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122話「最前線」

 最近、ツカサ君とエーちゃんの距離が近い気がするの…。

 平原を歩きながら私は二人の仲間の事を考えていた。


 魔王軍と言う人間とは違う種族との戦いの地から一番近いと言う街を出発したのがついこの間。

 昨日の夜、エーちゃんと話していた時に日数を確認したはずだけど。

 確か……三日くらい?

 毎日が濃い一日だし、カレンダーなんて便利な物がこの世界には無いから覚えていないや。

 前の世界で何気なく使っていた物は、世界が違うとどれ程便利な物だったのかを実感させてくれる。

 逆に魔法と言う科学では証明できない不思議パワーと言うものがある世界だから、どっちの世界が優秀とは優劣を付けられない、ってツカサ君は言っていったっけ?

 文明レベルの差がどうのこうのって。

 相変わらずの知識だよね。

 学校のテストに出ない事だけど、今こうして役に立っているから感謝しなきゃ。


 ともかく、今はマチトリスと言う魔王軍との最前線の街で集めた情報を基に北上中。

 皆で話し合った結果、一先ず一番近くに駐留している魔王軍の軍隊を奇襲で攻撃する事になった。

 平和な世界でのんびりと暮らしていた私が言うのもなんだけど、戦争ってもっと纏まって行動しないのだろうか?

 私たちみたいなぽっと出の冒険者が勝手に突撃をしたら、マチトリスに居るはずの指揮官さんの迷惑にならない?

 エド君もエーちゃんも何も言わないし、ツカサ君だってGOサインを出したから私も頷いちゃったけど……。

 本当にそれで良かったのかな?私の気にし過ぎ?

 それとも誰も気が付いていないだけで、私が意見を述べておかなきゃならない事だった?


 分からない。

 現代日本の常識が通用しない事もあるこの世界で、何が正しくて間違いなのか分からない。

 ツカサ君が居なきゃ本当にダメな私……。


「はぁ……」

「ため息を付いてどうかした?」


 零れ出たため息を偶々見ていたのか、エド君が私に声を掛けてくれる。

 ツカサ君は後ろの方でエーちゃんの言葉を聞き流していた。


「そのー、今になってこの選択が正しかったのかな?って思っちゃって」

「それは……怖くなったの?」

「ううん。怖いのは何時も。でも皆んなが一緒だから大丈夫」


 心配してくれたエド君にお礼を言ってから、私が先ほどから考えていた事を伝える。

 自分の中でうじうじ悩んでいるよりも、誰かに聞いてもらっただけでも気持ちは晴れた。

 それだけでも助かったのだけど、私の懸念は思いも知らない方法で解決してた。


「あぁ、それなら出発前にエーゼが伝手を使って、現在前線の指揮を執っている者に話を付けてきたそうだよ。俺たちから時間差で攻撃を仕掛けるみたいだ」

「そうだったの。変に気にし過ぎちゃってっただけかぁー」

「それに関してこっちの落ち度でもあるな。ツカサが詳しく聞いてこなかったから、てっきりホノカにも話が行っているものだとばかり……」


 そう言って頭を下げるエド君。

 いいや、悪いのは疑問をその場で質問しなかった私だ。


「ううん。私だって今更って感じ。流れに流されずに、疑問に思った事は聞いておくべきだよね」

「まぁ、そんなに気を落とさないで」


 しかしエーちゃん。

 指揮官さんとも面識があるなんて、顔が広いんだね。

 でもそれって、私たちが頑張れば頑張る程、後から攻撃を開始する人達が楽出来て、逆に私たちが全くの役立たずで終わってしまったらそれだけ苦労する事にならない?

