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128話「魔王軍幹部との会話」


「ラァ!!」

「くっ…」


 ラーガンドの拳とエドの剣がぶつかり合う。

 ぶつかったのは拳なのに金属同士がぶつかった鈍い音が鳴り響いた。

 同時に、エーゼの攻撃魔法がラーガンドを襲う。


「焔よ、我の敵を尽く焼き焦がせ『フレイム』」


 上級火属性攻撃魔法『フレイム』

 エーゼはその魔法を短縮詠唱で発動させてラーガンドにぶつける。

 もう一人の女性魔族が防ぐ可能性もあったが、彼女は立ち尽くして俺達を見ているだけでエーゼの魔法はラーガンドに直撃。

 精密な操作を行い、正面のエドに被害が出ないように背後から当てるのは流石エーゼと言ったところだろう。

 しかし、黒煙が晴れると無傷でエドと推し比べをしているラーガンドが居た。


「人間にしちゃあ悪くない魔法だったが、相手が悪かったな。 ラァ!!!!」

「ッ!! エーゼ、補助に努めてくれ。魔法がダメならオレがやる」

「分かりましたわ!!」


 理由は不明だがラーガンドに魔法攻撃が効かないと分かるや否、エドはエーゼを補助に回して自らの剣技を中心に攻める事にしたようだ。


 俺の目から見てもアレは不自然だった。

 ラーガンドは確かにエーゼの攻撃を視認していたはずだ。

 でもそれを避けるどころか防ごうともしなかった。

 エドの攻撃を受け止めていたから、と断定するのは早計だろう。

 魔法的な防御? いや、魔力を使った形跡は俺の目から見ても全くない。

 ならば装備品の効果だと考えるべきだけど……あの戦闘の中でアイテム鑑定のチート能力は発動出来ないようだ。

 戦闘が始まる前に鑑定出来れば良かったんだけど、流石に距離があり過ぎたみたいだし、そもそもマップ機能では敵判定されていた相手の装備品を鑑定を出来るはずもないか。

 ゲーム的に考えれば納得がいく。俺とラーガンドの実力が対して変わらないか向こうの方が強いって思えば有り得なくもない。


 エドとエーゼが連携してラーガンドと戦っているが、俺が動かずに考察をしているのも理由はある。

 けして戦闘をエドとエーゼに任せっきりにしているわけではない。


「うふふふ、向こうは苦戦しているようね。妾は今の所攻撃するつもりはないぞ」


 柳瀬さんと一緒にもう一人の女性魔族と対峙しているからだ。

 彼女の言う通り、特に攻撃の姿勢すらなく、何ならとてもリラックスしている様子をみせている。


「だからと言って隙を見せれば後ろから刺してくるんでしょ?」

「確かに貴様の言い分は正しいだろうな。じゃが、本当に妾に戦いの意志はないんじゃよ。魔王さまに頼まれてラーガンドの移動手段として使われただけじゃからな」


 柳瀬さんの指摘に緩く答える女性魔族。

 やはり攻撃の意志は全く見られない。

 本当にそうなのだろうか?と思わずにはいられない。

 現に柳瀬さんも警戒を解き始めている。


「……ホント?」

「本当本当。何ならこの場に置いて一切の攻撃行為を取らない契約を結んでも良いぞ」

「うーん。そこまで言うなら信じてもいいかも……」


 ほら、基本的に純粋な柳瀬さんは剣の構えを解いている。

 それでも鞘に戻さないのは最低現の線引きは出来ている証拠だけど、魔族前では少々危なげないと言わざるを得ない。


「ねぇツカサ君。どうしよっか? あの人本当にやる気なさそうだし、逆にエド君とえーちゃんは苦戦しているみたいだし……。私もあっちを助けた方がいいのかな?」

「……まぁ苦戦しているみたいだし、魔法使いの俺が行くよりも遥かに戦力としては役に立つだろうから、生きたいなら行ってあげれば? 俺はここでこの人を牽制しとく」

「うん、ありがとう。ツカサ君も何かあったら直ぐに呼んでね。急いで戻ってくるからッ!!」


 そう言って柳瀬さんはエドとエーゼが戦っている方へ剣を抜いて走って行った。

 やってる事は半分くらい戦闘狂なんだよなぁ……。

 まぁ柳瀬さんが加わる事で有利に進むなら、送り込んだ俺としては安心する。

