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22話「二か月分の報酬」



 俺の知識で元の世界に例えた説明で、何とか柳瀬さんに分かってもらえた。

 そして、元の話はなんだったか?

 メリーさんの言葉で思い出す。



「魔物の価値が分かった所でどうしますか?ギルドとしては売ってくれると助かるんですが?」


「えーっとどうしようか?」



 柳瀬さんが俺に判断を押しつけてきた。

 ならば、俺も判断を柳瀬さんに返す。



「リーム鳥とその他は全部売って、報酬は半々にする」


「カードッグの方は?」


「二体ずつで分けるから、勝手に判断して」


「……別にツカサ君が決めてもいいのに」



 又しても柳瀬さんが何か呟いたが、俺には聞こえなかった。

 「えっ?なんて言った?」と難聴系主人公みたいなことは言わない。

 それよりも、俺の取り分であるカードッグをどうするかだ。



 折角、強い魔物が武具の素材になるってメリーさんが教えてくれたから、一体は取っておくか?

 一体でも当面は大丈夫そうな報酬が貰えるそうだし、アイテムボックスに入れておけば、死体の劣化は免れるだろう。



 そう考えた俺は一体をアイテムボックスに、もう一体を換金へと回すことにした。

 素材も確保しつつお金も手に入れる。



 実に両立出来た配分だ。

 これがもし元の世界で同じような場面に陥った時、つまり高価なものを偶々手に入れてしまった場合は、間違いなく二つとも換金して本の資金へと充てていただろうな。

 でも、ここは異世界で、俺は冒険者だ。

 ゲームとかでもお金の欲しさに素材を売り払ったが為に、お金では買えない装備が作れなくなり困ってしまうのはよくあることだからな。

 

 

「俺は一体だけ売って、もう一体は取って置く。柳瀬さんは?」


「じゃあ、私は二体とも売っちゃおうかな?……借金あるし」


「はいはーい!合計三体の買い取りですね!そ・れ・で・は・買い取り合計、銀貨三十三枚と銅貨七枚で〜す!!」


「やったねツカサ君!」


「あぁ、これで当面は金銭問題については大丈夫そうだな」



 ついに銀貨が出てきたか。

 そう言えば、繰り上がりって幾つからなんだ?

 一般的に百枚ごとなのか、それとも変な端数からなのか?

 これは知って置かなければいけない。



「そう言えば銀貨って銅貨何枚で銀貨一枚なんですか?」


「可笑しなこと聞きますね?」


「いや、俺たちの故郷とは貨幣の両替が違うのか?と思ったんです」


「あー、そういえばお二人はこことは違う所から来たんでしたっけ?だったら頷けます。多分簡単ですけど、計算は……出来ましたよね?」



 俺と柳瀬さんに計算が出来るか?と聞いてくるメリーさん。

 メリーさんの言葉で、俺はこの世界では計算が出来ない人がいる事を知った。



 まぁ、異世界だもんな。

 元の世界の様に義務教育が完璧なわけは無い。

 その割には本の普及があるみたいでから、絶望的程でもなさそうだ。



「もちろん出来ます!私もツカサ君も!」


「そ、そんなに怒らないで下さいよ!世の中に計算が出来ない人がいますので、もしかしたら?って思っただけですよ。計算出来ないと、世の中何かと不便ですからね」


「あっ!ご、ごめんなさい!ついカッとなちゃって」



 柳瀬さんは俺たちが計算出来ないとバカにされた様に聞こえたのだろう。

 柳瀬さんはメリーさんに怒った、が直ぐに理性を取り戻して謝った。

 メリーさんも自分が失礼なことを言ったのが分かったらしく、俺と柳瀬さんに謝ってくる。



「こっちこそ、すみませんでした。気を取り直して、銅貨から銀貨、銀貨から金貨への交換レートですが、銅貨百枚で銀貨一枚です。これは簡単でしょう?でもここからが少し難しんですよねー!」


「銀貨百枚で金貨一枚じゃないんですか?」


「金貨は銀貨が千枚で一枚なんですよ。なんでそうなのかは分かりませんが、歴史家でも議論が続く話なので聞かないで下さい。まぁ、金貨なんて普通に暮らしているとお目に掛かることがない金額ですし、銀貨一枚は銅貨百枚、それさえ覚えておけば問題はないですよ!」


「……わ、分かりました」



 ということは、銀貨一枚が一万円相当、金貨一枚が一千万位か。

 そう思えば、金貨は普通に暮らしていれば必要のない貨幣と言うのも頷ける。

 多分だけど、国家予算とかには使われるんだろうな。

 テンプレ展開と銅貨から銀貨の百倍、銀貨から金貨の千倍とくればその内、金貨の一万倍の一千億円相当である『白金貨』とか『聖金貨』といかいうのが出てくるかもしれない。

 この辺はもう、一介の人間では持つことさえないんだろう。



 これでお金の両替も分かり、俺と柳瀬さんは銀貨二十二枚を半分に分け、一人当たり銀貨十一枚をメリーさんから受け取った。

 銅貨の七枚も、三枚と四枚に分ける。

 昨日は柳瀬さんに譲ったので、今日は四枚の方を貰うことにした。

 カードックの報酬分が大きかったらしい。

 一匹当たり銀貨十一枚で買い取ってくれたそうだ。



 おぉ!

