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46話「群生地へ」


 受付にて依頼を受けた俺はギルドを出て東門へと向かった。


 何とも、受付のお姉さんにそう言われたのだ。

 曰く、「十時の鐘が鳴るまでなら、東門で依頼者である同行者が待っている」とのこと。

 依頼を受けたのが九時をとうに過ぎていたので、結構急いで歩いた。

 万が一もあってはいけないと思い、もし間に合わなかった時の対応も勿論聞いている。

 その場合は「東門を抜けた先にある岩帯に日が沈むまでいるから自力で探しなさい。途中でロックヘッジッホクに遭遇したら倒しておくのが、依頼達成への近道かもね?」とか。

 実に面倒くさい。が俺は受注者だ。

 時間に間に合わなかったからと言って、依頼者や受付のお姉さんを非難しても意味がない。


 だから、めんどくさいイベントを回避するが為に、早歩きで集合場所である東門前に俺は向かった。

 走らないのかって?

 早歩きでギリギリ間に合うと判断したからだ。

 軟弱な俺は走るのが苦手なんだよ。




 どうにか鐘がなる前に間に合った。

 クレーミヤに二つしかない外部へと続く門付近は、出入の順番待ちで並んでいる人だかりで溢れかえっていて、この中から依頼主を探さないいけないのか…と俺の心に少なくないダメージを与えてくる。

 が、それは気分的な話。

 俺のマップ機能は、何処までもゲームの様に俺を助けてくれた。

 俺の視界右端に映るマップには、依頼主の場所がぬかりなくマークで記されているからな!



「ん?何じゃ、ギルドはこんなひ弱な奴を送って来おったのか?」


「は、初めまして。今回ギルドより依頼を受けたツカサです」



 開口一番に俺のことをひ弱と判断してきた依頼主に、俺は若干戸惑いながら自己紹介をする。



 ひ弱って何だよ!?

 そりゃあ、あんたに比べたら俺みたいな魔法使い職は大抵ひ弱に分類されるだろうが。



 自己紹介をして次にどう出るか考えている俺を軽く睨んできているのは、ずんぐりとした体型の老人。

 名をゴーヴァストと言うらしい。

 地面に届きそうな長い長い髭に、俺の体重よりも遥かに重そうな大槌。

 体つきは老人らしい老いは全く感じられず、屈強な冒険者だと言われても俺は考えるまでもなく頷くと思う。



 あぁ、これで依頼主同伴の謎が解けた。

 この老人なら、そこらのモンスター位どうってことないに違いない。

 ならば、更に派生する疑問は「大抵のモンスターは対処できそうな体つきなのに、どうして冒険者ギルドに依頼を出したのか?」だ。

 なに?こんな人でも一人では狩れないモンスターなのか!?

 もしかして、ロックヘッジッホクって魔物?



 俺が頭の中で考えていた疑問は、依頼主の老人によって直ぐに解消された。

 俺の全身を頭の先から足元まで一瞥した後、ふんっ!と鼻息を出して不機嫌そうに聞こえる声で依頼の説明をしてくれる。



「依頼内容はロックヘッジッホクの討伐。じゃが、単なる討伐ではない、素材の回収じゃ。お主、奴を素材が拐取できる程度に抑えて倒すことが可能か?無理ならさっさとギルドに帰るんじゃな」


「あ、えっと……」


「何じゃ、早よ言ってみい」



 会話一言から薄々感じていた。

 そして、二言目から確信に変わる。

 この老人、苦手なタイプの人だと。


 コミュ障にはきつく、せっかちに聞かれる事が一番苦手な人種だと俺は思う。

 きつく言われると口元がくすんでしまい、喉が乾いてしまい声が出にくくなる。

 俺の場合は、それがよくある現象だ。

 頭では分かっている。

 相手の問いにどう答えたらいいのかも頭では理解出来ている。

 なのに、体がそれを許さない。

 それがコミュ障というものだ。(一部偏見がございます)

 バイトの時にもクレームを付けられた時に、誰が悪いにも関わらず相手の意見を否定したかった。

 だが、言ったところでどうなる?

 そんな世界だった。



 だが、この世界は違う!

 権力というものがあるが、貴族以外には実力さえあれば何を言っても文句はない。

 だから、そんな異世界に憧れた。

 そして、俺は今そんな世界で過ごしている!