 けして楽をしたいとかじゃない。

 柳瀬さんを行かせたのは少し疑問点があって、柳瀬さんがこの場にいると進行に影響が出ると感じただけだ。


 俺は、俺と柳瀬さんが隙を見せて会話している間もずっと黙ったまま立ち竦んでいる女性魔族に向き合った。

 大凡普通の人間に近い容姿を持っている。

 巨体を誇っているラーガンドよりも人間に近い。

 ただ、人間に近いだけであって純粋な人間とは言えず、人里に紛れ込むには少々無理があるのは確かだ。

 綺麗と表現できるエーゼを以てしても及ばない美貌を持った顔の作りは彫刻の様に美しく、長い髪の毛も地面に引きずる程長く紅い。

 最も特徴的なのは病的なほどに青白い肌、そして黄金にも真紅にも見える不思議な瞳だろう。

 あの瞳は俺でも長く見続けるのは危険だと本能が信号を出してくる。


「……ふーむ」

「俺に何かあるのか? 吸血鬼」

「ほーう。初対面で看破してくるとは中々な観察眼じゃの」


 観察眼とか言われても、俺にはただのカマかけだった。

 青白い肌に人間離れした美貌、更には瞳が特殊と来ればオタクにはピン来るだろうさ。


「一応名乗っておこうかの。妾は魔界の真祖、オルタンシア・フラード=リモンテエンドロール。今は人界を攻めておる魔王軍の幹部を任されておる」


 長ったらしい名前を置いておいて、魔界とか人界とか初耳の単語が聞こえて来たんだが……。

 まぁ、ラノベ知識に照らし合わせれば何となくの意味は理解出来る。

 魔王軍は魔界からこの世界に攻めているって認識でオッケーなのね。

 どこからともなく現れたって噂だったから、別の世界からの侵略って設定、じゃなかった。背景でもあるんじゃないかと簡単に予想していたのが当たった。


 名乗られたら名乗り返すのが礼儀。というのは元の世界では割と当たり前のことだったけど、この世界ではそれが正しいとは限らない。

 特にヒト以外の存在が当たり前のように存在している異世界では悪魔なんてものも眉唾レベルだが存在しているはずだ。

 悪魔には名前を名乗ってはならないなんて知識もよくある話であり、この世界も似たようなおとぎ話や伝説が残っていたりする。

 相手は悪魔ではなくて吸血鬼だけど、大きな分類で見れば魔に属する存在である事には変わりない。


 さて、どう返そうか……。

 初めは偽名でも、なんて考えも浮かんだけど、既にこの魔族の前で名前を呼び合っている。

 吸血鬼だから、魔族だからと言う訳では無いが、魔力で聴力を強化すれば対策もしていない小声は筒抜けだろうから辞めだ。


「そら、妾も名乗ったのじゃから名前を教えてくれるかの」

「……名乗っても勝手な契約とかしないか?」

「せんせん。今はニンゲンをどうこうするつもりは一切ないのよ」


 嘘か本当か。

 誇り高い吸血鬼、それも真祖とか言う頂点にも位置する存在なら下手な嘘は付かない、はずだ。

 ゲームならテキスト上だけの会話であり、会話イベントが終われば戦闘に移るのがお約束。

 そしてプレイヤーは何のためらいもなくレベリングして上げた力と覚えた魔法やスキルを使って容赦なく倒す。

 確かにゲームだからそこ出来る行為で、実際に生きているこの世界で俺が行えるか?と言われたら出来ると答えるだろう。

 出来なきゃ死ぬのがこの世界。

 この世界に転生召喚されて既に半年以上経った。

 そんな甘えは既に無い。


 話を戻そう。

 相手がここまで言っている以上、名前を名乗るだけで変な契約を結ぶなんて事はないだろう。

 が、相手は人族の敵であるのは間違い。

 警戒は何重にもしておいて損はないだろう。


「俺はツカサだ」


 せめてもの抵抗として名前だけを名乗る。

 こう言ったパターンは本名をフルネームで知っている必要があったりするのがお約束で、回避するのも偽名やフルネームを名乗らなかったり、特殊な感じだとそもそも本人が本名だと思っていたのが本来の名前では無かった等々様々な展開があったりするが、今はそこまで難しく考える必要はないだろう。