 これはちょっとした小金持ちだぞ。

 日本円にして、約十一万ちょっと、俺の二か月分のバイト代が一日で手に入った事になる。

 これだから、異世界の冒険職は良い。

 少し命を掛けるだけで、お金が手に入る。

 失敗しても自分が困るだけ、他人に怒られずに済むし、税金が掛からない。

 俺はこんな職業を夢見ていたのだ!



 俺はこの後、念願の本屋に向かう事に胸をワクワクさせてギルドを出る。

 既に書店らしき店はチェック済み。

 興味無い事には全く関心を抱かずにいるが、興味のあることに関してはとことん追求してしまうのが、俺の難点であり美点でもある。

 俺は自分でも通常の人よりも関心が極端なのだと分かっていた。



 どんな本を買おっかな~?

 先ずは魔法に関する専門書があればそれが一冊に、この世界の歴史書があれば大体の事は学べるだろうな。

 後は……童話集に気になった本を数冊買おうか。

 幸い、アイテムボックスって言うチート能力があるお陰で、持ち運びや保存については心配しないで済む。

 ここからが俺の異世界生活は始まるのだ!



 と、これから買う本について想像を膨らませていると、柳瀬さんが「話しかけても良いのかなぁ?」と言わんばかりな顔で俺を見つめていた。

 気分の良かった俺は柳瀬さんに「何か用?」と声をかけてみる。



「どうかした?」


「へ?い、いや。ツカサ君はこれからどうするの?日が落ちるまではもうちょっと時間があるよ?」



 そういえばそうだ。

 今の時間は夏の五時位の明るさだ。

 日が落ちるまでは一、二時間くらいはある。

 だから本屋に向かうわけだが、柳瀬さんには全く何も話さずにギルドを出てしまったから、柳瀬さんは次の予定を知らないまま俺と共に行動をしていた事になる。

 俺は柳瀬さんに「今日は別行動だから好きに動いたら良い」と話す。



「俺は本屋に行ってくる。柳瀬さんは適当に晩御飯でも食べていればいいよ。俺は昨日と一緒で、串焼きでも買って食べておくから」


「そ、そうなんだ……。ところでさ聞いても良い?」



 さっきのも質問じゃなかったけ?とは突っ込まない。

 俺はもうすぐ本が買えることに上機嫌だったことが続いていた為、特に何も感じずに許可をだす。



「じゃあ、ご飯をどうしてギルドや宿で食べずに、露店の串焼きで済ませるの?」


「安いから」


「即答!?ってそうじゃないよ!栄養が偏っちゃうし、ツカサ君そんなに食べないでしょ!?」


「あー、なんで柳瀬さんがそんなこと気にするの?」



 突然の柳瀬さんの言葉に俺は、少し声を上げて反論してしまった。

 無理もないと言いたい。

 本当に柳瀬さんが、なんで俺の食事事情に口を出すのか不思議で、鬱陶しかったからだ。



「え!?えっと、その…………」


「はぁ、もう行く。何処に行こうが構わないけど、明日の朝ギルドで」


「――――――だしって、聞いてない!!?」



 自分の行動や生活に足を踏み込まれる事が嫌いな俺は、何が言いたいのか分からない柳瀬さんを放っておいて、マップ機能を頼りに書店に足を向けた。

 急に分かれることになったので、部屋を分ける事について話すの忘れてたが「まぁ、明日の朝でいっか」と楽観視して嫌な思いとイライラを異世界初の本屋で紛らわせることにする。











 ふぅ、意外と種類が揃ってたな。

 魔法集や歴史書はともかく、創作系の本が意外と多かったのは悩んでしまった。



 時刻はもう夜と呼べる時間帯。

 俺はホクホク顔で宿に帰る道を歩いていた。

 柳瀬さんと別れた俺はマップ機能を使い、本屋に向かい閉店時間まで物色してしまったのだ。



 それにしても、一回の買い物で銀貨三枚分も使ってしまうとは予想外の出費だった。

 俺は普段バイト先である、大手コンビニサイトを利用して本を買いそろえている。

 実際に実物を見て買うのは久しぶりだった為か、買い過ぎた。

 いや、それもあるが、俺が買った冊数は十冊、大体銀貨一枚分を目安に買おうと選んだつもりが、三倍もしたらしい。

 もちろん、選んだ以上は惜しみなく買った。

 やっぱり、物価が違うのが原因だと思う。

 元の世界だと、本一冊は安い物は四百円から高いものは数千円する。

 だとしても、十冊で三万円は高すぎる。

 幾ら印刷機械があると言っても、元の世界程発展している訳ないか。

 俺は今回のことから「次からはもう少し考えて買おう」と心に刻み込んだ。



 そう決めると、俺は宿のドアをくぐった。

 この時間でもドアが開いていたのは意外であったが、開いていたのは良しとしよう。

 出ないと、野宿か寝ないことになる羽目になっていた。

 異世界は元の世界よりも夜が早い事を、俺は再度頭に刻み込んでおく。



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