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3話「転生者が一人でないのもよくあること」


 俺が最初に感じたのは自身の身体に影響する重力と、頭上からサンサンと降り注ぐ太陽の光だった。

 さっきの女神様空間と違って、重力と空気の抵抗がある。

 ガヤガヤと町中にいる様な人の声が聞こえてきた。

 意識が覚醒している事に気が付いた俺は、目を開ける。



「うっ!」



 眩しっ!

 目を開けると光が差し込んで来て、たまらず呻き声が出てしまう。

 太陽の光は本が焼けたりするのを防ぐ為に、カーテンは年中締め切っている俺には日中の太陽光は辛い。

 しかし、気分的に辛いだけであり、数秒もすれば慣れてくる。

 そして、まだ少しぼんやりとする目で辺りを見渡した。

 如何やら心配していた森ではなく、町中に転生したらしい。

 建物は石や木造の中世ヨーロッパ風、人が着ている服も現代にあるような格好ではなく小説の中に書かれている様な少し見慣れない格好だ。



「ここが……異世界!!」



 よっしゃ!

 取り敢えず転生は成功みたいだ。

 チートが無いのは残念だけど、悔やんでも仕方がない。



 俺は転生したことに浮かれていた。

 だから、不意を突かれてしまい、心臓を大きく冷がらせる結果となる。



「ここどこ!!?」


「ッ!!」



 隣から聞こえる声に俺はビビった。

 何故なら俺の隣には



「あれ?易波君!!?」



 俺の名前を呼ぶ、もう一人の転生者がいたからだ。

 チラリと横目で観察すれば、どこか判別がつかない学校の制服姿の女の子が見える。

 歳は平均より低い俺の身長よりも低いことから、俺と同じくらい。

 彼女はショートカットボブ(というらしい)の赤毛っぽい茶髪を揺らして、俺をガン見している。

 不安そうな顔が、俺を見つけた瞬間明るくなった。

 彼女は俺の名前を知っているらしいが、俺には貴女が誰だかわかりません。



「……誰!?」


「えっ!!?」



 余りの驚きに声に出ていた。

 そんな俺の呟きに女の子がはショックを受けた様子になる。

 彼女は縋るような声で俺に言ってきた。



「あの!柳瀬穂香やなぎせほのかって覚えてない?……ほら!中学三年の時に一緒だった」


「柳瀬……あぁ!思い出した」



 彼女、柳瀬さんが名前を言ったことで俺はようやく彼女の事を思い出した。

 柳瀬穂香、俺が中学三年生時のクラスメイトだ。

 根暗な俺と違って陸上部のエースで、全国大会にも出場して上位の成績を収めているクラス内カースト上位者。

 クラスの運動が出来る女の子って言えば分かるだろう。

 何かと俺に話しかけてきたりすることが多かった人だ。


 高校はどこに行ったのか知らなかったけど、二年間全く合わなかった柳瀬さんが何故異世界に?

 というか良く覚えていたな。

 俺も、柳瀬さんも。



「じゃあ、また」


「……ぇ!?」



 二年も合わなかった人を覚えていた事に若干驚きながらも俺は柳瀬さんに挨拶をして歩き始めた。

 ここで小説の中の主人公なら、異世界に転生して不安がるヒロインに声をかけて仲良くなるのがテンプレだが、幾ら同郷の仲だからといってそんなことをする程俺はお人好しではない。



 スタスタスタ、ピタ。


   スタスタスタ、ピタ。


 スタスタスタ、ピタ。


   スタスタスタ、ピタ。



 俺の後ろを付いてくる柳瀬さん。



 なんでついて来るんだよ!

 話は終わったはずだよね!?

 えぇい!このままでは埒が明かない。



 俺は歩き始め、止まる……と見せかけて柳瀬さんが止まる動作に入った瞬間、走り出した。

 万年ボッチで友達のいない俺は、柳瀬さんと一緒に行動するということが思いつかなかったのだ。

 思いついてもそれを実行できるだけの度胸もない。



「あっ!お願いだから待ってぇ!!」


「うぐぅ!」



 よく考えれば陸上部エースだった柳瀬さんを振り切ることなど、殆ど運動をしない俺には不可能なことだった。

 不意を突いて走り出し距離を置いたにも拘らず、僅か数秒で追いつかれ肩を思いっきり掴まれてしまう。

 女子に言うのもなんだが、俺よりも握力あるんじゃね!?って思うくらいの力強さで掴まれている。

 俺はその手を離してもらうためにも走るのは辞めた。

 そして、後ろを向いて柳瀬さんと向き合い、言葉を探す。


「……」


「……」



 お互いに沈黙して物凄く気まずい。

 どうやって話を切り出せば良いんだ!?