 後で雑談に交えて話題を出してみてエドとエーゼの反応を伺ってみるもの今後の為にはなりそうだが……。


 さて、俺は相手さんの要望通りに名前を名乗った訳だが、彼女は口角を上げて何度も小声で俺の名を連呼していた。

 何度も、何度も、何度も。

 まるで愛しい人の名前を忘れないために……。

 ってふざけるなよ。どうして吸血鬼に愛情を向けられなくちゃならないんだ。

 彼女、オルタンシアの気を逸らす為にも、ここで一つ気になってた事を聞いてみる。


「ところで、攻撃行為を取らないってのは嘘だったのか?」


 すると、オルタンシアはブツブツと小声を呟くのを止めて俺に向き合う。

 真顔だ。先ほどまでも別な意味で怖かったが、今の方が何倍も恐怖心を駆り立てる。


「どうしてそう思ったのか、答えてくれるか?」

「だってあんた、柳瀬さんに魅了を使っていただろう? 確かにあっちの状況を見たらこっちよりもあっちを優先したいと考えるのは当然だろうよ。でも、アレは柳瀬さんにしてはほんの少しだけ強引に話を持って行っていた。それで気になってみたら……」

「妾が魅了をかけていたと? ま、確かに魅了の魔眼は開いておったよ。と言ってもツカサの口ぶりからしても軽度の様じゃがの」


 やっぱりか。

 オルタンシアには言っていないが、柳瀬さんの行動に疑問を持った以外にも魅了を確信していた理由はもう一つある。

 ゲームの様な視点に移るパーティーメンバーのHPゲージだ。

 その下にハートマークの様なアイコンがうっすらと点滅しているを見て、俺は吸血鬼といえば……なんて考えていると思いだしたのが魅了の魔眼と言う訳。

 吸血鬼と一口に言っても、元の世界には実在してない生物であり、そのモデルである伝承や伝説は様々な形で残っている。

 更に吸血鬼が登場する作品は古い時代の文学から現代のライトノベルまで、幾千万にも挙がるだろう。

 その中で俺が知っている作品の中でも一際印象に残っている吸血鬼、ローファンタジーの中で登場する吸血鬼の御姫様となんてことない男の子が出会って始まる物語の設定に、吸血鬼が魅了系統の魔眼を使っていたのを覚えていたのが一番の理由だろう。

 覚えてて助かった。やはり元の世界のラノベアニメ知識は義務教育に入れるべきだ。


 まぁ、そんな事は今は置いておこう。

 それよりもオルタンシアが嘘までついて柳瀬さんを遠ざけたかった理由が知りたい。


「それで、柳瀬さんを魔眼を使ってまでこの場から離れさせた理由は?」

「ラーガンドとあっちで戦ってる者達の相性は良くないじゃろうから、拮抗出来そうな彼女を唆せただだけよ?」


 確かに見た感じエドとエーゼだけでは負けはしないだろうが勝てそうにもない。

 エーゼの魔法が効かないとなれば、物理攻撃で対抗できる柳瀬さんがヘルプに行った方が良いのも分かる。

 だけど、


「一応仲間だろう? わざわざ味方を窮地に追いやる必要はないと思うが?」


 普通は味方が不利にならないように物理攻撃持ちは引き留めておきたいはずだ。

 数の利は無いが、二対二で同数の方が一人で三人を相手取るよりは良いはず。

 まぁ、そうは言ったものの、ラーガンドとオルタンシアの仲は良いとは言えない雰囲気だった。

 下っ端ならともかく、幹部ともなれば同じ魔王軍でも権力争いでもあるのだろうか?


「フフフ。剣士一人で増えた程度じゃラーガンドは倒せんよ。ま、奴が好かんから嫌がらせも兼ねておるがのぉ」


 私欲的な利用と倒されない信頼でもあった。

 やはり魔王軍の幹部ともなれば純粋な力だけで勝てる相手ではないらしい。

 その証拠に、チラッと四人が戦っている方を確認すると、善戦は出てきているものの決定打に欠けているみたいだった。

 ゲームでもラノベでも大抵のボスはギミックを解かなければ勝てない仕様なのは、この世界でも似ているらしい。

 戦いの中でギミックや弱点を見つけて対処出来るものなら楽で良いが、一旦逃げ伸びて別の場所で弱体化させるアイテムや魔法の習得だと面倒だな……。


 なんて、目の前のオルタンシアよりも脅威であろうラーガンドの攻略方法を考えていると、わざわざ魔眼を使ってまで対話を従っていた吸血鬼の機嫌が悪くなっていった。


「女性を目の前にして他の事を考えるのは良くないのぉ。ほれ、妾を視ろ」

「……そう言われても困るだけだ」


 確かに礼儀がなってないのは認めよう。

 が、女性を真正面から見つめるのは些か気が滅入る。

 柳瀬さんとエーゼなら慣れて来たが、それ以外の女性となれば真正面から視点を合わせるのは厳しい状態だ。

 ましてや、オルタンシアの容姿は現実離れした妖艶さを持ち合わせていて、身体付きも出るとこ出て引っ込むところ引っ込んでるを体現したような身体。

 俺が苦手なタイプの人間…じゃない吸血鬼だ。

 ほら、嫌だけど男として目が惹かれる感じがまた自己嫌悪に陥る奴。


「それでいい加減俺と話したい理由が聞きたい。俺とお前は初対面のはずだが……」


 そう。初対面だ。

 もし街中ですれ違っていたら俺のゲームの様な視点が見逃さないはず。

 だから何故オルタンシアが俺を気にするのかが気になる。


「んー。お主と戦う、と言うよりも魔術戦をしてみたかったから?」


 何故疑問形?

