19話「テンプレ前兆?」
柳瀬さんは道具屋に向かってから依頼に行くことに賛成してくれた。
俺が行こうと決めた途端、マップには道具屋の場所が表示される。
お陰で便利な上迷わずに道具屋に向かうことができた。
マップには道具屋らしきものが数軒表示されていたが、その中から大通りにある店を選んだ。
理由としては、大通りにあるくらいだからハズレ店ではないと思ったから。
ゲームと違って、複数ある道具屋から何処に買いに行くか選ばないといけない、と言う点が「悲しい現実だよなぁ」と思っているうちに道具屋に到着。
道具屋に着くと、携帯食料と寝る時に敷布団として使う布に、緊急用の薬草、各自が必要と思った物を買っていく。
残金と相談しながら物色するが、結構な痛手となった。
元の世界だと、こういった買い物は無駄な費用と捉えるけど、今は別だ。
最低限の物はゲームでも揃える派だった。
俺は昨日の晩御飯と今朝の朝ご飯、それと初期装備を節約したおかげでもう少し余裕があるけど、柳瀬さんはお金が殆ど無くなってしまう。
今日の稼ぎが昨日よりも多くないと、二部屋に分かれられないな、と俺は今日の狩りに力を入れることにした。
「やっぱり道具屋に寄ったのは失敗だったか?」そう思うが、寄ってしまった事は仕方がない。
いずれは行かなきゃいけない店だった。
そう思うことで失敗ではない、と思い込む。
道具屋での用を終わらすと、やっと町の外に出ることができた。
やっとだ。
なぜかと言うと、
柳瀬さんの買い物が長かったんだよな。
もう、昼前だよ。
女子の買い物は長いって聞いたことがあるけど、本当だったんだな。
そういえば、母さんや妹の買い物も長かったよなぁ。
帰りたいとは思わないけど、懐かしい。
妹はホントに可愛かった。
一応言っておくが、シスコンではあるがロリコンではないぞ。
俺が元の世界にいる家族を思い出していると、視界に映っているマップに反応があった。
数は一、斜め右上の方角、一時と二時の間らへんだ。
「柳瀬さん、敵がいる」
「わ、分かったっ!どっちの方向?」
「一時と二時の間。って分かる?」
「ごめん、右か左で言ってください」
「右斜め上方向」
方向を~時というのは一般的ではないのだったけ?
アニメや漫画、小説を見ない柳瀬さんが分からないのも仕方ないか。
俺は柳瀬さんに方角を教えると、柳瀬さんを先頭にモンスターへと進む。
モンスターが視界に入る距離まで進むと、一旦止まった。
「柳瀬さんストップ。ちょっと遠いけどアレは……………犬?」
「ん~、よく見たら犬とちょっと違うと思うよ?」
「どっちでもいい。『ファイヤーボール』」
「わぁっ!攻撃するなら言ってよね」
俺が先手必勝でファイヤーボールを放つと、柳瀬さんはびっくりして怒りながら犬型モンスターに向かってダッシュした。
俺が放ったファイヤーボールは見事犬型モンスターに命中したが、HPの三分の一を残してしまう。
もう少し、威力を上げれば良かったか?
込める魔力を多めにしたら、威力は上がるよな。
小説あるある「見た目はファイヤーボール、威力は上級」って奴だ。
次回からの発動魔法について考えている内に、ダッシュしていた柳瀬さんが犬型モンスター、カードッグに攻撃を与え、HPゲージを全て無くした。
俺の魔法と柳瀬さんの一撃で簡単に倒してしまったから、敵であったカードッグの強さが分からなかったのが唯一の反省点。
しかし、俺たち程度に簡単に倒されると言う事は左程強いモンスターではなかったのだろう。
前回の反省を活かして、マップに集中して敵確認をするが、特に反応がないので俺は警戒心を解いて、柳瀬さんの元に近寄る。
カードッグなるモンスターはスライムとは違い、倒した死骸がアイテムに変化することなく倒れていた。
死体が売れるかもしれないから持ち帰りたいな。
アイテムボックスに入るといいんだが、どうだろう?
「……私が――――――――たんだ……」
「柳瀬さんお疲れ」
「―――――っあ!うん!」
何か呟いていたようだけど、何かあったんだろうか?
