32話「ベテランの気遣い」
俺がシジュマさんに助けを求めて視線を移すと、シジュマさんは頭をボリボリと搔いた後大きな溜息を吐いてからライカさんに言った。
「ライカ、お前も配置通りに戻れ。ここは俺一人で十分だ」
「えぇん??お堅いことで……………っで本音は?」
「お前に任せられるか!?まだ時間は数時間あるんだ、ここで苦手意識を更に強ませて、もしもの時に連携が取れなかったらどうす?」
「はー、はいはい。分かったわよ、それじゃあまたね、ツカサくんにホノカちゃん」
「は、はぁ」
シジュマさんに説得されたライカさんは、最後に俺と柳瀬さんを舐めるような眼つきで一目すると、自分の持ち場に戻って行った。
あの人は相手にするだけで疲れるタイプの人間だ。
現にシジュマさんも疲れ顔で、水筒から水を飲んでいる。
俺はその隙に、モンスターの死骸をアイテムボックスに収納した。
モンスターの反応が消えたのは、視界内では見えない距離だが、俺のアイテムボックスには一定の基準があると思うが、俺が倒したモンスターの死体は距離に縛られない。
普通、収納スキルや魔法袋では者か物から半径一メートル範囲の空間しか、物の出し入れが可能でないらしく、俺のアイテムボックスが他のと違う理由はそこにもあった。
アイテムボックスは俺が倒したモンスターの死体は、距離関係なくしまえるらしい。
ゲームなどで、倒した敵がドロップしたアイテムは必ずゲット出来るようなものだと俺は思う。
逆に考えると、しまえるというのは、出すことは俺の近くでないと出来ないからだ。
普通のアイテム類については、俺が買ったものや拾った物でないとアイテムボックスの中にはしまえないことが検証済みである。
拾ったものと言ったが、露店や店からの盗み行為で拾ったアイテムは流石に入らなかった。
これは盗むためやったとかではなく、店に置いてある商品はどういった判定になるのか知りたくて検証しただけで、本当に盗む気は無かったと弁解しておく。
倒したモンスターのそばまで移動しなくてもいい、と言う便利な機能に感謝しながら、シジュマさんがどう出るのか待つ。
「ふぅ、すまんかったな。ライカは悪気があって言っているわけじゃねぇんだ。大目に見てやってくれ」
「あー、はい」
「わ、分かりました。仲良くできるように頑張ります」
俺はライカさんの目線が嫌いだが、どうこう言って騒ぐような事でも無いので適当に、柳瀬さんは苦手意識を頑張って直す為に意気込んで、それぞれ返事をする。
最も、話はそれだけで終わるはずもなく、シジュマさんは俺に説明を求めてきた。
「それで?モンスターを見つけたってホノカが連絡してきたんだが、どこにいた?」
「えーっと信じてもらえないかもしれませんが、肉眼でぼんやりとわかる程度の距離にモンスターを三匹を感知したんです」
俺はマップ機能の事をほのめかした言い方で真実を話す。
話を聞いたシジュマさんは少し頭で考えたら後、こう言った。
「肉眼で認識できない距離の敵を感知か…………。もしかして感知系のスキルを持っているのか?」
「まぁ、そんな感じです」
感知系のスキル、そんなのがあるんだな。と俺は初めての情報に頭を回転させる。
俺の読んだ本にはそこまでの情報は書いてなかった。
アルケーミに着いたら、魔法系の本を優先的に読むとしようか。
知っておけばいざという時に役立つ情報があるかもしれない。
そうやって、今後の予定を頭の中で決めている間も話は続く。
「うむ、君たちがどれくらいスキルを持っているか?などといった、探りはしないから安心してくれ。他の冒険者の技能やスキルを強引に聞き出すのは、マナー違反だからな」
「そうですね、ありがとうございます」
「それで、倒したモンスターの事だが諦めて貰いたい。馬車は既に動いているし、時間がかかる。俺達の依頼は飽くまでも護衛だ」
歯切れが悪そうに、モンスターの素材を諦めてくれ。と言ってくるシジュマさんに、俺は「問題ないです」と答える。
「もう回収してあるから、問題ないです」とは口が裂けても言えない。