 と言うか、この場で戦わないと約束しただろうに。


「なーんて言うてみただけじゃ。お主の魔術を見てみたいのはホントじゃが、何も戦うだけが交流の場とは限らんしの」


 一番てっとり早いのは確かじゃが……と零すオルタンシア。

 俺は疑問で一杯だ。


 何故初対面の魔族に俺の魔法を見てみたいと言われるのか、全くの謎でしかない。

 魔族と対面したのは先日の奇襲が初めてで、その時も一方的に魔法で無双していただけだ。

 その時の生き残りの話がオルタンシアの気を引いたのだろうか?

 だが、その時に使った魔法は特別な物では無かったはずだけど……。


「ま、向こうの戦闘が片付くまで楽しもうぞ」


 不敵に笑うオルタンシア。

 楽しむの何も初対面の人とどう楽しめと?

 俺はコミュ障なんだよ。

 男性相手で普通の受答えならともかく、女性で吸血鬼が相手とか罰ゲームにも程がある。


「なーんか嫌な気持ちを持たれておる気がするの」


 どうして世の中の女性はこうも感が良いのだろうね?

 話を逸らすにも早速相手の聞きたいことを話してもらおう。


「何度も言うが、俺と会って何が話したいんだ。魔法と言われてもこっちはさっぱり分からない」

「瀕死で帰ってきた部下が言うのにはの? なんでも無詠唱で扱いの難しい複合魔法を最も簡単に扱う魔術師にやられたと言うではないか。」


 確かに俺の事で間違いは無いだろう。

 俺の他にも無詠唱で魔法を使える魔術師がいるかもしれないが、この時期に全くピッタリと当てはまる存在は殆どいないはず。

 と言うか、そんな魔術師がいるならエーゼが街で情報を仕入れてるはずだ。

 取りこぼしくらいあるだろうけど、少なくとも今は俺の事だと思っておいた方が穏便に済むはず。


「その魔術師はお主の事じゃろう? 女の方は先ほどから詠唱省略はしおっても無詠唱は全く使っておらんからの」

「……確かに先日の魔王軍を壊滅させた時に使ったのは氷魔法で間違いないな。でも複合属性の無詠唱だからといって出来ない訳じゃないだろ?」

「あぁ、理論上はニンゲンにも魔族にもエルフにも、ドワーフにも龍にだって扱えるのよね。ただ、種族によって魔法の扱いにも差が出来るのは当然の摂理。平均値こそ全体的にそこそこ高く増えやすく欲深いのがニンゲンじゃが、魔法の扱いは魔族やエルフには少し劣る。ニンゲンが無詠唱の複合魔法を扱えるなぞ、何百年に一人の天才じゃろうな」


 うーん。ズルしてるから何百年に一人の天才!!ってもてはやされても嬉しくない。

 そりゃあ女神様にチート能力を貰って、その辺の一般的な魔術師よりもちょっと強い程度ですねー。数年に一人は出てきますよー。なんて言われてみ?

 チート詐欺だろう。転生詐欺だろう。

 だがまぁ、過剰に才能を買われても困るので、否定の態度は取って置こう。


「別にそこまで言われる才能は無い。貰い物の力を必死こいて使ってるだけの凡人だ」

「謙遜も過ぎれば何とやらと聞いたことはあるが……まぁ良かろう。それよりも……今、魔法を使っておらんじゃろうな?」

「使ってないが……」


 なんだ?

 俺は魔法なんて一切使ってないはずだ。

 しかし、オルタンシアは黄金にも見えるその目を細めて俺を睨みつけている。

 いや、これは周囲を観察している?


「使ってない……使ってない? しかし、ほんの僅かじゃが使われた魔力の形跡が見れるが……」


 ブツブツと何か言い始めた。

 無意識で防御系の魔法を発動寸前まで練っているかもしれないが、意図的に魔法を使おうとはしてないのは事実。

 しかし、魔族ともなれば素で魔力を観測出来るのか?