 でも、俺は元の世界と同じ事を繰り返している。

 そろそろ、変われよな。

 俺は、自分の意見はハッキリと口に出して自由に生きる、その決意はもうした。

 他人とは違うアイテムボックス、マップ機能、ゲームのような視点、普通ではない魔力量。それは執行出来る適正。

 俺には自由に異世界で暮らしていけるだけの力を持っている。

 後は自身が行動に移すだけ。

 


 やがて俺はすぅーと息を吸込み、はぁ~と深く吐き出す。

 元の世界でも気持ちをリセットしたい時によくやった方法だ。

 そして、俺が思った事を口に出す。

 さぁ、小説で培った異世界物の俺TUEE主人公が言いそうなセリフを!



「すみません、依頼を受けてなんですがロックヘッジッホクってどんなモンスターですか?」


「……は?」



 はまだハードルが高いので、バイトで培った会話力を駆使して印象が悪くならないように、思った事を口に出す。

 恐縮して縮こまるとでも思っていたらしい依頼主の老人は、たどたどしかった俺の態度が一転して礼儀正しく質問を返してきた俺に、キョトンと擬音語が付きそうな顔で止まった。

 まさか、対象のモンスター又は魔物を知らない者が正面からやって来るとは思わなかったらしい。



 だって仕方が無いではないか。

 知らない事は知らないとハッキリと口に出す。

 これは大事だぞ。

 本当なら予備知識がないモンスターと戦ったりしない。

 ある程度の攻略方法を覚えてからそのモンスターの討伐依頼を受けるのは、この世界の冒険者の常識だとは知っているよ?

 実際にこれまではそうして来たんだから。

 なら、何故ロックヘッジッホクって初めて聞いた名前のモンスターか魔物を討伐する依頼なんぞや受けたのかって?

 それは、はっきり言って本の資金を調達することに頭がいっぱいいっぱいで、そこまで頭が回りませんでした。

 自業自得乙。



「お前さん、依頼内容を読まずに受けたのか?」


「えっと、依頼内容は読みましたよ。ただ、初めて聞いたモンスターなので、戦い方を考える上でどういったモンスターなのか聞いておきたいと思いまして………」


「モンスター分布図は?………モンスター分布図は読んだことないのか?」


「………………………途中です」



 自業自得ですわこりゃ。

 『モンスター分布図』発見されているモンスターを地域ごとに分けて説明している解説本のことだ。

 勿論俺も購入済み。

 本の続きが気になったり、小難しい内容が多かった為に後回しになっていた本。

 恐らくまだ読めていないページに、ロックヘッジッホクの記述がされていたのだろう。

 ………大事な情報なんだから後回しにするのは辞めよう。



 モンスター分布図を途中辞めにしていると言った俺に対して、依頼主の老人はその態度が気に触ったのか、何やら真剣な表情で俺に問うてきた。



「お前さん仕事をする気はあるのか?」


「……………………………あります」



 噓だ。ホントは無い。でも、憧れはある。

 元の世界でもそうだったが、俺には生きていくには仕事に就かなければならないとは、全くもって思わない。

 仕事に就かなければいけないと人が考えるのは、それが多数の人がそうしているから。

 責務、義務などとは俺は思わない。

 だから、元の世界の暮らしは俺には合わないと思ていた。

 勿論、水道を捻れば出てくる新鮮な水、何時でも取ることのできる食事。

 貧乏でもない俺の家で当たり前のようにできている生活に、無意識のうちで元の世界の生活を受け入れていたのは、矛盾もいい所だが……。

 それでも、異世界に転生、召喚されて、魔法を使ってモンスターを倒して冒険者ギルドで日々のお金を稼ぐ。

 正しく今の生活が俺の理想だ。

 だから、仕事をするか?の問いに肯定は噓。

 しかし異世界で冒険者ギルドの仕事には憧れがある、と言う訳だ。



 俺の噓で真実な返事に、依頼主の老人は「ならばついて来い。細かい説明は道中にしてやる」と言って一時的に街を外出する者が並ぶ列に並んだ。




 普通は町の出入りには身分確認や商人の場合荷物検査などが行われるのが、異世界の街では当たり前の規則だと本に書いてあった。



 なので、初めて見た時も俺は別に驚かなかったが、俺とは正反対に柳瀬さんは物凄い驚いていたが……。

 街に入るだけで税金がかかるのは、そんなにも珍しい事だろうか?

