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35話「ライカさんとの話し合い」



 俺が放った上級複合魔法に、ぽかーんと立ち尽くしていた俺と柳瀬さん以外だったが、次第に気を取り戻して来る。


 彼等がどういった反応をするのか俺はこれから見極めなければいけない。

 なぜなら、俺の魔法が少し特殊であるからだ。

 特殊である故に、人前で使ってもいいのか判断しなければいけない。

 普通に単独判断を怒られるだけなら全然構わないし、簡単に受け流されるだけなら一番いい。

 最悪は蔑まれたり、誰もできないことをやった!!みたいな感じで俺TUEEEE系である反応だ。

 人前で乱発出来なくなる上に、国のお偉いさんに重要な戦力だと思われたら、あれよあれよと魔王軍との戦いに担ぎ上げられる。

 それだと、俺の目的でもある冒険者をしながらこの世界の本を読みまくると言う、異世界日常系小説から異世界冒険系に変わってしまい、俺を召喚した女神様が微笑む形となってしまう。

 俺は自分の為にそれだけは回避したかった。



「おいツカサ!お前、スゲ〜じゃねぇか!!竜巻が起こったと思えば、火を纏ってモンスターを全滅させるとか!!」


「そうっス!!あれって上級魔法っスよね!?何処で覚えたんっスか?そう言うのが出来るなら、始めからツカササンに任せておけば良かったっスね!」



 一番始めに気を取り戻したのはウェーイ系の二人、エスタさんとオングだ。

 二人は素早く俺の横に移動してくると、いきなり肩を組まれたり背中を叩いてくる。

 息の合った行動に俺は「ホントに初対面?打ち合わせとかしている訳?ウェーイ系の行動は理解できない。こういった雰囲気が苦手なんだけどな〜。」と思ってしまう。

 目線で柳瀬さんに助けを応援してみるが、なんだが嬉しそうに微笑んで俺を見ているだけ。

 「ダメだ、戦闘面では役立ても、柳瀬さんはリアルのカースト上位者。こういった時には全く役に立たないし、行動が理解できんない」と改めて柳瀬さんが俺なんかと一緒に居てもいい人物ではないことを確認できただけだ。



