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27話「柳瀬さんの質問」



 ある日の朝、俺の部屋に元の世界なら珍しく、この世界に来てからは珍しくもない来客が来ていた。



「ツカサ君、ちょっと良い?」


「んあ?………」



 当然俺の部屋に来た柳瀬さんにビックリしながらも、無言で招き入れる俺。

 何で柳瀬さんが俺の部屋に?

 頭の中はそれで一杯だが、なんとか平然を保って柳瀬さんをベットに座らせる。



「……………」


「……………」



 気まずい、むっちゃ気まずいやん!

 いや待てよ、俺は何テンパっているんだろう?

 用があるのは柳瀬さんだ。

 俺は堂々としていれば良いんだ。

 良し、本を読もう。



 読書に逃げることにした俺は、先ほどまで読んでいた本を取り出して……………。



「あ、あのね!」



 柳瀬さんの声に遮られてしまう。

 チラッと顔を見ると、不安そうにしている柳瀬さん。

 一体何が不安なのだろうか?と考えるも、当てはまることは思い浮かばない。



「ツカサ君!別の街に行く為の依頼を受けたってホント!!」


「あ、あぁ」



 なんだよ、そんなことか。



 柳瀬さんが不安がっていたというよりも俺の部屋にわざわざ訪れた理由を聞いて、俺はようやく当てはまる事が頭の中に思いつく。



 俺と柳瀬さんの冒険者ランクがDランクになった日から更に数週間、俺はこの街にある本屋の本を全部読み終えていた。

 いや、全部と言うのはどうかと思う。

 だって、買って読むのは基本的に興味のある本だけだ。

 それに地方の街、それも運搬が元の世界とは段違いに遅い異世界。

 クレーミアに元の世界にあるような本屋を期待しろっていう方がどうかしている。

 まぁ、それでも数十冊は買ってあるけど……………。


 兎に角、この街に俺が居座る理由がない。

 この辺のモンスターだと殆ど相手にならないし、俺が生きる目的はあくまで本を読むためだ。

 ならば必然的に他の街に移住するのは当然な考えだろう。




 街を出るに当たって冒険者の選択は三つある。


 一つは自分の足で歩いて向かう。

 これは時間がかかるし、野宿を何度もしなければいけない場合も多々あり、モンスターに襲われることも少なくない。

 この世界だと、冒険者向けの移動方法だ。


 二つ目は乗合馬車に乗る。

 元の世界で言う、深夜バスみたいな感じだ。

 数人から十数人で馬車に乗って移動する手段で、一応護衛クエストを受けた冒険者も付いていたりするので安全性がある一般人向けの移動方法。


 最後の三つ目は商隊の護衛クエストで一緒に向かう。

 これは完全に冒険者にしか出来ない方法だ。

 この世界では町や村にはそれぞれ頻度は違えど商人たちが商隊を組んで物資を運んでいる。

 モンスターや盗賊といったならず者が普通に現れるこの世界、商隊は格好のエサであり、それをギルドは常備依頼として扱っている。

 冒険者の中には、その護衛クエストのプロとして仕事をしている者もいるくらいだ。




 それで俺は一週間に一回ある商隊の護衛クエストを一人で受けたと言う訳である。



 なぜバレた!?」


「メリーちゃんが教えてくれたんだよ」



 あれ?

 最後の声に出てたパターンか。

 まぁどっちにしろ、今日にでも話そうと思ってた所だから、ちょうど良い。

 この状況に乗らしてもらおう。

 それにしても、ちゃん呼び!?

 いつの間にそんなにも仲良くなったんだ?

 友達の居ない俺には全く理解できない現象だ。



「この街で手に入る本は粗方手に入れたから、アルケーミに行ったら新しい本があるかな~?って思って」


「そんな事の為に別の街に行くの!?」


「そんな事とはどういう意味だ!!」


「ひぃ!」


「新しい本の為に別の街に行く。別にそれでもいいじゃないか!?元の世界だと、家にいても揃うがこの世界だとそれは難しい。貴様らリア充だって、服や小物を買いに出かけるではないか!?それと同じ行為であると俺は断言する!」


「あ、ウン」



 しまったぁ!!

 そう思った時にはすでに時遅し。

 柳瀬さんは驚いた表情で固まっている。

 遂、カッとなって思ってること全部ぶちまけてしまった。



 やばい、ショックだ。

 自分の本性と言うか家での性格で喋っちゃった。

 身内以外は知らないのに。



「ツカサ君、さっきの素?」


「あ、ハイ。ソウデス」



 やっぱり「キモイ」「マジ、何なのコイツ」とか思ちゃったりしてるのかな?

