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16話「二人一部屋」



「ここもダメだったね」


「………」


「大丈夫だよ!きっと何とかなるって!」


「そうだと良いけどな」



 俺と柳瀬さんは既に暗くなっている道を歩いていた。

 時刻は既に夕方から夜に変わっている頃。

 ギルドを出てから今まで、泊まる宿を探しているが、中々見つからないからだ。

 既に何件か宿に確認を取っているが、どこも満室。

 何件かは無理だと思っていたが、何処か泊まれるところがあるだろうと楽観視していた俺は外に出さないようにしているが、内心焦っていた。

 ギルドに戻ってメリーさんを頼るべきなのか?と本気で検討し始めた時、俺と柳瀬さんに一人の子供に声をかけてくる。



「お兄さんお姉さん、宿決まってない?良かったら、家においでよ」



 五歳位の男の子だろうか?

 恐らく家の手伝いで客を求めて、俺達にも声を掛けたのだろう。

 この時間に出歩いているのは、町民か宿無しかのどちらかなのが、電気が発展していなくて夜が早い異世界ではよくあることだからだ。


 こう言った客引きに慣れていない柳瀬さんが俺に判断を求めてくる。

 男の子の家が宿屋だと言う事はギリギリ理解に至っているようで何よりだ。



「ツカサ君どうする?」


「柳瀬さんはどう思う?」


「もうここで決めてもいいと思うよ。かなり歩いて、疲れちゃったし」



 俺が聞き返すと、俺が思っているのとほとんど同じ内容だった。

 今の時間に客を探すってくらいだから、部屋が余っているのは確かだろう。

 値段が不安だけど、高級宿がこんな客引きをするはずもないし、ぼろ宿はこんな身なりが普通な子供を使わないと思う。

 特に反対することもないので、俺はOKを出す。

 これを逃したら、メリーさんを頼ることになりかねない。

 そう思うからだ。



「取り敢えず、金額を聞かない事には考えられない」


「うん、そうだね。じゃあ、案内出来るかな?」


「はーい。二名様ご案内~」



 俺と柳瀬さんは男の子の後に続いて歩く。

 五歳位の子供が日が暮れている頃に家の手伝いで遠くに行くはずもなく、五分も経たない内に宿に辿り着いた。



「ここが家がやってる『旅人の安らぎ亭』だよ」


「ありがと」


「お礼はまだ早いよ。んっ!」


「え!?」


「だから、はい!」



 男の子は柳瀬さんに手を出して、何かを強請っている。

 俺は男の子が何を求めているのかが分かったが、痛い思いをしたくないので黙って存在を押し殺した。



 アレだろ?外国なんかでよくある、あのマナーだろ。

 俺はあの文化が理解出来ないね。

 自分の技量で金額が変わるなんて訳が分からない。

 だったら初めからそれ込みの値段で提供しろって思う日本人は俺だけではないはずだ。



 そう思って存在を消そうと頑張ったんだが………。



「分かんないのかな?じゃあ、お兄さん?」


「その手は何?」


「まったまた!分かってる顔してるよ?」


「ちっ、………無駄金は使いたくないんだよ。これ以上は柳瀬さんに頼みなさい」


「毎度~!………ちっこれだけか。まぁ、ないよりましかな?改めましてようこそ、『旅人の安らぎ亭』に!」



 出来るだけ無駄なことにお金を使わない為にと、気づかれない用にしていた俺だったが、男の子は逃さなかったらしい。

 俺は男の子に銅貨一枚、チップとして渡した。

 異世界と言わずに、元の世界でも日本以外でもよくあるマナー行為。

 チップ制度。俺はこれが大嫌いだ。

 払わなくても良いなら、払いたくない。

 それが俺の金銭感覚だ。



 税金とかもそうだけど、ホントに何なんだろうね。

 生きるのにお金が必要になり過ぎる。

 生きるのに最低限な物は支給されたらいいのに。



 とまぁ、男の子に銅貨一枚、約百円を渡すことで、宿の中にようやく入れてもらえたのであった。



「いらっしゃいませ。『旅人の安らぎ亭』にようこそおいで下さいました」



 宿に入れた俺と柳瀬さんを出迎えたのは、ゆったりとした雰囲気の女性だった。

 男の子の母親だろうか?

 よく見ると、似てない事もない。



「おかーさん。このお兄さんとお姉さん、家に泊まってくれるって」


「まぁ!本当ですか?」



 男の子は母親に俺達の扱いを任せると奥に引っ込んで行った。

 代わりに母親が俺達の前に出てくる。



「ふふ、あの子ったらもう少し年齢に合った振る舞いをしても良いんですが…。ごめんなさいね」


「いえ、しっかりしたお子さんですね」


「ありがとうございます」



 どうでもいい話の対応は柳瀬さんに任せて、俺は宿の中を見渡す。

 高級って程でもないが綺麗に掃除はされている。

 食堂にいるお客さんも、特にこれと言って挙げることのない人達ばかりだ。

 そこそこ繫盛している宿なんだろう。

 後は値段次第だな、と思っていると母親と柳瀬さんの会話が本題に入った。



「あ!?ごめんなさい!お疲れのところ長話してしまって!」


「いえいえ、問題ありません」


「確か、一泊したいんでしたっけ?」


「はい。…それで良かったかな?」



 柳瀬さんに聞かれたので、選手交代。

 俺も前に出て会話に加わる。



「値段にもよりますが、明日以降もお世話になるかもしれません。その時は一日ごとに支払いでお願いします」

「はいかしこまりました。宿泊代は一人銅貨二十枚になります。…あ!」


「どうかしたんですか?」


「悪いんですけど、今開いてる部屋が一部屋しかないんです。それでも大丈夫でしょうか?」



 テンプレのお約束展開かな?

