問題ない。
元々どちらも効果はいい奴を選んでいるんだ。
後は金額と素材だが、どちらも被っていないし、金額的にも十分両方買える値段だった。
まさか両方選ぶとは思いもよらなかったゴーヴァストさんと柳瀬さんは、しばらく固まった後二人して笑っていた。
ゴーヴァストさんに出来上がりの日にちを教えて貰い、ゴーヴァストさんの鍛冶屋を出る。
この後、柳瀬さんと書店に行ったけど、今回の休みはこれでお終い。
この世界に召喚されて三ヶ月が経ち、もう直ぐ四か月になる頃の話だった。