 してるだろうな。

 俺は表と裏の性格が激しい奴だから。

 表は微真面目で普通の男子高校生。

 裏はただのオタクで頭のオカシイ変人。

 そんな奴……………



「ふふっ」


「え!?」



 柳瀬さんが笑っている。

 バカにしたような笑でなくて、本当にうれしい時に見せるような笑みだ。



 何で?

 何で柳瀬さんはそんな笑みを浮かべるんだ?



「やっと……………やっと本当の顔を見せてくれた」


「なっ!なななな、にゃにを言って!?」



 舌が絡まる。

 何でテンパっているんだろうか?

 頭の中では冷静なのに……………。

 一体何が!?



「ありがとう」


「っ!」



 体に電気が走ったかのように震えた。

 冷汗も出ている。

 こんなにも自分の体に何が起こっているのか分からなかったことはない。

 体に異常はないはずだ。

 ならば精神的な問題なのか?

 自分でもこの気持ちが何なのかわからない。

 でも、これだけは言える。

 ちょっとだけ、柳瀬さんが可愛いと思ってしまう自分がいた。




 目を瞑って深呼吸、そうすると気持ちが落ち着く。

 まだ、動揺している気もするが、何とか表情に出ないようにする。



「それで?俺はアルケーミに行くけど、柳瀬さんは?ある程度のことは教えたはずだから、一人でも問題はないはずだけど?」


「わ、私も一緒に行くよ!ツカサ君も一人でいるよりは、私と二人でいた方が寂しくないでしょ?」



 別に寂しくなんかありません。

 本さえあればどこでも暮らしていけます。



 そう思っても口に出せない性格。

 なし崩し的に柳瀬さんがアルケーミに付いてくる事が決まってしまったのあった。




「そう言えばツカサ君って、どうして本が好きなの?」


「え?」



 本題らしき目的が終わった後も、何かと俺の部屋に居続けた柳瀬さんが急にそんなことを言い出してきた。



「だってツカサ君は本を読むのが好きなんでしょ?ほら、今だって読んでるし」


「何でそんなこと聞くんだ?」


「え!?――――――は気になるし」


「声が小さくて聞こえないんだけど」


「ふぇ!?あ、い、いや、何でもないよ?」



 何故俺に聞く。

 知らないし。



 理由を言う声が小さくて聞こえにくかったと言っただけなのに、柳瀬さんは慌て首を振って否定した。



 まぁ、柳瀬さんの事だ。

 どうせ、単なる好奇心で聞いたのだろう。

 よくある事だ。

 クラスの上位者共、マジでしつこすぎて鬱陶しかったわ。



「現実じゃないから」


「え?」


「俺が本を読む理由だよ。………本に書いてある事は全て物語で、現実じゃない。だからそんな想像の世界に逃げているだけ。……………勿論、読んでて楽しいからっていう理由もあるけどな」



 本を読むのは現実でのしがらみを忘れさせてくれる。

 現実では有り得ないような出来事、能力、交友範囲、そんなものにあこがれている俺は、本を読みながら「いつか自分でもこんなことが起ったらいいな」そう思って本を読む。

 実際に言うと、俺は異世界召喚を体験してるんだが、元の世界で起こらない様な生活を体験しているんだが、全くもって本を読むのをやめれない。

 初めの方はただ単に面白いから読んでたはずなのになぁ。

 今だと『面白いから読む』それもあるが、『取り敢えず読む』そんな感じになっている。

 本を読まないとイライラしてくるし、それ以外どうやって過ごせばいいのか解らない。

 さしずめ、読書中毒。

 私、これがなくちゃ生きていけない体にされたの……………って俺は何考えているんだろうか。

 この一人妄想癖もどうにかしないといけない。

 こともないのか?

 意外と楽しいし。



 柳瀬さんに話した内容の六倍くらいを独り言として考えていると、無言だった柳瀬さんから反応が返ってきた。



「…………………………。そ、そうなんだね。話してくれてありがとう」



 一瞬、悲しそうな顔をした柳瀬さんだったが、直ぐに笑顔になるとお礼を言ってきた。

 そのまま、おやすみと言って柳瀬さんは俺の部屋から出ていった。



 最後の質問、何がしたかったんだろう?

 ま、これで読書に集中できるな。



 柳瀬さんが何を考えているのかなんて、分かりっこない。

 俺は逃げるようにして、読書に戻ったのだった。



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