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40話「明日の約束」


 この世界に召喚され早数か月。

 南都アルケーミについてから更に時間が経ち、新しく知った情報を整理しようと思う。


 先ずはこの国の大まかな都市について分かったこと。

 国に五つ有った大都市、北都ヘルミマス、南都アルケーミ、西都リモーギャ、東都キエーナ、王都キングガトン。

 今では北都ヘルミマスが魔王軍の手に落ち、大都市と呼ばれる都市は王都を入れた四つのみである。

 そして、王都以外の三つの都市が大都市として呼ばれるようになった成り立ちは、それぞれが他では無いような産業を発展させて大都市に成り上がって行ったらしい。

 らしいと言うのは、この世界の地理やら歴史やらが書かれている本で読んだことしか知らないからだ。


 それ以外は殆ど何も知らない。

 幾ら制本産業が整っていたとしても、元の世界の流通度には劣るし、一般市民の教育課程も整っていないのが異世界だ。

 つまり、元の世界にあった教科書みたいに、簡単に書かれている様なものなどなく、その手に関する書籍があったとしても、その手の情報に詳しいものが己の情報意見を書いた本でしかない。

 元の世界の様に詳しく調査、編集されたものでもなく、その手の最先端である王立発行であっても、元の世界には到底及ばない。

 が、詳しく知ろうとするのではなく、ただ何となく覚えておけばいいかな?の精神で読書として楽しんでいる俺には、上記の通り位分かれば問題ない。


 さて、俺のどうでもいいような意見は置いておいて、地形理解に疎い俺でも南都アルケーミについて。

 流石に、アルケーミに拠点を移してから二か月程経つと、この街のこともある程度知るようになる。

 人口三万人、面積は四キロ平方メートル、形状は南北に伸びる縦長で、北側にこの街を治める辺境伯の館があり、そこから住宅や商会の建物が並び立ち、街の中央よりやや南側に冒険者ギルトアルケーミ支部がある。

 街は異世界の都っぽく石造りの城壁で囲まれており、街に入るためには東と西に一ヶ所つづしかない門を潜らなければならない。

 門が二箇所(実際は緊急用の門と貴族様専用の門が数か所ある)しかないので、門を通って街の外に依頼をしに行くには結構時間が掛かる。

 それも冒険者カードを提示すれば、簡単に記録出来る『失われた技術道具』(ロストテクノロジーアイテム)があり、一般人や、長ったらしい荷物検査を受けなければならない商人よりも簡単に出入する事が出来た。


 冒険ギルドから南に下れば、冒険者に必要な道具屋、鍛冶屋、武具屋、宿屋、と言った店がぎっしりと集まっている。

 その風景は元の世界で言う、中東の出店が一杯集まった巨大マーケットを思い出させる。

 ……………写真やテレビでしか見たことないけど。

 出店も有ればキチンした店もある。

 普通の店が主だが、たまに出店を覗くと、とんでもない効果を持ったアイテムが売られていることが偶にあるのだ。

 ゲームと違って、そこに行けば必ず買えるとは限らないので、こういった店の物色も偶にしているわけ。

 その為にも、冒険者として使うお金は前に述べた宿代や食事代、本代とは別に管理している。

 ゲームではそこまで考えなくても良かったから、一人暮らしをした事がない俺にはお金のやり繰りが難しいな。

 今の所借金をしていないだけマシか。


 街の中の大まかな位置をまとめると北から、辺境伯の屋敷、住民の家や一般生活品が売ってある店、食事ができる店や居酒屋、冒険者ギルト、冒険者が必要とされる物を売ってる店や泊まるための宿屋となっている。

 因みに、俺が泊っている『ウーリーの隠れ宿』は街の南東部に位置している。


 そして俺が今拠点にしている南都アルケーミの一大産業はと言うと……………。






「ねぇツカサ君?」



 今日もモンスターの討伐依頼が終わり、特に買うべきものもないので、柳瀬さんと一緒に(勝手について来るだけ)宿に向かって帰っていると、横に並んでいた柳瀬さんが赤毛っぽい茶髪を揺らして俺を呼んだ。