 友達のいない俺から話題を切り出せとか無茶は止めて貰いたい。



「はー、ふぅー、はー、ふぅー。えーっと易波君?」


「何?」



 俺が言葉を探して迷宮を彷徨っていると、柳瀬さんが深呼吸を数回繰り返し俺の名前を呼んだ。

 俺は、早く解放されたいと思いながら返事をする。



「どうして走ったの?」


「……」



 初っ端から答えにくい質問が俺にクリティカルヒットする。

 あなたから離れたかったからです。

 などとは言えないのは俺でも分かる。

 俺が黙っていると、柳瀬さんは別の質問に変えた。



「じゃあ、易波君にはここがどこなのか分かるの?」


「……異世界」



 今度の質問は簡単に答えれるものだった。

 俺は少しぶっきらぼうになってしまったが答えを言う。

 そんな俺の回答に満足したらしい柳瀬さんは微笑むと、俺にお願いをしてきた。



「じゃあ、易波君!私も連れてって!!」


「はい!?」



 何を言った?

 私も連れてって、だと!?

 それは「私をさらって!」的な意味だろうか?

 いやそれは無いな。

 どう考えてもそんなことを言いたいわけではないだろ。

 予測だが、俺と一緒に行動したいって言ってるのだろうか?


 予測だけで断言してはいけないと、俺は柳瀬さんに理由を尋ねることにした。



「あ、あの?理由を聞いても?」


「私はここがどこなのか聞いてもピンとこないの。……これからどうすればいいのかも分からない。だけど、易波君はここがどこなのか、どう行動すればいいのか分かっているみたいだから、ついて行った方が何も分からないよりはマシかと思って」


「マシ、ねぇ」



 俺は集団行動が嫌いだ。

 学校でも、何処かに出かける時でも、常に群れている他人を見て、誰かと一緒に行動しないと行動できないのか?と思う。

 柳瀬さんも同じで、一人は嫌で誰でもいいから一緒に行動したいのだろう。

 もし俺以外にいたのなら、ボッチで陰キャラの俺より他の話しやすい奴を選ぶんだろう。



 俺は柳瀬さんの理由をそう解釈した。

 それが勝手な憶測だということに気づかずに。


 俺が黙っていると、



「……………」


「…お願い」



 柳瀬さんが今にも消えそうな声で俺に懇願してくる。

 それを聞き、俺は溜息が出そうになった。

 全く自分の性格に呆れてしまう。


 普段から話しけられることがない俺は誰かに頼まれる、ということが皆無だ。

 だから、今の状況でも表面上は嫌がっても、心の何処かでは嬉しかったりする。

 同い年の女の子なら尚更である。



 そういえば妹にも、お兄ちゃんは考えが矛盾すぎるよ!とよく言われたっけ?と可愛すぎる妹を思い出しながら、俺は柳瀬さんのお願いを承諾する。

 我ながら考えが甘くてガタガタな奴だ、と自己嫌悪しながら。



「分かった。柳瀬さんの気が収まるまでね」


「…うん!ありがとね!!」


「っ!?」



 俺の答えに満足してお礼を言った柳瀬さんの笑顔に、俺は不覚にもドキッとした。

 今まで感じたことのない感覚だ。

 例えるなら、心臓が跳ねて少しだけ全身が痺れる感覚。



 なんだこの感情は?

