14話「アイテムボックス」
自分でも気付かない所で嬉しかったのは本当だ。
でも、気づかない所なので直ぐに俺は自分を否定する考えが頭に張り付く。
何て言った!?
柳瀬さんが怪我をしても、俺が気にする必要はない?
何が言いたいのかサッパリだ。
自分を嫌うな?
それは無理な話だ。
俺は俺である限り自分の事を嫌い続けるだろうな。
だって、そうしないと………。
柳瀬さんの言葉の真意が不明だ、理解出来ない。
そうやって周りの言葉を無視し続けなければ、俺は自分が分からなくなってしまいそうで怖い。
たとえそれが俺にとって厳しい言葉でも、やさしい言葉でも……
そんな俺の気など知らず、柳瀬さんは続ける。
「私はツカサ君が一緒に行動することを拒否しなかっただけで、十分だから」
「……何で?」
「何で?ってそれは……――――だから」
声が小さすぎて、最後の方は又しても聞こえない。
次第に柳瀬さんはそっぽを向きながら、
「と、とにかく!ツカサ君がさっきの事で気に悩むことはないからね!」
「………柳瀬さんがそう言うなら。気にしないでおく」
「うん!」
人の感情を理解することが苦手な俺は柳瀬さんがどんな気持ちで言ったのか分からない。
だから、そのまま受け止めておこうと思う。
どうせ人の言葉など、すぐ忘れるんだから。
「――――してくれるなら―――――嬉しいけどなぁ」
「何か言った?」
「うんん!!何も言ってないよ!あっ、それよりもこれ見て」
柳瀬さんが何かを言った気がしたので尋ねてみたが、何も言ってなかったらしい。
空耳か?と思ったものの「まぁ、いっか」と気前の興味なさを発動して忘れることにした。
それよりも柳瀬さんが『何か』を指差している。
柳瀬さんが指さしてる『何か』は全部で四つあった。
何だこれは?と思ったが『何か』が落ちている場所が丁度、スライムが倒れていた場所だと気が付く。
俺の視界にもアイテム名が現れる。
「これが『スライムジェル』だと思う」
「そう見えるの?」
「あぁ、如何やら簡単な説明文も載っているから有り難い」
『スライムジェル』
スライムの死体が固まって出来たジェル。
物によっては触ると危険
触ると危険って、溶けたりするのか?
だったらどうやって持って帰るんだ?
「ツカサ君、どうする?持って帰らなきゃ成功にはならないよ」
「最低ランクのスライムだから大丈夫だとは思う。念を入れて見ようか」
俺はその辺に落ちていた石を拾うと、スライムジェルに投げた。
石はスライムジェルにべっちょ!と効果音が鳴りそうな感じでぶつかってくっ付き、それ以外何も起こらない。
石が溶けている様子もない。
「だ、大丈夫なのかな?」
「大丈夫だと思うよ」
「え?もうちょっと……ツカサ君!!」
「石が解けないなら大丈夫だろう」と判断した俺はスライムジェルをヒョイと拾った。
柳瀬さんが悲鳴を上げるが、俺の手は何も変化は起こらない。
ふむ、柔らかく、それでいて崩れにくいのか。
元の世界で売ってる化学スライムみたいな感じで、だけどベタベタしていない。
「わぁぁ!ぷにぷにしてる!癖になりそう!」
俺は柳瀬さんにも回収するよう言ったら、ジェルを拾った柳瀬さんがジェルを気に入ったみたいだ。
ジェルをぷにぷにと突いている柳瀬さんは何故か、可愛いと思ってしまう。
「これで四つ、後六個で依頼達成だね。………でも、これじゃあ戦いづらいよ」
「んー、どうしようか?戦闘になる前に、何処かに置いてからしかないか」
これがゲームなんかだったら、メニューで持ち物リストを確認で、手に入れているアイテムを見れるのにな。
明らかに持てないだろ!って言うくらいの量がバックの中に入ってる設定。
あれは何か説明がついているのだろうか?
俺は某ポケットに入れて持ち運ぶことができるモンスターを捕まえるRPGゲームを思いだしながら、異空間にアイテムをしまえないかな?と試してみる。
異世界あるあるのアイテムボックスだ。
魔法袋とも言ったりするやつだ。
魔法使いしか使えなかったり、魔法使いが作れば誰でも使えるようになったりと、作品によって色んな設定がある。
あれが使えたら生活や仕事が上手くいく。
俺はアイテムボックスよ開けッ!と願いながらダメもとでイメージした。
すると、俺の視界に文字が現れる。
『ただいまアイテムは保管されていません』
機械的な文字を見るに、俺だけが見えるゲームのようなシステムが作り出している文字だと理解できる。
あれ?
もしかして出来てしまったのか!?
