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17話「不思議な夢」



 柳瀬さんが奥さんと話している間、俺は目をぎゅーっと瞑って頭を落ち着かせる。

 イライラした時なんかによくやる行動だ。

 別に今、イライラしている訳ではないが、これをしてから深呼吸を一回すると、頭がクリアになるだけだ。



 あー、娯楽が欲しいな。

 本が読みたい。

 そうだ、あれを読んどくか?

 確か、アイテムボックスが使えるって分かった時に荷物ごと入れたはず。



 俺はアイテムボックスを開いて、唯一入っているアイテム『基礎呪文集~初球から中級まで~』を取り出して読み始めた。

 基礎呪文集とタイトルがある通り、簡単そうな魔法が幾つも詠唱付きで書いてある。



 取り敢えず、この本を一通り読んでおけば暫くは大丈夫だろう。

 百ページもない薄い本なので、一日も掛からないと思う。

 ラノベ程文字量もないから、もしかしたら一時間も掛からないかも知れない。



 俺は呪文集を読みながら明日の予定も並行して考える。

 小説なら物語に集中するから出来ないが、呪文集は平たく言えば教科書みたいな本。

 ならば同時並行で考え事も容易い。



 明日も簡単な依頼を受けて、色んな呪文を試し打ちしてみたいな。

 どんな魔法がどの様に効果を発揮するのか知っておいて損はない。

 元の世界でも、ゲームなどでも使えるスキルは一通り試して見てから、気に入ったスキルをよく使ったからな。

 ゲームも攻略本を隅から隅まで読んでから攻略する派だったし。



 と明日に向けて計画を立てていると、柳瀬さんが真っ赤になって立っているのに気が付いた。

 いつの間にか奥さんとのお話は終わったらしい。

 俺は柳瀬さんが今日一日、よく顔を赤くしてるのに気付いた。

 異世界召喚した転生者がこの世界出身でない故に免疫力が無く、普通ではない病原菌にやられてしまうのもテンプレだからだ。



 それだけは勘弁してもらいたいな。

 薬を買う余裕はないし、ましてやこの世界の医学がどれくらい発展してるか分からない。

 しかし魔法があるんだし、俺に回復魔法が使えるかもしれない。

 いや、俺の適正を見るからに使えてもおかしくはない。

 魔法使いは回復魔法が使えなくて、神官だけしか使えない設定とかはいらないです。

 まぁ、呪文集には使えると書いてあった。


 が、問題はそこじゃない。

 回復魔法が病気に使えるのかが分からない。

 見えないだけであるであろうHPは回復魔法で回復出来ても、大元を叩けれなければ問題の解決には至らないはず。

 異世界では、衛生上の関係でただの風邪ですら命を落とす要因になりかねないのが怖いところ。


 まぁ、何も言ってこない柳瀬さんを見るからには大丈夫だと信じたい。

 スクールカースト上位者は、聞いてもいないのに自分の状態を報告するのが好きな連中だからな。

 柳瀬さんも本当に駄目なら相談してくるだろう。



 そう一人で結論付けた俺は、チラッと横目で確認しただけで何も言わない柳瀬さんを放っておいて、呪文集を読む作業に戻った。


 そこから一時間も経たない内に、全ページを読み終える。

 二度読み返す程の内容でもなかった。



 何をしようか?こんな時、暇だ。

 元の世界だと、本が大量にあったから幾らでも時間は潰せた。

 明日の稼ぎ次第で、本を買うのもありかもな。

 異世界だと「保存場所に困る」と言う理由で本は買えないかと思っていたが、俺にはアイテムボックスって言うチート能力がある。

 ついでに言えば、元の世界にあるような本も製造しているとメリーさんから聞いた。

 それだけそろえば、俺はこの世界で生きていける!



 異世界でも継続して趣味を続けられる!と生きる目的をこの世界でも見いだせた俺は明日のためを思って寝ることにした。

 いつもより何時間も早いが、することもないので仕方がない。



「じゃあ、寝るから」


「…うん。お、おやすみなさい」


「……おやすみ」



 女の子と一緒のベットで寝れるはずもない俺は、奥さんが持って来て毛布を体に巻き付けて椅子の背もたれに体を預け寝る体制に入る。



 ってあれ?

 柳瀬さんと同じ部屋?



 俺は今更ながら気が付く。

 同学年の異性と同じ部屋だと言う事にだ。

 後で思い返すと遅い、遅すぎる。

 テンプレ回避は間に合わなかったらしい。



 ヤバくないかこれ?

 よく柳瀬さんは許可を出してくれたな。

 俺は金銭問題にとらわれ過ぎて、全く気が付かなったぞ。

 「男女が同じ部屋は世間的にダメだ」とは今更言いにくい。

 あ、異世界だから問題はないのか。

 ……………ないわけないですよね。

 柳瀬さんも好きでも何でもない男と同じ部屋なんて嫌に決まっている。

 明日は別の部屋にしよう。

 元はと言えば、部屋が空いてなかったのが悪い。



 俺はそう思うことにして、考えるのを辞めた。

 すると、疲れていたのか魔力を使ったせいか分からないが、椅子に座った状態であっても、直ぐに意識を夢に飛ばすことが出来た。











 俺の下で何かが動いている。



「あなた、もう直ぐですよ」


「おぉ!よくやってくれた。これで俺たちの争いを終わらせる事が出来る」


「そうですね」



 男女が話し合いをしてるのが見えた。

 辺りは深夜なのか真っ暗で、男女だけが不思議と見えている。

 アニメなどでよくある表現だと言えば分かるだろうか?


