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13話「初めての戦闘」



「マップって何の事を言ってるのかな?説明をしてくれるかな?」


「あーッと……」



 気が緩んだのか、ついうっかり俺だけが見えるマップ機能の事を口走ってしまった俺は柳瀬さんに説明を求められていた。

 言葉に詰まり、「どう言い訳をしようか?」と考えた俺だったが、直ぐに考えを変える。



 柳瀬さんは俺と同じ転生者だ。

 これくらいの情報共有はしても大丈夫なんじゃないのか?

 それに、一緒に行動するのなら、いつかはボロがでる。

 今みたいに。

 だったら、初めから隠さない方がいい。



 そう思った俺は早速、冒険者登録時の場面から振り返って説明を始めた。



「俺が倒れただろ?」


「うん。…っ!やっぱり何処か痛むの!?」



 出先から俺を心配してくれる柳瀬さんに「心配してくれてありがとう」と心の中でお礼を言っておく。

 心配してくれるのは嬉しいのだが、俺に心配は要らない。

 俺は倒れる直前は酷い有様であったが、今は元気そのものだからだ。


 そんなことは置いておいて、俺は歩いて「スライムが良く見つかる」とメリーさんから教えて貰った穴場に向かいながら、柳瀬さんに話を続ける。



「始めに確認するけど、柳瀬さんは冒険者登録をしてから、変なものとか見える様になったりしてない?」


「……?メリーさんにも確認していたよね?私は特に何も変化はないよ」


「……分かった。俺がこれから言う事は誰にも秘密でお願い」



 俺は手始めに、メリーさんに確認したことをもう一度、柳瀬さんにも同じように確認をとる。

 今になって「気になっていたけど、誰も言わないから放置していた」とか言われる可能性も考えたからだ。

 俺と同じ転生者だから同じことが起こるかもしれない、と言う疑惑は外れたわけだが。

 俺は柳瀬さんに「誰にも言うな。俺と柳瀬さんだけの秘密だ」と言う前置きを置いて、話そうとしたんだけど。


「ツカサ君と、―――――――の秘密……!!これって私を――――してるってことだよね」



 柳瀬さんが何か呟いている。

 声が小さくて、独り言が誤って声に出しているらしく、何と無くしか聞こえない。

 かなり真剣な顔で呟いているが、何をそこまで真剣にさせるんだろうか?

 とにかく、柳瀬さんを現実に戻そう。



「柳瀬さん?続きを話しても良い?」


「あのツカサ君が……って!!今のは無し!!」


「無しも何も、聞いてなかったから」



 柳瀬さん、時々めんどくさい。

 早めに独立を促そう。



 そう決定していると、柳瀬さんは話を聞く体制に入ってくれた。

 上手く説明できるかどうか分からないが、頑張ろうと思う。



「あの時は言ってなかったけど、起きてから視界にゲームみたいなカーソルやステータス、マップと言った物が映っているんだ」


「えーと?」



 柳瀬さんはまだ理解できないみたいで、今日何回も見た首を傾げているポーズを取った。

 本人は自覚していないと思う。

 しかし、首を傾げているのも納得できる。

 「こんな下手くそな説明で理解できる方がどうかしている」と我ながら思うからだ。



「例を挙げると、柳瀬さんの頭上にカーソルが見えて、俺の意識がそれを捕らえるとカーソルが『ヤナギセホノカ』って名前に変換していたり、視界右上端に緑色と青色のゲージが見える。多分体力と魔力。最後に左上端には俺を中心とした地形図が小さくて見える。俺が地図を見なくても迷わず歩ける理由はそれ」



 一気に喋った俺は、柳瀬さんの理解が追いつくまで道を進む事に集中する。

 途中、モンスターが近くにいたりしたので、止まったり避けたりと回り道を進みながら、目的地付近までたどり着いた。

 着いたと同時にタイミングを見計らって、柳瀬さんも自分が理解できた事を解釈して合ってるか確認をしてくる。



「…つまりツカサ君は、他の人が見えない情報が見えるってことでいいんだよね?」


「そうなる。…追加、モンスターを見つけると、残りHPバーも見える」



 目的であるスライムを目にした途端、例のカーソルが名前→20/20となる。

 ついでに言うと、柳瀬さんのHPバーも自分のHPバーの下にいつの間にか小さく表示されていた。

 ゲームらしきシステムは柳瀬さんをパーティーメンバーとカウントしてるみたいだ。



「スライムは一体、近くにもう三体いる」


「わ、分かった。ゴクリ」



 スライムは両腕で抱える程の大きさで、緑色をしていた。

 それ以外は特に上げることのない姿。

 ゲーム初期に登場するザコ敵、まさにそれだった。


『グリーンスライム……………20/20』



「牽制で魔法を放って見る。倒しきれなかったら、柳瀬さんが追撃。コアを狙って、危なくなったら退避のヒット&ウェイ。命を大事にで」


「ッ!…………」



 俺はオーソドックスな作戦を立てて、柳瀬さんに伝える。

 柳瀬さんは声を出す代わりに、新品の細剣を抜いて答えた。

 初の戦闘に緊張している柳瀬さんと違い、俺は興奮してワクワクが止まらない。


 初モンスター討伐、やってやる!

