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42話「ウインドウショッピング」


「ツカサ君お待たせ」



 元の世界に比べて寝心地が良いとは言えないベットで寝れないまま数時間、ようやく寝れた俺の体感時間で一瞬後、朝が来た。

 まだ寝たい衝動に駆られてベットにゴロゴロとしている間に時間は過ぎ、待ち合わせ時間に。

 昨日の事があった後だから来ないかも、と思いながらも念のために約束の食堂で時間つぶし本を読んで待つことに数分。

 柳瀬さんが満遍の笑みで俺の前に現れた。


心なしか、何時もより雰囲気が違う様にも思う。

いや、ぱっと見の感想だから単に俺の思い違いかもしれないが。

俺に雰囲気の違いについて言われても、殆ど同じように感じるから……。


俺も「おはよう」と挨拶を返すと、柳瀬さんは厨房まで赴き朝食の注文を取る。


そこまで大繁盛とは言えないこの宿の食事は、厨房にいる人に直接注文するシステムだ。

とは言ったものの、仕事で何処にいるかわからないウーリーさんは、この宿を一人で切り盛りしている訳では無い。

アルバイトが一人、ウーリーさんの子供らしき者が二人、計四人でこの店は回っている。


厨房には常に一人はいるらしく、柳瀬さんは直ぐにお盆を持って戻って来た。

特に決めた事では無いのだが、何故かそこに座るのが当然となってきている俺の前に座ると、俺に尋ねてくる。



「朝ごはんは食べたの?」


「要らない。徹夜明けならともかく、寝起きで朝ごはんはキツイ」


「むぅ、せめてスープを少しでも飲んだらどう?」



 「はい」と出してくるスープが入った器を差し出して来る柳瀬さんに俺は、やはり「要らない」と突っ返す。

可愛い女子高生にそのような態度、彼女に飢える男子高校生が聞いたら非情だと言われそうな言い方だったけど、俺の気持ちも考えてもらいたい。



 いや、マジで寝起きで朝食を食べると吐き気に襲われるから!

 朝食を食べなくても寝起きってだけで、吐き気に襲われることもあるくらいだから。

 実際に一回、吐いたことあるし……………。

 兎に角、寝起きはキツイんだよ。



 こちらに押しつけてきた器を突っ返すと、柳瀬さんはしばらく俺を「納得してない」と分かる表情で見つめながら朝食を食べる。

 俺は見られていることに気まずく思いながらも、柳瀬さんにそれを咎める事はなく、先ほどまで時間潰しで読んでいた本の続きを読んだ。



「ごちそうさまでした。……………じゃあツカサ君行こっか?」


「はいはい。っと柳瀬さんはポーションとかの消耗品のストックとか覚えてる?俺はそれも買いに行こうと思ってるけど……」



 俺はアイテムボックス機能があるお陰様で消耗品の管理がゲーム感覚でやりやすい。

 だけど、柳瀬さんはアイテムボックス機能を持っていないし、一個一個確認して買い足さなければいけないはずだ。

 確認のために部屋に戻るのだろうか?


 そう思っている俺の裏腹に、柳瀬さんは少しだけ考えた後、直ぐに答えてくれた。

 やはり記憶力が俺とは根元から違うのだろう。



「えっと……………………。一応、前に休日だった日に買い足してるはずだけど。うん、消耗品はいくらあっても困らないよね!私も買い足していくよ」



 お金は大丈夫なのか?