「ツ、ツカサさんお疲れ様です。それと捌き切れなかったのでありがとうございました」


「どういたしまして?」


「……助かった。だけど…一声かけてやって欲しかった」


「すみません」



 オングとエスタさんの苦手系コンビにようやく解放された俺の下に来たのは、比較的話のしやすいクッチさんとイリだ。

 どうやら二人はゴロヴァバードの数が多すぎて、パンク寸前だったみたいで俺にお礼を言って来る。

 言葉少ないイリには反省点も言われてしまうが、素直に謝っておいた。



 合同依頼はホウレンソウが必要だったよな。

 やっぱり、集団行動は苦……キライだ。

 まぁ、反省はするが次回以降できるとは限らない。

 今回もあったように、敵が多すぎて到底ホウレンソウ出来るような時間が作れるとは限らないからだ。

 まぁ、その前に記憶力の低い俺がそこまで覚えていて、気が回るかどうか?が一番の問題だからなぁ。



 俺と柳瀬さん以外の冒険者の六人中四人には何も隔たりもなく接してくれた。

 問題は……リーダーであるシジュマさんと、同じ魔法使いで俺に目を付けているっぽいライカさんだ。

 「怒られたくはないなー、ヤル気が無くなる」とか思てしまうのは俺だけではないはず。


 元の世界だと、そうやって退職者が続出して仕事が嫌になる人が増える。

 ネットではニートや自宅警備員こそが最高の仕事だと広がって、学生が仕事を嫌がって就職率が下がって行く。

 それを元々の原因を作った奴らが「最近の若者は仕事にないする意欲がナンタラカンタラ〜〜」と更に新人に言う。

 はっきり言って悪循環。

 だから、仕事に対してキツく怒るのは間違っていると思う。

 注)あくまでも個人的な意見です。



 まぁ、そうやって気を病んでも時間を伸ばす事は出来ない。

 最後にシジュマさんとライカさんが俺の方にやって来る。

 二人の後ろには商隊のリーダーであるギータさんも何故か一緒だ。

 先に話し合いをしていたギータさんが二人に付いて、真っ直ぐに俺の下を目指している形。



「ツカサ君お疲れ様。数が多くて全滅するところだった。それについてはお礼を言おう。ありがとう助かった」


「そうねぇ、確かに助かったわぁ。ありがとう」


「だが、俺達は一時的にだが一つのチームなんだ。結果的には良かったが、一声かけて欲しかったな」


「はい、イリさんにも言われました」



 やっぱりキツくじゃなくても、自分の行動をアレコレ言われるのは堪えるな。

 ……ハァ、と出来るだけ表情に出さないように落ち込んでいると、シジュマさんが俺の肩に手を置いて慰めてくれる。



「まあ、そんなに落ち込むな。ツカサ君がいなければ、俺たちは全滅してたかもしれないんだ。その事実は消えない」



 シジュマさん……やっぱりいい人だ。

 こういった人が社会を良くして行くのだろうな。

 そう思っていると、後ろで存在を主張するかのような咳払いが一回。



「うおっほん!」


「あ、すまねぇ。居るのを忘れてたわ」


「忘れたで済む話で良かったですね」



 付き合いが長いらしいシジュマさんとギータさんは、雇い主と雇われの関係でも軽口を言い合う仲で、ギータさんがシジュマさんに忘れたが商人にとってどれだけ重大なことかを教えている。

その心得が大切なのは分かるが、俺に用があるのではないのですか?

という俺の心の声が聞こえたのか、やっとこさ商人の心意気講座が終わった。



「さて、あまり身のないお話はこれくらいで切り上げて本題に入りましょう」


「そうだった。ギータがツカサ君にお礼を言いたいそうだ」


「お礼、ですか?」


「えぇそうですよ。シジュマも言ったかもしれませんが、ツカサさんが高度な魔術を使わなければ私達は全滅、までとは行かなくても戦闘が長引いてしまい、怪我人やこちらの荷物に損害が出たかもしれません。状況を判断して損害が出る前に終わらせてくれたツカサさんには、商隊の一同を代表してお礼を…という訳です」



 あぁ、そういう訳か。

 冒険者としては連携の面で反省のある戦闘だったが、商人側としては早く終わりラッキーって感じなのか。

 それもそうか。

 モンスターに襲われる可能性を配慮しているとはいえ、今回の大群は流石に予測していなかったから時間が何よりも大切な商人にとっては長引くのを良しと思わなかったのだろう。

 俺が複合魔法を発動させなかったら、全滅は無いと思うが怪我人くらいは確かに出ていたかもしれないな。

 それに時間も経つと太陽が沈む前に着く予定だったのが、安全を配慮してどこかで野営をしなくてはいけない可能性もある。

 そうなると、経費だと諦めるしかないが、俺たち冒険者の夕食を出すのは基本的に商人達だ。

 余分な出費を好まない商人からすれば戦闘が長引なかったのは大変喜ばしいことなのだろう。

 なのでギータさんが代表して俺にお礼を言って来るのも頷ける。



 だから俺は、お礼を言われる事に慣れてないから少しだけ照れ臭かったが、何とか表情を変えずにギータさんの言葉を受け取れた。

 俺が表情を変えずに頑張っているのに対して、俺が褒められるのが自分のことの様に嬉しいらしい柳瀬さんは終始ニコニコしている。

 多分「何でそんなに嬉しそうにしているの?」と聞いても答えてはくれないだろう。

 その前に聞く勇気がない。


 ギータさんは俺に言葉でお礼を申し上げると、この先アルケーミで買い物をする事があれば一回だけ割引きをさせてくれる、と言う物でのお礼も約束してくれた。

 流石商人、利益よりも新たな顧客の創設と言う方を取ったか。

 私共の商会を御贔屓にしてくださいね~。

 みたいな感じか?

 元の世界で言う、割引きクーポンだな。


 ギータさんはまだ他の商人たちとの話し合いがあるのか、「それでは」と言って戻って行く。

 これで戦闘後の会話イベントは終了だ。

 っと思っていたのだが不安要素が一つ、まだあった。

 


 で、だ。

 ライカさんは何故こっちを見ているんだろうか?

 怖いからやめてもらいたい。

 あ、柳瀬さんがライカさんを睨み始めた。

 まさか、これが噂の三角関係!?

 俺の為に争わないで!



 と、脳内でふざけていると、ライカさんが遂に口を開いた。

 警戒をしていた俺にではなく、自分のパーティーリーダーのシジュマさんに。



「シジュマ、ツカサくんを借りてもいいかしらぁ?」


「何の為に?」


「それはぁ、さっきの戦闘で使った魔法について話し会いたいからよぉ。ほら、同じ魔法使いとして話し合いたいのぉ」



 え!?

 ライカさんと話し合う?

 いやいや、考えてみろよ。

 普通の目、好意を持った目とかではなく、ねっとりとした目で見てくるライカさんだぜ。

 話し合うとかの次元じゃない、捕食対象として俺を見ている目だ。

 そんなライカさんに許可をしないでください!シジュマさん!!