 そう気合いを入れると、俺は手をスライムに向けて魔法を放つイメージを始めた。

 すると、スライム全体を囲うカーソルが現れる。

 なんだ?と思ったが、気にせず魔法の発動体制に入った。

 選んだ魔法はウインドカッター。

 風の刃が飛んでいき、スライムが切り裂かれるイメージを思い浮かべると俺は小さく呟いた。



「…ウインドカッター!」



 俺の手から魔力が出ていく感覚と共に、魔法が発動した。

 魔力が俺の手から放たれ、コンマ後には風の刃となってスライム目掛けて飛んで行く。

 ウインドカッターは俺のイメージ通りの起動を描いて、スライムに当たった。



「っぴぎっ、きゅぅ!」



 ウインドカッターはスライムの半分ほどを切り裂いた。

 コアには届かなかったみたいだが、HPバーは残り四分の一を切っている。

 よし行ける!そう思った俺は柳瀬さんに合図を送った。



「柳瀬さん!!」


「うん……………やぁあああぁ!!」



 俺の掛け声とともに柳瀬さんが走りだす。

 速い!!

 陸上部エースは伊達ではないらしく、物凄いスピードでスライムに近寄る。

 そして、


 ザッシュ!


 と効果音が聞こえる程良い太刀筋でスライムに切りかかり、剣がコアを破壊した。

 コアが破壊されると、スライムのHPバーは残っていたゲージが瞬く間に0になり、スライムが絶命したことを告げる。

 戦闘終了の効果音まではないのが残念に思うが、文句はない。



 か、勝ったぁ。

 初勝利だ!



 初めてモンスターを倒したことに、俺は油断していた。

 自分で言った言葉を自分で破るのは何時も「よくあること」で済ませれるのだが、今回ばかりはそうもいかない。

 勝った後の油断が一番怖いって小説でも言っていたはずなのに、俺は初勝利に油断して、俺と柳瀬さんに向かってくる赤点を記すマップ機能を見逃していた。



「きゅう!」


「っきゅぴ!」


「っくっぴんいぃ!!」



 最後の可笑しいだろ!

 って、スライム!!!



 近くの茂みからスライムが三体、柳瀬さんに向かって飛び出してきた。

 バカな俺は、自分で近くに三体いると戦闘前に言ってたのを忘れていたのだ。



「柳瀬さん!一体を捌いて!」


「わ、分かった!!やぁっ!」



 俺は柳瀬さんに指示を出すと、もう二体を標的に絞った。

 すると、スライム全体を囲うカーソルが二体ともに現れる。



 もしかしてこれはターゲットカーソルとでも言いたいのか?

 俺の考えが当たれよ!



 俺は急いでイメージする。

 属性は水、誤射しても一番致命傷にならないから。

 ボールを投げるくらい、だと間に合わないから銃弾をイメージする!

 それが二発、連発でタイムラグなく。



「……ツイスト、ウォーターバレット」



 俺が魔法名を呟くと共に魔力ゲージが減る。

 そして手から放たれ魔法は、弾丸の如く飛び出し、スライムのコアを打ち抜く。

 それぞれ一撃、それもコアへのダメージはクリティカルなのか、一発で仕留める事が出来た。


 今度は油断しない。

 スライム二体を倒しきった後、俺はマップに注目する。

 表示されている範囲には赤点は見当たらない。

 ふぅー、マップを見る癖を付けないとと思いつつ、これで初戦闘は完全に終了した。


 俺が安全を確認すると、柳瀬さんの方も終わりを迎えていた。

 柳瀬さんに向かってスライムが飛びかかる。

 スライムの攻撃パターンは単純らしく、飛びかかるだけ。

 柳瀬さんは簡単に避けると、すれ違いざまにスライムを半分に切り裂く。

 コアも丁度半分に真っ二つだ。



「ごめん」


「き、気にしないでツカサ君。私も油断していたから、ね」



 俺は柳瀬さんに謝ったが、柳瀬さんは俺を責めなかった。

 責めるどころが、一緒になって反省してくれる。

 そんな柳瀬さんに俺は疑問を持つ。



 何で柳瀬さんはそんなに優しいんだろうか?

 今のは俺が悪かった。

 自分で近くにいるって言っておきながら、忘れていたのだ。

 反応が間に合ったから良かったが、反応出来なかったら?

 最低ランクのザコ敵スライムといえども、最悪死ぬ。

 そう考えると自分が嫌になる。

 俺のミスで俺が死ぬのは一向に構わない。

 だけど、俺のミスで他人が死ぬのはダメだ。

 もっとしっかりしなきゃ。

 ここは異世界なんだぞ。



 そんな俺の心情を察してか、柳瀬さんが笑顔で俺に言ってきた。



「ツカサ君、私は大丈夫だよ」


「……………」


「私が無理を言ってツカサ君に着いて行ったのは私の責任。私に何か起こってもツカサ君が気に病むことはないよ」



「だから、私のことで自分を嫌わないで」


 柳瀬さんは俺の手を取りながらそう言った。



 現実の人なんて……と思っていた俺にそんな言葉効果は無い。

 そう思っていたはずなのに、



 少しだけ嬉しかったのは気のせいだろうか?




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