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18話「朝の試練」



 戻りたくないと思った時には既に遅し。

 柳瀬さんが俺に気がついた。



「何処に行ってたの?」


「裏でちょっとした魔法の練習」


「……そう」



 あれ?思ったより怒られないぞ。

 怒りを通り越して、呆れに変わったとか?

 別に柳瀬さんがどう思おうと知らないけど。

 俺を見限って何処かに行っても構いはしない。



 俺は、柳瀬さんを無視して部屋に戻ろうとした。

 柳瀬さんを通り越した時、袖を捕まれてしまう。

 俺が戸惑っていると、柳瀬さんから消えそうに小さな声で言葉が聞こえる。



「…………心配したんだからね。勝手に消えるのは止めてよ」


「……………………」



 ……うん。

 柳瀬さんがどれくらい心配したのか、感情に鈍い俺でも分かった。

 柳瀬さんの声がそれくらい真剣だったから、思わず勘違いしてしまいそうになる。

 取り敢えず俺は謝罪を言った。



「……ごめん」


「気を付けてね?置き手紙でも良いから、勝手に消えるのはなしだよ」


「分かった」



 俺は柳瀬さんの提案に承諾したが、一つ引っかかった。

 それは、置き手紙が出来る紙を買うお金が勿体無い、ということだ。

 俺は基本的に、本を買う経費以外は無駄な買い物だと思っている。

 なので、金銭面に余裕が出来ても、置き手紙なんかの為にお金を使いたくない。

 柳瀬さんが買ってくれるなら良いけど、それはなんか思うとこがある。


 そこで、俺は考えた。

 この世界には魔法と言う便利なシステムがあるじゃないか、とだ。

 魔法で紙が創れたら良いんだけど、そんな便利呪文はなかった。

 そこで、イメージで魔法が発動できると言う推測を試すべく、紙をイメージした。



「ペーパーっ!」


「ツカサ君、何やっているの?」



 紙を英語で発音したんだが、紙は生まれなかった。

 神は紙を生み出すことを許さないと言うのか!!!と、寒いギャグは俺の心の中だけに置いておいて。

 柳瀬さんが俺の声に反応して、「何やってるの?」と聞いてきた。

 若干、可哀想な子を見るような目をしていたのも置いておこう。



「いや、置き手紙を買うお金がないから、魔法で作れないかなあって」


「ふふ、その発想は凄いね。でも、別に置き手紙にこだわることはないんだよ?私がツカサ君が何処に行ったのか分かれば、それで良いんだから」


「あー、考えとく」



 その発想は無かった。

 別に置き手紙じゃないといけない訳は無かったのか。

 何かないか?

 俺が読んだことがある小説を思い出せ。

 何か一つぐらい有ってもおかしくはない。

 ……………………あ~あっ!

 難しい事を考えるのはやめだ。

 紙を思い浮かべてもだめなら、浮かべたら生み出せるものを使えばいいじゃないか。



 脳筋ではないが、考えるとこが苦手な俺は行動に移す。

 俺は硬い石板をイメージしながら、呪文を唱えた。



「コンタクトプレート」



 俺の演唱と共に一枚の板が生み出される。

 形も俺のイメージ通りだ。

 上手くできたのはいいが、正直言って何故紙がダメでプレートは作れたのかは分からない。

 ただこれだけは言える。

 成功して何よりだと。


 二発目でうまく生成出来た事に喜んでいると、柳瀬さんが『連絡プレート』(今命名した)を手に持って観察していた。



「これは?文字が書いてある!?」


「魔力を使うけど、総量からしたら微々たる量で出来る連絡用の板。俺が思った言葉が書いてある。日本語表記にしてあるから、柳瀬さん以外は読めないと思う」


「じゃあ、用があって離れる時はこれを置き手紙の代わりにするって訳だね!」


「ホントは通信機の様なものを創れたら良かったけど、今はこれが限界みたいだ」



 レベルが足りないのか、俺が想像した物が全て魔法で生み出せる訳ではないらしい。

 そりゃあそうだな。

 転生初っ端から即死級の魔法が使えたらそれでこそチート能力だ。

 そう言えばチート能力で思い出したが、柳瀬さんにも魔力はあるんだったよなぁ。

 柳瀬さんにもこれと同じものが作れるんじゃなか?



