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12話「初めての依頼を受注」



 柳瀬さんの何が凄いか?

 挙げるなら幾らでもある。

 中学一年生で全国大会常連だった陸上部でレギュラーを勝ち取ること。

 毎日練習をしているのに関わらず、勉強も上位に入っていること。

 いつも明るくて、誰にも優しいとこ。

 急に異世界に転生されてもパニックにならない精神があるところ。

 チート能力で魔法適正を持っている俺と違い、ただの人間であるはずなのに前衛職の剣士に適正があり、魔力も俺並みにあるところ。


 こんな感じだ。

 幾らでもって言っておきながら、以外と少なかったな。

 そんな柳瀬さんに比べたら俺なんか、柳瀬さんが努力している間にダラダラと娯楽に浸っていた。

 その時に偶然得た知識のお陰で、この世界で俺はやっていけてる様なものだ。

 俺は元の世界での知識が無かったら、何もできない。

 だから、柳瀬さんの方が凄い。



 頭の中でグルグルと「自分なんて…」と考えている片隅で今後の事も考える。

 いや、自分を罵倒することには慣れている。

 その後の立ち直り方も。


 俺は気持ちを入れ替えると、装備に付いて考えた。



 俺にはチートレベルに魔法が使える。

 ならば、装備品は後回しでもいいんじゃなか。

 攻撃手段があるなら、遠くからチマチマと攻撃魔法を打って、モンスターを倒した方が効率がいいはず。

 魔法で『結界』みたいな感じで防壁を張ったら、攻撃も受けないだろうし。

 わざわざ借金をしてまで装備を揃える必要がないな。



 そう結論付けた俺は今回は見送ることを伝えた。

 メリーさんもフェンティーンさんも一切何も揃えない俺に対して、微妙な返事で返してくれでる。



「まぁ、あれだけの才能があれば大丈夫かもしれませんが………」


「ホントにいいのか?自分で決めたことなら何も文句は言わねぇが……」



 あぁ!!

 揃ってウザイな。

 借金はしたくないんだよ!!

 柳瀬さんの装備?

 それは柳瀬さんの問題だろ?

 何で俺が気にする必要があるんだ。



 結局何も買わなかった俺は、柳瀬さんが装備の最終チェックや返済に関する手続きをしている間、手持ち無沙汰になった。

 その間に「餞別だ!」と言って、フェンティーンさんから貰った『基礎呪文集~初球から中級まで~』を読む事にする。

 久ぶりの本だ。

 体感時間で三時間経ってるかどうか位だけど、俺にとっては死活問題になるほどの時間である。

 もったいぶってなくて早く読もう。


 俺は柳瀬さんの用事が終わるまでの間、使えそうな攻撃魔法と防御魔法を読みあさった。

 水の塊を飛ばす『ウォーターボール』、火の塊を飛ばす『ファイヤーボール』

 この二つはありきたりな魔法だ。

 旋風を起こして標的を切り裂く『ウインドカッター』に、地面から棘を生やす『ロックニードル』と言った属性魔法の初級。

 回復魔法の『ヒーリング』と防壁魔法の『マジックウォール』

 と簡単に使えそうな魔法だ。

 取り敢えず、攻撃魔法と回復魔法が使えたら簡単な依頼は完了出来そうだな。


 触り部分だけしか読めなかったけど、ここで柳瀬さんが戻ってきた。

 夜にでも読むことにする。



「お、お待たせー!もう自由に見ても良いってさ。どうするの?」


「簡単な依頼を受けよう。最低でも今夜の宿代は稼がないといけないからな」


「わ、分かった……!!」



 俺は柳瀬さんと共に依頼が貼ってある掲示板に向かい、その中でランクの低い依頼を探した。

 新人に絡んでくる様なテンプレは起こらず、俺は少しだけ残念に思う。



 良いクエストはないかな?

 初めて受けるわけだし、簡単な討伐か採取クエストはっと…。



 俺は掲示板を見渡すこと五秒。

 簡単そうな依頼を見つけた。



『スライムジェルを求めています』

 内容  スライムを討伐してジェルを採取

 ランク Fランク

 報酬  最低十個で銅貨五十枚。

 追記  ジェルの数に応じて上乗せあり。



 スライムの討伐か。

 初めての依頼に妥当なモンスターだな。

 それにしても、ジェルってモンスターを討伐したらドロップするものなのか?

 それともスライムの死体がそうなのか?

