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123話「対魔族戦」


 小休憩はあっという間に終わった。

 水筒から水を飲んで喉を潤して、パパッと軽い身につけている装備の確認をして、武器に刃毀れが無いか確認。

 10分程度の休憩、と言うかほぼ確認作業だ。

 5分で確認を終わらせ残りの5分で気持ちを落ち着かせる。


 これから本当の戦争に介入するんだ。

 一個人の力で国同士の、この世界だと種族同士になるけど、争いを簡単にどうこう出来るとは思わない。

 それでも困ってる人が居るから、同じ人間である人達が戦っているから、私にも出来る事をしよう。

 そんな弱い気持ちで入り込む私を無理やり押し込めて、「私なら大丈夫。頼れる仲間が居て、危ない所はツカサ君が守ってくれる」と強く思い込む。


 そんな私だけど、チラッと横を向けばツカサ君は魔法で仕舞っている本をとり出して読んでいるのが目に入った。

 相変わらずだ。

 食い意地ならぬ読書意地が物凄い。

 ちょっとの時間でも読書したがるのは悪い癖だと思う。

 中学生の頃はここまで酷くなかったんだけど……この調子なら、高校の授業時間は読書の時間になっていたのかもしれない。

 何時でもマイペースに読書を続ける姿に、私は呆れと安心感を貰った。

 そう、何も緊張する様な事は無い。

 何時も通り直感に従って剣を振るえば済む話だ。

 昔、この世界に来てからまだ間もない頃ツカサ君は言っていた。

 『怖いなら、この世界がゲームだと思えば良いよ思うよ。ほら、ファンタジーな世界は前の世界だとゲームみたいだし」と。

 初めは、こんなにも現実味のあるゲームなんて無いよ、何を言っているのだろう?と呆れと疑問を持ったけど、今ならツカサ君がどんな意味を込めてそう言ったのは分かる気がする。

 隣にいる人を除いたら全く知らない世界、常識、法則。

 学生だった私たちが知らない世界で私たちだけの力でお金を稼いで生きる必要があるのも、その手段が元の世界では過去の産物である生き物を殺して日銭を稼ぐと言う方法なのも、何もかもが初めての事。

 初めての事だらけで混乱しそうになる頭を冷静にさせる言葉が、ツカサ君にとってはソレだったのだろう。

 確かに、ゲームなら初めての要素や言葉、遊び方が出てきても説明文を読んで慣れれば良いだけだもんね。

 ツカサ君にだけ見えると言う謎の地図や文字も、ゲームだと思えば慣れるのも容易いはず。

だったらこの世界は本当にゲームなのかな?

 私が認識していないだけで、ここは物凄くリアルなゲーム。

 五感もあるし、前の世界では考えられない動きが出来るのも納得が行く。

 でも……これまで出会って来た人達がゲームのキャラクターだとは思いたくない。


 思いたくないけど、この先生き残る為には必要な儀式だ。

 まだ完璧には無理かもしれない。

 口に出せば「今更?」って言われるかもしれない。

 それでも私は、昔ツカサ君が私の為に言ってくれた言葉を無下にできない。

 だから私はこの世界の戦いをゲームだと浅い知識で何の覚悟も無く、ただただツカサ君の言葉を信じるって言うだけで思い込む事にした。

 心を普段の私とは切り離して、ただただ今を生き抜く為に必要な事だと言い聞かせて……。

 …………。




 小休憩が終わると、奇襲作戦を開始した。

 攻撃の前にまず、ツカサ君とエーちゃんが魔法で大きな壁を土属性魔法で作った。

 魔王軍の野営地をぐるっと一周する形の壁で、高さは木の高さと同じくらいだから……3メートルくらい?

 頑張れば超えられない高さじゃないけど、これ以上高くすると魔王軍に気づかれてしまうからと、エーちゃんは言った。

 逃がさない為の壁なら高ければ高いほど良いんじゃないかな?と思ってたけど、色んな事を考えているんだなぁ……と感心した。

 壁を作り終わったら近くに流れている河を利用して水攻めをする。

 物資や食料は流せる上に、戦うまでもない敵を間引く事が可能だ、とツカサ君が説明してくれた。

 間引くとか感じのいい言葉じゃないけど、これは戦争だから四の五の言ってられない。

 ここでこの軍団を撤退させる事が出来ると、人類側の安全地帯が少し広がる上に再び進行してくるまでの時間も稼げるらしい。

 戦争の事なんて、前の世界だと何年に何処と何処が戦ってどっちが勝ったとか、理由はこうだったとか、こんな逸話が残ってると言うのを歴史の授業で習う程度しか知らないから、戦術とか戦略とか全く分からない。

 そういうのって大学とかで専門的な授業で習う物なんじゃないかな?