 恋愛感情?有り得ない。

 確かに他の女の子と比べたら何かを感じる。

 それだけだ、それだけなんだ。



 俺は基本的に人が嫌いだ。

 と言っても、初めから嫌いだった訳ではない。

 本にハマるまでは好きでも嫌いでもない、無関心だった。

 しかし、本を読み始めたことで価値観が変わってしまう。

 本の世界、作者によって創られた世界が美しく感じたのだ。

 創られた世界は美しい、それとは逆に現実世界は酷く醜く見えた。

 特に人間は絵の様な綺麗さが無いと感じ、現実の人間の容姿を一段と嫌うようになったのだ。


 それでも、柳瀬さんを見ると何かが気になる。

 だけど、俺には何かが分からないでいた。



 いつまでも立っているのは時間の無駄だ。

 俺は異世界に転生してからするべきことを思い出しながら歩き始める。

 今度は柳瀬さんと並んでだ。



「それで?柳瀬さんは何処まで理解してる?」


「学校から帰る途中に友達と歩いていて……。気が付いたら易波君の隣りに立っていた、ってとこまでだよ。ここって地球、じゃないんだよね?」



 俺が柳瀬さんに何処まで理解しているのか聞くと、もう一度確認を取るようにここがどこなのか聞いてくる。

 やはり余り状況を理解できないない様だった。



 まぁ、異世界って言われても簡単には信じられないよな。

 何日か一緒に行動するんだ。

 俺も自信がないが、異世界の情報を教えておいた方が良いだろう。

 女神様にも会ってないみたいだし。



 そう考えた俺は、今度は分かりやすく説明を開始した。



「異世界。最近のラノベによくある設定だけど、知らない?」


「ごめんなさい。本はあんまり読まないの」



 そうか、運動系はラノベなんて早々読まないよな。

 さて、何処から説明したもんか。



「取り敢えず、何で俺達がこんな所に居るのか分かる?分からなかったら、元の世界の最後の記憶を思い出してみて」


「わ、分かった。……………」


 俺の言葉に柳瀬さんは返事をすると、目をつむって記憶を辿り始めた。

 最後の記憶から何が起こったのか、思い出しているのだろう。

 そして、何故顔を赤くする必要があるんだ?

 やがて、答えが見つかったのか、顔色が悪くなった。



 異世界に転生する可能性としたら、元の世界で死ぬことが一番可能性が高い。

 それ以外であるとしたら転移があるが、柳瀬さんの顔色を見るには転生の方だろう。

 だけど、柳瀬さんは何で死んだのか?

 何故俺の隣りに転生したのか?

 偶然俺と同じ時間に死んだのか?



 色々頭を捻ってみたが、やはり分かるわけがない。

 だから俺は考えるのを辞めた。

 他にも考えなければならないことが沢山あるからだ。

 過ぎた事にリソースを割いても無駄に決まってる。

 答えを見つけたらしい柳瀬さんが青い顔のまま、俺に回答を述べた。



「私たち、死んじゃったんだね?」


「…そうなるな」



 俺は殆ど間を開けず肯定した。

 柳瀬さんはどうか分からないが、本人がそういうのなら死んだと思わせるような最後だったんだろう。

 そこまで理解した柳瀬さんに俺は説明を続ける。



「話が戻るけど、最近の小説なんかには、死んだ人が神様なんかによって、別の世界『異世界』に元の記憶を持ったまま転生させるって設定がブームなんだ」


「…私たちも、それに遭ってるって言いたいの?」



 首を傾げて考えを言ってくる柳瀬さん。

 理解が早くて助かります。


 厳密にいうと、俺たちの場合は死んだから転生なのか。

 それとも、元の姿のままなので転移に当たるのかは解らない。

 が、それをこう言った話に疎い柳瀬さんに疑問を投げかけても、おそらく無駄。

 むしろ余計に混乱させるだけだ。

 ならば黙っているのが正解だろうな。

 別にどちらでもここが異世界ってなのは変わらないし。



「そうだ。まぁ、この世界は本当によくあるような設定に似てる」


「と、言うと?」


「現代世界とは幾つか前の時代、中世ヨーロッパ風の時代だ」


「確かに!木造や石造りの家が多いね。周りの人の服装も見たこたがない」


「綿や麻と言った植物性の布を使っているからで、形状も少し見慣れないからそう感じるだけだと思う」



 俺が小説を読んで得た知識を披露すると、柳瀬さんは面白い反応を見せてくれる。

 俺にはゲームやアニメ、小説の中で見慣れているからそこまで感情に変化が来ないのだが、柳瀬さんは修学旅行で海外に行った学生らしい反応をするのだ。

 海外も異世界も、世界が違うってところだけを除けば日本と街並みが大きく変わっているのだから。

 そんな柳瀬さんの反応に「何も知らない人に自分の知識を教えるのは楽しいな」と俺の心は少し踊っている

 普段あんまり話さない人が自分の得意分野になると表情が変わって熱く語り始める現象、と言えばよく伝わると思う。



「あれ?」


「ん?」



 首を傾げる柳瀬さんに俺は、得意げに喋った割には何か間違った事でも言ったか?と内心不安になる。

 が、柳瀬さんが気にしていた事は結構簡単なものだった。



「絹は?ほら、歴史の授業でシルクロードって習ったよ?」


「あぁ、勿論探せばあると思うけど?」


「探せば?」


「絹って物は高いんだ。王侯貴族、金持ち位しか手が出さないってのが定番な設定」



 説明の最後に「この世界は違うかもしれないけど……」と一言入れるのも忘れない。

 この情報が間違っても責任は取りませんよ、と先に言い訳しておくスタイルだ。



 まぁ、元の世界でも絹で作られた布は高いから、絹はどの時代も高級品なんだろう。

 さてと、後説明をしないといけない事はあったけ…?



 俺は他に教えなければいけない事ってあったけ?と脳内で情報整理を行いながら、柳瀬さんと並んで街中を進む。

 数時間前では考えられない状況だ。



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