 そうこうしているうちに場面が飛んだ。


 先ほどの女性が捉えられて、老人の前に突き出されている。

 彼女はまるで大罪人の様だった。



「―――――!自分が何をしたのか分かっているのか!!!」


「お父様、勿論です」


「ならば分かっておるな」



 老人が女性の名前をいう所はノイズが走って聞こえなかった。

 女性は泣きながら許しを願っている。



 場面がまた飛んだ。



 今度は大釜にグツグツと煮えている熱湯が見える。

 女性はまだ泣いていた。

 その前で一人の男が熱湯の中に何かを投げ入れた。

 布にくるまれた『何か』の中身が見える。

 産まれて間もない赤子だった。

 その赤子が熱湯に……………………。











 突然だが、俺は夢を覚えている時と、覚えていない時がある。

 それは誰にでもあることだそうだが、今は他人のことなんかはどうでもいい。

 俺は先ほど変な夢を見た。

 普通の夢と何かが違ったと感じたのだ。

 俺が夢を見る時は大抵、一人称視点で夢をみる。

 そして、最後の方になると自分の意志で夢を動かせる様になり、そして「これは夢だ」と気づいて意識は覚醒するのが大体のこと。

 以上が俺が今までに体験したことのある夢だ。

 

 だけど、今日の夢は根本的に違った。

 どう違うかと言えば説明は難しいが、天からの視点で話が進んで行った。

 まるで歴史をダイジェストで見ている様な感じ。

 俺は覚醒しきっていない頭で夢の続きについて考えた。



 あの赤ちゃんは一体どうなったのだろうか?

 普通なら熱湯に皮膚を焼かれ、即死だろう。

 だけど、何故かそうには思えない。

 何でだろうか?

 俺が異世界生活一日目の夜に見た夢だからだろうか?



 などと考えている内に、太陽が登り始め朝がきた。

 寝返りが打てない体制で寝たせいか体が痛く「これなら、机に伏せて寝ていた方が良かった」と少しだけ後悔する。

 目を開けて見ると、柳瀬さんはまだ寝ていた。

 初めて見る同級生の女の子の寝ている姿に俺はドキっと心臓が跳ねるの感じる。



 寝顔はその人の本当に無防備な顔を出す、と聞いたことがあるけど…こんな顔を………って何を考えているんだよ!?

 うっ、見たらダメだ、見たらダメだ。



 ボーっとする頭を働かせながら、俺は部屋を出る。

 そのまま宿も出て、裏側に回ると俺は魔法を使って冷水を出した。



「ウォーター」



 呟きと共に水の塊が現れる。

 普段はめんどくさいからしないが、今はすることがないので顔を洗う。

 水の塊を操作して、頭から被る様に落とした。


 バッシャン!



 冷たっ!

 今ので完全にとは言えないが、ある程度は目が覚めただろう。

 その後、魔法の微調整の練習と化して『ファイア』を使って濡れた髪の毛を乾かす。



 熱っ!

 もうちょっと温度を下げないと。

 ん~、調整が難しいな。

 そう言えば、別に乾かせれば炎じゃなくてもいんじゃね?

 元の世界でも昔は火を使っていたけど、現代になると火じゃなくて、電気を使って熱を生み出して火の代わりをしていたな。

 ガスコンロからIHに変わったように。

 俺の推測が正しければ、魔法はイメージがあれば何でも出来るはず。

 なら、『熱』も生み出せるんじゃないか?



 俺は火を消して、熱をイメージする。

 熱っていうのは目に見えないから難しい。

 だから、真夏日を思いうかべる。

 外の様な太陽から浴びる暑さではなくて、クーラーを入れてない室内をイメージ。

 外の暑さよりもイメージはしやすい。

 俺の夏の部屋がそうだったからな。

 元の世界で暑い中、クーラーもつけずに本を読んでいた時を思い出していると、周りの温度がグーっと上がった。

 ん、成功だ。

 水に濡れたところが乾くと、汗が出ない内に魔法を消す。



 普段からこんな風に鍛錬していけば、自在に使えるようになるかな?

 努力は嫌いだけど、今回は別だ。

 何と無く、上手くいくような感じがするから。



 俺は宿に戻る為、表に回る。

 すると、昨日の男の子が玄関口から出てきた。

 俺を探していたみたいで、俺を見つけると安堵の表情を浮辺る。



「あー、いたよー」


「はぁ?」


「お兄さんのツレのお姉ちゃんが探してたよ?」



 しまった。

 置き手紙なんかしてなかったな。



 誰かに知らせてから行動するということがなかった俺は、置き手紙なんて概念は知っていても、実際に使ったことはない。



 そっか、普通の人は急にいなくなると、不安になるのか。



 悪いことをしたなぁ、と反省しながら階段をあがる。

 俺達が泊まっている部屋の前で柳瀬さんが立っていた。


 人の感情に鈍い俺でも分かる。

 柳瀬さんは、機嫌が悪い雰囲気丸出しだ。



 半分自業自得だが、戻りたくない。



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