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44話「ゴーヴァストご老人」



「いいえ!こっちの方がいいと思うます!!」


「いやいや、こっちの方が能力的にも性能的にも効率が良いのじゃ!!」


「私!!」


「儂じゃ!!」


「ツカサ君はどっちを選ぶの!!?」

「おんしはどっちを選ぶんじゃ!!?」


「えーっと……………………………」



 俺の目の前では背の低い老人と柳瀬さんが、どちらの装備品が俺に合っているか、と言い争いをしている。

 右側に背の低いドワーフと見れる老人。

 右側にはいつものことながら、どうしてそんなにも意気込んでいるのか分からない柳瀬さん。



 どうしてこうなった……。



 そう思いながら俺は、コンビニエンスストアみたいな感じの道具屋を出てからの事を思い浮かべた。






 * * * * * 






「ホントにごめんね」


「あー、うん。もういいから」



 道具屋で三十分間の二択選択、柳瀬さんはこのことを謝っているのだろう。

 店を出てからずっとこんな感じだ。

 もう済んだことだからいいって言っているのに、数分毎にこうやって謝ってくる。



 はぁ、そこまでねちっこい性格じゃないのにな。

 一度謝ってくれれば気にしない。

 それか一日経ったら忘れている可能性がある。

 余程の事でない限り。



 数分毎に謝ってくる柳瀬さんに返事をしながら進むこと三十分程、今回の買い物の最終目的地に辿り着いた。

 大道りから外れた小路、木造建築の建物が並ぶ中にポツンと存在する石造りの古びた建物。

 手入れがされていないのか、壁に苔が生えている所を見ると廃墟の様に感じられるが、屋根から伸びる煙突から黒い煙が出ている為、ここが廃墟ではなくて人が住んでいるのが分かる。

 俺のマップにもちゃんと店マークが出ているので、廃墟ということは有り得ない。



 留守中、休みって可能性もあったけど、煙突から煙が出ているってことは営業中か。

 良かった、無駄足にならなくて。



「ツカサ君、此処って…」


「鍛冶屋。既存の装備品を買うよりも、ここで作って貰った方が性能が良いのはテンプレだからな」



 そう、THE鍛冶屋。

 モンスターをハントするゲームでもお馴染みのお店。

 どんなモンスターの素材でも持って来さえすれば何でも作ってしまう、上級冒険者さんが利用しているお店だ。

 まぁ、この店も一見さんお断りのお店だけどな。



 俺は鍛冶屋のドアを開けた。

 手入れがされていないのか、キィーと今でも壊れそうな音と、来客を知らせる為に付いているベルのチリンチリンと心地よい音を立てながら俺と柳瀬さんは中に入る。

 店内は薄暗く、窓から入る僅かな光だけが光源にないて、元の世界での俺の部屋よりも暗い。



「暗いね。店主さんは何処にいるんだろう?」


「そうか?多分、奥にある工房に居るんだと思うけど……」


「…あ、見て見てツカサ君!壁に武器が飾ってあるよ!」


「ホントだ。………ッ!どれも良い武器みたいだ」



 薄暗く少しだけ不気味な店内で、柳瀬さんが壁中に飾ってある武具を見つけた。

 俺も釣られて飾られてある武具を鑑賞して見る。

 すると、注目した事で表示されるアイテムの説明を見て俺は驚く。

 普通の武具屋で売っている物よりも、性能が高い物ばかりだったからだ。



『鋭い銀の剣』


  銀で造られた剣。中級者向けで吸血鬼特攻が付いている。


  攻撃力+30


  付属効果 攻撃力+10



『タングステンの斧』


  タングステン鉱石で造られた斧。木こり用としても使えるが、モンスターを斬るために造られた斧が可哀想ですよ。


  攻撃力+25



 と、中級冒険者からAランク冒険者が装備している高価な武器が良作状態で幾つも飾られていた。



 良作状態とは装備品の出来のランクのことで、上から順に傑作→良作→普通→不良品→壊れかけ→となっている。

 俺にしか見えない『ゲームのような視界』の機能の一つ、アイテム説明が見えないはずなのに、どうして出来が分かるのか?と言いうと、どうやら『鑑定スキル』と言うもののお陰ならしい。

 主に商人なんかが持ってるスキルで、読んで字のごとくアイテムの鑑定が出来るスキルだ。

 主に名前だけが分かるスキルで稀に説明文が分かる人が存在する。

 俺のアイテム説明の下位互換に当たるものだと思う。


 出来ランクの説明に戻るが、その『鑑定スキル』を使うとアイテムの名前が分かる訳。

 普通の名前だと何もないが、良作だと名前の前に枕詞が付く。

 例えば『鋭い』『大きな』『精密な』『硬い』『幸運の』等。

 逆に不良品だと『ぎこちない』『不格好な』『汚い』と、見るからに性能が落ちてそうな枕詞だ。

 一部例外もあるらしいが、殆どの出来ランクは以上にあたる。

 『武器の全て』参照、並びに抜粋。



 壁に飾られている武器全てが良作。

 これだけの物を作るのに一体どれくらいの練度と時間がかかるのだろうか?