 人族側の本には優れた魔術師が集中して、と書かれてあったぞ。

 俺も最近ようやくコツを掴んできたレベルだっていうのに。

 魔力を操る感覚とはまた別の感覚が必要らしく、感覚的には魔力を目に注いで更に自分以外の魔力を感覚で探らなければならない。

 この世界の専門書を読んだりエーゼから聞いた感じだと、魔力の観測を行えるのはとんでもなく高度な技術ならしい。

 なんとなしに出来るだけでも一流の魔術師で、俺やエーゼはそのレベルに位置するとも言っていた。

 だが、オルタンシアはそんな高度な技術を習得して居るっぽい。

 明らかに格上の相手なのは間違いないだろう。


 戦えば負けるよなぁ。

 戦いたくないなぁ。

 戦意持ってないのが救いだけど、オルタンシアが魔王軍の幹部なのは本人も言っていたし、俺達が魔王に辿り着く前に立ち塞がるのは間違いない強敵。

 ラノベ風に言うのなら、序盤に顔を見せる強敵って所か。

 実力を上げるのは当然だけど、それ以上に何か弱点とか突かないと勝てない系だよなぁ……。

 銀とかニンニクとか聖別された武具とか、この世界の吸血鬼にも効けばいいんだけど。


「ふむ、ふむ。無意識下の魔法執行は有り得なくも無いが……。だとすれば何時ぞやの……」


 まだ考察が終わらないらしい。

 帰って良いかな?帰る場所なんて無いし、ラーガンドを倒し切れてないから撤退は出来ないけど。

 俺の役割はオルタンシアが向こうに合流しないように牽制する事、なはず。

 オルタンシアには戦意が無いから戦いになっていないけど、だから暇といって本を取り出して読書をするのはダメだと、流石に俺でも分かる。

 一応会話の途中であり、戦意が無いないけど敵は敵。

 格上相手なのは当然として、到底油断出来る相手じゃない。

 冒険者なんてやってるけど、それはこの世界で生きて行く上で一番簡単に就ける職業だからで、俺だって死にたい訳じゃないからな。


 俺はまだ遊び気分がぬけてないのだろう。

 ここまで順調だったからだ。

 戦いもゲームの様にこなして、魔法の遣い方だってこの世界の魔法使いの様に詠唱を覚えて魔力の使い方を……なんって苦労もしていない。

 怪我だって重傷まではいかず、起きてもかすり傷程度の元の世界でも負うくらいの怪我しかしてない。それも治癒魔法で直ぐに治せた。

 命のやり取りをしているのは理解していても、何処かまだ遊び気分が、自分なら大丈夫だと言う楽観的な考えが抜けていないのは、やはり今まで死ぬような目に合ってないのが原因なのだろう。

 ここに来て、ラーガンドとオルタンシアと言うゲームの中ボス的な存在に出会って初めて自覚しても、結局は本気で死に目に会わなきゃ思い知らされないのだろうな、とも心の何処かで思っている。

 

 ここに来てそれを自覚して自己嫌悪に陥っていると、考察に一区切りがついたらしいオルタンシアが手を叩きながら言った。


「うーん分からん。にじみ出るおるのは確かに魔力じゃが、その利用法方が不思議じゃな。魔力を魔力として扱っておるので無しに、結果だけを抽出する為のエネルギーの様にしておる雰囲気じゃな」


 な?と視線で問うてくるオルタンシア。

 いや、そもそもそんな専門的な話分からないんだが?

 今までここまで魔力感知に長けてた人に出会ったことが無いし、エーゼだって俺の魔法に食いつく事はあっても踏み込んでは来ない。

 まぁ、これは互いに秘密を抱えているから片方が踏み込もうとすればもう片方の秘密も暴露しないといけない訳で、言えない日々が続いている。

 何はともあれ、俺にとって魔法は魔法だ。

 この世界にとって技術的、学問的な物であっても俺にとっては摩訶不思議な現象そのものだ。

 説明されれば理論的には分からなくもないが、感覚的には科学的な法則を無視しする物は全て魔法である。


 まぁ難しい話は置いておこう。

 こんな場所で、敵対している魔族とする話ではない。

 するなら夜の寝番中にエーゼとするのが一番楽しい。

 柳瀬さんだと元の世界の話は出来るが元の世界での価値観や生活状況が全く違うから全く同じ意見として話せはしないし、エドとも同性として話していて気が楽なのは確かだけど魔法議論についてはエーゼに劣る。

 いや、こんな俺なんかと会話をしてくれるだけで三人ともいい奴なのは間違いないんだけどさ?

 俺の会話デッキの変則さが際立って申し訳なくなる。

 同性な同士が欲しかった人生だった。

 この世界では最早叶わぬ願いでもある。


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