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129話「見つからない隙」

 互いに思考する時間が続き、沈黙が俺とオルタンシアの間を支配していた。

 それをいとも簡単に破ったのはオルタンシアだ


「うぬ? 予想以上に時間が経ってしもうた。ラーガンドのボウヤは……なんじゃ、まだ戦っておったのか」


 オルタンシアの声に釣られてエド達が戦っている方向を向く。

 会話や思考をしながらもぼんやりと把握していた仲間のHPゲージが危ない場所まで削られていなかった事から、死に瀕する危険な状態にはなってないからオルタンシアに集中していた訳だが……。


 四人とも健在で、まだ戦っていた。

 エドと柳瀬さんが交互に攻める。

 それをラーガンドは素手で抑え込む。

 技量で二人の攻撃を捌いている、というよりも肉体の強度が高すぎてダメージが通らない方が正しい。

 エーゼは魔法が効かないと分かっているから、二人の補助として立ち回っている。

 三対一でも圧倒的な有余を持っているラーガンドは、魔王軍の幹部の壁を体現しているかのようだ。

 死闘、と言うほどダメージを受けていない様子だけど、それはエーゼが補助に徹していてエドと柳瀬さんが傷を負う度に回復魔法を唱えているから。

 ラーガンドはそれを積極的に邪魔してない様子だから、二人はラーガンド相手に長時間戦えている。

 しかし、そう絶望的な戦力差があるかと言われれば、互いに戦闘技術の差はそこまで感じられない。

 むしろエドと柳瀬さんの二人で攻撃している分だけ攻撃のヒット数自体はラーガンドが二人与えるダメージよりは多い。

 魔法も無効化する上に物理攻撃に対する防御力も非常に高い?

 普通は片方だけが特出して高いもので、もう片方が弱点なのがテンプレだとおもうんだが……。

 それはゲームや小説の中の敵だから、攻略方位作ってあるって事か。

 となれば属性攻撃か?

 それとも特定の部位だけが非常に弱いとか……。


 現実と創作の違いをしみじみと実感していると、オルタンシアは言った。


「ふむ。ラーガンドとやり合うだけの実力はあるそうじゃが、奴の能力を突破出来るほどではないのぉ。ほれ、妾の用事はもう済んだぞ」


 そう言って俺に視線を送ってくる。

 今の言葉で、ラーガンドの無敵能力は破けると判明したが、今すぐには無理そうだとも判断できる。

 何か、何か突破口は無いか……。


 改めて、俺はラーガンドを観察する。

 魔族なのは間違いない。

 名前を偽っている可能性もあるけど、俺のゲームの様な視点が壊れてなければ偽っていない。

 至って普通の男の魔族。

 吸血鬼やゴブリンの魔族と言った特徴も見受けられない。

 巨漢だから人間と大層違いない体付き。

 翼とか牙とか変な触手だとか、おおよそ人族には存在しない器官は持ち合わせていない。

 しかし、それでも人間とは思えない瞳、この辺りの人族には珍しい褐色の肌が奴を人族だと思わせない。

 魔族と人族には不思議な拒否反応があるのか、見た目では人族そっくりでも人族の感覚がそれを拒否して魔族だと認識させている。

 ……やはり異界からやって来たと言う与太話は本当なのだろうか?

