表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
127/129

127話「遭遇」

 エドが異常なほどに俺に柳瀬さんへの評価を聞きだそうとして、俺もどうしたらいいのか分からなくなり言葉が詰まる。

 一度閉じた口は中々開いてくれないし。


 それから無駄に時間は過ぎた。

 エドが喋らなくなったし、それな俺だって自分から話題を提供するほどお喋りじゃない。

 彼が何をしたかったのか、取り出した本を読みながら片隅で考えてみるが、有り得ない妄想ばかり浮かんでは消えるばかり。

 中々集中出来ず、交代の時間まで4時間はあったと言うのに、たった数十頁も進まなかった。

 時間になるとゴソゴソと起きた二人と交代して眠る。

 柳瀬さんの方向を全く向けなかったのは、単純に話す要件が無かっただけだと信じたい。


 魔族と戦闘が頻繁に起きている地帯とはいえ、ほんの数時間前に大規模な部隊を壊滅させてきたばかりなのでそう簡単に次の部隊が編成されるとも限らない。

 完全に安全とは言えなかったが、そう簡単に魔族が現れるはずもなかった。

 こちらも警戒は続けていたが、正直言って助かったと言える。

 俺は魔法を使って無双ゲーをしていた気分だったけど、他の三人は何時も以上に疲れを見せていた雰囲気がある。

 あの程度の魔族なら何十人、百人程度なら俺一人でも何とかなると思うけど、それでも襲撃を受けるだけで三人に負担がかかってしまう。

 せめてマチトリスまで戻って、一度リフレッシュはしてもらいたい。

 仲間として三人の状態を心配するのは当然で、ソコに柳瀬さんが入っているは、特別な感情なんて何もない。


 寝てる間も色々と考えてしまい、深い眠りには至らなかった。

 敵地の中と言っても間違いない場所で野営しているのだから、浅い眠りでないと敵襲が起きた時に足手纏いになるのだから、それに関しては良い事なんだけど……。

 深い眠りに入る前に時間が来てしまったからか、思ってた以上に瞼が重い。

 他人の心配をしているよりも、自分が足を引っ張らないか心配するべきだと思う。

 まぁ、今日一日移動に費やせばまた敵地から離れる事になる。

 そうすれば少しくらい睡眠時間を長めにしても怒られないだろう。


 眠気と戦いつつ日中を移動に費やし、夜は交代で睡眠を取りながらマチトリスへ戻る道を進む事二日。

 移動速度を上げるなら夜中も移動に費やすべきなのだが、元の世界と違って異世界の街外は灯りが月のような衛星しか無い。

 何度目か分からない記載になるかもしれないが、異世界の夜は途轍もなく危険だ。

 今の俺達には一般的な冒険者よりも危険は少ないはずだが、それでも魔族との戦いで疲弊した三人には無理をさせられない。

 俺が魔法で無理やり火を灯したところで、それで魔物や魔族に見つかってしまえば意味がないから、そもそも夜の移動はやはり却下だ。

 夜間の戦闘なら目潰しになって便利かもしれない。が、味方に事前連絡無しに使えばフレンドリーファイアしてしまうから注意だな。


 進む時と違って戻る時は急いで戻る事に集中して足を進めた。

 進む時に行っていた埋葬は軽く手を合わせて祈るくらい。

 エドとエーゼが首を傾げていたが、故郷の埋葬時の行為だと説明すれば納得はしてくれた。

 この話、行きの時もやったようなやってないような……。

 ちなみにこの世界ではよくある異世界あるあるっぽく、一つの大きな宗教が大多数で地方によって細かい派閥はあるにしても他宗教はあまり見かけないそうだ。

 元の世界だと三大宗教とそれ以外も歴史とか勉強していれば少なくない数の名前を聞いてたけど、そう言えばこの世界では教会と言えば教会だったなぁ。

 細かい話は今は必要ないだろう。

 今のところ接点は全くと言っていい程ないのだから、考えたって仕方がない。


 そう言えば宗教関連で思い出したが、魔王討伐の勇者パーティー系の物語だと必ずと言って良いほど登場する聖女とかシスターさんとか神官さんと言った人はこのパーティーに居ないな。

 まぁ、エドと柳瀬さんが怪我をすること自体が珍しいし、大抵の怪我なら回復魔法が扱えるエーゼが治せる。

 俺だって回復魔法と言うか括りかは不明だが、重傷で無ければ治す事は可能だ。

 この辺の確認はパーティーを組んで少し経った頃にやっている。

 どの程度の怪我なら魔法で治せるのか、撤退して街に急いで戻るべきか?のラインは見極めておかなければ、いざという時に引き際を間違って死んだらお終いだ。

 俺一人なら選択を間違えて、検証してなかった自分の落ち度、二度目の人生で好き勝手出来たから別にいいや、と諦め……られるのかは分からないけど自己責任と言う形で納得しているはず。

