43話「異世界コンビニエンスストアでの二択」
カランカランとよくある音を立てて俺と柳瀬さんはドアを潜った。
多少時間を喰ったものの、お昼前に着いた今日の目的地の一つである道具屋は、隠れた名店雰囲気を見せてくれていた。
外の喧騒よりは静かな雰囲気のその店は、何となく俺の心を落ち着かせてくれる。
人混みから静かな場所に移動した時の感覚は何とも言えない気分になるよな。
通り一つ出ると賑やかなのに、ここだけ不自然に人通りが少ない場所。
そんな場所、好きだぜ。
そんな事を考えながら、店に並んでいる陳列棚から目的の消耗品を選ぶ。
この街に拠点を移動してから数回利用している店だから、何処に何があるのかは大体分かる。
「えーと、回復薬を幾つかと念のために魔法薬も、後は状態異常の回復薬なんかも必要か?後は……」
「ねえねえツカサ君、ここコンビニみたいだね!」
俺がアイテムボックスに入っているアイテムと所持金を相談しながら、買わないといけない消耗品を選んでいると、柳瀬さんが店の雰囲気を例えてくる。
柳瀬さんが例えたように、この店は元の世界でよく目にするコンビニエンスストアに似ていた。
確かにコンビニい似ているが、俺が働いていたコンビニはこんなにも静かじゃなかったけど。
防犯システムが殆ど無いようなこの世界では、店の殆どがカウンターにいる店番に商品を頼んでお金を払って受け取る方式だ。
そんな中、この店では元の世界のコンビニの様に商品を選んでカウンターに持って行って精算するスタイルを取っている。
防犯システムがしっかりとしていないこの時代にコンビニスタイル。
しかも、種類ごとに並んでいてどの商品が何処にあるのかが非常に分かりやすい。
俺が数ある道具屋の中でこの道具屋で買い物をしている理由の一つだ。
まぁ、一回行ったお店が偶々ここだったのと、一回行くと他の店に行くのが面倒になってしまい、多少面倒でもこの店に通い続けるのが俺の性格だからかな?
元の世界でも、基本的には同じ書店や通販を使い続けていたし。
道や物なんかでも一緒だ。
そんな感じで偶々見つけた店での買い物も終盤に差し掛かる。
基本的な消耗品を粗方見終わると、次は棚を順番に見ていく行動に入った。
本屋での買い物でもそうだが、俺は目的物を選び終わると棚を全部見ていく。
勿論全ての棚ではなく、興味のある棚なのだが、この道具屋だと全部を見ても飽きないし、後悔しないレベル。
本屋だとラノベコーナーを全て見る程度。
気になるアイテムがないかなあと棚の商品を見ていると、柳瀬さんが俺を呼んだ。
「ねぇツカサ君、ちょと来てもらってもいいかな?」
「………分かった。って、腕輪?」
「うん。これが気になちゃって………どんな効果があるか見てくれる?」
呼ばれた俺は手に取っていたアイテムを元の場所に戻すと、少し奥にいた柳瀬さんの所に向かった。
向かった先は装備品が集められているコーナー。
柳瀬さんの元に着くと銀色に光る腕輪みたいな物を手に取っていた。
如何やらアイテム効果を見ることができる俺に効果を調べて欲しいそうだ。
簡単な事なので、俺は了解を述べると柳瀬さんが持っているアイテムに意識を集中させる。
ブレスレットって言うには大きすぎるし、腕輪と呼ぶにもそこまでごつくない。
どちらにせよ、正式名称を見たら分かるだろう。
色は銀色に近く、一瞬、鉄か?と考えたけど、この世界はゲーム風の異世界だ。
元の世界だと有り得ない鉱石や資材が使われているアイテムも多いはず。
もしかしたら本物の銀を使っているかもしれないな。
細工も施されているが、特に目立つような代物とは感じられなかった。
ゲーム風に言うと『初期からちょっと進んだ時に使える装備品』とでも言えるような細工だ。
さて、このアイテムの効果は……………………。
『力の腕輪』
・腕に付けるタイプの装備品。装備すると筋力が微小だが上がる効果がある。剣士や盾騎士などの前衛職にオススメ
・これを装備すれば脳筋への第一歩だ
・筋力+30
「…………………………………………」
「…?ど、どうだったかな?」
「………ウンいいと思うよ?」
「そうじゃなくて!名前と効果は!?」
「えーと、『力の腕輪』が名称で効果は名前通り、装備すると攻撃力が上昇するみたい」
俺は選択の全てを柳瀬さんに任した。