 そういえば、歴史の勉強でそんな話って聞いたことないな。

 俺が聞いてなかっただけかもしれないが、それなら柳瀬さんが驚いたのも無理はないだろうな。

 俺からしたら、車を持っているだけで税金が掛かるのと大層変わりないんだけど、それは感性の違いってことで。

 使い方間違っているって?気にしない気にしない。(語彙力皆無)



 それで話を元に戻そう。

 街を一時的に出る人専用の検問についてだった。

 町の出入りには検問があるのは異世界では当たり前、しかし、大きな町ともなると一日に出入りする者は数え切れないほど。

 それを一時的に街から出る者にもやっていると、いくら時間があっても足りない。

 そこで、大きな街では冒険者ギルドが掛け合って、冒険者カードの表示で簡単に済ませる様にと連携してできたのがこの簡易検問だ。

 冒険者カードの提示だけで済むので、商人の様にいちいちに持つ確認をされないし、カードの読み取りでどんな理由で依頼で街を出るのかも分かるらしい。

あんまり意識していない冒険者カードだけど、意外なところで役に立っているんだなぁって思う。



 頭の中で視聴者サービスをしていると、それ程時間が経たずに俺たちの番が来た。

 俺も例にならって冒険者カードを取り出し、提示して検査は終わる。

 冒険者ではない依頼主の老人はどうやって検査を済ませるのかと気になって様子を見ると、俺と同じように冒険者カードとよく似たカードを提示して済ませていた。



「儂も鍛冶ギルドに入っておる」


「そうですか。ゴーヴァストさんは鍛冶師なんですね。だから素材回収が必要と」


「まぁ、そうじゃな。ロックヘッジッホク自体は儂でも倒せるのじゃが、欲しい素材が貴重な物でな」


「人手が欲しかったのか。数狩ることになるから日給制の依頼って訳なんですね」


「頭は回るようじゃな。ほい、ロックヘッジッホクに付いて軽く教えておこう」


「ありがとうございます」



 ギルドって聞くと冒険者ギルドを思い浮かべる人が多いが、ギルド自体は幾つもの存在する。

 そもそもギルドの単語の意味が組合って学校で習ったはず。

 いろんな組合の一つが冒険者ギルドってわけだ。

 別に鍛冶ギルドがあっても不思議ではない。


 俺は脳内でそんなことを考えながら、ゴーヴァストさんの説明に耳を傾ける。

 別なことを考えなららのながら聞きは難しくない。

 読書中だったり、作業と並行してだったら難しいが。



「先ずロックヘッジッホクはハリネズミ型のモンスターじゃ。体長はおおよそ二メートル程。動きはそこまで素早しっこくないが、怒ると背中に生えておる針を飛ばしてくるから気を付けるように」


「防御障壁で防げますね。後は……背中の針を飛ばした後はどうなるんです?」


「一定時間経つとまた生えてくる。他に質問は?」


「あ~、ロックと付いているから、弱点属性は水系で合ってますか?」


「ふむ、合っておる。質問はもうないか?ならば、移動に集中しちょれ」



 たったそれだけのやり取りで、ゴーヴァストさんは「移動に集中する」と宣言した様に、歩く足を早めた。

 日給なので、日が暮れるまでには街に戻るつもりなのだろう。

 行き帰りの時間を差し引いても、狩りに多くの時間を取れるわけではないからだ。

 俺は、ゴーヴァストさんが知っているロックヘッジッホクの群生地に着くまでの間、情報を整理する。



 なるほどな。

 ヘッジッホクはハリネズミって意味なのか。

 それがこの世界特有の言い回しなのか、それとも元の世界でもどこかの言語でハリネズミって意味になるのかは、今の俺には分からないが、取りあえず謎が一つ解けて良かった。

 それにしても、検索エンジンとか有れば便利なのになぁ。

 俺のゲーム機能ならいけると思うんだけど…………無理か。


 まぁいいや、それよりも戦法はどうするか?

 スピードはそんなに無いって言ってたよな。

 ゴーヴァストさんでも単体で討伐可能なら、動きの機敏でないハンマーでも当たる位の速度と考えて。

 攻撃方法で気を付けるのは飛ばしてくる針で、話だけでは連射速度まではわからない。

 一定時間経過で生えてくるなら、背中に生えている針を一斉発車の範囲攻撃が一番考えられるな。

 魔法障壁で攻撃を防ぎつつ、水系の魔法をちまちまと打つのが一番楽そうな攻略方法かな?

 って、今までと変わりない戦法でだぞ。

 強いて言えば、柳瀬さんのバクアップがない事位だけど、問題は無い。



「何を考えておるのか分からんが着いたぞ。ボーっとするな!」


「っ!す、すみません」



 そうこう考えている内に目的地に着いたらしい。

 ゴーヴァストさんが俺を思考の海から引っ張り上げくれた。


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