25話「ゴブリンの討伐完了?」
この辺りを一気に焼き尽くす魔法は、炎属性中級魔法の『フレイムフィールド』しかないと考えた俺は、何時も通りイメージに入る。
初めて行う中級魔法に、俺はイメージと共に演唱も省略せずに行う。
「大地のマナよ、我が魔力を喰らい我が願いを聞きたもう!その巨大なる力を炎に変え、全てを焼き払う地を作りたまえ!」
炎をまき散らして、辺り一面を焼け野原に!
火力は十分なはず、後はイメージをしろ!!
「『フレイムフィールド』ッ!!!」
俺が演唱を完成させた途端、視界に映るMPゲージが殆どなくなる。
それと同時に、体から魔力が拡散される感覚を感じた。
「…………………」
「…失敗したの?」
何も起こらない。
いや、後は着火させるだけだ!
ぼぅぉぉおぉぉぉ!!!
俺の意志を読み取ったかのように、一点から火が燃え上がる。
油の代わりに俺の魔力を燃料としているのだろう。
火は一気に炎となり燃え広がって、辺りを業火の炎で焼き尽くす。
自然破壊がぁ~とかは言ってられない。
こちらは命が掛かっているのだから。
「柳瀬さん、こっちに!」
「うん!やぁぁぁ!!」
柳瀬さんは足止めしていたゴブリンを弾き飛ばすと、俺の近くに戻ってくる。
俺の近くにいる限りは、フレイムフィールドの影響はない。
ゴブリン達は炎に包まれても、俺と柳瀬さんに向かって走ってくるが、辿り着くゴブリンはいなかった。
マップを確認しても、赤点はみるみるうちに減っていってる。
一先ずは、安心か。
もし残ったとしても、柳瀬さんで十分対処できるだろう。
そう思うと力が抜けてきた。
「ふぅ」
「つ、ツカサ君!大丈夫っ?」
「問題ない。少し魔力を使い過ぎただけ」
力が抜けて地面に座り込んでしまった俺に、柳瀬さんが心配してくれる。
俺が問題ない事を伝えると、柳瀬さんは剣を握りしめて辺りを警戒していてくれた。
なので俺は安心して魔力回復に努めることができる。
俺はアイテムボックスを操作して、魔法薬を取り出す。
幾ら魔力が自然回復すると言っても、これだけ減っていれば時間もかかる。
故に緊急用の魔法薬だ。
飲むと魔力が徐々に回復していくと言う、如何にも異世界って言える薬。
ゲームなんかだと、こういった物はできるだけ使わずに取っておくものなんだが、ここは異世界で現実だ。
使い惜しみはするべきではない。
俺は瓶のコルクを外すと、ぐい~!っと一気に飲み干した。
冒険者用の薬は一瓶の量は少ないので、一気飲みは難しくない。
元の世界に例えるなら、小型の栄養ドリンクみたいな大きさだ。
味は、うん。
マズくも美味しくもない。
元の世界の栄養ドリンクみたいな味だなぁ。
そう思いながら視線を左上端に持っていくと、MPゲージが段々と回復していくのが見えた。
自然回復の十倍程の速度で回復していくMPゲージ。
もう四分の一が回復できたお陰で、多少は動けるようになった。
「んっと」
「ツカサ君もう動いても大丈夫なの?」
「魔力は大分回復できた。今度は俺が警戒しておくから、柳瀬さんも休んで」
「あ、うん。ありがと」
俺は交代で柳瀬さんに休むようにいうと、柳瀬さんは素直に礼を言ってから休憩を始めた。
柳瀬さんもHPゲージをかなり削られているからな。
っと、柳瀬さんが回復薬を飲んでいる間に、ゴブリンの残党が居ないか確認を取らなきゃ。
マップを見る限り、赤点はいない。
ということは、俺に敵対する生物は範囲内には居ない、ということになる。
まぁ、これで生き残って居たら、称賛に値するがな。
辺りは俺のフレイムフィールドで焼け野原状態だ。
草は焦げ、ゴブリンだったものが倒れている。
死体が焼けて、正直臭い。
死体の焼ける匂いは人間の本能的に嫌悪を抱くものと本に書いてあったが、普通の人と少しだけ感性が違う俺でも、それは当てはまっていたらしい。
やり過ぎたか?
これなら、時間はかかるけど、中級魔法の『フリーズレンジ』の方が死体が残るから良かっただろうか?