 だけど、仲間が居るなら俺一人の問題じゃないから慎重になるべきなのは当たり前だろう。

 回復魔法の話に戻るが、俺が使えるのはエーゼがいう所の上位回復魔法になる。

 骨折や見た目が酷い事になってた怪我や傷にまで対応している。

 やり方としてはやはり再生するようにイメージすればいいだけ。

 この世界の住人と違って俺には現代知識とラノベアニメのイメージがある。

 回復魔法の詠唱を唱えて、魔力量、技術、才能が無ければ治せない物も治せないと言う前提認識があるこの世界の魔法と違い、どんな怪我であろうと魔法なら治せる自信を持ち生物学と現代医学のふわっとした知識を頭に入れて完治した治す場所をイメージすれば、俺のチートな才能と魔力量なら治せるのだ。

 回復魔法以外の魔法だってその過程を意識すれば基本的になんだって出来るはずなのだが、まだ扱えない魔法があるのは俺のイメージ力が足りないのか、見えない熟練度みたいなシステムが関係しているのか。






 話が横道にそれて逸れまくっているから元に戻そう。

 マチトリスまであと二日ほどの距離になった頃の話だ。

 今まで順調だった戻り路。ここまで戻れば魔族の襲撃は無いと言っても良いだろうと気が緩んでいた頃合い。

 今までうんともすんとも言わなかった俺の敵感知に反応が出た。


「後方から敵反応あり……結構早い」

「走れば逃げ切れそう?」

「無理。真直前に俺達を目指してる」


 後ろも振り向いて後方を睨むが、まだ遠いのか敵影は見えない。

 だけど敵は必ず来る。マップ機能が間違っていたことなんて無いから、今に限って誤作動とは思えない。


「防御陣形を。私で防御障壁を展開いたしますから、ツカサは敵の位置と距離を逐一報告を」

「多分後三十秒以内」

「エドとホノカは迎撃準備を。あくまでも防御戦で深追いはしないように」

「薄っすらと見えたよ!! 空に浮かんでる!!」

「どうりで見当たらない訳だ。エーゼ、空中に攻撃できるのはツカサと二人だけだよ」


 ホノカさんが驚異的な視力を持って一番に敵の姿を発見した。

 が、どうやら敵は空を跳んでいるらしい。

 どうりで障害物を無視して一直線に向かってくる訳だ。

 もうマップを凝視する必要もないだろうと、エーゼの方にチラリと視線を向けると彼女はかなり珍しく悩んでいた。

 無意識なのか指先と口元に充てている。


「とりあえず攻撃魔法の準備してる」

「……見えて居なくとも魔法は標的に向けて放てますのよね? ならば距離のある内から先制攻撃を撃っておきたい所ですが……」


 相手が誰で何故俺達を標的にしているのかが不明だから下手に動けないってか?

 確かに誰か理由も分からずに攻撃するのは間違ってる。

 だけど、今まで俺のマップ機能に敵対反応として映った点は例外なく俺たちに危害を加える存在だ。

 野生の動物やモンスターでも、俺達を認識した瞬間や元々狙っていると敵対の色で表示されているし、逆にこちらから何もしない場合敵対してこない動物モンスター魔物人間はその場に存在する表示だけで敵対反応は出てこない。

 このことから、俺達に向かってやって来る敵反応の主は俺達に攻撃の意志があると考えて間違えないはず。

 なのに何故エーゼは攻撃をするとは言い切れないのか。


 俺の考えとしては何故今更?って気持ちが大きい。

 空を跳べる魔族がいるならもっと早い段階で追いかけるべきだ。

 速度を考えれば部隊の壊滅から二、三日で追いついてこれるはず。

 文字通りの全滅を指せたが故に後方の別部隊や本陣に伝わるのが遅れたせい?

 準備が必要だった?


 考えても俺には敵の意図なんか全く分からない。

 そういったのが得意なのはエーゼだ。

 そのエーゼが攻撃指示を出さないって事は何か考えがあるのか、はたまた分からないからこそ何もしないのか。

 黙って頭を回転させているはずのエーゼからは、その意味を読み取れない。


 そうこうしてる間も敵反応はどんどんと近づいてきて、ついには俺の肉眼で捉える事も出来るようになった。あと数秒だ。

 俺たちにとって朗報と言えるのは、敵反応からは攻撃魔法の準備は感じ取れないところだろう。

 外に魔力を溢れ出さない身体能力強化を使っての肉弾戦を仕掛けてくるつもりなら俺には予想できないが、それならそれでエドと柳瀬さんが対処してくれるはず。


 と、時間オーバー。ジェット戦闘機かと言う比喩する程に早い速度で飛んできた敵は、肉眼でようやく姿が分かるかと思っていたら既に目の前まで到着していた。いや、ジェット戦闘機とか映像でしか見たことがないから正しいのか分からないけど。

 誰かに伝えるわけでもないし、俺がそうだと感じて分かっていたらそれでいい。


 そんなことよりも俺達から十数メートル離れて降り立った敵だ。



「魔族……当然ですわね」

「敵討ちかな? 先行攻撃しちゃう?」

「いや、一応様子を見よう」


 柳瀬さんバトルジャンキー過ぎる発言だと分かっているのか?と思うが、冒険者なんてやっているとモンスターに対して先行攻撃を取るのはありふれた作戦の一つだ。

 エドの方こそ魔族だからと一方的に攻撃するのではなく、対話に持ち込む当たりこの世界の人族としては少し異常だ。魔族とは異界からの侵略者であり人族を対等だとは思ってない殺戮者の集まりってのが共通常識だから。まぁそこはエドが種族に捉われない考え方をしているって思える。

