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39話「アルケーミに着いてから……」


 俺の部屋に訪ねて来た柳瀬さんを全力で拒否った俺は、土下座までとは行かないが、平謝りしたことでどうにか柳瀬さんの機嫌を持ち直させた。

 これ以上関わる、依頼以外で一緒に居ると厄介な事を引き起こすことになり兼ねない、と思った俺は、早めに部屋から出て行って貰おうと本題を言うように促す。

 と、その前に気になることが出来た。



「柳瀬さん、髪が濡れてるけど?」


「へっ!?あ、この宿お風呂があるみたいなの。始めて聞いた時、この世界にもお風呂があるんだ~って喜んじゃった」



 へぇ、お風呂があるんだ。

 これは良いことを聞いたな。

 今、はもう遅いから、明日にでも入って見よう。

 久々のお風呂だ。

 石鹼が無くても、あったかいお湯に浸かれるだけで満足、満足。

 やっぱり日本人にお風呂無しの生活はキツイものだ。

 全くないとは思ってなかったけど、こんな所で発見出来て良かった。



 そんな少しだけ嬉しい朗報にテンプレ感想を思いながら、マップ機能を使いお風呂場の位置を確認する。

 一階のフロントを通り越して、食堂の隣に位置するみたいだ。


 気になることが解決出来た俺は柳瀬さんに本題を聞いてみる。



「それで、そこまで必死になって俺と話したかった事は何?」


「えーと、ツカサ君は元々この街に一人でくる予定だったんだよね?」



 恐る恐る聞いてくる柳瀬さん。

 何でもそんな風なのかは理解できないが、質問には答えないといけない。



「勿論、本を買う為に金稼ぎをしながら、ダラダラと過ごす。前の街と変わらない生活を送るつもりだけど?」


「………だったら、前の街みたいに、パーティー組んでくれる?」



 俺がクレーミヤと殆ど同じ生活を送る予定だというと、柳瀬さんは少しだけ考えた後、俺にお願いをして来た。

 咄嗟に、視界に映る俺のHPゲージとMPゲージの下に、柳瀬さんのゲージがあることを確認すると、ゲージは当然のようにある。

 ということは俺のゲームの様な機能からはシステム上、まだパーティーを組んでいるということになっている。

 どっちにしろ、クレーミヤの街を出ることが一人で出来なかった時点で、俺は柳瀬さんパーティー解除をする事を半ば諦めていた。

 あばよくばパーティー解除をしたいとは思っているが、前衛職である柳瀬さんがいるだけで、後衛職である俺は、安心して魔法を撃つことが出来るからだ。

 なんだかんだ言って、俺は柳瀬さんとパーティーを組むことに慣れていた。



「好きにすれば?話がそれだけなら、もう寝たいから」


「…うん、ありがとね」



 柳瀬さんがパーティー解除をする訳がないと知っていて、それを逆手に取った感じで承諾する。

 少しずるい気もするが、俺にはこれが精一杯の答えだった。


 その後、明日は休日にするということを確認し、お休みの挨拶をいうと、柳瀬さんは部屋から出ていった。



「……………ふぅ。疲れた、もう寝よ」



 柳瀬さんが出ていった事で、これまでの疲れが一気に押し寄せて来た。

 もう本を読む気にはなれず、ベットに転がると俺の意識は直ぐに深い眠りへと誘われていく。






 次の日は予定通り、本を扱う店を巡って貯金の半分以上を使い果たし、宿に帰ってから黙々と買ったばかりの本を読んで過ごした。

 さらにその次の日である街に着いてから三日目からは約束通り、柳瀬さんとパーティーを組んで依頼を受けて達成すると街に戻る。

 そんな生活を続けた。

 

 時には一日で終わらない依頼があって野宿をしたりした。

 元の世界のキャンプ――と言ってやったことはない――ほど快適ではなかったが、俺が元の世界に居た時にラノベを読んで覚えた、うろ覚えの知識でどうにかノウハウを引っ張り出してモンスターに襲われる事なく成功。

 いや、成功って言い方は変だ。

 無事に夜が明けたと言った方が正しいか。

 初めは戸惑った野宿だが、何回かやっている内に自然とどう行動するかを覚えていった。


 後は時々、シジュマさんのパーティーやオングとイリと一緒に依頼を受けた事が何回かあった。

 『鉄壁』との依頼は、向こうが中堅冒険者ってこともあり、色々と学べる事が多くていい経験になり、オングとイリと受ける時は、冒険者としてのノウハウは同じくらいで、戦力的に俺と柳瀬さんがメインで戦って二人がミスった時や手間取った時にカバーしてくれる、そんな連携で依頼を達成していく。