 ひょっとすると、俺が頼もうとしている者は物凄い鍛冶師だったのかもしれない。


 俺がそんな思いを飲み込んでいると、柳瀬さんが店内をキョロキョロと見渡したのち、俺に問うてくる。



「そう言えばツカサ君は、店主さんがあの扉の奥って言ったよね」


「あぁ、マップにはあの奥に人の反応がある。音も聞こえてくるから間違いない」



 薄暗い部屋の中、耳を澄ましたら聞こえてくる音はカァーン、カァーンと金属を叩く音だった。

 音の鳴る方向を向くと、鉄の扉がある。

 あの先に店主が居るのであろうが、勝手に入ってもいいのか悩む。

 しかし、悩む前にあちらから扉が開いた。



「心配には及ばぬ。来客用のベルがきちんと聞こえておったからの」


「きゃっ!い、いつの間に!?」



 不意打ちではないのだけど、俺の方向を向いていた柳瀬さんは鉄製のドアから背を向けている体制だったせいで、後ろからの声に可愛らしい悲鳴を上げて………って俺の方に倒れてくるなよ!



「っと、とと…わっ!」


「っく、柳瀬さん大丈夫?」



 俺は心の中で悪態を吐きながらも、柳瀬さんを支える。

 少し前にこんな事あったよなぁと思いながら、俺は鼻孔をくすぐるいい匂いを振り払う。

 俺に支えられた柳瀬さんは一瞬ボーっとした後、すぐさま俺から離れた。

 助けたのにバッと距離を取られたのに少し傷つき、という自分でも理解出来ない思考を抱きながら俺は、俺と柳瀬さんをニヤニヤとした顔つきで眺めてくる老人に向き合った。


 背は俺と柳瀬さんと同じくらい。

 しかし、横幅が三倍以上あるずんぐりとした体型。

 それだけでも特徴的なのに、深々と顔に刻まれた顔とその顎から伸びる髭はまるで頑固者を体現したかのようであった。

 しかしその表情は豊か。

 まるで厳格な祖父が孫娘に見せる表情。

 俺はそのウザったらしい顔を無視して挨拶を交わす。



「お久しぶりです。ゴーヴァストさん」


「そうじゃのツカサ。元気にやっておったか?」



 いきなり俺と店の店主が名前を呼び合って挨拶を交わし始めたのを見て、柳瀬さんは不思議そうに顔を傾げた。

 そんな柳瀬さんに、そういえば話して無かったな。と気付き、俺はゴーヴァストご老人を紹介する。



「えーっと、こちらがこの鍛冶屋の職人店主であるゴーヴァストさん。で、彼女が柳瀬穂香さん。一応俺とコンビを組んでいる人」


「そうか。ワシはゴーヴァスト。武具に困ったら遠慮なく相談すればいい。素材次第で最高の物を作ってやる」


「あ、ご丁寧にありがとうございます。柳瀬穂香と申します。……………………えーっと」



 頑固な表情に戻ったゴーヴァストさんにたじろいでしまったのか、柳瀬さんは言葉が続かない。

 普通なら助け舟でも出してあげるべきなのだが、生憎俺にはそのような高度な会話術は持ち備えていない。

 故に無視して自分の用事を済ませようとして、



「ねぇツカサ君。ゴーヴァストさんって」


「ん?ドワーフを見たのは初めてか?」


「ひゃ、ひゃい!」



 小声で話しかけてきた柳瀬さんにゴーヴァストさんが答える。

 柳瀬さんは、まさか聞こえていたとは思わなかったようで、飛び跳ねて悲鳴を上げた。

 小声ってことは俺の耳の近くに口元を持ってきている格好なので、耳元で悲鳴を上げられた俺は耳が痛い。


 ゲームならばボリューム設定を弄ればいいのだが、現実異であるこの世界にはそんな都合のいい物は存在しない。

 出来たら、殆どの音をミュートにしている。

 あ、でも、ゲームやアニメのキャラボイスは癒しだから聞くけど、現実的な『人の声』は嫌いだ。



 閑話休題、話が変わるが、ゴーヴァストさんについて補足を一つ。

 彼?ゴーヴァストご老人?(どっちでもいいが)はドワーフと言う種族だ。

 人間ではない。

 ファンタジー系の小説やゲームをしたことのある人なら分かると思うが、異世界には人間以外の種族が住んでいる。

 この異世界では、森妖精エルフ小人ドワーフ、獣人、海人とそれに俺達人族を加えた5種族が主に暮らしている。

 一応伝説的な存在として、天人と竜人も数えられるが、見た事がある者は居ないと本には書いてあった。


 人族以外の4種族はあまりこの世界にいない。

 なぜなら、元々はこの世界に居ない存在で、時折この世界に迷い込んだ異界の種族が定着した、と歴史書をひもどけばそんなことが書いてあった。

 じゃあ魔族と同じじゃないか?と思うけど、それは違うらしい。

 人族とは良好な関係とは言えないらしいが、襲う襲われると言った戦争関係まではいかないそうだ。

 それにあまり居ないと言っても、人族の総人口に対してで、大きな街を歩けば十人は見つかる程度には人族の世界にに溶け込んでいる。