一部伝えていない説明や、筋力値の+を攻撃力上昇と簡単に言い替えたが、そんなことは些細なことに決まっている。
俺個人としては柳瀬さんの戦い方にぴったりな装備品だと思う。
だって、素早いスピードを活かした攻撃と回避でモンスターをバッタバッタとなぎ倒して行くんだぜ。
回避やスピードは自前の足が何とかしてくれているから、攻撃力が上昇すれば防御力や耐久力が高いモンスターでも攻撃回数を増やさないで倒せるようになるかも知れない。
名称と交換を伝えた俺は、買おうか買うまいか悩んでいる柳瀬さんをその場に残して買い物の続きに戻った。
因みに俺のアクセサリー類の装備品だが、今の所何も着けていない。
指輪やネックレスと言ったオシャレ系のアイテムを、元の世界では一切扱ったことがないから抵抗があるのと、付けると鬱陶しいからだ。
まぁ、一番の理由は今の所装備をしなくても能力的に問題がないから。
お金を出してまで使えそうなアイテムが見つからないからだ。
一通り店内を見終えると、俺はカウンターに買う品物を持って行く。
一応アクセサリー類の棚も物色したが、良さそうなアイテムは見つからなかった。
いざ会計を済ませて買ってみると、消耗品の在庫が殆ど無くなっていて予想以上に量がかさばっている。
が、俺には問題ない。
収納スキルに見せかけたアイテムボックスに買った品を全て入れ会計が終わると、視界のマップ機能に目線を向けた。
柳瀬さんは………あ、居た。
さっきの場所から動いてないのかよ!
女性は買い物が長いって聞くけど、本当だったのか。
元の世界では女性と買い物なんて行ったことがないからな。
唯一接点であった母さんと妹とも、もう何年も行ってないしな………。
………………感情に浸るのは後にしよう。
今は柳瀬さんを買い物から終わらせる事がミッションだ。
これが可愛い妹なら何時間でも待ってあげるんだが………目の前にいるのは二つのアクセサリーを手にとって真剣な表情でどちらを買うべきか悩んでいる柳瀬さん。
赤の他人、とまでは行かないが、知り合い程度の関係。
故に俺が取った行動は………………
「柳瀬さん、そろそろ――――」
「あ、ツカサ君はどっちが良いと思う?」
「は?!え、えーっと………………こっち?」
「そうかぁ~。うん、こっちの方がいいよね!じゃあ今度はこれとこれ!!」
「はぁ?!ちょっ、そろそろ時間の方がですねー」
「あ!?後あれとそれは?」
「あぁ、もうどうにでもなれ」
やんわりと買い物を終わらせようと声をかけた俺だったが、不意に二択を迫られた。
俺は急な選択に驚きながらも、視界に映るアイテムの説明を急いで読み、瞬間的にいいと思った方を選んだ。
女性は、誰かに二択を迫る時、既に自身の答えを決めている。
そう聞いた事があったが、どうやら俺は正解を選んだらしく、くた柳瀬さんは俺の答えに満足すると更に選択を迫ってきた。
飲まれてはダメだと思い、口を挟もうとする俺に柳瀬さんは追撃を連続で繰り出してくる。
止まらない追撃に俺は柳瀬さんの買い物を強制終了させることを諦めた。
あぁぁ、やっぱり強く言えない。
この性格を治したいのは口だけなのだろうか?
一向に治る気がしない。
もっと仲良くなれば行けそうな気がするけど、それだと他人をどうでもいいと思っている気持ちと矛盾してしまうんだよなぁ。
はぁ~、どれが正解なんだろうか。
もし俺が何かを二択で選ぶとしたら、今のように選ぶことが出来るだろうか?
例えば、夢に見たこの異世界生活と……………………………。
結局、三十分は柳瀬さんに選択の攻撃を繰り出されたと言っておこう。
最後の方は目が死んでいたと思う。
それを見たのか、流石に悪いと思った柳瀬さんは俺に謝ってくれた。
「あ、ごごごめんね!!つい盛り上がちゃって!!」
「あ、あぁ。もういい、もういいから会計に早く行ってくれ」
「………………うん。………………………………………はぁ~ツカサ君に嫌われたよね」
柳瀬さんは珍しく落ち込んだ様子を見せて会計のカウンターへ足を運んだ。
溜息の後の言葉は聞き取れなかったが、特に重要な事ではないだろう。
そう結論づけた俺は店の出口へと向かった。
予想よりも長いしてしまったけど、やっと今日の目的の一つを終える事が出来たのであった。