45話「一人でクエストに」
「……………………しまった、計算と記憶を間違えてた…」
俺がこの南都アルケーミについてから約一ヶ月程経った頃。
俺は一人、部屋でただひたすら自分の失敗を悔やんでいた。
少し遠出の泊りがけ依頼を達成してアルケーミに帰って来たのが数時間前。
ギルドに行き達成報告を行った後、宿で食事を採りお風呂に入って身体の汚れを落としたのがついさっき。
自室に戻り、今晩から明日にかけて読む本を選んでいたその時に悲劇は起こった。
それは……………………
「前の休日に、外に出るのが面倒だから買いに行かなかったのが原因か………」
何を?勿論、本をだ。
それとも、前に買った本の内容が薄くて、早めに読み終えたのが原因か?
いや、どっちでもいい。
今はどうやってこの窮地を乗り越えるか?だ。
いいか、冷静になれ、無い頭を考えて策を捻りだせ。
俺が窮地と言っても過言でもない状況それは、初見の本がなくなったことだ。
俺にとってその状況は休日の楽しみがなくなる事と、否休日が無くなることと等しいのだ。
別に持っていた蔵書全てが無くなった訳ではない。
読もうと思えば、休日に読書などは幾らでも出来る。
それでも今は初見の本が読みたいのだ。
何故ならば、
「『気ままに生きるメイドは世界最強』の続きが気になって仕方ねぇ!!」
『気ままに生きるメイドは世界最強』とはタイトル通り、気のゆくままに生きてきたメイドが世界最強になてましたと言うあらすじから始まるほのぼの日常系小説。
ラノベみたいだなぁって、思って一冊だけ買ったのが仇となった。
既刊は十巻を超えていて、元の世界で言う、科学と魔法が舞台の学園系小説や、ゲームの世界に入るMMORPG系小説などの超大作小説にあたる。
タイトルが面白そうだと思ってお試しで買い、読み終えたのが十分程前。
見事にハマった俺は、明日の朝一番に書店で全巻買おうと決めて本に使えるお金を確認したのが七分程前。
しかし、本に使えるお金が全く残っていない事を確認してしまった俺は、仕方なしに持っている初見の本を確認したのが五分程前。
初見の本が無くなった事に気づいたのが三分程前。
そして、どうにかして打開策を捻り出そうと考えている今に当たる。
初見の本は全部読み終えている。
しかし、二回目以降の本は勿論アイテムボックスに入っている。
最悪の本が読めない状況は回避できているな。
でも、俺の心情はただ一つ。あれの続きが読みたい。
ならば買いに行くか?駄目だった、資金がない。
あきらめるべきでない、次に考えるべきことは本専用資金の調達だ。
俺がパッと考えられる限り三つある。
一つ目は日用品費からひねり出す。ある程度余裕を持って予算を立てているから、数冊分なら出せる。
欠点は『気ままメイド』を全巻買う値段を出せれない事だ。
間違えた、出せない事はないがそうすれば今後数日間の食事が乏しくなく、無くなると言った点だろう。
数冊だけにすればと思う人もいるかもしれないが、この読書厨な俺が目の前本があり、それが無理をすれば買える値段だったら絶対に我慢できないと断言できるからな。
元の世界でも同じ過ちを何回も繰り返してきたんだよ!ちくしょう!
それに、誘惑に負けて買った後、金欠の為食事をしないでいると、柳瀬さんにしつこく問われ長時間説教をされること間違いなし。
俺はそんな未来が容易く見えるから、打開策1は却下!
しかし、俺の日常生活にどうして漬け込んでくるのか全く理解できん。
柳瀬さんはダメ男を甲斐甲斐しくお世話するのが好きな人種なのか?
………まぁいいや、次の案!
二つ目の安は一つ目と似ている。冒険職で使う為に貯めている必要経費予算からかっぱらう。
………………うん。勿論却下。
俺がそんな物に手を出すと思うか?高校に入るまで学校帰りに寄り道をした事が無かった程どうでもいいような校則を守っていたこの俺が!!