 これは責任重大だぞ……。


 私はいよいよ目にする、魔王軍との戦争に意気込んだ。






 戦争の前線と言う触れ込み通り、平野や農地は荒れ果てていて、偶に見つけた村は家が壊され残っていたであろう食料や家畜の残骸が数多く見つかった。

 酷い有様だ。

 この世界に飛ばされて冒険者になって、荒事には慣れてきたつもりだったけど……。

 これは堪える。


 テレビ中継やニュース、教科書の写真で見るよりも無残な瓦礫の山。

 魔法で抉られた地面。

 そして、持ち替えられずに朽ち果てた死体。

 五体満足で綺麗に残っている状態なんか数える程しか無く、大抵はどこか欠損している。

 酷いときには身体の半分以上が無い。

 冒険者や正規軍のような恰好をした人もいれば、骨だけになって一般人と思う人達も見た。

 魔王軍の襲撃初期、逃げ遅れた者達だとエーちゃんは言った。


 これ以上進みたくない。

 それが本音だけど、こんな悪逆非道な行いをしている魔王たちを許せておけないし、ツカサ君によれば魔王を倒せば元の世界に戻れる可能性があるらしい。

 ならば、私たちが頑張って進まなきゃ、この世界は滅んでしまう。

 何で私が?って思う。

 いきなり知らない世界に飛ばされて、ツカサ君に着いって行ってたらこうなったらだけなのに。

 でも、私は今この世界で生きている。

 数ヶ月生きて分かった。

 現代とは全く違う生活や環境が此処にはある。

 でも人は必死に生きている。

 毎日を懸命に生き、楽しい事があったら笑い、悲しい事があったら泣き、意見が違えば喧嘩し、美味しい物を食べて、夜にはしっかりと寝て。

 そこには前の世界と違う所なんて一つもない。


 友達だって出来た。

 この世界で生きている友達だ。

 何かの間違いかもしれないけど、私に現状を打破出来る力があると言うのなら、私が頑張るしかないだろう。

 私一人だったら折れているかもしれないけど、私には頼れる仲間が居る。

 エド君が一緒に前に出てくれる。

 エーちゃんが親身になって色々と世話を焼いてくれる。

 そして、ツカサ君もなんだかんだ言いつつも一緒に居て、右も左も分からないテンプレートって奴を教えて、隣に居て私の心の支えになってくれる。


 だから、私は吐きそうになりながらも、実際に陰で吐いたけど…、前に進んで行けている。 




 遺体を見つけると簡単に埋葬しながら進んで行くこと数日経ち、日が沈みだした時間帯。

 遂に敵軍の野営地まであと少しとなった。

 ゴツゴツした岩が転がっている地帯を歩いていると、ツカサ君が敵の反応を知らせてくれる。


「敵反応アリ。……かなり多くの数が纏まってるな。野営地か?」

「この地図と照らし合わせて下さいまし」


 エーちゃんがツカサ君に地図を渡して確認を取る。

 ツカサ君にだけ見えている、非常に正確なマップとエーちゃんが独自に入手した情報が載っている地図を照らし合わせる作業を進めている間、私とエド君は周囲の警戒だ。

 ツカサ君の敵感知は今まで外したことが無い程正確だけど、今までそうだったからといってそれに頼ってばかりだとダメだから、ちゃんと私たちの目と耳でも警戒をする。

 今のように何時でもツカサ君が索敵に集中できるとも限らないし、単独行動するに当たって覚えておいても損はない技能……というかツカサ君の索敵が優秀過ぎるだけであって、他の冒険者はモンスターが生息している地域や視界が広がっている場所以外では常に警戒行動を取っている、ってエーちゃんが言ってた。


 この世界に飛ばされてから、前の世界では考えれないくらい色んな変化が起きた。

 誰かに教えてもらった訳じゃないのに剣を扱えるのが一番の特徴だけど、前よりも顕著なのは身体能力の向上だと思う。

 始めの頃は、前よりも少し早く楽に走れるって程度の認識だったけど、何か月も冒険者をやって身体を動かしているとそれは如実に表れていった。

 一歩踏み込むだけで何メートルも移動し、軽く跳躍しても2メートル以上跳び上がる。

 前世では持ち上げる事すら出来なかった重量の荷物や物を簡単に持ち上げられて、握力だってその辺りの岩なら簡単に砕けるくらい強くなった。

 この世界で生きて行く為には必要な事だとは分かるけど、女の子としては少々……とても複雑な気持ちになる。

 原因としては、空気中の魔力が……体内のオドが……無識な身体強化が……ってツカサ君が色々考察してけど、その辺りの知識が全くない私にとっては頭の痛い内容だったので遠慮しておいた。

 ただ、好きな事になると長舌になるツカサ君の表情は、私の胸をとてもドキドキさせてきたのはズルい。


 前の世界よりも確かに強化された身体が周囲の状況を教えてくれる。

 風のせせらぎで揺れる木の葉。

 生き物の気配は感じられない。

 目で目視して、耳で音を拾って、気配を感じ取って……。

 魔王軍の野営地が近くになるせいか、動物の気配が全くない。

 狩られるから逃げたのかな?


 エド君と目を合わせて周囲の安全確認の報告をし合う。

 どうやら反対方向も何も居ないみたい。

 そうやって警戒する事1、2分後、ツカサ君が地図との確認を終わらせた。


「エーゼの情報とは少し場所が違うけど、進行予想の範囲からは遺脱していない場所だった。目視しないと分からないけど、この地域であの大集団は間違いないと思う」

「となると……どのようにして奇襲を行うか? ですわね」

「真正面からじゃあダメなの?」

「流石に頭数が違い過ぎるからね。ツカサの範囲魔法で何とかなるかもしれないけど、敵だって対策はしてあるはずだよ。それに囲まれたら切り抜けるのはとても大変だ」

「なるほど。多勢に無勢って事かー。でも、それでも奇襲の一つで大きく変わるものなの?」

「敵が意図していない場面での多数の味方の死は、多少なりとも士気に影響を与えますの。その差が勝敗を決する、かもしれないならやるべきですわ」


 そうか……。

 これは戦いや試合じゃない。

 殺し合いだ。

 言葉では理解していたけど、目前となって私の心に迷いが生じる。

 魔族ってどんな見た目をしているのだろうか?

