34話「複合同時展開」
空からとういう奇襲にひるまずシジュマさんが指示を出すと、先陣を切ったのはこれまで目立っていなかったクッチさんだ。
クッチさんは矢を弓に引くと、素早く矢を放った。
放たれた矢は旋回しているゴロヴァバードの一体に刺さり、その巨体をいとも容易く地面に落とす。
「ぎょおぉぉ~!!!!
「よし、エスタとオングが行け!!」
「了解!!」
「分かったッス!」
シジュマさんが指示を出し、二人が落とされたゴロヴァバードに攻撃を仕掛ける。
地に落ちたゴロヴァバードはクッチさんの矢と、落ちた瞬間から待ち構えていたエスタさんとオングが与えるダメージし中々立ち上がる事が出来ない。
あれを見る感じだと、地面に落とせば一定時間問題なく対処が出来そうな感じだ。
前衛が敵の攻撃を引き付けて、後衛組が落として前衛が止めを刺す。
簡単かつ効率的であり、よくある戦法の一つだ。
エスタさんとオングがゴロヴァバードを一体倒す頃に、俺のイメージが完成した。
風の刃でゴロヴァバードの羽をズタズタに切り裂く。
『エアスラッシュ』
俺の視界に、ターゲットの一体が定まるとゴロヴァバードにターゲットカーソルが現れる。
これで外す心配がなくなり、後はトリガーを引くだけ。
「『エアスラッシュ』」
技名を言いトリガーを引くと共に魔力が抜ける感覚、それと同時に風の刃がカーソルが現れているゴロヴァバードに向かって放たれる。
俺の魔法はイメージが大切なので、技名まで演唱する必要はない。
別に無演唱でもいいのだが、今回は相手であるゴロヴァバードが知性を持っていなかったので言って見た。
知性があったのなら、避けるモンスターもいると本で見たからだ。
と言い訳をしつつ、本音はというと。
いや、元の世界の人である俺からしたら、無演唱で魔法発動よりも技名をドーンと名乗るのはロマンだと思うよ。
要するに、ただの俺の中の厨二さんが疼いているだけだ。
対人戦とかだと、そのあたりは考えて魔法を使う……………………注意はしておこうかな。
と、そんなことは後々考えるとして、今は戦闘中だ。
目の前の状況に集中しよう。
俺が放った『エアスラッシュ』は狙い通り、ターゲットのゴロヴァバードの羽をズタズタに切り裂いた。
俺の視界で確認すると、ゴロヴァバードの体力ゲージは三分の一程削れている。
ゲームだったら「たったこれだけのダメージかよ」と悪態をついてしまうところだが、これは一応現実であり一人ではない。
本体にただ当てるだけでななく、羽を狙ったのだ。
その効果は絶大……とまではいかないが、後衛組としての役割は果たせた。
「ぎょおおぉぉぉ~~!!」
「ツカサ君ナイスだよ!!やあぁあぁぁぁぁっ!!」
俺の『エアスラッシュ』に羽を切り裂かれたゴロヴァバードは、悲鳴を上げながら地面に落ちる。
そこに柳瀬さんが凄まじいスピードでゴロヴァバードの周りを動き、ダメージを与えていく。
柳瀬さんはあっという間に体力ゲージを全て削り、ゴロヴァバードを倒した。
それを見た俺は、空にいる別のゴロヴァバードに狙いを定める。
他の人達も後衛と前衛で組んで、ゴロヴァバードとの戦闘を安定化させていく。
だが、そのままで終われば良かったのだがそうもいかない。
仲間がやられていくのをただ見ているゴロヴァバードではなかった。
数体がやられると、ゴロヴァバードは数体ごとに分かれ隊列を組みながら俺達に反撃し始める。
そこまでは俺も理解できたのだが、その振り分けが可笑しかった。
「ツ、ツカサ君!!モンスターが……っ!!」
「あー、なんでなんだろうなー」
なんで俺と柳瀬さんの所に半数も来るんだよ!!
こいつらに恨みを買われるような事したか?
してないよな。
……………………してない……………はず。
……………………本当にしてないか?
考えよう、これまでの行動を振り返ろう。
俺は今までにゴロヴァバードは倒したことが無かった。
これは確じ………いや、あるかもしれない。
あれだ。
今日一回だけ、戦闘をした事があったな。
決して戦闘と呼べるものではなかったが、確かにモンスターを三体倒したはず。
あれはゴロヴァバードだったのだろうか?