いや、寄る理由がなかったとかもあるけど…………………。
とにかくの案は考えて見ただけの案。必要経費予算は今後の依頼達成に大きく関わってくる物だ。
今後の為にも、最悪の事態以外は予算外の物には使わない。
最後の打開策は臨時収入を稼ぐ事だ。
まぁ、何となくこの案に決定すると思ってましたよ。
全額本につぎ込める臨時収入を得ることができるように、俺一人休み返上で働くのだ。
簡単な依頼でも、一人で受けることによってある程度の金額が稼げるはず。
その辺は掲示板を見てからじゃないと決めかねれないが、無かったらその辺の魔物を見つけて刈ればいい。
寧ろそっちのほうが稼げそうだぞ。
探索はマップ機能を使うから、普通の冒険者よりも効率がよさそうだしな。
マップ機能様様だ。これがなかったら色々と諦めていたかもしれない。
ってなわけで一人で依頼を受けることにした俺は、明日の朝早くからギルドに行ける様にとアイテムボックスの中のチェックと準備をしてベットに転がった。
依頼から帰って来たばかりではないが、今日一日動いていたこともあって、ベットに転がった俺は何も考えることもなく眠りにつけれた。
そして次の日、予定通りに朝早く起きた俺は無料(多分宿代に含まれている)で食べれる朝食を柳瀬さんの隣で少しだけ食べると、部屋に戻った後、こっそりと宿を出る。
柳瀬さんが今日一日どう動くかは知らない俺だったが、少なくとも冒険者ギルドに行く様な用事がない事は確か。
宿を出てから数分間マップ機能から目を離せない時間が続いたのち、街の南部、つまり冒険者エリアと呼ばれる区につく頃には俺はマップから目を離し、安心して道を歩いていた。
ふぅ、この辺りまで来れば安全圏内と言ってもいいだろうな。
これだけの冒険者に囲まれているならば、マップ機能を持っていない柳瀬さんが俺を見つけられる事は間違いなく不可能に違いない。
さてと、後はギルドに顔を出して掲示板を確認するだけで良いか。
簡単で儲かる仕事があればいいんだけどな。
ギルドにたどり着いた俺は迷うことなく掲示板の確認に向かう。
基本的な作りはクレーミヤと同じで入口から真っ直ぐ進むと受付カウンターがある。
緊急事態が発生した時に迷うことなく受付カウンターに行き、受付嬢に詳細を知らせられるようにとの配置だ。
入口から左手にはギルド直営の酒場があり、常に冒険者達で溢れかえっている。
俺の苦手な濃い料理とお酒の匂いは常にこの方向から漂ってくる。
反対方向の右手には人はあまり居ない。
居ないと言っても酒場のエリアに比べての話であり、チラホラと冒険者は見受けられた。
こちら側にはギルド直営のお店と解体場、依頼主との交渉などに使う個室が固まっている。
都会である為か、大型のモンスターや魔物が持ち込まれる事がある南都のギルドでは解体が難しい獲物を解体する為の場所が設置してあった。
やはりゲームとは違い、倒したらドロップした素材がそのまま手に入る訳ではない。
獲物を解体して初めて素材が手に入るのだ。
自分たちで解体するにしろ、ギルド専属の者がするにしろ、解体とはそのままの意味通り死体を切る行為。
つまり、かなり匂う。
そんなことを所かまわず行うと、都民から苦情が来てしまう。
そこで誕生したのがこの解体エリアというわけでならしい。
以上のことが、とある受付嬢が聞いてもいないのに話てくれた情報だ。
俺は受付カウンターに並んでいる冒険者達の後ろを進んだのち、受付カウンターの隣り設置してある掲示板のもとにたどり着いた。
ここも都会らしくクレーミヤとは段違いの依頼量がある為、掲示板が難易度別に分かれている。
俺が何時も確認しているのは、四つある掲示板の内中級者向けと、誰でも受けれる緑色の依頼と緊急である赤色の依頼が主に貼ってある二つだ。
今日もいつも通りの様に依頼を確認する。
『村の付近に出没するゴブリンを討伐をしてください』
『ダンジョンで行方不明になった者の探索』
『魔石を求めてます』
extra……
前に見た時と同じ様な内容ばかりで、正直言って飽き飽きしてくるが、マメに見ているとおいしい依頼が貼ってあったりと侮れないのだ。
あれだ、対して頻繫に変わる訳でもないのに定期的に更新チェックをしているのと同じ感覚。
まぁ、冒険者にとってはこの中から仕事を見つけなければならないので、毎日見ている者が大半だと思う。
思う、ではなくてそれが正解なのだが………俺の知ったことではない。
柳瀬さんはたいして頻繫に変わらない掲示板に飽きて、俺に依頼の選択を任せている。
都会であるこの街は田舎と違い、ギルドに入ってくる依頼も多いはずなのだが、なぜ頻繁に変わらないと表現できるのか?