 人のような外見をしていたら、私はちゃんと戦えるのだろうか?

 そう言えば、今になって人間の様なモンスターとは戦った事が無い事に気が付いた。

 人助けは多くして来たけど、大抵は動物の様な見た目のモンスターが多かったよね。

 唯一人に近かったモンスターと言えばゴブリンと言う薄緑色をした漕ぎたい肌を持った身長1メートルにも満たない程度の小さな小鬼だ。

 ゴブリン……。

 流石に前の世界に居た頃から名前だけは知っていた。

 なと言うかその……エッチな事をするモンスターだと言う知識もあった。

 現実で出会った時も大体そんな感じだった。

 でも、まだ人じゃないと認識していたから斬る事は出来る。


 私がそんな事を思っている間も三人で話し合いは進んでいた。


「それでは、こちらの方面から叩くのはどうでしょう?」

「地形を利用するならこっちの方が……」

「それも良いけど、陣形の配置的にはこっちの方が被害を与えられそうだけど」

「でしたら、この川と地形を利用する事は出来ませんの?」

「水流で粗方を流してしまおうって訳だね。ツカサ、出来そう?」

「この辺りの地形がぐちゃぐちゃになるかも知れないけど……。この辺の環境とか大丈夫なのか?」

「ここまでの道のりを見たら分かるかもしれませんが、既に様々な場所が壊されております。森は燃やされ、田畑は泥に埋め尽くされ、町村は破壊されて元々存在していた地図とかけ離れています。魔王軍との戦争が終っても、元の様には行きません。元々住んでいた人や新天地を求めて移住する者達を募った所で、そのまま住めるとは国も考えておりません。地図、街、街道の整備。開発は一からでしょうね」

「……分かった。なら俺から言う事は無いな」


 サクサクと作戦の話を出来るのは素直に凄いと思う。

 私なんてただ突撃する事しか考えていなかった。

 学校の勉強が出来るだけじゃなんの役にも立たないこの世界。

 結果論だけど、もっと本を読んで色んな知識を蓄えていたツカサ君の方が私なんかよりもよっぽど生きるのが上手い。

 もっと私も色んな知識を付けて、やれる事を増やして、役に立てる様に頑張らなきゃ。

 でなきゃただの足手まといになってしまう。

 ただでさえ、この世界の常識や前の世界との相違を教えて貰っているのに……。

 ツカサ君の隣に並び立てる様に。

 もっと頑張らなきゃ。


 私が決意を固めている間に作戦会議は終わったみたい。

 エーちゃんが確認を取ってくるが、私は話半分に聞いていたので素直に申し出た。


「これでよろしいですわね。何か不明瞭な点は?」

「はい。一からお願いします。ちゃんと聞いてませんでした」

「きちんと聞いていて下さいまし? それとも何処か体調が悪いとかありませんわよね?」

「ここまで一気に進行して来たから、疲れが溜まっていてもおかしくないね。襲撃前に小休憩を取ろう」


 私がそう言うと、呆れながらも心配してくれるエーちゃん。

 エド君も休憩を提案してくれる。

 私が集中していなかったばかりに迷惑をかけているのは不本意だ。


「疲れは無いよ。単に私が聞いてなかっただけだから……作戦を聞いたら直ぐに…

「いや、小休憩は取るべきだ。周囲に防御結界と隠密結界を張れば敵にも気づかれないはずだし、ここで一旦息を整えるのは大事だと思う」

 …ツカサ君」


 私の都合に合わせてもらうのが忍びなくて断ろうとしたら、ツカサ君が強引に小休憩を入れる方向に持って行った。

 まただ。

 また私に気を使ってくれた。

 付け加えて言っていた様に、重要な戦闘の前に休憩を挟んで緊張を解したり装備の見直しに充てたいって言うのが本来の目的なのかもしれない。

 それでも私には、私の為を思って言ってくれたのだと感じる。

 分かっている、その考え方はポジティブ思考だと。

 都合の良い方向にしか考えてちゃ、何処かですれ違いが起きて致命的な決裂が起きてしまうかもしれないと、分かっている。

 それでも、私はツカサ君の言葉を私にとって都合のいい解釈して、この甘い気持ちを味わう。

 いつかこの気持ちに決着を付けなくてはならない。

 でも今はまだ違う。

 怖いって言うのもあるけど、一番は雰囲気。

 こんな素っ気ない場所は思い出に残らなず、成功しても失敗しても嫌な思い出になるに違いない。


 私はその時を想像して口角が上がるのを我慢する。

 先ずは休憩が先。

 せっかくツカサ君が作ってくれた時間を有効にしなくては。

 気持ちを切り替えて私はエーちゃんの隣に腰を下ろして小休憩に入った。

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