 見た目は問題無くともその存在を感覚が否定するなんて、どう考えたって別世界だから…なんて設定もどこかの小説に書いてあった記憶がある。


 いや、今はそれよりもダメージが通らない理由を探らないと。

 幸いオルタンシアはやる気のなさそうに欠伸をしていた。

 向こうの戦闘に加わる気も、俺の邪魔をする気もなさそうだ。

 オルタンシアの気分が変わる前にどうにかラーガンドの情報を集めなければ……。

 スマホがあれば録画して後から見返したり出来るんだけどなぁ。

 元の世界の持ち物はあるっちゃあるが、俺の手持ちにはスマホは無い。

 柳瀬さんならまだ持っているかもしれないが、戦闘中に借りる隙を作るのは難しそうだ。

 そもそも、この世界で元の世界の電子機器が動くかも不明だけど。




「やぁぁ!!!」


 柳瀬さんがラーガンドに肉薄する。

 真横の薙ぎ払いから流れる次の動作へと移行すると、今度は返し刃で下段からの振り上げ。

 ラーガンドは薙ぎ払いを避けると、下段からの振り上げを手に付けている防具で防ぐ。

 同時に、エドが後ろから直剣を振り下ろすが、ほんの一瞬だけ硬直した後に剣を直に受け止める。

 防具を纏っていない場所に当たり、傷を負わせる事に成功するのだが、深い傷にはならない。


 掠ったわけでもないのに異常な耐久力だ。

 筋肉が固いからか?それとも魔力的な防御か種族的な特性か。

 これがあるからエド、エーゼ、柳瀬さんの三人でも倒せないで居る原因の一つ。


 ラーガンドはガードを行う事で落した重心から脚を後ろへ蹴り上げ、そのまま空中で器用に回転するとエドに横蹴りを叩き込んでノックバックさせた。

 攻撃の直後に行われたカウンター攻撃なのもあり、エドのHPゲージが少し減少して止まる。

 刃物などで傷つけられるよりは大分マシだが、それでもただの蹴りで全身防御の鎧ではないとは言え、防具の上から内部にまで届くダメージを与えられるのは、真面目に考えてヤバイ。

 鍛えているエドでこれなのだから、純粋な魔法職のエーゼや俺が何もせずに喰らえば、下手すれば一撃で戦線離脱を免れない。

 柳瀬さんは……まぁ、速度意識の軽装とは言え身体の重要な部分には金属を使っているから俺とエーゼよりは問題無いだろう。


「……ッ」

「ぬ? どうかしおったかの?」

「な、何でもない」


 一瞬、柳瀬さんの視線がこちらを向いたような気がした。

 殺気とは少し違うような……。

 いや、そもそも柳瀬さんがこちらに目線を向ける理由も無いはずだし、今は戦闘中でその余裕も無いはず。

 だから気のせいだと言う事にしておこう。

 その方が身の安全の為だ。


 エドが少し下がった事で攻防は入れ替わっていた。

 先ずは防御力が低く見れる柳瀬さん叩くつもりなのか、着地と同時にラッシュを繰り出す。

 その攻撃方法は前世の空手の様であり、ボクシングのようでもあった。

 格闘技とかそっち系のスポーツなんて全く知識の無いから、ラーガンドの攻撃方法が元の世界にも存在する攻撃方法なのか、それともこの世界固有の物なのか分からない。

 ラーガンドの攻撃を柳瀬さんは回避、または剣で防いだり逸らしたりして防御する。

 生憎、素の状態の俺の目では何が起こっているのか追え無いが、魔力を目に集めて動体視力を上げるとどうにか判別が付く程度までには見れた。

 

 何合打ち合ったのだろうか?

 動体視力を良くしても気を抜くと見逃しそうになる速度で攻防を繰り返す柳瀬さんとラーガンド。

 こんな速度で動ける柳瀬さんにも驚きだが、同じ様に柳瀬さんに通用する攻撃を繰り出せるラーガンドも、異常な耐久性だけでなく攻撃面でも優れている事が伺える。


 流石に魔王軍幹部を名乗るだけの能力はあるようだ。

 平均的な能力の高さに加えて特異な耐久性。

 これを攻略しない限りは奴は倒せそうにない。

 ゲームだとギミック対応をしなければ、どれだけレベルが高かろうが勝てない戦闘。

 キャラやら装備が揃ってる状態なら編成を少し弄るだけで済むが、初期の頃や始めたてだろ対抗手段が少なくて苦戦する奴。正に今の俺達だ。

 ゲームと違って自分達でギミックを見破らないといけないし、対抗手段だって存在するかも妖しい。

 これがゲームなら戦闘前に攻略情報を覗いているし、接敵する前にレベリングをやりまくってレベル差の暴力で脳筋プレイ一択だ。

 だが、ここはゲームみたいな物が見えようとも、魔法が存在しようとも、何処まで行っても現実に他ならない。

 ゲームならシステムを把握して絶対に付ける穴を探せば良いだけだけど、この世界に絶対に通せる物は存在しないだろうし、敵が俺達を遥かに上回る実力を持っていてどう足掻いたって敵わない可能性だってある。

 とは言え逆転の発想で、ゲームにしか出来ない事があるのなら逆に現実にしか出来ない事もある訳だ。

 元の世界では心情を打ち明けて一つの目標に向かって歩みを進める友達的な仲間は居なかったけど、この世界に来てから柳瀬さんにエドとエーゼと言う心強い味方が出来た。

 柳瀬さんに関しては元の世界の同郷であの状態では放っておけなかったと言う偶然に近い流れもあったが、エドとエーゼはそんな過去の事は抜きにして知り合って、依頼を一緒にこなして冒険する度に信頼度を稼いで行って出来た仲間を言えるだろう。