「そうか……………、こからは俺の個人的な質問何だが、ひょっとして高ランクの冒険者だったりしないか?」
「いえ、俺達はDランクですが?」
俺がどうしてそんな事を聞くのだろう?と表情に出ていたらしく、シジュマさんは直ぐに答えてくれる。
「違ったか、すまない。あれだけの魔法を連続使用していもんなんで、護衛依頼だけ初心者で、個人の力としては高ランクかと思ったんだ。ホノカさんもな」
「っえ!?わ、私もですか!?」
高ランクの冒険者だと思われていたのは俺だけでは無かったらしい。
驚いた柳瀬さんが、目を大きく開けてシジュマさんに理由を尋ねる。
「あの、私は特に戦闘を見せたりしてませんが?」
「戦闘というよりも報告に来た時の速度だ。馬車が動いているなか、俺が感知できない速度で走ってきただろ。しかも一切の息切れ無しでだ。本気で動いたらどんな速度が出るのか見てみたいものだ」
「そ、そんな。私はちょと軽めに走っただけですよ」
シジュマさんの理由を柳瀬さんは「そんなことない」と弁解する。
だけど、柳瀬さんのちょっとは、普通の人からすれば全力疾走に近い速度があるんだけどな。
この世界に転生してから、元々足が速かった柳瀬さんのスピードは更に強化されているみたいだ。
差し詰め、流石ゲームのような異世界、レベル機能みたいなのがデフォルトである。
やったらやった分だけ必ず成長する、そんな世界は大好きだ。
弁解する柳瀬さんを遮って、シジュマさんは「謙遜するな」と続けた。
「速さだって立派な力だ。それに、ホノカさんははツカサ君が報告を頼むと、直ぐに向かって来たのだろう?ホノカさんがツカサ君がモンスターを一人で対処出来ると信頼している証拠だ。信頼もまた力なんだよ」
「信頼が力……はい!ありがとうございます」
「そろそろ戻る」とシジュマさんは言うと、馬車を降りて走って先頭に向かった。
それは、柳瀬さんまでとはいかないが、俺が出せないスピードを出している。
俺は、重たい鎧を着てあのスピードを出せるのだから、素直に凄いなと思う。
俺がモンスターを倒してから、また時間が経った。
半分のくらいの距離で小一時間の休憩を取り、それからさらに数時間アルケーミの街に向けて走る。
このまま何事も起きない内に街に着くと、誰もが思ったその時、俺のマップに大量の赤点が表示された。
油断すると強制イベント発生は、テンプレ過ぎる。
何であとちょっと時に現れるんだよ!?
しかも、大群ときたもんだ。
四、五体って規模じゃない、数十体規模の反応があり、赤点同士が重なり合い、この縮図のマップだと正確な数が数えれない。
突然出来事に、俺は思わず悪態をつきそうになるが、寸前のところで押しとどめて、柳瀬さんに伝える。
「柳瀬さん敵反応だ」
「またなの?シジュマさんに伝えてくるね?」
「いや、ちょっと待って」
数時間前と同じ様にシジュマへ伝えに行こうとする柳瀬さんを俺は止める。
俺一人で対処できるかどうか分からない数だからだ。
「今回は数が多い。気配が認識出来る距離になったら嫌でも分かる」
「数が多いってどの位いるの?」
「少なくとも二十以上、反応が重なり過ぎて数え切れない」
「それどうするの!!?」
「まぁ、何とかなるだろ?」
柳瀬さんが俺から敵の数を聞くと、余りの多さに慌てふためくが俺は楽観的に返す。
余裕の答え、そう思っても仕方がない受け答えを俺はしてしまったが、内心焦りまくりだ。
ヤバい、ヤバい、ヤバいぞ。
数え切れない程の大群と戦ったことなんか、何日か前のゴブリン討伐以来だ。
あの時は小沸きで出てきたのと、敵が雑魚敵の代名詞、ゴブリンだったから何とかなったが、今回は大量スポーン。
しかも、敵の種類が不明というオプション付き。
難易度が高い事は確か状況だ。
俺は段々と近づいて来る赤点を見ながら、周囲の地形を確認する。
森の中、とまではいかないが、両脇には林が広がっている。
森の中から来たら、発見が遅れるぞ。
最悪、赤点はまだ遠くで感知しているだけ、こちらに到着まではまだ時間がある。
俺はその時間を使って対策を練ることにした。