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121話「雑談」

 エーゼと正式に友達となった俺。

 いや、正式にとか考えるからダメなのだろう。

 友情を再確認した、程度の認識が良いはずだ。


「ところで、そろそろ情報収集を再開したと考えておりますが、ツカサさんはこの後の予定は……」

「あると思うか?」

「無いですわよね……」


 何をどうしたらいいのか分からなくてフラフラしていた俺を見つけたのがエーゼだ。

 エーゼと別れた所で予定なんてあるはずもない。

 そんな俺の心情を読んでか、エーゼが提案をしてくれた。


「貴方さえ良ければ私と一緒に回りませんか? 別に一人でやるべき作業ではありませんし、私のやり取りを見て学ぶ事で成長できますわよ」


 確かにやり方を知っているエーゼの後ろに引っ付いて学ぶと言うのはありがたい。

 エーゼのやり方を学んだ所でそれを実践出来るか?と言う疑問があるけど、全く何もノウハウが無い状態から手探りでやり方を見つけるよりは大分マシだ。


「それはありがたい。じゃあ、エーゼの後を着いて行く事にする」

「しっかりと学んでくださいね。知らないよりは知っている方が独りになった時にきっと役に立ちますわ」


 エーゼは迷いなく歩き出した。

 目的地はもう決めているのだろうか?

 俺がエーゼの隣に並ぶと彼女は先生の様な口調で俺に情報収集のやり方を教えてくれた。


「いいですか。情報収集と言ってもやり方は色々あります。これといった決まり事はないので、自分にあったスタイルを確立すると良いでしょう」


 まぁ当然だ。

 誰かから聞いたり真似したり、個人で考えて思いついたり、何となくで集まったり。

 小説でよくある行動だし、俺でも思いつきはする行動は幾らでもある。


「エーゼならどうやって情報を集めるんだ?」

「今もやっていますわよ」


 今もやっている?

 エーゼは人混みの中をゆったりと歩いているだけだ。

 これのどこが情報を集めているというのだろうか?

 ……いや、まさか。


「聞き耳?」

「正解ですわ」


 俺が答えを口に出すと、エーゼはにっこりと笑った。

 柳瀬さんとは違う綺麗な笑みだ。

 少なくとも、俺が元の世界で見たことのある三次元の女性の中では、もっとも綺麗な一瞬だった。

 しかし、綺麗だとは思うが、ただそれだけ止まりで終わってしまう。


「聞き耳ってこの中で? 趣味悪くない?」

「まぁ酷いですわ。情報収集としてはかなり有効ですわよ。多くの方が口にし噂になっている事には必ず出所があり、多くの人が噂にする程の魅力や事の大きさがありますの。それをもっとも確実に安全に知る方法は聞き耳が一番、と私は考えております」


 確かに外聞は悪いが一理ある。


「でもそれじゃあ噂程度の内容しか集まらないだろ」

「えぇ。ですので、次のステップは得た情報を精査していきます」


 エーゼに着いて行くと、小さな料理亭で止まった。

 大通りに面していないからか、店の中には2名しかお客さんは居ない。

 店員に促されてテーブル席に座ると「決まったら呼んでくださいねー」、と言いメニュー表を置いて裏に引っ込んだ。


「本日は私が払いますわ」

「それくらい自分で出すけど……」

「本質的には私に付き合わせてしまっている形なので払わせてくだいまし。それに、紅茶一杯程度手持ちに何ら支障もありません」


 そう言う事なら……とエーゼに奢って貰う。

 いや、俺だった自分一人の時はお腹が空いていても限界まで我慢してお金を使う場面を減らそうと考えるけど、友達と来て一人だけ何も食べない、支払わないなんて事はしない。

 流石の俺でも最低限の付き合い方くらいは考えている。

 が、エーゼがそこまで言うなら今日の所は引き下がるしかない。

 覚えていたら、今度は俺が何か返さなければ……。

 そういった付き合いが面倒になったから友達を作るのを止めて、読書と言う独りの世界に引き籠っていたとも言える。

 心機一転って程でもないけど、せっかくエーゼと友達になったのがら付き合い方はしっかりと考えていきたい。


 頼んだ飲み物はほんの数分も経たずに運ばれてきた。

 「ごゆっくりー」と言って店員さんはまた奥に引っ込んだ。

 立地と言い現状の客数と言い、利益目的で営業している店ではないのか?