 気になる。

 メリーさんに聞いてから行こう。



 俺が一人で依頼を見つけてワクワクしていると、柳瀬さんの存在を思い出した。

 俺一人で決めるわけにもいかないかと思い直し、柳瀬さんにも相談する。



「柳瀬さん。良い依頼を見つけたけど、これ見てくれる?」


「うん!……………スライムの討伐?」


「そう、初めての戦うモンスターにピッタリだと思うけど……………スライムは知ってるよな?」


「うぅ~、バカにしないでよ~!青色のぷにぷにしている奴でしょ?」



 良かった。

 さすがに知っていたみたいだ。



 俺は柳瀬さんの肯定に安堵する。

 多分だが柳瀬さんが言ってるのは、人気ゲームの代表モンスターのことだろう。

 合ってはいるけど、必ずしもスライムがそんな可愛らしいフォルムだと俺は思わない。

 小説でも可愛らしい見た目か~っと主人公を思わせといて、唯の粘々の塊と言うテンプレネタがあるからだ。

 むしろ、後者のスライムが正しい形だったけど、人気ゲームの印象に世間が影響されすぎて、この事を知らない人が多いはずだ。


 と俺のどうでもいい話しは置いておいて、柳瀬さんも「これで良い」と言ったので、早速その依頼書をメリーさんの下に持っていく。

 別にメリーさんの所でもなくてもいいのだが、依頼書を持ってカウンター付近に近づくと「さぁ!うぇるかむ!!」と目線で訴えてきたからだ。

 無視しても良かったのだが、他の受付嬢が忙しそうにしていたのと、柳瀬さんが進んでメリーさんに向かって行ったからである。



「あっ!こんにちは~!!さっきぶりですね!!早速依頼を受けますか?」


「これをお願いします」


「は~い!これはスライムジェルの採取ですか。初依頼に相応しい難易度ですね!スライムジェルはスライムの死体が縮まってできるアイテムで、手のひらサイズのぷるぷるした塊ですよ」



 聞いてもいないのにメリーさんが気になっていた所を教えてくれた。

 ついでに、倒し方もアドバイスしてくれる。

 願ったり叶ったりだ。



「スライムは切ってもくっついて再生します。体内にあるコアを破壊したら簡単に倒せるはずですよ!剣で切って下さい。ツカサさんには悪いんですが、火属性の魔法は出来るだけ控えて下さいね。」


「どうして?」


「スライムが蒸発するから?」



 メリーさんが炎属性の魔法を控えて欲しいと言うと、柳瀬さんが理由を知りたがった。

 俺はメリーさんよりも先に自分の考えを言ってみる。

 答えは、



「正解ですツカサさん!!モンスター図鑑でも読んだことがあるんですか?」


「ないです。なんとなくそう思ったから言ってみただけです」



 どうやら俺のと言うか、小説を読んで得た知識が当たったらしい。

 スライムはコア、心臓の様な物が体内にあってそれを壊されると死に、炎属性の魔法にはめっぽう弱く、ダメージを与えすぎると蒸発して消える。

 よくあるスライムの設定だ。

 俺は自分の知識が正しかったことよりも、メリーさんが言ったある単語が気になった。



 それよりも気になる単語が聞こえたぞ。

 『モンスター図鑑』か。

 モンスターの絵や特徴、分布とか、戦い方が書いてあるんだろうか?

 お金に余裕が出来たら一番に買いたいな。



 俺はメリーさんに依頼の受注手続きをして貰うと、柳瀬さんと一緒にギルドを出た。

 ギルドを出ると、視界に映るマップが役に立つ。

 お陰で、迷わずに町の外に出ることが出来た。


 門をくぐって町の外に出ると、マップに赤い点が所々表示される。

 ゲームの経験上、この赤い点はモンスターだろうか。

 盗賊類も考えられるが、どっちにしろ敵だろうな。

 俺は柳瀬さんに周囲を警戒しておくように言った。



「柳瀬さん、ここは町の外だから、いつモンスターが現れるか分からない。いつでも動けるようにしておいて」


「わ、分かった」



 俺がそう言うと、柳瀬さんはガチガチに緊張し始めた。

 歩く姿がチョット可笑しく、目線がキョロキョロと泳いでいる。

 言ったのは俺だけど、過剰反応すぎじゃないかと思うほど。

 直ぐに動けるとは思えない。



「柳瀬さん、そんなに近くに敵はいないみたいだから、そこまでガチガチにならなくても大丈夫だよ」


「ほ、本当に?」


「少なくともマップには五十メートル範囲にはいない…あ!」



 気が付いた時にはもう遅い。

 気が抜けていたのか、俺はマップの存在を口に出してしまっていた。

 目ざとい柳瀬さんが気づかないはずもなく、俺は瞬く間に質問をされてしまう。



「マップ?地図は持っていないよね?」


「…あ、えっと…これはその……」



 さて、どうやってこの状況を切り抜けようか?

 全く、気を付けようって自分で言ってたばかりなのに、どうして俺はこうも注意力が足りないのだろうか?



 俺は柳瀬さんへの対応がしどろもどろになりつつ頭をフル回転させ、この状況の打開策を探り始めのであった。




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