 そう思った俺は、早速柳瀬さんにも連絡プレートが生成できそうか訪ねてみた。

 その結果としては出来る。

 でも、俺の様に細かい文字までは刻み込むには至らなかった。



「うぅ~。ダメだよ~。上手くいかない」


「お、落ち込まない方がいいと思うよ。連絡プレートが生成できるだけでも十分だから」


「そうだね。やっぱりこういったものが即座に作れちゃうツカサ君が凄いよ!」



 柳瀬さんは自分を非難して俺を持ち上げてくれる。

 何で柳瀬さんがそうも俺を「凄い」と褒めてくれるのかは分からないが、一つ分かった事があった。

 それは、初級程度であれば柳瀬さんも魔法が発動できるという点だ。

 やはりチート能力なのか、俺の様にイメージ通りに魔法が発動することはないが、この世界では魔法が発動できるだけでも凄いことなのだから。



 あれ?もしかしてだけど、俺ではなく柳瀬さんが人類を救う為の勇者だったりしないか?

 剣に適正があって、魔法にも精通している。

 更に、人に優しくてスクールカースト上位者特有の誰とでも仲良くなれる性格。

 正しくテンプレ勇者の能力を兼ね備えているな。

 もしかしてだけどビエントルナー様、テンプレ空間に呼び出した人間間違えた?

 本当の勇者は柳瀬さんで、俺は近くで死んだからオマケ的存在?

 いや待てよ、ビエントルナー様は間違いなく俺の名前を呼んでいたはずだ。

 でもしかし、それなら柳瀬さんが………。



「ツカサ君、考え事?一人で悩むのもいいけど、私にも相談してくれたら嬉しいな」


「えっ?あ、あぁ。柳瀬さんは剣士だけど、牽制ようの魔法も使えそうで戦略が広くなりそうだなぁって考えてさ」


「ホントに!?よぉ~し!私頑張るからね」



 噓ではないが、本当に考えていたことを俺は誤魔化した。

 柳瀬さんは自分が出来ることが増えて戦闘の役に立てるのが嬉しいのか、やる気を出している。

 とりあえず、純粋な柳瀬さんは俺の本音に気づいていない。

 どうにか誤魔化せれたようだ。

 俺は心の中でホッとため息をつく。


  

 それにしても、朝から幾らか魔法を使ったせいか、精神的に疲れた。

 視界に映る青色のゲージは全体の三十分の一も減っていないけど。

 目分量だから正しくはないからな。

 あ、こうしている内に一ドットと言う程のメモリが回復した。

 三十分も経たない内に全回復しそうだ。



「ツカサ君朝ご飯食べようよ」


「柳瀬さん一人で行っておいでよ。俺は食べないから」



 俺がステータスをぼんやりと見てると、柳瀬さんが「朝ごはんに行こう」と誘ってきたが、やんわりと断った。

 別に柳瀬さんと一緒にいるのが本当に嫌な訳ではない。

 ただ、



 朝食べると、胃がムカムカして吐き気に襲われるからな。

 前に一度食べて学校に行ったら、吐いてしまったし。

 俺はそれ以来、学校がある日は朝と昼を食べない。



 柳瀬さんは戸惑った様だが「勝手に行かないでね」と言うと、部屋を出ていく。

 部屋には俺だけが残された。

 俺は一人になれたお陰で、楽な体制に気を緩めることが出来る。



 ふぅ、やっと人目を気にしないすむ。

 やっぱり柳瀬さんが近くにいると、気が滅入るな。

 ほら、プライベートとか大事だろ?

 むしろ、一生プライベートでいたい。

 そう思うのは、人と関わり合いたくないと思っている俺だけだろうか?