 エド君とエーちゃんはこの世界の住人だけど、ツカサ君はどうして意見を言えるくらい詳しいのだろうか?

 やっぱり読書で得た知識が役に立っているのかな?






 遠く離れた河から溢れ出る水に押し流された魔王軍の軍隊が、散り散りになりながらこちらに向かって歩いてくるのを感じ取った。


「エド君!! そろそろ来るよ!」

「分かった。ここからは特に気を引き締めて行こう。エーゼとツカサの援護が受けられない以上、無茶は禁物だよ」

「付かず離れす、だよね。私も意識してみるけど、目の前の敵に集中しちゃってたらごめんね」

「大丈夫、俺がカバーするから気にしないで。ホノカさんは難しい事を考えずに直感で戦った方が良さそうだしね」


 ぞれって脳筋バカって言いたいの?

 エド君に問い詰めたかったけど、そんな事をする前に魔王軍の兵士さん達が私達の前に現れて戦闘になった。




 斬る。斬る。斬る。

 回避とステップで敵の嫌な方向に移動して斬る。


 初めて見る魔族は人間とも魔物とも言えない人種だった。

 人型……ではある。

 でもそれは大まかな括りでは…と言った感じ。

 中には腕が一組多かったり、下半身が蜘蛛みたいにうじゃうじゃだったり、翼みたいな器官が背中から生えていたりと、普通の人間とは到底言い切れない形の者も一定数確認出来た。

 今までは人間に近い人達しか見てこなかったから初めは驚いたけど、戸惑っている暇なんか無かった。

 彼らは私とエド君を目にすると、この惨状を生み出した者達の仲間だと思い攻撃をしけてきた。

 確かにエーちゃんとツカサ君がやったのは間違いないし、私達は魔族と戦う為にここにいるのは間違いないのだけど、目にした瞬間に襲ってくるのはどうかと思う。

 もっと対話すれば解決する問題だってあると思うんだけど……こうなった以上は仕方ないと割り切る事にした。


 知性を持った人と戦うのは別に初めてではないけど、大抵はここまでの道中に遭遇した盗賊とか野盗とかほとんどだった。

 その時は余裕を持って拘束出来たけど、魔族相手だとそうも言ってられなくなった。

 まず、純粋に身体が普通の人間よりも大きくて頑丈で早い。

 連携はあまりして来ないから助かっているけど、一人一人を戦闘不能にするのに時間がかかっちゃってる。

 後ろや死角からの攻撃をエド君がカバーしてくれているから攻撃を受けていないけど、一人だったらと思うと冷や汗が流れる。


「クソッ!! なんだってんだ。俺たち人間共よりも先に攻撃出来る手筈だったらろ!! それが何でこうなってんだよ」

「知るか馬鹿!! それを言うなら、魔道部隊に文句言えよッ!!」

「そいつら今どこに居るんだよッ!」

「コイツ等の魔術師の相手してるんだとよ。あぁこんな作戦乗るんじゃなかった」

「こんな大きな魔法反応、直前まで気づけない無能部隊なんか気にしてる場合じゃねーぞッ!」


 良かった。

 ツカサ君たちもしっかり敵の別部隊を引き付けているみたい。

 この場に居ない二人の状況をほんの少しだけでも知る事ができ、心の中に安堵がほんの少しだけ生まれる。

 ツカサ君とエーちゃんも頑張っているんだから、私も頑張らなきゃ!!

 そう気合いを入れ直した時だった。


「おうおう、野営地が水に流されちまったと聞いて来てみりゃあ、人間の襲撃じゃねぇか。それも経った二人。テメェ等何たるざまだッ!!」


 大きな薄汚い緑色の肌をしたヒト型の魔族だった。

 私の知識だとゴブリンが一番近い見た目をしているけど、私が見た中では一番大きくてガタイが良い。

 ツカサ君によると種族にも上位種と言う者もいるらしいけど、彼はゴブリンの上位種なのだろうか?


「ブーエット部隊長だぁ!!」

「部隊長が来て下さったぞ!!」

「これで勝ったなッ!!」

「ブーエット部隊長はこれまでも何度も人間共への襲撃に参加し、何十人もの人間共を殺して生き残ってきた猛者だからなぁ!!」

「へっへっへ、これで奴らも終わりだな」

「部隊長~~!!女の方は残していてくだせぇよ~~」


 どうやら彼は部隊長さんらしい。

 確かにその見た目だと、今まで戦った魔族さんよりは強そうな見た目をしている。

 周りの反応を見るに、私とエド君を倒せるくらい強いらしい。


 攻撃が止まった隙を付いてエド君の横に並び立つ。

 強いというなら、エーちゃんとつかさ君もいて欲しいけど、この様子だと無理そうだから私達だけで何とかしなくちゃ。


「ホノカさん、怪我は無い?」

「うん、全部防具が防いでくれたから大丈夫。それであの部隊長さんは……」

「モンスターのゴブリンの魔族種だと思うけど、最低でもロードゴブリン以上の上位種だろうね。モンスターならBランク級の討伐対象だよ」

「Bランク……」


 モンスターなら私達だけでも問題なく倒せる基準のモンスターだよね?