 そう思ったが、柳瀬さんは俺みたいに依頼報酬の半分を本に使うなとといった、バカな金銭管理をしているとは思えない。

 俺は「分かった」とだけ答えると、宿を出て目的地の冒険者ギルド、その更に南部へと足を動かした。






 前にも説明したと思うが、南都アルケーミの街の南部は冒険者の区間だ。

 商売相手を冒険者としている店が沢山構えている。

 武器屋、防具屋、武具屋、道具屋、ポーション屋、鍛冶屋、主にこんな感じだが、出店している店にも種類がある。

 大きく分けて二店舗、ちゃんとした店を持ち、破産や特別な理由がない限り半永久的に商売を続けられる事ができ、仕入ルートや販売先が合法的な物に限る店。

 ゲーム的に言うと、立ち寄る事が出来る街に必ずある道具屋、武具屋って所だろう。

 もう一店舗は、道の端に邪魔にならない様にして敷物を敷いている明らかに露店と呼べる様な店?だ。

 効果が怪しいポーションやアクセサリー、何処で仕入れたか分からないような武具。そんな品揃えがデフォルトな店。

 中には掘り出し物が有るらしいから、見過ごせない場合もある種類の店だ。

 ゲーム的に言うと、いつ現れるかもランダム、販売商品もランダムな当たりと外れが分かりやすい移動商人って所だろう。


 で、俺が今日目的にしている店は~屋と呼べるような普通の店舗の方だ。

 しかし、だからといって露店を露骨に無視しながら歩いているわけではない。

 俺は露店に並べてある商品を、何となくウインドウショッピングしながら目的の店へと歩いていた。



 しかし、便利な機能だよな。

 視線をアイテムに合わせて「あれはなんだ?」って思うだけでゲームのアイテム説明みたいなのが表示されるんだもんな。

 お陰様で、一々店主にアイテムの説明を受けなくて済む。

 これほどウインドウショッピングに向いている機能はないはず。

 まぁ、だからといって俺の予定がサクサク進む訳ではないのだが……………………。



 そうやって俺の気持ちを少しだけイライラさせる要因がまたしても訪れる。



「あ、これ可愛い。…………………ねっ?ツカサ君はどう思う?」


「……ん?……………………物に合ってない値段設定だと思う」



 俺の少し後ろを歩いていた柳瀬さんが、またしても露店の商品に目を奪われて立ち止まった。

 置いていくわけにも行かず、(一回置いて行ったら、ダッシュで追いつかれて数分間小言を言われた)なし崩し的に俺も来た道を少し戻る。


 柳瀬さんが目を奪われている商品、見たことのない花使って作られている髪飾りを見てみると、有り得ない値段設定だったので俺は思った事を簡単に口に出して意見を述べた。



 だってさ、髪飾りに銀貨三枚も設定されているんだぞ。

 気になってアイテム説明を求めた所、俺の視界に表示された説明は、


 『ヒヒュイの花の髪飾り』

  ヒヒュイの花を使って作られた髪飾り。

  異常状態『睡眠』に一定確率でかかりにくくなるらしい。

  睡眠耐性10


 と表示されたものだ。

 うん、微妙な効果。

 ヒヒュイって植物がどんな物か知らないけど、睡眠と言うありきたりな異常状態の耐性効果を持つアクセサリーみたいだ。

 一定確率でかかりにくくなるって言っても耐性10だし、ないよりかはマシ程度だと思う。

 それなら俺が『リジスタント・スリープ』という睡眠耐性を上げる魔法をかけた方が耐性が上がる。



 そう思った俺はやんわりと買わない方がいい、と柳瀬さんに進言した。



「睡眠耐性が上がるアクセサリーらしいから、買って置いて損はないと思うけど、銀貨三枚は高いよ?それなら俺の魔法で耐性を上げた方が無駄金を使わないで済むんじゃない?まぁ、柳瀬さんがどうしても買いたいなら止めないけど。……………………少しでも耐性を上げておくのは悪いことじゃないし……」


「……そういう意味じゃないのに……………………。でも、折角ツカサ君が言ってくれたんだし、ツカサ君の言い分に乗ってみるのもいいかも」



 俺の自己中な進言を聞いた柳瀬さんはブツブツと呟いた後、結局髪飾りを買わなかった。

 俺の意見を聞いたのか、やはり金銭的な問題を考慮したのか分からないが、髪飾りを諦めた柳瀬さんの表情は残念そうではなく、上機嫌だった。



 欲しいと思った物を諦めた割には残念そうではないのか。

 俺には理解できないな。

 欲しかった本が定価よりも高くて買えなかったら、残念でしかない。

 俺ならね。



 ともあれ髪飾りの一件以来、柳瀬さんは露店の商品に目を奪われることなく、素直に俺の後ろに着いて来てくれるようになった。

 お陰でこれ以上無駄な時間を食う事なく目的の道具屋にたどり着くことが出来る。



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