 飲み物に口もつけずに話を始める流れでは無かったので、頼んだ飲み物を口にする。

 リンゴの様な味がする果物を磨り潰して水で割った飲み物だった。

 よくある異世界らしく、砂糖は頻繁に手が出せない高価な調味料のはずだけど、この飲み物は若干甘い。

 砂糖を使っているのか、それともリンゴの様な味のする果物が甘い物なのか。

 こう言った時に便利なのがゲームの様な視界に見える機能の一つ。

 アイテム説明の出番だ。

 飲んでいるカップの中身に視点を合わせて、説明を求めるとホログラムの様なウィンドウが現れる。

 やっぱり異世界にあるはずもない違和感を覚える。

 まぁ、俺にしか見えてないから何かのチート能力の一種なんだどうけど……。


『ロルシーの搾りたてジュース』

 ロルシーを絞った飲み物。

 砂糖を使ってないのに甘いので広く人気がある。

 基本的にどの飲食店にも安価で提供されているだろう。


『ロルシー』

 世界で一番に有名な果物。

 そのままでも甘く、採りたてを齧っても問題ない。

 世界中で広く繁殖しており、砂漠地帯や極寒地帯でもない限りどこにでも生えている。

 森に入れば一本は木が見えるだろう。

 育つ地域によって若干味が異なるの。

 愛好家も存在している。



 なるほど、ロルシーって果物が存在しているのか。

 どこにでも繁殖していて安価で手に入るって書いてるから、市場なんかで一度は目にしてるかもしれないな。

 異世界の食べ物って野生だと現代の品種改良してるものよりも味が薄くて美味しくないって聞くけど、これは普通に美味しいな。

 野生で生えている物のそのままとっても食べられるって事は非常食としても良さそうだ。

 もっとも、これは中にしまい込むと時間停止する俺のアイテムボックスだからこそ言える事だ。

 今度市場で形と色を覚えて、野営中にでも見つけたら採っておこう。

 容量が無限なら幾ら取っていても困らないだろう。

 まぁ、一応街や村の近くとか、群生地帯全てとか加減はしないとな。

 無限なら無意識のうちに何でもかんでもしまい込んで訳が分からない位に物が溢れかえってそうだし……。


 その内時間を作って整理でもしてみるか?と思いつつ顔を上げると、エーゼが飲み物に口を付けていた所だった。

 静かに優雅に少しずつ口に含むその姿は俺以外の男性なら誰でも見惚れる姿なのではないだろうか?

 小さな頃からテーブルマナーを叩きこまれていたのか、ある程度成長してから自ら覚えたのか。

 飲んでる飲み物は紅茶だった。

 俺は苦いって程じゃないけど、独特の味はするから好んで飲むような物じゃないと思っているが、エーゼは平然と飲んでいる。

 よく飲めるなぁーとぼんやり見ていたら、エーゼが微笑んでくる。


「じーっと見つめられても困りますわ。特に女性の食事している姿はなおさらです」

「あ、そうだった。ごめん」

「……なるほど。いいえ、謝るほどではありませんわ」


 気が緩んでいたのだろうか?

