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23話「時間は経って」



「いらしゃいませ〜あらあら!昨日の」


「こんばんは、部屋は空いてますか?」



 宿のドアを開けると、出迎えてくれたのは奥さんだった。

 深夜と呼ぶにはまだ早い時間であると思うが、夜になってから大分経つのに出迎えてくれるとはご苦労なことである。

 俺は奥さんに出迎えてくれた事に感謝しながら「空いてる部屋はありますか?」と聞くと、奥さんは首を傾げて俺に言葉を返してきた。



「空いてる部屋?ありますけど、どうして?お連れの女の子はもう戻って部屋で休んでいますよ?」



 一瞬、奥さんが何を言っているのか分からなかったが、直ぐに俺は言うべき事を言ってなかった事に気づいた。



 そうか、昨日と同じで今日も柳瀬さんと同じ部屋で休むと勘違いしてるのか。

 なら仕方がないか。



 俺は奥さんに昨日とは違う事を説明する。



「昨日とは違って部屋も余ってる見たいですし、お金も余裕があります。だから部屋を分けようと思って。流石に同年代の異性と同じ部屋はキツいですから」


「…そうだったの。なら、お部屋代は銅貨十枚になりますね」



 何やら微妙な顔をしていた奥さんだったが、直ぐに表情を直し営業スマイルで接客を再開してくれた。

 俺は銅貨十枚を払い終わると、部屋の位置を確認をしてから階段を登って部屋に向かう。

 空いてる部屋は昨日泊まった部屋の隣側。

 だから何ってわけだけど、柳瀬さんは部屋にいると奥さんは言ってた。

 もしかしたら、部屋の前で俺の帰りを待ってるかもと思ったが、いなかった。



 今日の朝は居たのに、どうしてだろうか?

 もしかして、行動を教えたからか?



 と朝の記憶を思い出してる内に、何かあったらプレートで一方的に連絡を取ると言った事を思い出した。

 俺は部屋を分ける事を説明する文字を刻んだプレートを作り、柳瀬さん部屋の前に置いておいく。



 これで騒がれずに済むだろう。

 明日、ギルドで集合した時はどうなるか分からないけどな。



 俺は用意された部屋に入ると、買ったばかりの本を一冊読み切ってからベットに倒れて寝た。











 朝起きると、日がある程度昇った時間帯だった。

 太陽の昇り具合から見るに、9時かそこらだろう。

 俺は眠い目を擦りながら階段を降りて、奥さんに今日も泊まるかも知れない事を伝える。



「分かりました。お部屋は出来るだけキープしておきますね」


「はい、ありがとうございます」


「それと、お連れの女の子はもう宿を出たわよ。相当気難しい顔をしていたから気をつけてね」



 柳瀬さんはもう出たのか。

 しかし、気難しい顔を浮べていたってなんだよ?

 思い当たる事が幾つかあるけど、そこまでじゃないと思うぞ。

 ともあれ、先に宿を出ているなら長く待たせる訳にはいかないな。



 俺は奥さんにお礼を言うと、まだ眠い足取りでフラフラトボトボとギルドへと向かった。

 キルドに着くと、騒がしい声が耳に鳴り響き、濃いい料理匂いが何もない胃の中を掻き乱し気分を落ち込ませる。



 はぁ、もう気分が悪い。

 今日は帰って休んでもいいかな?



 と気分を沈めながらギルド内にある掲示板向かっていると、



「……ツカサ君おはよう」



 何やら俺を睨んでくる柳瀬さんがいた。

 いや、居るのはいんだけど、何故睨む?

 連絡用のプレートで部屋を分ける事は説明しておいたし、理由が全く思いつかない俺は何事もなかったかのように接することにした。



「あぁ、おはよう。今日はどうする?」


「……それなんだけど、今日はこの依頼を受けて見ない?」



 俺を待っている間に、柳瀬さんは掲示板を見ていた様で、気になった依頼を見せてくる。

 特に変わった依頼でもなかったので、承諾して依頼をメリーさんの所で受けてから街を出た。



 いつになったら、柳瀬さんと別れようか?