まぁ、柳瀬さんが話してくれなければ、俺には聞き出す権利はない。
てか、そんなに興味はないけどね。
柳瀬さんが何かを呟いているか知らないが、カードッグの死体をみる。
昨日はスライムの死体がジェルになったが、本来はそんなに簡単に素材は取れない。
死体が勝手に消えてアイテムに変わるのはゲームの中だけだ。
……この世界にもそういった場所やモンスターが居るかも知れないが、その時はその時。
基本的に死体は剥ぎ取っ持ち帰らなければならない。
だけど、俺には動物を剝ぎ取るなんて器用な事は出来ない。
でも、何となくはやらなくちゃいけない事の知識はある。
「たしか、こうやって『カッター』」
「…うぅわぁ」
俺は対象を切る無属性魔法『カッター』を使って首元付近に薄っすらと見えている血管を切ると、血が勢いよく飛びだした。
それを見て柳瀬さんが顔色を悪くしているが、無視する。
血抜きとは鮮度を保つためにやる物だとどこかの本に書いてあった。
本来は喉元を掻き切るのが良いらしいが、正解だった。
直ぐに勢いが衰えてきた様を見ると、次に何をするか考える。
確か解体だったかな?
なんか順番とか下処理とか色々あったがそこまでは覚えていない。
だけど、俺にはアイテムボックスと言うチートシステムがある。
如何やらアイテムボックスの中では時間が止まっているらしい。
うん、テンプレ設定だな。
アイテムボックスと言う半チート機能を利用して、ギルドまで持ち帰ることにする。
ギルドでは解体してくれるサービスもあるとメリーさんが言っていた。
時間が止まるなら血抜きもしなくてもいいが、何となく気分でやっただけだ。
解体サービスも料金が掛かるそうなので「解体料金を減ったらいいな」って言う思いもある。
アイテムボックスに入れるには念じればいい。
俺の所有物だったら入るはずだ。
カードッグの死体に向かって「アイテムボックスへ収納しろ」と念じる事でカードッグはまき散らした血を残して消えた。
「あ、消えた……」
「持って帰って売れば少しの稼ぎになるからな」
「あ、うん。そっか」
柳瀬さん、なんだか元気がないな。
どうしたんだろう?
っと敵反応だ。
柳瀬さんの表情が優れないのに気が付いた俺だったが、そのことを考える暇も無くマップに赤点が三つ現れた。
先ほどよりも数が多い。
「柳瀬さん、警戒して。敵反応が三つ、こっちに向かって来てる」
「………はっ、うん!方向は?」
「真後ろ、そろそろ見えるはず」
「ワゥオォォォォォォォ~~~~~~!!!!」
俺がそう言ったと同時に、後方から雄叫びが聞こえてきた。
なんか怒っていないか?と瞬時に思った俺の予想は当たっている。
振り向くと、カードッグが三匹こちらに向かってダッシュして来ていた。
さっき倒した奴の仲間ってことかっ!
どうする?
逃げる、ことは出来ない。
俺と柳瀬さんの足と奴らの足ではスピードが違い過ぎる。
……………迎え撃つしかないか。
そう決めると、柳瀬さんに指示を出す。
剣士よりも魔法使いの方が範囲攻撃が使い易いからここはッ!
「柳瀬さんは一体と戦って。俺が残りの二体を引き受ける」
「うん、分かった。……―――――――ないでね」
柳瀬さんの言葉を待たずに、俺は呪文の発動に入る。
敵は複数体、初級魔法だと単体にしか攻撃出来ない。
だったら、範囲攻撃をすればいいだけだ。
昨日読んだ基礎呪文集の中級魔法を思いだす。
確か、火属性の……って火事になったら困る。
ならば風属性の奴で!
イメージしろ。
目の前にちょっとした切れる竜巻が現れるところを。
「サイクロンカッター!」
「ッ!!キャオォォン!!」
「クゥオォォォ!!」
俺が生みだした切れる竜巻が二体のカードッグに直撃して、断末魔を上げさせる。
如何やら、一撃で倒せたみたいだ。
一方で柳瀬さんの方は、
噛みつき攻撃を放ったカードッグを避けると、すれ違いざまに斬り付けていた。
カードッグの身体は何回か切られていて、既に満身創痍。
さっきの攻撃が決めてだったようで、カードッグは一度柳瀬さんを睨むとその場に倒れて動かなくなった。
凄いな、柳瀬さんは。
あんなにも軽々と剣を扱えるなんて。
メリーさん達が言ってた適正って奴のお陰なのか。
俺にも適正があったらなぁ。
なんて思いながら俺が倒した分のカードッグの死体をアイテムボックスにしまい、今度こそ敵が出て来ないことを確認すると、柳瀬さんと合流した。