特に気にして無かったから確認をしてなかったのを今更ながら思い出すと、隙をついてアイテム一覧を表示させてみることに。
ゲームの様に並び替えが出来るので『入手順』で一番後ろを見ると……………………ゴロヴァバードの死体が三つキチンと入ってましたまる。
「ごめんなさい」
「やぁっ!ツカサ君、何が!!?」
「この大群が襲って来ている理由が俺にあるからだよ」とは素直に言えない。
素直に白状して攻められると、心が弱い俺には耐えられないからだ。
何処までも自分身勝手な俺。
しかし、俺の不注意でこの大群に襲われているなら申し訳ないと思う気持ちもある。
当初の予定通り、頃合いを見て逃げても無駄だろう。
何せ俺を追って来ているのだからな。
ハァ……後始末くらい自分でやりますか、と気持ちを入れ替えた。
「柳瀬さん、援護よろしく」
「え!?急にどうしたの?」
「敵を全滅させるから」
「分かっ……って!!ええぇぇ!!??」
柳瀬さんは急なお願いにもかかわらず、驚きながらも俺に攻撃を仕掛けてくるゴロヴァバードに牽制して時間を稼いでくれる。
そんな柳瀬さんを尻目に俺は急いでイメージを構築していく。
一撃で倒せる様に魔力は大目に込め、それでいてコントロールは慎重に行う。
今回は戦闘中の味方もいるから誤射は厳禁。
難しいが出来ない事はない。
属性は風、突風を巻き起こして飛んでいるゴロヴァバードの機動力を根こそぎ奪う!
「『トルネイド』」
上級風魔法『トルネイド』
竜巻を起こして、周囲のモンスターを巻き上げる魔法だ。
上級故に大分魔力を消費したが、トルネイドは俺のイメージ通りゴロヴァバードを巻き上げる。
巻き込まれまいと必死に翼を動かして抵抗しているゴロヴァバードに向かって、もう一回魔法をイメージした。
よし、イメージ通りゴロヴァバードだけを空中に浮かすことが出来た。
後は体制を整えようとしているゴロヴァバードに向かって、トドメを指すだけ。
属性は火使う。
ファイヤーボールなんて狙いが外れる可能性がある魔法は使わない。
ならどうすか?
簡単だ。
トルネイドを起こしている魔法に、ただの火属性の魔力を流し込めばいい。
そうすることで出来上がる炎の竜巻。
差し詰め、『ファイヤートルネイド』と言ったところかな。
上級複合魔法『ファイヤートルネイド』
炎属性と風属性の複合魔法で、発動には普通の上級魔法よりも長い演唱をしないといけない。
まぁ、俺からしたら長ったらしい演唱なんかしなくても、イメージでトルネイドに炎を纏わせればいいだけだから、他の魔法使いよりは発動しやすいかな。
初めからファイヤートルネイドを使わなかったのは、味方を巻き込むのを恐れたからだ。
トルネイドでゴロヴァバードを出来るだけ空中に集めた後、一気に焼き尽くす。
火力を出し過ぎで死体が丸焦げに成りそうだが、護衛依頼はしっかりと達しているので問題はないはずだ。
ついでにと言っては何だが、俺が張っていた障壁を広げて馬車を3台ともカバー出来る様にしておいた。
万が一のこと考えてだ。
更には氷属性魔法のフローズンも同時展開して、『ファイヤートルネイド』の熱を感じない様にもする。
余熱だけでも夏レベルの暑さは堪えるからなぁ。
マップに赤点が消えた時点で、発動していた魔法は全て解除する。
それと同時に、今までに感じた事のない怠惰感が俺を襲ってきた。
立ってるのも辛いので、地面に座り込む。
徹夜した後に学校に行った時みたいな感じだ。
原因はやっぱり魔力か……。
四つもの魔法を同時展開したのは初めてで、魔力を示す青ゲージは殆ど空っぽ。
あと一回、初級魔法が使えるかどうか?って残量だ。
腰に付けている道具袋から魔法薬を取り出して、一気に飲み干す。
リ○ビタンみたいな味、嫌いだ。
出来るだけ飲みたく無い味だなぁ。
とりあえず、時間経過すればある程度回復するだろう。
「ふぅ、終わった」
「ツカサ君、お疲れ様」
頃合いをみて、柳瀬さんがやって来る。
俺がイメージしている間、敵を引き受けた時に激しく動いたらしく、疲労が溜まってるように見えたが、怪我と言う怪我は負ってない。
視界の隅に映る柳瀬さんのHPゲージも、殆ど減っていない。
俺は柳瀬さんに、敵を一時的に引き受けてくれたお礼を述べる。
「柳瀬さんもお疲れ様。モンスターを引き受けてくれて、ありがとう。お陰で助かった」
「うん!ツカサ君もあんな魔法を使って全滅させるなんて凄いよ!魔力の方は大丈夫なの?」
「普通に動く程度だったら問題はない」
この世界に転生してから約一ヶ月、それだけの期間があれば自称コミュ症の俺でもある程度の会話ができるようになる。
話し相手が柳瀬さんかメリーさんしか居なかったからな。
二人には気が緩んで、素が出て来るときもある。
何だかんだ言って「柳瀬さんは唯一の転生者だから」と心の底でそう思っているのかもしれない。
しかし、完全に気を緩めては行けない。
ここには柳瀬さんだけでなく、他の冒険者もいるからだ。
さて、勝手に大技使って終わらせたわけだが、どう言い訳をすればいいか。
あの大量のゴロヴァバードを一気に倒し切ったことでチャラにできないかなぁ?
なんて、ポカンとしている他の護衛冒険者と商人らが気を取り戻すまで考えていたのだった。