それは入ってくる依頼も多いが、それを受注する冒険者の数も多いからである。
基本的に依頼は、依頼主が受付で手続きをして受付嬢が依頼書を作成し、それが当てはまる掲示板に貼られて冒険者が知ることができる。
貼られた依頼は、余程の事情が場合か指名依頼で対象者が見つからない場合を除き、早い者勝ちで受注されるのだ。
以上、とあるお喋り好きの受付嬢から小話で聞いた話より。
早い者勝ち、まぁ当たり前である。
ゲームの様に決まった依頼がずっと選べれる訳ではないのだ。
困った事や問題が起きて依頼が発生する。
それがあり冒険者の生活が回っていると俺は思う。
で、俺が毎回毎回変わり映えの無い掲示板と言っているには、早い者勝ちという制度のせいなのだ!
いや、せいって言うのには誤解があるな。
別に早い者勝ちにしているギルドには何の非もない。
でないと、町全体で冒険者でどこのパーティーがどの依頼を受けるか、オークションをするわけにもいかないからね。
非があるとすれば、俺達……柳瀬さんに問題がある、と思う。
めぼしい依頼は早い者勝ち、それは分かっているはずなのに柳瀬さんは朝の用意を急がない。
朝食くらい抜くか、依頼を受けた後でも問題がないはずなのに、毎朝決まった時間に食べることを頑じて譲らないのだ。
ならば俺が朝早く起きて一人で受注してくるのも考えたんだが、毎晩遅くまで読書に努める俺に早起きなど出来るはずもなく、かと言って柳瀬さんに依頼の早い者勝ちについて強く諭せばいいのだけど、俺にそんなコミュ力があるはずもなく、柳瀬さんに合わせてばかり。
あ、柳瀬さんだけでなく、俺にも非がありましたわ。
九時ごろにはギルドに辿り着けるが、そのころには翌日の冒険者が依頼で殆ど出払っている時間帯や夜中に作成された依頼は殆ど残っていない。
残っている依頼と言えば、内容と報酬が釣り合っていない依頼などのハズレ依頼ばかり。
そう言った依頼は日々残るのは当然のこと。
だから、変わり映えのない掲示板、というわけだ。
一応、隅から隅まで依頼を確認していた俺は、物色中にやって来た受付嬢さんが張ったばかりの依頼に興味を持った。
別に、朝いちばんに掲示板を見なかったからと言って新しい依頼が受けれないわけではない。
依頼は常時承っている。
朝の方が多いのであって、今のように微妙な時間帯に依頼が増える可能性がないわけでない。
偶々ギルドに居た俺が真っ先にその依頼を取っても、誰も文句は言えないからだ。
それを込みで、早い者勝ちである。
肝心な依頼内容はと言うと………。
簡単に分類すると、素材回収。
ターゲットはロックヘッジホッグと言う魔物。
報酬金額は最低銀貨五枚
そして、珍しく備考欄に依頼者本人の同行があるとのこと。
依頼の前で俺はどうするか考える。
掲示板の前なので邪魔にならないように、今日動ける時間も迫っているので、迅速に。
やっぱり気になるのは、備考に書いてあることだ。
依頼内容には護衛とは書いてないから、護衛の必要はないのだろうが、その真意が問題か。
まぁ、この辺は悩んでも仕方がないかな?
後の問題点は…ターゲットのロックヘッジホッグだよなぁ。
聞いたことのない魔物だけど、ロックと付いている所から察するに、岩や石が関係している予測できるのは当たり前のこと。
問題はヘッジホッグの部分。
これまでの経験上、元の世界にある英語又は別の言語を知っていれば、何の生物か想像つく。
んだけどなぁ。
なんだよヘッジホッグって!?
聞いたこともないわ!!
英語など中学校一年生レベルですら解けないこの俺が分かるわけがなかろう!(開き直り)
例外であるこの世界固有の名称生物であることを祈る。
何にとは言わないがな。
結局、迅速にと思いながらも結構ごちゃごちゃ考えてしまった俺だが「まぁ他にいい依頼もなさそうだし」と依頼を取った。
決して報酬金額の最低銀貨五枚と言う、破格の金額を取ったのではない。断じて違う。
一度魔物を討伐したことがあったからか、本来魔物と言う生命体は普通とは異なる生命体であること俺は思念していた。
約二か月後の俺がここにいるなら、この時の軽い気持ちで受けた俺を殴って止めたい。
せめて柳瀬さんには伝えておけよ、普通に常備依頼をした方が終わり際も自分で決めれたでだろうに、とこの二つであった。
書き溜め文が今回で終了となりますが、出来る限り週一投稿を目指して頑張ります。最低でも二週間に一回は投稿いたします。
それでは、見て下さっている読者様に感謝を。