 そう考えながら、今日も依頼を開始するのだった。











 * * * * * * * * * * * * * * * * *











 俺と柳瀬さんが異世界に転生してから、一週間近く経った。

 今はぼんやりとしながら、依頼の『ゴブリン討伐』に向かっている最中だ。

 初めての人型モンスターを討伐する依頼だからか、俺も柳瀬さんも言葉数が少ない。

 まぁ、俺は元から会話は少なかったんだけどな。



 この一週間で、俺はこの世界の歴史や常識を勉強した。

 勉強は嫌いだったが、異世界の知らない情報を勉強するのは楽しい。

 点数があるわけでもなく、強制されている訳でもない。

 だから、俺でも出来た。

 まぁ、勉強といっても、ただ単に気になった本を買って一通り読むだけの単純なものだけど。


 そうやって本を読んで勉強した元の世界と違った世界は、やはりテンプレのお手本の様な世界だった。

 まず、俺と柳瀬さんが居るこの街は『クレーミア』といって、街が属している国の最南端に位置する街の様。

 クレーミアが属している国の名前は『トリミア王国』

 名前の通り、王が治める封建制度で世間では特に批判らしい批判はない王国。


 女神様が言っていた魔族についてだが、詳細は余り分かっていない。

 分かっていることは、人型で知性があるという事と力と魔力が高い事、後は非常に攻撃的で同族でも仲間割れをすることが確認されているらしい。

 今までに確認されていなかった種族だが、何故唐突に現れたのかも不明で、専門家達の間では「異世界から来た」という話も出ているそうだ。

 余り信憑性に欠ける話となっているけど、異世界から転生した俺はありえなくない話だと思っている。


 人間側の被害状況だが、国の北部から侵略を受けているらしく、魔族が現れた100年前に最北端であった都市は落とされ、今では魔王軍の要塞化としているそうだ。

 今までに何度も、国土を取り戻そうと王国軍を送ったが、その度に返り討ち。

 少し前にあった遠征でも、将軍が討たれてしまい、人間と魔族の戦線が変わるだろうと本には書いてあった。

 国は王国軍以外でも、義勇兵や傭兵団、冒険者を雇い魔族に対抗しているそうだ。


 女神様はこんな種族間戦争を俺に止めろと言っている訳で。

 「無理じゃね?」そう思った俺を責め立てるのは誰も出来ないと思う。

 物語の勇者の様に、こんな義理もない世界の為に命をかけて戦う事は、俺にはできない。






「反応あり、五体」


「っ!分かった!いつも通りで良い?」


「あぁ」



 マップに反応があったので、回想見たいな事は辞めて戦闘に集中する。


 今日の依頼は『ゴブリン討伐』だ。

 街の近くに出没したゴブリンを駆除して欲しいという依頼で、Dランクの力がいる。

 RPGゲームの定番人型モンスター『ゴブリン』

 そんな雑魚がDランク、この辺りでは高レベルのモンスターとはメリーさんの言葉。

 あれ以来遭遇は無かった魔物カードックよりは強くないらしいが、数が多い。


 気をつけていかないとな、と俺は気を引き締める。

 俺が柳瀬さんに敵が居ると報告すると、柳瀬さんは頷き走り出した。

 俺はそんな柳瀬さんと自分に防御魔法を掛ける。


 この一週間で固定化した戦闘スタイルだ。

 俺がマップで敵を探索、発見して柳瀬さんに報告。

 報告を受けた柳瀬さんは敵に先手必勝で攻撃を仕掛ける。

 俺は柳瀬さんが敵と接触する前に、一定時間続く防御魔法を俺には勿論、ついでに柳瀬さんにもかけておく。



「やあぁぁぁぁ!!!」


「っふご!?」



素早い柳瀬さんの特攻に、奇襲を受けたゴブリンは攻撃を受ける。



 簡易的な鎧を着けている柳瀬さんだが、もしものことがあってはいけないから防御魔法は外せないが、柳瀬さんはこの一週間で剣の腕がますます磨きがかかってきた。

 流れる様に敵を切る、切る、避ける、切る、避ける、また避ける。

 一週間前までは全くの素人だった柳瀬さんに聞いた話だと「何となくどう体を動かせば良いのか直感的に分かるの」らしい。



 これが適正の力なのだろうか?

 俺にもあんな風に剣が扱えれたらテンションが上がるのに、っと柳瀬さんばかりには任せていられない。



 俺がただ単に突っ立っていると勘違いし、突っ込んで来た一匹のゴブリン魔法を唱える。

 いや、唱えるなんてものじゃない。

 ゴブリンの周りに炎を思い浮かべるだけだ。



「『ファイアウォール』」


「グギャッ!?」



 ゴブリンは悲鳴を上げながら俺が生み出した炎の壁に焼かれ消し炭になり、その命を終えた。

 視界に映る敵情報からも死が確認されると、俺はそのゴブリンから注意を背ける。

 がしかし、俺はちょっとしたミスをした事に気付く。



 しまった!

 死体を残さないと、報酬や素材が残らなかったな。

 やっぱり火属性は火力があるけど、その他方面を見るとイマイチ使い勝手が悪い。

 その辺りの判断力がまだまだだなぁ。



 反省を出来るだけすることにして、余計なことを考えるのを辞め、俺は依頼のゴブリン殲滅に集中した。



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