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38話「一度あったことは二度ある」


『ウーリーの隠れ宿』

 俺の視界だけに映る現在地の表示のようなものだ。

 ゲームなどでも建物の中に入ったり、別のマップなどに移動した時に表示されるあれ。

 俺だけが見えるゲームのような視点は、実に便利だ。

 この機能のお陰で実はこの世界がゲームなどの仮想世界では?とも思ってしまうが、空気の流れや砂一粒一粒までの感触、しまいにはちょとしたこでの痛覚。

 神が作ったから、と言われればそれまでだが、ゲームの中とは到底思えない。

 まぁ、この世界がゲームだったのなら、元の世界からの召喚者である俺だけでなく、柳瀬さんもゲームのような視点が見えなければ可笑しいからな。

 バグも考えれないこともないけど、この世界は現実でありこのゲームのような機能も俺だけが使えるスキルで、下位互換ならこの世界にも存在している。

 俺のスキルが女神様のご加護やらでちょっと強化されているだけ、そう思えば何の問題もない。(元々問題などありはしない)


 

 俺が思考に浸っていると、イリがカウンターに置いてあるベルをチンッと鳴らす。

 すると奥の部屋からエプロンを着た女性が出てきた。

 イリは慣れた様子で一言二言話すと「それじゃあ」と言って、階段を登って行く。

 宿を借りる交渉は各自でやれ、とのことなのだろう。

 イリの後、オングも女性に話して、宿を取り二階に上がって行った。

 イリとオングの二人が二階に上がると、エプロンを着た女性は手に持った記入簿に書き込んでいる。

 

 後は俺と柳瀬さんなんだが………………。

 記帳が終わったのだろう女性は俺と柳瀬さんの前に立つ。

 カーソルが表示されて、名前に変わる。

 『ウーリー』恐らくこの宿の持ち主。

 ウーリーさんが経営しているから『ウーリーの隠れ宿』なのだろう。

 実によくある名前だ。


 彼女は俺達の前に立つと、静かな口調で言った。

 その声は、人間身は感じられたが、何処か人ではないように思えたのは、俺が直前までこの世界がゲームであるか?と考えていたからであろうか?

 答えは分からない。



「では、お二人さんはどうなさいますか?」



 どうなさいますか?とは何なんだ。

 そう思ったが、直ぐにどういう意図で聞いてきたのか思い至った。

 部屋割りを聞いているのだろう。

 俺は柳瀬さんが妙な事を言いださないうちに、先制して宿を取る。



「勿論、一人一部屋でお願いします。食事は夜だけ、支払いはとりあえず一週間分まとめて」


「はい、分かりました。一週間分まとめてだと……………銀貨二枚と銅貨十枚です」



 …………二万千円ほどか。

 前の宿が一泊で銅貨二十枚だったことから考えると、銅貨十枚分上がったということになる。

 イリは安いと言っていた。

 この値段で安いと言う程のことなので、表に建っている宿はもっとするのではないか。

 そう考えるだけで、イリの提案に乗って良かったと安堵する。


 ウーリーにお金を払うと、階段を登り指示された部屋に入ってくつろぐ。

 部屋はベット、机に椅子とあり、こじんまりとしているが、この世界だと綺麗で良い方の宿だ。

 装備品の魔法使いのマントを脱いでアイテムボックスにしまうと、代わりに読めていない本を取り出した。

 持っている本では初見の本はこれがラストになる。

 大事に読まなくては、と同時に、明日朝一で本を売ってる店に行かなきゃな、と思う。

 椅子に座って机に肘を乗せる体制をとると、俺は本を読み始めた。

 こうしてアルケーミの初日が終わり夜が更ける。

 ……………はずだった。




 コンコンと部屋のドアがノックされたのは、体感時間で部屋に戻ってから一時間半くらいが経過した頃だった。

 机で本を読むのも疲れたので、ベットに寝っ転がって読んでいた俺は、読書の邪魔をされ苛立ちながらドアを開けて、来訪者を見た。

 この時、ドアを開ける前に来訪者を確認する事を忘れていた俺は、数分後確認しなかった俺を酷く後悔させた。



「こんばんは、ツカサ君。今、ちょっと……………っえ!?な、なんで閉めるのぉ!!??お願い開けて。話したい事があるから開けてぇ開けてくださぁい!!」



 ドアを開いた途端に柳瀬さんの姿が見えた。

 その瞬間、自分でも驚くべき速度で、開こうと引いていたドアを押し戻してドアを閉める。

 少し悪いことをしたか?

 なんて思いながらも、あのまま部屋にあげたら面倒なことになる、と言う思いの方が微かに上回っていた為、俺は周りから見ると非道な行為に走った訳だ。


 このまま無視を決め込んで、読書に戻ろうかとも考えたが、流石に非道過ぎだよなぁ。

 ドアの外から聞こえる声も段々と小さくなっていってるし、心なしか泣いてる様にも聞こえなくもない。



 えぇ……………俺がいきなりドアを閉めただけで泣いたりしますか?