 これだとソロなった時に苦労する、と柳瀬さんに言ってみたが、一緒に依頼をしようと言ってくる二パーティーを断ろうとすると、柳瀬さんが怖い目で見てくるので、中々断れずに依頼を合同で受けてしまうわけだ。



 他人の目など気にしない俺だが、どうしても柳瀬さんの目だけは気にしてしまう。

 何故だろう、と考えるまでも無く、思考の片隅で分かっているはずだが、俺はその感情を否定していた。


 だから最近、柳瀬さんと普通にしゃべれなくなっている現状に至る。






「終わった~!ツカサ君はこれからどうする?」



 両手を上に伸ばして、背伸びをしながら俺に聞いてきたのは柳瀬さんだ。

 終わった、と言うのは朝から出発したモンスターの討伐依頼が終わったことを示す。

 時刻は夕方に差し掛かっている時間帯で、報告の為に立ち寄ったギルドも他の冒険者で大賑わいだ。


 柳瀬さんはギルド内のやかましい騒音もきつい匂いの料理にアルコール臭も慣れたみたいだが、俺はこの世界に転生して約九十日近く経った今でも慣れない。

 多分、お酒や大量の食べ物に良いイメージを持っていないからだと俺は思う。

 嫌いな物はいつまでたっても慣れないのは、人間の感情がどういう風に関係しているか分からないが、とにかくお酒や食べ物を好きにならないと、慣れないだろうな。

 そんな機会が訪れるかどうか分からないがな。


 そんなことを考えながら、柳瀬さんの質問に受け答えする。



「本を買って帰るから、先に戻ってていいよ。ば、晩御飯は宿で無料で食べれるパンとシチューのセットを食べるから」



 先に帰っていいよと言うと、目から晩御飯はどうするのオーラが見えたので、宿で食べるアピールをしておく。


 依頼で得た報酬の殆どを本に使う俺は、宿代、食事代、生活用品代と言ったあまり気にしない物の代金を出来るだけ節約しなければならない。

 なので、宿代はクレーミヤもアルケーミも成り行きで安いところに泊まれたから良かったものの、食事代と生活用品代はなるべく削っている。


 生活用品代と言うのは休日の時に着る衣服が主に占めている。

 俺は服装なんて特に気にしない人なので、休日の時に着る服が一セット、依頼を受けている時に着る服が二セットの合計三セットしかない。

 しかも、古着屋と思われる場所で買った合計金額銅貨二十枚にも満たない安い奴だ。

 そろそろ、服の耐久度がヤバ目になってきた気もしなくもないので、新しいのを買うべきか悩んでいるのは、最近の悩みの一つにあたる。


 生活用品代は今の所削れている。

 なら食事代はどうかと言われると、元々食が細い方だと自他共に認める程の食事量だ。

 一日に摂する量は基本的に、なんと夕飯のみ。

 しかも、男子高校生が食べるべき量の半分以下ですませている。

 と言ってもそれは休日の話で、依頼中に街の外で食べる時は昼食と夕飯はそれなりに食べている。

 腹が減っては戦はできぬ、と言うし、安全でない街の外では食べれる時に食べておくのが碇石だからだ。

 まぁ、寝起きだけはどうしても食べれないんだけどね。


 以上の事を踏まえて、問題なのが休日の昼食と夕飯なのだ。

 お金の節約も兼ねて、昼食を食べずに宿で一番安い夕飯を食べるだけの俺を見た柳瀬さんが、なにかと「ご飯はちゃんと食べなきゃダメだよ!?」と注意してくるのだ。

 うっとおしいったらありゃしないのだが、その時の柳瀬さんの迫力が怖い。

 ゴゴゴォォと効果音を鳴らしながら、背後に鬼神やら般若やらス〇ンドやらを出現させている柳瀬さんを見ると、どうしても「ハイタベマス」としか選択肢が出てこない。

 とまぁ、柳瀬さんに説得されて、大事な本代を食事代に消えていくことに落胆しながら休日を過ごしていた日々だった。

 

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