「…うーん、話し合うのはいいんだが、時間がなぁ。さっきギータと話し合って決めたんだが、ここは休憩を取るべきなのは百も承知だ。だが、生憎ツカサ君のお陰で大きな休憩が必要な程消耗はしていない。なので、出来れば今すぐにでも出発したいそうだ」


 なるほど、先ほどギータさんが一緒に俺の下に来たのはその話をしていたからか。

 予定が狂ってしまったらしいが、できれば日没までにアルケーミに着きたい、とのことで今すぐ出発するらしい。

 俺としてもその考えには賛成だ。



 良かった、ライカさんとの話し合いは出来ないな。

 街に着いたら、何やかんや言って逃れれば……



「だから、ライカはツカサ君と1組になってくれ。済まないが、ホノカさんは俺と先頭に来てくれないか?」


「殆ど二人っきりねぇ、ゆっくりと話せるわぁ」


「「え!?」」



 ライカさんと組む?

 それって、貞操の危険じゃない?

 そんな気がするのは、間違っていないはず。



 そう思える提案を出してきたシジュマさん。

 俺が声を上げて驚くもの無理はないのだが、何故か柳瀬さんも同時に声を上げた。 

 そして、シジュマさんにでなくて、俺に突っかかってくる。



「ツ、ツカサ君!!ライカさんの誘惑に負けたら駄目だからね!」


「え?あ、はい」



 「絶対に負けないでねぇ〜」と言葉を残して、柳瀬さんはシジュマさんと共に商隊の先頭に向かった。

 俺は柳瀬さんが何故あんなにも必死だったのか?とは考えないようにする。

 変な勘違いをしないためにも。


 俺とライカさんも元の俺の位置である商隊の中央に向かう。

 商隊が動き始めると、ライカさんは『感知』の使う頻度を話し合った。

 この護衛についている冒険者の中で『感知』が使えるのは俺とライカさんだけだからだ。

 先程の事も考えて、5分くらいを目安に交互に『感知』をすることに決定。

 でも、俺のマップ機能は常時展開しているし、魔力も消費しないのが少しだけ悪く感じるが、特にライカさんにバレると厄介になりそうなので、絶対に言わないからお相子だと思いたい。



「それで、何処から話しましょうかぁ?」



 再出発してから少したってから、ライカさんが切り出してきた。

 俺は黙ってライカさんをチラ見する。

 言葉に出さないけど、一応話しは聞いていますよアピールだ。



「『障壁』『エアスラッシュ』『障壁』『トルネイド』『フリーズ』『ファイヤートルネイド』私が何を言っているのかぁ、分かるかしらぁ?」


「俺が使った魔法ですよね」



 ご丁寧に使った順、しかも無演唱で発動させた魔法まで言い当てている。

 流石同職の魔法使い、とライカさんに向かって心の中で誉め称えた。



「まずぅ、おかしいと思ったのは障壁を張った時よぉ。イリちゃんなら魔道具を使っていたから、演唱は必要なかったぁ。でも、ツカサくんはぁ障壁としか演唱しなかった。省略演唱が使えるのねぇ。省略演唱が使えるのが珍しいって知らなかったの?百人に一人くらいだと言われているわ」



 へー、新情報だ。

 省略演唱は一般的ではないらしい。

 魔法系の本にも省略演唱は書いてなかったからな。

 俺からしたら、演唱する方がめんどくさくてやり難いんだけど、それは人それぞれか。

 本当は無演唱でも撃てるって事は隠し通した方がいい。

 もうバレてそうだけど。



「それで、俺が省略演唱を使ったからって何かあるんですか?」


「別に何もないわぁ。単なる私の好奇心よぉ。それに同時発動も出来るみたいだしねぇ」


「…出来ないとは本に書いてありませんでしたよ。だから、俺が使えてもおかしくは無いはずです」



 本当半分、嘘半分だ。

 出来ないとは書いてなかったが、そもそも省略演唱や同時魔法については書いてなかったからね。

 それにしても、単なる好奇心で俺の心臓を脅かさないでほしい。

 喋り方とか、むっちゃ悪役っぽくて警戒するから。

 喋り方とかも人それぞれだから、アレコレと言う事はないんだが、俺が勝手に警戒してしまうというだけだ。



「そうねぇ、別におかしくはないわ。ただ、魔法の同時発動や省略演唱、あとは上級魔法のコツを教えてもらいたいと思ったから、こうやって話し合いの場を設けさせて貰ったの」


 設けなくてよかったです。

 貴女と話し合うことなんぞや何もございません。



 と、口に出して言う勇気が俺にあれば良かったんだが、そんな勇気あるわけない。

 ライカさんに尋ねられて、俺がそれとなく答える。

 そんな時間が街に着くまで続いた。



 ハァ…疲れた。

 柳瀬さんの方が気が楽で良かったと身に染みて分かった数時間だったな。




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