 そんな事小説の知識から知っていたのに、エーゼの顔が良くてつい視界に納めていた。

 …………やっぱり、柳瀬さんとは違う。

 エーゼなら顔を見ても平然として居られる。

 違いが分からない。


 一先ず、それはおいておこう。

 喉を潤したら本題の続きだ。


「では、情報の整理から始めましょうか。私の場合は基本的には頭の中で全て行うのですが、今回は講義で分かり易くするためにも紙を用意して実践しましょう」

「分かった。紙とペンなら俺が出すよ」


 アイテムボックスから紙の束とペンを二本取り出す。

 基本的にはメモを取らなくても問題無く、貴重なお金をこんな物に使う訳がないので、俺が買った物では無い。

 いつの間にかアイテムボックスに入っていた物だから、三人の誰かが買って他の物と一緒に入れたのだろう。

 私用で使うのは少し躊躇いがあるが、これしか無いのだから使わせて貰おう。

 ……と言うか、俺のアイテムボックスに入れているんだから俺が使っても問題無いはずで、他人に使わせたくない程の物なら個人的に持っている魔法袋に入れているだろう。

 と、言い訳を述べてみる。





 エーゼから聞き耳を立てて得た情報の整理の仕方をある程度教えて貰って一息。

 そんなに長い間講義を受けていた訳ではないが、ここ最近は頭を使う事が無かったので、久しぶりに脳を酷使して疲れた。

 少し温くなったロルシーの搾りたてジュースを口に運ぶと、甘くスッキリした感触が身体に染み渡る。

 しかし、キンキンに冷えた飲み物には勝てない。

 ということで、魔法を使って氷を創り出してカップの中に落とした。


「相変わらず器用な使い方ですわね。確かに氷を創り出して飛ばす魔法は存在しますが、それ自体が中級魔法に分類されており、無詠唱でそれも単に飲み物を冷やす為だけに使う方は初めてです」

「あーー、厳密に言えば同じ魔法じゃない、と思う。そりゃあ産み出した氷を尖らせて殺傷力を上げてから発射する事もできるけど、その前にイメージを止めれば良いだけだし……」

「同じではない? ……益々興味深いですわね」


 おっと余計な事を口に出してエーゼの気を引いてしまったようだ。

 何の興味もない話をするよりはまだ魔法の話は楽しいが、それでも長々とお喋りしたいかと言えばノー。

 そんな事よりは読書をしたいが……今、宿に帰って読書をするとサボってる事になる。

 エーゼの講義もまだ続く感じだったし、時間潰しに興じるのも悪く無いだろう。


「ようは通常の魔法使いと俺の魔法は前提認識が違うんだと思う」

「前提認識、ですか?」

「そう。エーゼにとって魔法とはどうやって発動する物だと思っている?」

「それはもちろん、詠唱を唱えてですわ。詳しい論文によると、詠唱は魔力を使い魔法と言う現象を世界に発現する為の行為だそうです。つまり……詠唱を行うことで、魔力と適性さえあれば誰でも魔法を使えるようになる。省略詠唱は頭の中や魔力の扱いが長けた者が長い詠唱を短くする……」

「大前提は詠唱。でも俺は詠唱は基本的に超省略してて、さっきは無詠唱だぞ」


 ここまで言えば頭の良いエーゼなら、俺が何を言いたいのか分かってくれるはずだ。

 案の定、エーゼは答えにたどり着いた。


「つまりツカサさんは、誰でも無詠唱で魔法を発動出来るとお考えなのですか? そんな事あり得ません。……と言いたいところなのですが、実際に無詠唱で魔法を扱える人が言うのでしたら可能性はあるのでしょうね」

「あくまでも俺が思うには、だけどな。だって無詠唱魔法は使えない人は居ない事はないんだろう?」

「……確かに歴史を紐解けば、名を残す有名な魔法使いは無詠唱で魔法を扱ったと記録に残っております。ですが、それはあくまでも伝説や伝承に近い存在の魔法使いのみですわ」


 まぁエーゼの反応を見ていればそのくらいレアな技術だと言うのは予想が付いていた。

 元の世界で考えれば、戦国時代以降とかの存在か?

 正確な記録はあまり残ってないって話だし、現代人にとって戦国時代の常識は非常識だったわけだし。

 ラノベ的な展開を想像するなら、無詠唱魔法を使った人物が伝説になっていても可笑しくはないし、その技術が現代に伝わっていないのもテンプレだ。

 現実的な事を考えれば無詠唱で魔法を発動させるのに必要なイメージがこの世界の人に取っては難しかったんだろうな。

 俺を転生召喚させた女神様のお陰でチートレベルに魔法適正が上がっていて、元の世界で様々なラノベやアニメでイメージ力はこの世界の人よりも高いはずだから。

 後は科学の知識を学生レベルだけど知っていて、物質がどう変化するけどか原子がどうのこうのとか知ってるのも影響しているのか?


「俺にとって魔法はイメージ力が最も大切だと思ってるからなぁ。詠唱はあくまでもその補助って感じ?」

「……宮廷魔術師がお聞きにられたら、すぐさま否定して罵倒を浴びせられるお考えですわね」


 そこまで?

