33話「空からの大群」
どうする?
敵は未知数大軍、こっちは8人。
無理だ、耐え切れる訳がない。
でも、諦めたら死ぬ。
どうする?
柳瀬さんが心配そうに俺を見ている中、俺はもう一度状況を整理する。
大量の敵がこっちに向かって移動して来ている。
敵?
何で敵だと判断しているんだ?
マップに赤点で表示されているから。
だったら、何故俺は赤点が敵だと思っている?
確かに赤点はモンスターを示してくれる。
モンスターは全て、俺たちに敵対しているのか?
違う。
初めてモンスターを狩った時の事を思い出せ。
マップの赤点に導かれてスライムを狩ったはず。
そうだ、赤点に導かれてだ。
赤点のモンスターは初めから俺と柳瀬さんに気が付いていた訳じゃない。
俺と柳瀬さんが攻撃してから、初めてこっち気が付いていたじゃないか。
と言うことは、マップの赤点は俺に敵対しているモンスターだけではなく、敵対するかもしれないモンスターも入っている。
そう言うことにだと、俺は解釈する。
そこまで解釈できれば、俺には心の余裕が生まれた。
赤点が全て敵対するモンスターじゃないってことは、今マップに表示されている赤点はただ単に移動している大群って言うこともあるはずだ。
ならば、やり過ごせるかもしれない。
そう思った時だった。
急に馬車が止まる。
その時の衝撃で柳瀬さんがバランスを崩して倒れ込んでしまう。
「きゃっ!?」
「うぉっ!柳瀬さんっ……大丈夫?」
……俺の方に向かって。
何で俺の方に倒れてくるんだよ!と悪態を吐きそうになったが、気持ちを押しとどめて受け止める。
他人の体に触れる事ほとんどない俺は、冷や汗が流れてしまう。
心臓がバクバクと鳴っているのが分かり、俺はそれから逃れるようにして柳瀬さんから手を離した。
「あ、ありがとう」
柳瀬さんは名残惜しそうに俺の手を見ると、お礼を言った。
しかし何故だか、心ここに在らずと言った風に柳瀬さんは違う世界に入っている。
そんな柳瀬さんを戻すべく、少し大きな声で柳瀬さんに声をかけた。
「柳瀬さん、自分の世界に入り込んでいるところ悪いんだけど、シジュマさんが呼んでいるから戻って来てくれ」
「……っは!!ご、ごめんなさい。……気をつけてなきゃ」
俺に言われた柳瀬さんは、ビックンと肩を飛び上がらせて意識を現世に戻すと、俺に必死になって謝って来た。
別にそこまで謝らなくてもいい事じゃないか?
俺だって自分の世界に入り込むことが多々あるし、それは悪い事じゃないと思っているからだ。
まぁ、時間と場所は弁えるけどね。
柳瀬さんに言った通り、シジュマさんが俺と柳瀬さんを…他の冒険者全員を呼んでいるのは本当だった。
急いで馬車の荷台から降りると、先頭に向かう。
既に俺と柳瀬さん以外は揃っているみたいで、俺と柳瀬さんが最後だ。
揃うとシジュマさんが口を開いて説明してくれる。
「よし、集まったな。まず緊急停止してお前たちを集めた理由だが、モンスターの大群が押し寄せているのをライカが感知した」
「流石ライカだな。でも大群ってどのくらい何だ?」
ここにいる冒険者はただの初心者集団ではない。
シジュマさんからモンスターの大群が押し寄せていると聞いても、慌てることなく状況を把握しようとする。
エスタさんが大群を感知したと言うライカさんに尋ねると、ライカさんは「その前に」と言って俺の方を向いた。
嫌な予感がするのは気のせいだ。
そう言いたいが、思いは通じなかった。
「ツカサくんはモンスターの大群に気づいていたのでしょぅ?数時間前も認識できない距離のモンスターを倒していたわぁ。『感知』魔法を覚えている証拠。何故真っ先に伝えなかったのかしらぁ?」
「………」
ライカさんが言った言葉に、全員の視線が俺に刺さる。
気づいていた?まさか!?何故報告しない、と言う視線のなか、シジュマさんと柳瀬さんだけは違う目をしていた。
柳瀬は心配そうな視線で、シジュマさんは何かを見る目だ。
そんな、皆んなの視線が集まっている中、俺は何でも無いように言った。
「広範囲の『感知』をそう何度も出来る訳ないじゃ無いですか。ライカさんだって魔法使いだから、魔力残量に気を付けますよね?」
「………まぁ、一理あるかしらぁ?そう言うことにしておいてあげるわぁ」