 俺は人と関わるのは嫌いだ。

 気が滅入る、常に猫を被っていなきゃいけない。

 それは社会人になりたくない理由の一つでもあった。

 この世界では殆ど関係ないけどな。



 俺は柳瀬さんがいないうちに、ベットに寝っ転がった。

 お世辞にも寝心地が良いとは思わない。

 椅子に座ったまま寝るよりかはマシな状態だが。



 まだ疲れているのか?

 瞼が重い。

 柳瀬さんが戻ってくるまでなら……いいよな。



 俺は二度寝に入った。

 今度は夢なんか見ませんように、と懇願しながら。











 ベットに転がってぼんやりしていると、いつの間にか意識を手放したみたいだった。

 このまま寝転んでいたい気持ちを抑えて、目を開けてベットから起き上がる。



「わっ!ツ、ツカサ君!?」


「………ん?戻ってたんだ柳瀬さん」



 柳瀬さんが椅子に座って俺を見ていたらしく、俺が起きると慌てた様に椅子から飛び上がる。



 何を見ていたんだろうか?

 戻って来ていたなら、起こしてくれればよかったのに。

 気を遣ってくれたのか?



「じゃあ行こうか」


「うん。今日は簡単なクエストを受けて、それぞれの力を確かめる続きだよね?」


「あぁ」



 マップに従って俺と柳瀬さんは冒険者ギルドに向かう。

 三回目だからか、ギルド周辺の道なりも覚えてきた。

 やはり俺は、よく足を運ぶ場所は覚えやすい傾向にある様だった。



 それにしてもいつまでこの町に居るものかねぇ?

 やっぱり王都とかの方が新刊があるのか?

 ともあれ、お金を貯める方が先だな。



 と、考えている内に冒険者ギルドに辿り着いた。

 ドアを開けて中に入ると、酒場の方から漂ってくる料理とお酒の匂いで吐きそうになる。

 「朝っぱらからよくそんなにも食べれるよな」と愚痴っていると、柳瀬さんも流石にこの匂いは堪えたのか同意を求めてきた。



「うわぁ、凄い匂い」


「早く離れよう」



 俺は急いで逃げるように掲示板に向かう。

 さて、新しい依頼は入ってきたかな?



「新しい依頼は………………………」


「……ないね。どうする?簡単なクエストって言ったら、あれかこれと…それだね」


「ん~。柳瀬さんはどれがいいと思う?」


「えっ!?私が決めちゃっていいの?」


「う、うん」



 一応、決定権じゃなくて、提案を聞いただけなんだが。

 別にいっか。



 とは言え、俺は俺で依頼を見てみる。



『ゴブリンの巣を破壊してください』


 却下。巣って言うくらいだから、数十匹のゴブリンは今の俺と柳瀬さんには分が悪い。



『ピード鳥の討伐』


 ピード鳥ってなんだよ。

 どんなモンスターか予想出来ない以上は進んで討伐したくない。



『薬草を取って来て!』


 常備依頼でなくて通常の依頼か。

 露店や道具屋で買わない理由でもあるのだろうか?



『南都アルケーミへの護衛募集』


 護衛依頼は駆け出しの俺達が出来るわけがない。



 五件目の依頼に目を通そうとした時、柳瀬さんが受ける依頼を決めた。


『常備依頼;素材を何でも買取ます。注買い取れる物に限る』



「どうかな?これだったらノルマもないから安心して力を確認できるよ?」



 特に反対することもないので、俺はOKをだす。

 常備依頼は受付に申請しなくてもいいので、そのまま冒険者ギルドを出る。

 そして、町の外に出る前に行った方がいい場所を思い出した俺は、柳瀬さんにストップをかけた。



「あ、柳瀬さんちょっと待って」


「どうかしたの。忘れ物?」


「まぁ、忘れ物って言ったら忘れ物か?昨日は忘れていたけど、道具屋で携帯食料なんかを買っておこうと思って」



 マップがあっても、不慮の事故で街に帰れなくなる時の為に色々と必需品を買ってしまおう。

 そう言う訳だ。



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