 魔法使いの支援が受けられないとはいえ、エド君も入れば何とかなるはず。


「お前ら、一人は物量で押し潰せ。最悪足止めしてれば、もう片方を始末した俺様がもう一人もヤッてやる」

「おぉぉ!!!確実な案で此処まで生き残ってきた部隊長の作戦なら確実だな!!」

「魔法使いの支援を受けられない剣士なんぞ、数で押しちまえばこっちのものよ」

「今頃、魔法使いも間合いにあっけなく侵入されて敗北してる頃合いだろうよぉ」

「ヒャッハー!」


 なんか色々不安になるような事を言っているけど、ツカサ君とエーちゃんなら大丈夫だ。

 二人共私なんかよりもずっと強いし、知識だって豊富だからどんなピンチだって打開策を思いついてどうにかして来てくれるはず。

 そんな事を考えていると、ブーエット部隊長以下魔族の人達が突っ込んで来た。


「ホノカさん気を付けてッ!」

「そっちもね」


 先んじてこちらに向かってくる魔族たちをエド君が前に出て引き付けてくれる。

 少しだけ安心した。

 一対多の戦闘はどっちかというと苦手だったから助かるよ。

 何となくの感覚で視えない位置からの攻撃も避ける事はできるけど、やっぱり目の前の敵に集中して剣を振るう方が好きだ。

 でも、エド君が何十人にも及ぶ魔族を相手取るって事は、私が部隊長さんと戦わなくちゃいけないって事。

 どっちが強いとか考えた事もないけど、冒険者としての総合的な評価を付けるなら断然エド君とエーゼちゃん、その次にツカサ君が来て私はドベ。

 この世界に対する知識と理解が圧倒的に足りない。

 でも、目の前の敵と戦うだけなら私も負けて無いッ!!


 素早い動きで私に棍棒の振りを放ってくるブーエット部隊長の攻撃を私は剣の腹で受け止める。

 続けて何度も見た目にそぐわない素早さで攻撃をしてくるけど、私はそれを全部見てから剣で防ぐ。

 確かにこれまで魔族とは違う。

 けど、危機感を覚える程じゃない?


「ほぅ、確かにウチの雑魚共と蹴散らすだけの実力はあるみてぇだな」

「……褒められるとは思わなかったよ。私に斬られる前に逃げてくれないかな? 私だって戦わずに済むなら戦いたくないの」

「ハッ! 魔族である俺様達を前にそんな戯言を口に出せる人間が居ようとはな。先に攻撃をしておいてその口は無いんじゃねぇのか。こっちだって何人も殺されてるんだわ」


 そうだった!?

