37話「合同依頼達成」
クレーミヤの冒険者ギルドよりも大きくて広いと言えど、基本的な位置取りは同じ。
クレーミヤよりも人の数が多く、決して誰一人としてサボってなどいないギルドの受付カウンターに着くと、シジュマさんが代表して依頼達成証明書を提出した。
受付嬢はどこぞの受付嬢とは違い、本当に事務的な声で対応して、直ぐに報酬金を持って来る。
あぁ、小うるさいメリーさんは受付嬢の中でも変わった存在だったんだなぁ。
クレーミヤの受付嬢を見てそう思った。
報酬金を受け取ると、ここには用がない。
早く立ち去ろうとしている俺に、食事の話が持ちかかってきた。
簡単に言えば、合同クエストお疲れ様会ってとこだ。
めんどくさいことはしたくない。
そう思って断りを入れようとして…………。
「ツカサ君も行こうよ」
「えぇ~。面倒だから柳瀬さんだけ行って来たら?」
「折角打ち上げに誘って貰ったんだから、ちゃんと行こうよ!!中学校の時も来なかったし……………」
柳瀬さんに引っ張られるようにして、俺の参加が決定した。
筋力パラメータが見えるのなら、俺の二倍近いはずの彼女に俺はなすすべなどありはしない。
解せぬ、早めに宿を取ってから、本を読みたかったのに。
俺の読書時間が削られるぅ~~!!
打ち上げと聞くと、料理屋で皆でワイワイとやるイメージだが、冒険者のクエスト後の打ち上げはそんな豪華ではない。
ギルド備え付けの酒場スペースで飲み食いをする程度のことだ。
うへぇー、気持ち悪い場所に自分から行かなければなんて……………。
早めの退出がしたいですが、いいですか?
とは、心の中だけ。
ホントに口に出す程、俺も肝が備わっている人間ではない。
もしかしたら、一人だったのなら断っていた。
それが、柳瀬さん一人の存在でこうも変わるとはな。
この時は気付かなかったが、柳瀬さんは確かに俺に対して影響を与え始めていた。
「カンパーイ!!」
誰が言ったのか分からないけど、(多分オングかエスタさん辺りだろう)誰かが言った乾杯の音頭によって、始まったクエスト後の打ち上げ。
打ち上げでは皆お酒を飲んでいるが、俺と柳瀬さんはお酒を飲むのは辞退した。
この世界ではお酒が何歳からでも飲めるらしい。
流石、異世界って思う決まりだ。
お酒飲んだことがない俺は、いきなり飲むのは怖かった為辞退。
俺が辞退したことに何を思ったのか、柳瀬さんも辞退。
俺に合わせる必要はないのに。
出来るだけ払うお金を減らしたい俺は、安いお肉とパンを一つ。
出来るだけ早く食べてからこの場を逃れようと考えていると、柳瀬さんが睨んできた。
俺の考えていることがバレた!?
まさかの柳瀬さんはテレパシーを使えるのか!?
酔ったオングとエスタが絡んでくるのを、鬱陶しいと感じながらのらりくらりと返事をしたり、ライカさんがさらにしつこく魔法について聞いてきたりしていると、あっという間に時間が経った。
クソ、途中で抜け出す事が出来なかったよ!
あの三人は何でこんなにも俺に構ってくるのだろうか?