 だとしても面倒だ。

 出来れば一人部屋が良かった。



 とか思ってしまった俺だったが、次の言葉にその思いは吹き飛んだ。



「もちろん、代金は一部屋分でかまいませんよ」


「俺はどっちでもいいけど柳瀬さんは?」


「ふぇ!?」



 俺の問いに変な声を出す柳瀬さん。

 若干、赤くなっている気がしたが、柳瀬さんは俯いてしまった為真相は全く分からない。

 それに俺は、そんな様子の柳瀬さんが眼中に無かった。



 ここで柳瀬さんが承諾すれば、半々出し合って宿に泊まれる。

 二十枚出さなければならない所が十枚。

 今後の事も考えると安くなるのは良いことだ。



 そうこう考えている内に、柳瀬さんも考えがまとまったのか、承諾してくれる。

 宿代を減額できるあまり、柳瀬さんが今どの様な顔を気持ちをしていたかどうかなど、今の俺には知る由もなかった。



「い、いいよ?」


「良かった。じゃあ一部屋で構いません。それと食事はどうなってますか?」


「一応、朝と夜の分は宿泊代にはいってますよ?」


「だったら、食事代は別会計って出来ますか?」


「出来ますよ。でしたら…銅貨十五枚です」



 よし、三分の二まで減らせれたぞ!

 あ、柳瀬さんに無断で決めたけど、よかったかな?



「柳瀬さんもそれでいい?」


「―――とーじ部屋…これって――事が――ってこと!?」



 俺は柳瀬さんに「この条件でいいのか?」と了承を求めたのだが、柳瀬さんに無視されてしまう。

 何やらブツブツと独り言を言っているが、声が小さく「ゲームの様にセリフが文字として表示されればいいのにな」とも思ってしまうが、流石に俺の持つゲーム風視点もそこまで万能ではないらしい。

 柳瀬さんは一人の世界に引き籠り全く戻ってくる気配はない。

 このままでは埒が明かないので、少し抵抗はあるが肩を揺さぶり、現実に戻すことにしよう。



「柳瀬さん?」


「はいぃ!!私も同じ気持ちです!」


「じゃあ、銅貨五枚ずつね」



 柳瀬さんも俺と同じで、出来るだけお金の節約をしたいと思っていてくれて良かった。

 やっぱり、お金は大切だからな。

 特に所持金が少ない時は。



 俺と柳瀬さんがそれぞれ銅貨を五枚ずつ渡すと、母親……男の子がもういないんだし宿屋の奥さんでいっか?

 その奥さんが部屋に案内してくれる。


 俺と柳瀬さんが泊まる『旅人の安らぎ亭』は二階建ての建物で出来ている。

 一階は家族の住居と厨房に食堂らしく、お客を泊める部屋は二階部分に六部屋あるらしい。

 たった六部屋しかないのに、一部屋開いていたのは運が良かったのだろうか?と思うが、決してテンプレではないはずだ、と思うことにした。


 階段を使って二階に上がると、奥さんは六部屋の内一部屋のドアを鍵を使って開けた。

 場所的には階段を上がった一番奥の部屋に当たる。



「この部屋になります。元々、一人部屋でしたのでベットがお一つしかありません。追加の毛布がご入り用でしたら持ってきますが、どうしましょうか?」


「追加料金はかかりますか?」


「いいえ、とんでもない。一人部屋に押し込んだ様な形ですもの、追加料金はいただきませんよ」


「でしたらお願いします」



 俺が頼むと「持ってきます」と奥さんは言って階段を下りて行った。

 一人部屋には俺と柳瀬さんだけになるり、謎の間が出来てしまう。

 そんな気まずい空気を読む俺ではない。

 俺はずかずかと部屋の中に入り、備え付けの椅子に腰を下した。



「…ふぅ。柳瀬さんも座ったら?」


「あ…うん。良かったね、泊まる所が見つかって」



 柳瀬さんが俺と向き合う形でベットに腰掛け「宿が見つかって良かった」と微笑むと背伸びをした。

 そのまま、ベットにバタンと倒れる。

 少し、目のやり場に困ってしまう状態だ。



 部屋だからって気を緩める過ぎじゃないか?

 幾ら「三次元に興味がない」と言ってる俺だって男なんだからそんな態勢をされると……。



「ツカサ君は――」



 柳瀬さんが何か言いかけたが、ドアをノックする音に遮られる。

 言いかけた言葉の続きが気になったが、直ぐに興味を失った。

 今はそれよりも来客の対応が先だ。



「ごめんなさい。追加の毛布を持ってきました」


「あ、ハーイ」



 外から聞こえる奥さんの声に、柳瀬さんが対応してくれる。

 奥さんが毛布を持って来てくれた様だった。



 ふぅー………。

 やっと異世界生活の一日目が終わる。

 元の世界にいた頃は、あ~してこ~してと妄想していたけど、実際に行動に移そうとしても上手くいかないもんだなぁ。

 でも、それでも何とかなった。

 女神様からは魔王がどうとか言われているけど、正直言ってそれどころじゃない。

 …………それどころではないけど、チート能力を幾つか貰っているんだから、気が向いたら、余裕が出来たら関わっても罰は当たらないはず。

 人類を救った英雄は目立つから好まないけど、元の世界で小説にあるような世界をあこがれていた俺もあるから少しだけなってみたいとも思う。


 先ずは、明日を生き抜くこと。

 そしてその後の指針は柳瀬さんをこの世界で難無く暮らせる様にサポートして、早く独りになること。

 初めはなんだかんだ言っていたが、今日一日過ごして思った。

 やはり同郷の一人なので、頑張ってこの世界に慣れてほしい。

 そして、俺なんかよりも………。



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