 ……………普通の女の子なら泣いて当然か。

 様子を見てみよう。



 そう決めると、ソロ~りとドアを引く。

 隙間から外の様子を見える位開くと、覗いてみた。

 外を覗くと、柳瀬さんが項垂れた様子で廊下に座っている。

 不自然な所は何もない。

 むしろ、卑陋な行いに泣いている女の子、と言うには自然な形だ。


 と思ったのもそこまで。

 俺がドアを開けたことを感知したのか、俯いていた顔を上げると目を光らせ、ガシッと効果音が着くほどの勢いで俺が再び閉めかけていたドアを掴む。



「や、柳瀬さん?」


「………………………………」


「あの~、手を離してもらってもいいでしょうか?」


「………………………………」



 必死にドアを閉めようとする俺に、柳瀬さんが力づくで抵抗してくる。

 俺は柳瀬さんに抵抗をやめてもらおうと声を掛けるが、無言でドアを押し続けるその姿は、正直言って怖い。


 柳瀬さんに抵抗をやめてもらおうと声をかけたのは、理由があったからだ。

 この状態の柳瀬さんを部屋に入れたら、何をされるか分かったもんじゃない。

 と言う冗談はさておき、急に俺が力を緩めたら、柳瀬さんは勢いを押しきれず俺に向かって突っこんでくることになるだろう。

 だから、一旦落ち着かせる目的に声をかけたんだが…………。



「柳瀬さ~ん?」


「……………………」



 うん、無言。

 目はギラギラと光を放っているように見え、獲物を狩る狩人を連想させる。

 彼女が何をこんな風にさせるのか、俺にはさっぱりだが一つだけ言えることがある。

 女の子のする目じゃないよな。




 俺が持ってる力は女子並みだと思っている。

 中学の時、部活を引退してからというもの本ばかり読んで過ごしていた為か、元々男子最低レベルだった筋肉は更に落ち、バイト中重たいものを持ち上げると腕が簡単に悲鳴を上げるくらいだ。

 一応この世界に来てからというもの、レベル的なものが存在しないはずはずだが、何故か以前よりも力や体力が上がったと感じる時があるが微々たる差。

 しかも、それは俺だけではなく走るスピードが上がった柳瀬さんも同じならしい。


 つまり何が言いたいかというと、元々同じくらいなはずの力ステータスが、剣士という前衛職の柳瀬さんと魔法使いという後衛職俺ではどちらが力が強くなったか?

 と問われれば火を見るよりも明らかで、ドアは押され始める。



 柳瀬さん、こんなにも力があったなんて………。

 あ~、腕がだるくなってきた。

 てか、二回目にドアを明けてから、柳瀬さんを部屋に入れない抵抗は諦めたわけだから、ここで踏ん張っても意味はないか?



 そう思うと、一気に腕にかかる重さが増して感じる。

 どうなっても知るかっ!

 と、ドアに掛けていた力を一気に強めて押し反動の様に腕にかけていた力を緩め、その反動を使って後ろにバックステップ。



「きゃっ!?」



 力が強くても(俺が極端に弱いだけ)可愛らしい女の子の声をあげて廊下に倒れ込む柳瀬さん。

 俺はその光景を見ていない振りをすると、柳瀬さんに入室許可を出す。



「あ~、柳瀬さん?入っていいから」



 そう言うと俺は椅子に座って、直前まで読んでい本をアイテムボックスにしまう。

 案外と立ち直りが早かったらしく、直ぐに柳瀬さんは「失礼しま~す」と恐る恐るドアを開けて入ってきた。

 そんなにも警戒しなくても、もう何もしないし、罠も張ってないから。

 と言いたいのを堪えて、柳瀬さんをベットに座らせる。

 椅子とベットでは高さが違うため俺が見下ろす位置になるが、柳瀬さんは特に気にしていない様子だ。


 俺がもし対人能力が高いなら、本題に入る前に与太話でも一つ話すべきなのだろうが、あいにく俺にはそんな能力は備わっていない。

 俺が出来る事と言えば、柳瀬さんが話しかけて来るのを待つだけである。

 柳瀬さんも気まずい空気を何とかしたいのか、それとも単に本題を早く出したいだけなのか分からないが、本題を切り出して来る。

 と思ったのだが………。



「………謝って」


「い、一応聞くけど、何に?」



 頬を膨らませてにらんでくる柳瀬さんに、俺は聞き返す。


「ホントに分からない?」


「……………転ばせたこと」


「違う」


「…抵抗したこと」


「もっと前」


「泣かせ…………いきなりドアを閉めた?」


「その心は?」


「すみませんでした」



 俺は全力で謝ったのだった。

 決して謝らなかったら後が怖いとかじゃない。

 だって目がっ!!目が普通とは違ったんだから仕方ないよな!!


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