全く気持ちが理解できない。
そんな感じで、社交辞令とも言える護衛任務の打ち上げは時間も経ち、お開きになる。
辺りは暗く、大分時間が経っていたらしい。
時間にして7時半位だろうか。
街中の灯りが多い故に、クレーミヤに比べては明るいが、元の世界に比べると大分暗い。
急いで宿を決めないと止まる場所が無いぞ。
どうしよっかな?とマップを見ながら宿屋の位置を確認していると、イリが提案してくる。
「…ツカサ、行く当てが無いなら……一緒に来る?」
「えっと……それは…どう言う意味で?」
「安くて、良い所…知ってる」
「おっ!ツカサも俺とイリが泊まる宿に来るっスか?都会の高い宿にヒィヒィ言ってた時に、イリが見つけて来てくれたんっス」
「一体何処から見つけて来たのか分かんないッスけどね」とオングが言っているので、偽情報だとか、騙そうとしている訳ではないのだろう。
お言葉に甘えて紹介してもらうことにした。
貯金が大分溜まっていると思うけど、クレーミヤとアルケーミでは物価が違ったりするから、節約出来る時はしておきたい。
本も大量に買いたいからね。
「ねぇイリちゃん、私もその宿に行っても大丈夫かな?」
「……問題無いと思う」
「ありがとう。それじゃあツカサ君、前と一緒だね?」
「別に無理して俺と同じ宿に泊まろうとしなくても……」
「同じパーティーメンバーなんだから当然だよ!」
「当然だよ」って言われてもだなぁ。
ホントにパーティーメンバー全員が同じ宿に泊まる必要は全く無いし、どうせ部屋が別なら宿が別でも大して変わらないと思う。
あ、いざという時の連絡が早くなるのか。
連絡手段が人伝いだから、どうしても携帯の様に直ぐにとは行かないんだな。
てか、柳瀬さんはまだ俺と同じパーティーを続ける気なんだ。
無理している…ようには見えないな。
何がそんなにも柳瀬さんが俺と同じパーティーに居させるのか、全く分からない。
とまぁ、こんな感じで泊まる宿が決まった。
「ツカサツカサ、ホノカとはアレなんスか?」
「……あれって何?」
宿に向かっている途中、前を歩いているイリと柳瀬さんから少し離れて歩いていると、オングがニヤけ顔で質問して来た。
アレとは何の事か、この手の小説を読みまくっている俺からすれば容易に想像がつくが、一応聞き返す。
認識の違いがあったら面倒だから。
「アレと言ったら、恋人関係しかないじゃ無いッスか!?」
あぁ、予想通りだった。
二人しかいないパーティーだもの、そう勘違いされても不思議では無いか。
さて、どう答えたら良いものか…。
否定は勿論、……柳瀬さんに不利益が起こらない様に慎重に答える。
「柳瀬さんとは同郷人なだけですよ。恋人関係ではないです。むしろ、俺なんかが柳瀬さんの恋人だと、柳瀬さんに申し訳ないですし…」
「……………まぁ、そういうことにしておくっス」
俺が言った関係が不自然、噓を付いている様にしか思えないとオングは言っているみたいで、これ以上話すのが怖かった。
なので、脳内でごねておくことにする。
しておくってなんだよ。
黙って先頭を歩くイリについて行くこと十分ほど。
大通りを外れ、宿屋が集まる通りの一角を曲がる。
裏道、そう呼べるような薄暗い路地を複雑に進むと、少し広がった広場に出た。
その目の前に、ポツンとしかし存在感溢れる雰囲気でその宿はあった。
「……着いた。道順がややこし。でも、安い。案内無しで来れそう?」
「ツカサ君?」
多分、イリは案内なしでもこの場所にくることが出来ないと答えたのなら、俺と柳瀬さんをすぐさま表に建っている普通の宿に戻すだろう、そういう意味合いで言ったのだろう。
柳瀬さんは自信なさげに、俺の目を見て問いかけて来くる。
道を覚えているか?と言いたいのだろう。
自信なさげにしている所を見るに、道順を覚えていないらしい。
しょうがない。
そんな思いを少しだけ抱きながら、意識を視界の片隅に向ける。
何時も通り写っているマップを確認すると、確かに俺の目の前にある宿屋は表示されている。
ゲームなどだと表示されていない、裏道まで全て表示されていて、一人でここまで来いと言われても、問題無く訪れることが可能性だろう。
ゲームの様なマップだが、ゲームよりも精密に分かり易く表示されているマップに感謝だな。
「問題ないですよ。道順は覚えましたし、違う道のりでも来れそうです」
「……そう、なら良いわ」
「へぇ~!!凄いっスね!一度通っただけで道が覚えれるなんて。俺なんか、未だに覚えれてないっスよ」
だから、イリと一緒なのか?
にしても、この宿は常連っぽいから、流石に十回程度ではないと思うが、十回以上も通っておいて未だに覚えれないって……………方向音痴なのか?
それとも考える事を放棄した脳筋?
絶対に個人で組みたくない人だ。
エスタさん辺りも同じことを言いそうだから怖い。
イリに連れられて宿の中を入ると、視界に名前ウインドウが表示される。
建物などに入ると表示される設定らしく、『ウーリーの隠れ宿』と表示しているのを確認した。
どうやら、宿で間違いがないらしい。
『隠れ』と付いていることから、普通の宿とは違うのがわかる。
ゲームの様なこの世界でいう所、一定の条件を満たさないと解禁されない施設みたいだ。
兎に角、俺と柳瀬さんはアルケーミで拠点にする予定の宿にたどり着いたのだった。