 仲間なら相談して知恵を絞って攻略方法を探す事も可能だ。


 その為にも、ラーガンドとの攻防をしっかり観察しなければな、と俺は視線の先の戦いに集中した。

 動画が取れるビデオカメラなんかが有れば便利なのだろうが、生憎とそう言った魔法具は聞いた事がない。

 それなりにこの世界で暮らしていて耳にしたことがないと言う事は、古代文明の遺跡からそう言った道具は発掘されてないか、古代文明でも作って居なかったかのどちらかだろう。

 ないものねだりをしていてもしょうがない。

 今は戦闘を観察しよう。

 魔法でビデオカメラを再現出来れば良いんだが……。



 そんな風に考えている間も戦闘は続く。

 攻撃と回避の速度は柳瀬さんの方が早く、何度か隙を付いてラーガンドに攻撃をヒットさせるが、腕とか足の腿とかに掠るだけ。

 掠っただけではラーガンドの肉体の前では当たってないと同意儀だ。

 不思議な耐久力以前に、戦いに有利になる様な攻撃は受けてくれない。

 身体の使い方が上手いと言うべきか、絶対に避けなければならない攻撃を見極めている。

 それでいて防御面も理不尽な硬さがあるとか、厄介にも程があると再認識せざるを得ない。

 魔族の中でも様々な種族が存在しているようだから、ラーガンドがどんな特徴を持った魔族なのか、ラノベ知識的にモチーフとなった生物の名前でも分かれば、そこから攻略方法が分かるかもしれないが、俺のゲームの様な視界を以てしてもそこまではわからない。

 機能のアップデートを求めたいところだが、そもそも俺の知らない知識をどうやって誰が再現しているのか不明で、女神様的なパワー由来のチート能力ならどうする事も出来ない。


 エーゼに回復して貰ったエドが前線に復帰する。

 柳瀬さんとの打ち合いに集中していたのか完全な不意打ちになった。

 が、そんな攻撃も決定打には至らない。

 防御すら出来ていなかったはずなのに、吹き飛ばされたラーガンドは受け身を取って着地すると、顔をしかめながらエドの攻撃が当たった脇腹辺りをさすって悪態を吐くのが見えた。

 感覚的なダメージはあるみたいだが、見た目は特に変わっていない。

 防具の上から受けたわけでもないのに、剣の直撃で斬れていないのはやはり肉体強度が高いからか……。


 もっと大きく分かりやすいダメージを与えられれば、その耐久性が回復ありきなのかが分かるかもしれないが、エーゼの魔法が効かなかった以上、魔法に対する耐性も振り切れているのだろう。

 うーん。ここは負けイベントで、戦い方や攻略方法以前の問題だろうか?

 この後に成長パートが入って、何かしらの能力や武器を手に入れるのテンプレだけど……その前にここから逃げる必要があるんだよなぁ。


 オルタンシアに視線を向けると、彼女は娯楽でも見ているかのように双方を応援していた。

 うわ、視線に気付いてコッチ向いて笑みを浮かべて来やがった。

 怖いから止めて欲しい。


 再び三対一に戻った戦いだが、戦況は全く変わらない。

 寧ろエーゼの魔力が少なくなってきて劣勢になっていくだけだろう。

 どうする?

 オルタンシアは手を出さないと言ってきたが、それで本当に手を出さないかは分からない。

 しかし、名を掛けてまで手を出さないと誓ったのだ。

 吸血鬼は貴族っぽくて誇りが高いのがよくあるテンプレ設定で、あそこまで言ったのなら余程の事が起こらない限り手を出さないだずだが……。

 ……油断は良くないが、ここは好意に甘えておくとしよう。

 だからオルタンシアの事は一旦無視で良い。

 むしろ俺がどんな行動を取るか、どんな魔法を使うかを気になっている様子だから、積極的に手を出してラーガンドの隙を作るのが良いのかもしれない。


 魔法、魔法と言っても今の俺に出来ることは多くない。

 支援魔法でエド達とバックアップするもの、俺よりもエーゼの方が得意だ。

 撤退する為にラーガンドへ魔法をぶち込もうにも、あの異常な耐久性の前には並みの魔法では突破出来る気がしない。

 上級魔法レベルの威力をぶつけようにも、エド達を巻き込んでしまう危険性があるから躊躇われる。

 高威力かつ周囲に被害が出ない魔法をイメージするのは、今の俺には少しばかり難易度が難しい。

 こういう事なら、もっと積極的に魔法の鍛錬を進めておくべきだったと後悔し始めても遅い。

 いつもこうだ。

 目先の欲しいものに囚われて、最低限の努力すら怠って時が来たら後悔する。

 そんな生き方をして来たから、肝心な場所で役に立たない。

 最近は俺に都合が良すぎたから忘れていた事を思い出して自己嫌悪に陥る。

 全く、嫌になる人生だ。



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