…ふぅ、良かった。
完全には納得していない様に見えるが、一先ず追求は避けれそうだ。
それにしても、ライカさんは『感知』を持っていたのか。
後で知ったことなのだが、『感知』は敵の位置と数を大まかに知ることができる魔法で、無属性魔法に分かれている。
魔法使いでは比較的簡単な魔法で、冒険者として仕事をするなら絶対に覚えた方がいい、と言われている魔法だ。
フェンティーンさんに貰った本にも書いてあったメジャーな魔法だが、如何やら正確に覚えていなかったらしい。
マップ機能を比べると魔力の消費もするし正確じゃない、と初めて読んだときに記憶から即消去されたんだと思う。
もし覚えようと思ったらイメージするだけで発動できそうだが、イメージをしなくても発動してあるマップ機能と比べると精度が落ちそうなこともあり、結局覚えずじまいになる。
閑話休題、話はモンスターの大群に戻る。
シジュマさんはライカさんに感知内容を話すように言うと、ライカさんは即座に『感知』で感知した情報を提供してくれた。
「東側から大量のモンスター反応を感知したわぁ」
「数はどのくらいなんスか?」
「二十以上としか分からなかったわぁ。とにかく大群よぉ」
「大群か、迎え討つべきか……。この中で障壁魔法を使える者は?」
シジュマさんの問いに俺とライカさんが手を挙げる。
魔法使いである二人だけかと思われたが、もう一人イリも手を挙げた。
魔法使いでは無いのに何故?
「……障壁を張れる魔道具を持っている。…役に立つかは分からないけど……」
そうか、障壁を張れる魔道具なんてものがあるんだ。
流石道具士、護衛依頼にピッタシのアイテムを持っている。
これで障壁を使える人が三人になった。
そこで俺とライカさんにイリがそれぞれ障壁を張り、馬車を一台ずつ守る。
その他の五人がモンスターと交戦、モンスターが俺達を狙っているのなら全滅、もしくはギリギリまで戦う。
俺達を狙っているのではなく、進路の途中に俺達が居ただけなら隙を見て逃げる。
そういう作戦になった。
ライカさんが障壁魔法の演唱を唱え、イリが魔道具の設置をしている中、俺は馬車を囲む様に障壁を張るイメージを浮かべていた。
実態があるような物ではなく、透明な膜のようなもの。
そうイメージして魔力を展開、ついでに魔法名も呟く。
「『障壁』」
体から魔力が消費され、視界に映る青ゲージが少し削れると、ほんの少しだけ脱力感が俺を襲う。
と言っても、五分もすれば自然回復する消費量だ。
魔法薬を飲む必要はない。
魔法の方は問題なく発動出来ている。
俺のイメージ通りに薄い膜のようなもので、俺の役割分の馬車が覆われており、俺が魔力を注ぎ込んでいる限り破れないだろう。
そう判断して、敵がどのくらいの位置にいるか確認していた。
大分近づいて来ている。
後一分もすれば戦闘に突入するだろう距離だ。
ライカさんも『感知』で調べたのだろう、敵の位置をシジュマさんに伝えると、シジュマさんが戦闘準備を促した。
それに従って、他の人も戦闘態勢に入る。
シジュマさんがロングソードを、エスタさんが片手剣と盾を、オングが大剣を構え、ライカさんが杖を持って障壁の維持をし、クッチさんが背負っている筒から矢を取り出して弓に引く、そして柳瀬さんが細剣を構える。
全員の準備が整った。
後は迎え撃つだけだ。
俺がマップで敵の位置を確認した時だった。
脇に生えてある林ばかり警戒していたみんなだったが、モンスターは違う位置からこちらを奇襲して来る。
「空だぁ!!鳥型のモンスターだぞ、気を付けろ!!」
「後衛職が地面に落とすわぁ!!みんなはそれを狙ってぇ!!」
「よし来たぁ!!」
現れたのは一体が一メートル位の大きさの鳥だ。
なんて名前だろうか?気になってカーソルに注目すると、名前が表示された。
戦闘中なので呪文をイメージしながら読んでみると、『ゴロヴァバード』と書かれている。
全体を見渡すと、ゴロヴァバードが三十体空で旋回していた。
数はまぁまぁ多いが、無限増殖ってほどではないのが分かり、俺は何となく余裕が出来ていた。
だからか、少しだけ気が緩んでしまい、何処か上から目線な思いをしてしまう。
さぁ、他の冒険者の戦闘を拝見させてもらおうか。