 首をひょっこりと俺の方に傾げてくるその姿に、心臓の鼓動が可笑しい位に早く鳴っている。

 どうにかそれを押し込めると、「何?」と返した。



「今日でCランクになったんだし、そろそろダンジョンに行ってもいい頃じゃない?」


「………そうだな。Cランクになったら挑戦してみようとも考えていたし、狭い空間での戦闘に慣れておく必要があるか…」



 そうだ。

 さっき言ったように、今日で俺と柳瀬さんの冒険者ランクがCランクに上がったのだ。

 Dランクに上がったのがクレーミヤに居た頃だから、二か月程かかったと言える。

 いや、二か月で済んだ、と行った方が正しいかな。

 Cランクは中堅冒険者と言えるレベルならしく、本当なら最短で一年ほど、長いと何年もかかって昇格するようなランクらしい。

 俺にはチート的な魔力とイメージで発動する魔法、柳瀬さんには何故か伸びるスピードと剣捌きがあってか、異例の速さで昇格出来たわけだ。




「じゃあ、明日は何時も通り休みの日って事で」


「うん……………………ねぇツカサ君?明日はなにか用事でもある?」



 宿にたどり着いて、柳瀬さんに引っ張られるようにして夕飯を食べていると、明日の予定を聞かれた。

 何時も通りなら、部屋に引き籠って本を読むって答える訳だが。



「ギルドの南部付近に行こうと思っているけど」


「……………南部付近」



 俺がわざわざ休日に部屋から出て行こうとしている場所を伝えると、柳瀬さんは街の全体図を思い浮かべているのか、食事の手を止めて目をつむって唸っている。

 それを見た俺は、マップ機能があって良かったぁ~と何回か目のため息をついた。

 もしマップ機能がなかったら、俺も今頃は柳瀬さんと同じように唸っていただろう。



 方向音痴、とまでは行かないと思うけど、何せ俺は地形を覚えるのが苦手だからな。

 自分の住んでいる地域ですら、子供の頃から通っている道しか使わない。

 少し町中に出ると一人だと先ず行動しないし、高校の進学先を一番近い馬鹿高を選んだ理由も、成績不良もあるけど一番の理由は道が分かるから、だった。

 そんな俺が異世界で暮らしていけたのは、マップ機能の力が一番多いだろう。



 そうやって、一人思考の海に浸っていると、柳瀬さんが答えを見るけたようだ。

 俺は目の前を、自身の手を使ってゆらゆらと楽しそうに揺らしている柳瀬さんに気が付くと、瞬きを一回して柳瀬さんと目を合わす。

 俺と目が合った柳瀬さんは、楽しそうに揺らしていた手を硬直させ、顔を真っ赤になった。



 まぁ、恥ずかしいよな。

 俺も家の中だど、結構厨二病満載な頭可笑しい系キャラを演じたりしてるから、身内は兎も角赤の他人、特に学校の知り合いに家での姿を見られたら、間違いなく羞恥心で死ねる。



 柳瀬さんの今の気持ちがある程度分かるから、俺は見なかった事にして食事の続きに戻った。

 数秒間固まっていた柳瀬さんだが、次第に落ち着きを取り戻したのか、食事を再開する。

 ガツガツと食べているのは、さっきの出来事を記憶から消し去りたいからだろう。

 しかし、いつまで経っても顔は赤いままだったのが、俺の記憶の妙に印象に残っていた。




「あ、そうだ。明日のお出掛け、私もついて行って良い?」



 夕飯も大分進み、そろそろ食べ終わるって頃になって柳瀬さんが思い出したかのように俺に言った。

 キョトンと首を傾げている姿に見惚れそうになるのを我慢して、言葉の意味を考える。

 一瞬何故?と思ったけど、俺が明日足を延ばすつもりの場所は街の南部付近だということを思い出した。

 すると、答えは簡単に導き出せる。



 柳瀬さんは装備の更新か点検がしたいのか?

 だったら、暫定パーティーメンバーの俺と一緒にいた方が色々とアドバイス出来たりするな。

 こういう時に視界に映るアイテム説明が役に立つ。

 何を装備したら柳瀬さんにプラスになるか?と一緒に考えながら店巡りが出来る。

 これが柳瀬さん一人で行うと、後で見た時にマイナス効果になっている物を装備していると、二度手間とお金の無駄だからな。



 そう言うと、俺が柳瀬さんの装備を一人で決めている風に聞こえるかもしれないが、俺が望んだ訳ではない。

 柳瀬さんが装備を見てくれと俺に頼まなければ、俺は柳瀬さんの装備にあれこれと言うつもりはないし、一緒に買い揃えにも行かない。

 逆を言うと、柳瀬さんが俺にあれこれと聞いてくるから、俺が仕方なく意見を出しているだけだ。

 まぁ、元同級生だし、ほっといて目覚めの悪い死に方でもされたら、俺の捨てれない気持ち的に後悔するから、同行を強く否定しないのだ。


 俺は柳瀬さんに「好きにすれば?」と曖昧な返事で返すと、「じゃあ明日の朝食堂でね!寝坊しちゃダメだから」と言って食器を片付けた。

 元々、お昼前に宿を出る予定だった俺は、せめてお昼からが良かったと、思いながら自分の分の食器を片付ける。



 折角の休日を潰すんだ。

 せめて充実したと言える一日になってくれよ。



 一足先に食堂を出る柳瀬さんの背中を見ながら、俺はそう思った。


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