 投降の暇も与えずに先に殺したのは私達の方。

 だから、今更何を言ったって止まれない。

 何をやってるんだろう。


 私は息を吐いて吸って呼吸を整えると剣を握りしめる。

 後ろではエド君が何十人もの魔族相手に戦っている。

 早いところ目の前の敵を殺して加勢しなくちゃ。

 そう思うと同時に地面を蹴る。

 接近して剣を振る、と見せかけて横にステップ。

 身体を前に倒して死角に潜り込んで後ろ向きの状態で回転しながら切りつける。

 遅れて棍棒が私を狙う。

 でも、もうそこには私は居ない。

 地面にぶつかった棍棒が引き戻される前に今度は棍棒を握っている手を斬り付けると、上手く切れたのか痛みでか取り落とす。

 反対側の手で私の顔面を狙って拳が放たれるけど、私は余裕を持って防ぐ。

 更に追撃しても無駄だと悟ったのか、バックステップで距離を取りつつ私を睨みつけるブーエット部隊長さん。

 追撃も可能だったけど、向こうさんの行動に乗ってあげる事にした。


「ハァハァ。……確かに、部下共が一方的にやられるだけの実力はある見てぇだな」


 荒い呼吸を整えつつも、何時でも動けるように重心を落として私を見ている彼。

 私は何も言わない。


「だが、俺がその程度でやられるとでも思ってちゃあ……死ぬぞッ!!」


 ノールックで投げられる棍棒。

 予備動作の無い動きに遅れちゃったけど、ギリギリの所で回避は間に合った。

 が、


「これは予想して無かったよなぁ!?」

「……ッ!?」


 回避したと思った私に訪れたのは衝撃と痛み。

 今度は私がバックステップで距離を取る羽目になった。

 痛い。

 けど、動けない程じゃない。

 回復は……そうだった。

 ツカサ君やエーちゃんが居ないから回復魔法は宛に出来ないんだった。


「チッ、思ったよりも堅ぇな。だが、これでお相子……なんて思っちゃいねぇよな」

「……手が回復してるの?」

「そうだ。これが俺とお前との差だ。俺は固有能力で自然治癒の力を持っていてなぁ。この力のお陰でここまで生き延びて昇進してきたのさッ!」


 ペラペラと斬ったはずの手が治ってる理由を暴露してくれた。

 なるほど、ある程度の傷じゃなきゃ短い時間で回復されてしまうのか……。

 だったら、答えは一つだね。


 私は一呼吸置いて地面を蹴って急接近し剣を振るう。

 が、今度は剣は宙を斬った。

 避けられた?

 横ステップからのジャンプ。

 水に流されずに残っていた巨木を使って背後を取って……。


「ッ!? 今まで本気じゃなかったの?」

「ハッ! そんな意味ねぇ事やるかよ。俺の目と身体が追いついてきたんだろうよ。 ハハハ、余裕がなくなってきた見てぇだな」


 チラッと戦闘音のする方向を確認するけど、エド君はまだ戦闘中だ。

 分断されたのはミス。

 乱戦になろうともお互いにカバー出来る距離を保つべきだったかも。

 これまでの敵とはレベルが違う。

 腰に取り付けている魔法袋から回復薬を取り出して飲み干す、前にブーエット部隊長が私に突っ込んでくる。

 回避するのは無理じゃないけど、それなら回復薬を飲むのはちょっと難しい。

 だったら……。


「『周囲に溢れるマナ、私の力と、なってください。「ヒール」』


 エーちゃんに教えてもらった通りに呪文を唱えると、緑色に近い光が私の周囲に纏い殴られたお腹にしみ込んだ。

 痛みが薄れて完全に消える。

 ぶっつけ本番だったけど、ちゃんと成功したみたいで良かった。


「チッ、回復魔法か。剣術だけじゃねぇのは厄介だな。だが、詠唱をする隙を与えなきゃ良いだけだァ!!」

「確かに、ねッ!!」


 お互いに地面を蹴って接近して武器と武器をぶつけ合う。

 ブーエット部隊長はいつの間にか太い剣を持っていた。

 こういう剣を鉈って言うんだっけ?

 ツカサ君がこの場に居たら名前も性能も分かるのに……と吞気な事を考えている暇もない。


 集中してブーエット部隊長の攻撃を捌く。

 右、左、左、右、左。

 うん、落ち着いて対処すれば問題なく捌ける。

 棍棒とは違って刃がある武器だから、さっきみたいに油断して当たるとアウト。

 ツカサ君みたいに無言で魔法を使えるわけじゃないし、人よりは多いとメリーちゃんは言ってるけどツカサ君とエーちゃんよりも魔力量は少なくて不慣れだ。

 回復魔法は最終手段に取って置けばよかったと少し後悔。

 でもやっちゃったものはしょうがないから切り替えて行こう。

 慎重に動いて、敵の攻撃を受けなければ問題無いよね。


「チッ、そう簡単に押し切れるハズもねぇか……。おうお前ら!!一体いつまで時間をかけてるつもりだァ!」

「そ、そんな事言われましても!!」

「この男、かなり強いですぜ」

「そもそも、ブーエット部隊長が先に女を戦闘不能にして男を囲む作戦だったでしょう!!?」

「うるせぇ! そもそも何人もやれちまうテメェらの不甲斐なさが生じた事だろうがァ!! さっさと男を殺しやがれ!!」

「もうグダグダだぁ!」


 敵さんは喧嘩を始めてしまった。

 エド君は他の魔族さん達をしっかりと足止めしてるみたい。

 その立ち回りはまだまだ余裕がありそう。

 隙を突いてエド君と交代した方が良いんじゃないかな?と言う考えが浮かんだけど、この先ももっと強い相手と戦う事になるとしたらここで私が引いてちゃ駄目だ。

 ツカサ君ならこんなところで苦戦なんかしない。

 サクッと魔族を倒して、何度も倒して、最終的には魔王だって倒しちゃう存在なんだから。

 ここで引いてたら、そんなツカサ君の隣にはエド君とエーちゃんだけしか残らない。

 ツカサ君は優しいだろうから私を見捨てないかもしれないけど、守られてばかりの足手纏いは嫌だ。


 だから、目の前の魔族を倒す。

 それで全て解決する。

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