 それを言うなら先はバトルジャンキーだとか不名誉な事を言ったけど、この世界基準だとまだ良識がある方だしこんな状況でも無ければ対話を選ぶだろう。この世界に馴染んでる証拠か、それとも元々の性格上そうなのかは知らないが、元の世界の時と変わってしまった事に対して申し訳なさと寂しさを覚える。この世界で生きて行く上では大切な事だけど、元の世界に帰ったら殆ど必要としないものだから…。


 今はそれよりも敵反応の正体である魔族だ。


「テメェふざけんなじゃねぇーぞ!! もっと丁寧に運びやがれ!!」

「ふんッ、空も飛べぬお主が運べと喚いて敵わぬから、仕方なく引っ張って連れて行ったと言うのにのぉ。それ必死で持ち上げて見れば、遅いだの風が邪魔だと文句ばかり。同じ幹部だからと調子に乗り過ぎやないかない?」

「ハッ!! それを言うならお前の方こそだろうが。縁採用で踏ん反り返ってばかりでねぇで、もっと前線に来やがれ」

「突進する事しか脳が無いお主とは違って、他にやる事が色々あるのが分からぬのか? 分からぬから前線部隊が全滅する失態は招いたのじゃろうな」

「うるせぇ! 失態どころか戦果の一つも上げてねぇババァは黙ってろ!! 今回の進軍はかなりの規模だった。部隊の大きさ強さ、これまでの交戦を見るに問題なく勝てるはずだった。最低限人族の街までは進軍して睨みを利かせるくらいにはな」

「じゃが結果は街に辿り着くこともなく崩壊。大半は戻らず物資も兵士も少なくない被害を被った。その元凶こそが……」

「あぁ。少ない生き残りで喋れる奴等から聞き出した情報は、男女のパーティー。魔法使いと剣士でバランスは良くないが実力が今までの人族共から乖離してやがる」

「つまり、目の前のあ奴等が妾達の標的と考えて良いのじゃな」


 地上に降り立ってからずっと話していた二人が遂に俺たちに視線を向ける。

 俺たちの前に現れたのは俺のマップ機能が表示していた通り二人で、このタイミングで接触して来ると予想していた魔族だ。

 ガタイの良い方の男性魔族は宙を飛べないらしく、もう一人の女性魔族に引っ張られて運ばれてきた待遇に文句を言っていた。

 見た目で想像するなら、男の方はガチガチのパワータイプの人物で、女性の方は魔法タイプ的な感じがする。

 まぁ、見た目で判断して油断するのは戦いにおいてはバカでしかないから、どっちがどんな攻撃をして来ても対応できる様に構えておくに越したことはないが。


 視線が交差する。

 先手必勝でも良いかもしれないが、エーゼからの指示は来ない。

 相手の力量が分からない以上、迂闊に動いてカウンターを突かれても困る。

 雑魚相手なら時間の無駄でしないが、ここまでわざわざ俺達を追って来た以上、最低でも先日相手をした部隊を率いていた魔族よりは強いのは確かだろう。

 ゲームの様な視点を使った相手の強さを見るに、今までで出会った人やモンスター魔物の中でも最上位に位置する。

 魔力量もエーゼよりも多い。

 これほどまでなのは……ドラゴンくらいなものだろう。


「一応確認しとくが、貴様らが先日我々の先発部隊を壊滅させやがった冒険者パーティーで間違いないな!! 偽りの答えは無意味だぞ。生き残った部下からの証言通りのパーティーなのは見てわかる!!」


 先に男の魔族が声を上げた。確認と言っておきながら確証を得ているようだ。

 俺達を代表してエドが返答する。


「あぁ!! 俺達で間違いない!! それだけならもういいだろうか?」

「はいそうですか、って逃がすわけねぇだろう。部下達をやられたんだ。少なくとも一人くれぇは殺さなきゃ上司として納得出来るかぁ」


 その言葉に即座に戦闘状態へと移行する俺達。

 それを見た男の魔族はニヤリと嗤う。


「ヘッ。そう来なくちゃつまんねぇな。これから死にゆく貴様らに冥土の土産だ。覚えておけ、オレァは魔王軍幹部が一人、絶壁のラーガンド・リラスレッゾだッ!!」


 やっぱり魔王軍の重鎮。それも上から数えた方がよさそうな幹部。

 四天王とかを予想していた俺からすれば少し期待外れだったが、それでも一つの軍の幹部に選ばれている猛者である事に変わりはない。


 名乗りを上げて吠えたラーガンドは拳に魔力を纏わせて突っ込んで来る。

 これまで戦ってきたモンスター魔物、魔族の中では一番素早い攻撃だっただろう。

 構えていたエドが前に出てラーガンドの攻撃を受け止めた。


 俺たちパーティーで初めての壁が立ちふさがる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