試しに「スライムジェルを四つアイテムボックスに入れる」と頭の中で命令してみると、俺と柳瀬さんが持っていたスライムジェルを四つとも消えて無くなった。
「あれ?消えた!?」
「俺の持ち物じゃなくても、効果範囲になるのか」
「ツカサ君が何かしたの?」
「ゲームなんかである、アイテムボックスをイメージしたら出来た。多分出すことも出来るはず」
今度はスライムジェルを一個だけ取り出すイメージをする。
そうすると俺のイメージ通り、俺の手にスライムジェルが一つ現れた。
「わぁ!現れた!凄いよツカサ君!!これで悩みが片付いたね」
「そうだな。それと、分かってると思うけど、誰にも言わないで欲しい。メリーさんにそれとなく聞いて見るが、この世界に俺と同じことができるようなアイテムがあるか分からないから」
「………うん!二人だけの秘密だね」
俺は柳瀬さんに秘密にするようにとお願いをすると、手に持っていたスライムジェルをアイテムボックスに再度入れ直し、スライム探しに戻る。
マップの赤点に注意して探すと、スライムは案外簡単に見つかった。
時折、スライム以外のモンスターを見つけるが当然やり過ごしたり避けたりして、戦闘を回避。
今回の目的は飽くまでスライムであり、それ以外はまた別の機会にする。
別に時間に焦っているわけでもないし、チート能力があるから大丈夫だと思い込んで深手を負いたくなかったからだ。
スライムを何十年もコツコツと倒すようなことはしないが、今はまだスライム以外はいずれと考えておけばいいのだ、と俺は小説でよくあるような事はせずに小心を心掛けて行動を起こす。
今の所俺が発見したモンスターは大体がゴブリンやコボルトだったが、中には初めてみるモンスターも居た。
気になってそいつらを俺のゲーム機能で確認したが、聞いたこともない名前が表示されていた。
マイナー過ぎるモンスターなのか、この世界限定のモンスターなのかは分からない。
勿論、チキンな俺はやり過ごしたり、遠回りしたりと戦闘には入らなかった。
マップスキルを持っていて良かった。
俺は心の底からそう思い、スライムを地道に狩りることに集中する。
「やぁあああぁ!!」
日も陰ってきた頃、柳瀬さんが最後のスライムのコアを破壊し、俺たちはスライムジェルを目標の三倍近い数の二十七個手に入れていた。
「お疲れさん」
「あ、ツカサ君も終わっていたんだ」
「今日はこれくらいで大丈夫だと思う」
「じゃあ、町に帰る?」
「そうしよう」
何回目かの戦闘を終えた俺は、辺りが陰ってきたのと依頼品の数が規定よりも多めに取れたのを理由にして、町に戻ると決めた。
柳瀬さんは俺の意見にあまり口を挟まないようで、すんなりと了承は取れ帰り支度を(と言ってもさっきの戦闘で手に入れたスライムジェルをアイテムボックスに仕舞うだけ)整えると、段々と日が陰って来た為か周りが薄暗い中、俺と柳瀬さんは俺のマップスキルを頼りに町へと足を進める。
HPバーはそれ程減っていないが魔力はかなり減ったので疲れた俺は、行きよりも歩く速度は落ちていると思う。
そんなへとへとになって歩いている俺と反対に柳瀬さんは「流石運動部体力がある」と言いたい位疲れを見せてない。
しかし、体力がある=燃費がいい、とはならないらしく、俺が先導するように歩いていると、ぐうぅ~~~とお腹が鳴る音が聞こえて来た。
俺ではない、柳瀬さんだ。
そう言えば昼は何も食べてなかったな。
だが、俺が昼抜きくらいで空腹なるか。
一日一食しか食べない俺を舐めるなよ。
「お腹鳴っちゃた。晩御飯は食べれるよね?」
お腹が鳴ったのが恥ずかしいのか、柳瀬さんは「あはは…」と恥ずかしそうに笑いながら言った。
何も恥ずかしいなら言わなきゃ良いと思うのだが。
俺だったら聞こえなかった振りをするぞ。
わざわざ自分から話題にするなんて何を考えているのかサッパリ分からないが、話しかけられた以上無視する訳にはいかない。
俺は異世界でのお約束であろう食事事情を披露する。
「多分、大丈夫だとは思うけど……元の世界の様な食べ物は期待しな方がいいよ」
「へ?どうして?」
「そこまで食文化が発展してるとは思えない。王貴族とか上流階級なら話は別だと思うけど、そんな金ない」
「そうなんだ~!」
柳瀬さんは純粋に「初めて知った!」と驚いている。
元の世界の様な食事が取れるとでも思ってたのか?
まぁ、コンビニがどこでも建っていて、何時でも食べ物や飲み物を買って、口に入れることが出来る日本が可笑しいんだけどな。
因みに俺は全くと言って良いほど買い食いをしない。
大切なお金を食べ物なんて消えるもので使うのがアホらしいからだ。
バイト代は全額、本につぎ込む。これ常識な。
バイトしていて、わざわざ百円コーヒー一つの為に店にくる客の行動が理解できなかった。
時間の無駄だと思わないのかな?あの買い物時間。
また元の世界のことを思い出してイライラしながら、俺は歩く。
出来るだけ離れない様に狩りをしていたため、町には直ぐ着くことが出来た。
初依頼は殆ど完了だ。