まっ、過ぎたことだ。
悔やんでも仕方がない。
俺がやり過ぎた事に後悔はするも、過ぎたことは振り返らない。
と都合のいい解釈をしていると、柳瀬さんの回復が終わったようだ。
「ツカサ君、回復薬飲んだよ?ゴブリンはどうなったの?」
「マップには反応がない。もう居ないと考えていいと思う」
「そっか。なら、帰ろっか?」
「その前に、この辺りのはダメだけど。残ってる死体があるから、それをアイテムボックスにしまって持って帰ろう」
持って帰れそうなゴブリンの死体を探す柳瀬さん。でもね、素材になれそうな部位はアイテムボックスに勝手に仕舞われるんだ。それに、こんな事しなくても冒険者カードに討伐数が記されているので、依頼の達成における心配はない。
冒険者カードにそんな機能がある事を知ったのは、カードッグの討伐をした次の日のだった。
メリーさん、こんな重要そうな機能を説明し忘れるのはなぁ。
それにしてもこの冒険者カードって、どういった原理で出来ているんだろう。
魂とかを察知している、ってのが定番だけど。
冒険者カードには魔法的な力が働いているから、深く考えても意味の無いことだと思うけどね。
「ツカサ君もういいよね?」
「あぁ、十分だろ。早く帰って休みたい」
「そうだね」
俺は考えるのをやめて、帰った後に読む本のことを考えながら、帰路に着いたのであった。
と、ここで今日の予定が終わるわけではないのだ。
俺と柳瀬さんは依頼でゴブリンを討伐していた訳で、依頼を終わらせたら達成であろうと、失敗であろうとギルドに報告をしなければいけない。
だから街に戻ると、休みたい体を動かしてギルドへと足を運ぶ。
キィーと、もう幾度も聞いた音を出すドアを開けてギルドに入ると、これまたいつまで経っても変わらない騒音と、吐き気を促す食べ物の匂いが俺に襲い掛かる。
いつになったら慣れるのやらって思う。
もしかしたら、慣れることはないのかもしれないが。
ギルドに入った事で、気持ち悪くなった気分を表情に出さないように気を付けてながら、受付カウンターに向かう。
そこには、ニコニコとした笑顔のメリーさんが手招きをして待ていた。
勿論、他の受付嬢は忙しそうに書類仕事や冒険者の対応をしていたが……。
メリーさんって新人なんだよな?
俺と柳瀬さんの対応をしている所しか見たことがないんだけど。
いらない子扱いを受けてる訳?
それとも俺と柳瀬さん専属の受付嬢?
…そんな専属いらねー。
「お帰りなさ〜い!その様子だと、依頼は達成らしいですね!早速報告を聞きましょうか」
「あ、はい。えーと、多分ですけどゴブリンの巣を一つ、焼き払いました。ツカサ君が…」
いつも通り、柳瀬さんがメリーさんに今日の報告をしたんだけど……伝え方が悪かったのか、メリーさんが固まった。
あんまり言わないで欲しかったな、焼き払ったとか。
「な、何やっているんですか!?」
「メリー!!声大きいわよ!!静かに対応しなさい!!」
「す、すみません〜!」
あ、メリーさんは毎度おなじみの様に先輩受付嬢に怒られた。
メリーさんは大きな声を押さえようとしながら、それでも離れている先輩に聞こえる様にと声を上げて謝る。
結局大きな声を上げることには変わりがないんだな。
「ゴホン、私ってば興奮すると、声が大きくなっちゃうんですよねー。気をつけないと…」
「メリーさんらしくて良いと思いますよ?」
「おぉ!ホノカさんは良い人ですね!慰めてくれてありがとうございます!」
「メリーさん声、声!また叱られちゃいますよ?」
「うおぉっと、またやっちゃいました。てへへ」
メリーさんと柳瀬さんが友情を育んでいる間、俺は手持ち無沙汰になっていた。
だが俺には時間潰しくらい造作も無い。
こんな時こそ読書タイムと、アイテムボックスから読みかけの本を取り出して読み始める。
早くその雑談が終わってくれないかな?
そうして本を読み始めること十分ほど、ついぞやキレた先輩が降臨した。
「うらあ゛!メリー!!アンタは今が勤務時間だということを忘れている訳じゃないでしょうね!!」
「い、いらい、いらいれふ!!」
降臨された先輩受付嬢はメリーさんに詰め寄ると、両手でほぺったを引っ張りムニィムニィと伸ばしはじめる。
メリーさんは相手が先輩てこともあり、あんまり抵抗出来ていない様子。
そのせいで先輩受付嬢はメリーさんへの愚痴を言いたい放題。
あ~、うるさくなった上に野次馬が増えて来たよ。
一体何時になったら終わるんですかねぇ?
この茶番は!?