 その中でドワーフとは、ゴーヴァストご老人の姿を見れば分かるように、比較的低い身長である俺と柳瀬さんよりも低い背、その代わりに横幅が何倍もある。

 この体型を小説などではよくずんぐりとした体と言うのだが、実際に見てみると言葉通りだと実感した。

 そんな体型に地面に届きそうな髭だ。

 何かで見た知識では子供の頃から伸び始めて、長くて立派な者ほどドワーフ社会では地位があるとか。

 主に地下や鉱山で暮らしている事が多くて夜目が効いて、手先が器用で基本的に頑固者。

 お酒にめっぽう強くて、樽単位で飲むのが普通。

 手先が器用なのを活かして、ゴーヴァストご老人のように人里に出て行って鍛冶師や細工師として稼いでいる者もいる。



 と言ったことを何時もの様に、サブカルチャーに乏しい柳瀬さんに説明した。

 俺がゴーヴァストご老人が工場から出て来た時に少しだけ興奮したのも、ドワーフという如何にも異世界と言った種族が目の前にいるのが二回目だからだ。

 例に例えると、新刊の漫画を少し時間を置いて二回目を読んでいるような感覚。

 分かりにくい?仕方がないだろ、これが俺にとって分かりやすい例えなんだから。



「ドワーフ、初めて見ましたけど、普通の人間と余り変わりませんね」


「そうか、儂をドワーフだからと言って見下さないのじゃな。ツカサが連れて来るから態度は問題ないのう」



 なんか、柳瀬さんとゴーヴァストご老人はもう打ち解けているし。

 どうやったら初対面の人と気軽に話せるんだよ。

 恐るべしスクールカースト上位者。

 後、ゴーヴァストご老人、俺はそんなこと一度も考えなかったよ?





「それで、儂に何の用じゃ?武器でも見繕って貰いたいのか?」


「そうです。纏まったお金が―――」


「ちょっと待ってツカサ君。この方がゴーヴァストさんという名前で、ドワーフと言う種族だってことは分かったんだけど………」



 閑話休題と、俺は柳瀬さんにゴーヴァストご老人を紹介し終わり、早速本題に入ろうとお金が貯まったと言いたかった俺に、柳瀬さんからストップがかかった。



 何故ストップをかける。

 気まずくならないように紹介もしたし、ドワーフと言う種族も教えた。

 分かったけど………なんだ?



 柳瀬さんがストップをかける理由が分からず、少しだけ不機嫌な目で柳瀬さんを見る。

 分からない所があって聞いてくるのは良いが、俺の行動を遮らないで欲しい所だ。


 柳瀬さんは俺の顔色を伺ったのか、少しだけ言いにくそうに言葉を詰まらせたのち、俺に聞いてきた。



「ツカサ君はその………何時ゴーヴァストさんと知り合ったの?二人の会話を聞く限り、ただの買い物客と店員ってレベルじゃないよね?」


「ん?その反応を見るには、あの時の事を話しておらんのか!?」



 ゴーヴァストご老人、それは言わないで欲しかった。

 ほら、柳瀬さんが「何隠している!!?」て目で見てくるから!


 この世界に転生しなければ有り得ない話だったが、俺と柳瀬さんは情報を共有している。

 それは、俺の知っている異世界の一般的な知識を何も知らない柳瀬さんに教えること。

 少なくとも俺は「情報の共有」の事をそう捕らえていた。

 しかし、元の世界ではボッチだった俺に柳瀬さんはよく話しかけてくる。

 どうでもいい内容からこの世界についての質問まで。



 これはいわゆるあれなのか?

 クラスのリア充共がお互いの好きなものや嫌いなもの、昔何をしたかこれからどうすか、挙句の果てに常に相手の行動を知っていないと気が済まないと言う、あれなのか?


 客観的に見れば柳瀬さんもそういった者の範囲に入る人だ。

 一時的にだが、一緒に行動をする人の情報を知りたいのは当然だと思う。

 そんな柳瀬さんに俺はよく休日に何をやったか?を聞かれる。



 ここまで説明すれば何が言いたいのかわかるだろう。

 そう俺は、一回だけ休日にソロで街の外に出ていた事を柳瀬さんに伝えていない。

 何故伝えなかったか?聞かれなかったからだ。



「ツ・カ・サ・君?どういうことか説明してくれる?」


「あ、はい」



 ゴーヴァストご老人から視線を俺に向けた柳瀬さんは、俺に満面の笑みを向けてくる。

 顔全体で心の底から満ち足りている笑みのはずのその表情は、俺に有無を言わせない謎の威圧感があった。

 休日にあった出来事を聞かれなかったから言わなかっただけなのに、ここまでされる俺。

 何故俺の行動をそこまで知りたいのか分からないが、これだけは言わせて貰いたい。



 理不尽だぁ!!



 そんな不満を心の中に留めながら、俺はゴーヴァストご老人と知り合う結果になったあの日の出来事を思い出しながら語った。



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