 宮廷っていうくらいだからきっと魔法に一生を捧げている様なお爺ちゃんなんだろうなぁ。

 凝り固まった魔法=詠唱を成功させて始めて発動出来るものってその人の中で固定観念が産まれてそうだ。

 故に無詠唱魔法は残りの人生を使っても扱えなさそうだけど。


「ですが、私には一考の価値ありと思います。ただの魔法使いが口にしただけなら、少し気に留める程度でしょうが、現に無詠唱魔法を使いこなしているツカサさんの言葉ですもの」

「それは……ありがとう?」

「何度も言いますが、誇るべき業績ですわよ。無詠唱魔法を扱えるだけで国で囲うべき人材ですわ。それに、初級レベルではなく中級、上級、果てには複合魔法までも無詠唱で、発動も詠唱よりも迅速にともなれば、今すぐにでも国から声が掛かるはず……」


 この世界に転生召喚されて半年以上。

 慣れて来たとは思っていたが、それでもこの世界の一般常識や認識には齟齬があったらしい。

 まぁ元々の文明の進みが全く違ったんだから、経った半年程度でこの世界の常識に慣れたとは思っちゃいけないのだろう。


 しかし、無詠唱魔法はあらゆるラノベやアニメで凄い扱いされて来たけど、ここの世界もテンプレに沿って伝説級か……。

 人前だと基本的に省略詠唱モドキを使っているから周囲の目は誤魔化せているのかもしれないが、大手を降って無詠唱で魔法を使いまくったらどうなるんだろう……。


 そう考えてももう遅い。

 何故なら、依頼中に偶々出会った他のパーティーの前でも普通に色々と使っているからだ。

 その場で問い詰められる事は無かったから忘れているだけだが、彼らは酒の席でペラペラと助けてくれた冒険者パーティーの魔法使いが無詠唱で魔法をバンバン使っている事を喋っているのを俺はまだ知らない。


 考え事で顔が強張っていたらしい。


「国から声が掛かろうとも、トリミア王国は民に徴兵は行っておりません。自主的ならともかく、強制的に物事を進めても国がバラバラになってしまうだけだと現在の国王陛下を始めとする国政の重鎮方の多くはそうお考えですもの。それに、私だってツカサさんの魔法をむやみやたらと広めたり致しませんわ」


 勘違いしたエーゼが俺に、大丈夫ですわ、と安心させて来る。

 違うそうじゃない……。

 確かに国に目を付けられるのは物凄く嫌だが、最悪国が目的とする魔法を使って逃げれば良いだけだし、そうなれば魔王討伐は難しくなって結局損するのは国だからな。

 今まで見たことのある冒険者の中で最もランクが高かったのがBランク。

 今の俺達と同じランクだが、正直って俺達の方が強い自信がある。

 転生特典のチートを考えれば当たり前だけど、この世界に俺達と同等の力を持っている者はそう多くないはずで、そう考えれば上澄みの実力を持つ俺を逃したくはないはず。

 それならエーゼの言う通り強要はしてこないと考えられるが……。

 多くの貴族がエーゼの言う通りの考え方なのだとしても、一部の例外は存在しないはずがないのが怖い。


 まぁ、その時はその時か……。

 監禁されたとき用の脱出方法の魔法も使える様にしとかなくちゃな。

 普通に冒険者として稼ぐ時は当然として、日常生活でも地味に役に立つだろうし。

 そう考えてこの話題を考えるのを辞めた。


「分かってる。エーゼの人なりはこれまでである程度把握しているはずだし…。まぁ、俺も色んな場所で使ってる上に、主にメリーさん経由で広まるのも時間の問題だと思うけど……」

「そうですわね……。あの受付嬢の口の軽さは冒険者ギルドの受付嬢としてどうかと思いますが……。依頼の融通や冒険者間の噂を教えてくださったりと、助かっている点もあるのも事実。計算しているなら見事なものですね」


 それは無いな。

 あのメリーさんは多分全部素でやっている。

 俺のラノベ知識はそう言っていた。


 ともあれ雑談はこのくらいでお終いだ。

 この店に入ってきた時に話した通り、エーゼが俺の分も払って店を出て情報収集の再開だ。

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