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119話「買い物と今後」

「うーん……。ねぇツカサ。このアイテム使えると思うかい?」


 棚に並んでいるアイテムを、視界に写るゲームの様な説明ウィンドウを読みながら品定めしていた俺の隣から声が掛かった。

 商品を棚に戻しつつ横を向くと、そこには商品を見て頭を悩ませているエドの姿があった。


 どれ?と返事を返しつつエドが示すアイテムに視線を向ける。

 これは…ポーションか。


 名札が無ければ全くもって違いが分からない上に、ゲームの様に同じ種類のポーションは全く同じ瓶に入れられている訳ではない。

 軍とか騎士団みたいな場所が扱っていたり、ポーションを製作している場所によっては同じ効果は同じ入れ物と分けているのかもしれないが、ここはポーション専門店ではなくただの道具屋。

 それもギルト併設店や大通りに面している大きな店舗ではなく、一つ二つ通りを挟んだ場所に位置しているこじんまりした店だ。

 商売としてお店をやっているというよりも、趣味でやっていると言われた方が納得がいく感じ。

 ラノベ的には主人公のチート能力者や実は凄い経歴の持ち主が趣味でやってるお店で……って感じで話が始まりそうな奴。


 そんなどうでもいい事を頭に浮かべつつ、エドの持っているポーションに視点を合わせる。

 するとポーションの名前と効果、ついでに誰が設定して俺に見せているのか分からない文章が見えた。


『対魔力のポーション』

 ランクA

 魔法や呪いなど、魔力を帯びた効果に対する耐性を得るポーション。

 効果時間は品質による。

 Aランクなら一本飲み干すと半日は効果が途切れない。

 ただし、魔法干渉を受ける程持続時間は減少する。

 非常に強い魔力には効かないので注意を。

 このポーションは西の国から流れてきたらしいが……。

 下位互換に各耐性のポーションが、上位互換には無効化ポーションが存在する。


 マチトリスはトリミア王国の北方に位置している街だ。

 それなのに何故西側の国から流れてきたポーションがこんな場所にあるのか?

 元の世界の様に道は整っていない上に、荷馬車だと割れやすいガラス製の容器に入っているこのポーション。

 決して運べないとは思えないが、輸送だけでも非常に高価になりそうな感じがする物がどうしてここに……。

 王都の高級店なら分からなくもないが、ここは最前線の街だ。

 効果内容を見るにそこそこ有能そうな効果であり、魔王軍が魔法を使うのなら万全を期して持っていても腐らないポーションだと思う。

 が、敵が頻繁に魔法や呪いを使ってくるのならもっと大量に仕入れていそうだし、このレベルのポーションの制作が難しい物ならそれこそ騎士団や軍と言った国営の組織が買い占めていそうだ。

 いや、買い占めているからこその流れ物がこんな日陰な場所で売られているのか?

 まぁ、この辺りは俺がいくら考えようが分かりっこないから思考放棄が一番だ。


 そうやって思考を止めた俺はエドに質問の意図を問いかける。


「使えるって言うが、具体的に何が知りたいんだ?」

「一先ず、ツカサがこのポーションと全く同じ効果をパーティー全体に付与する事は可能かい?」

「無理だな。魔法耐性は基本的に個人それぞれが持っている耐性値と魔力量に左右されるって本で読んだんだが……。俺だけなら体全体を魔力で覆って防ぐ事も出来なくないはずだけど、それを他人にするのは……」

「難しいか? そう言えば補助系等の魔法は苦手だと言っていたね。俺はツカサやエーゼほど扱えないから分からないんだが、感覚が違うのだろうか? 才能がどうしょうもなく無いとか……?」

「あーー、どっちかと言えば感覚な方かな? 通常の魔法も理論や呪文を無視して使っているから、逆に使えないと感じた魔法にはとことん弱い。まぁ、呪文を詠唱する正規なやり方なら出来ない事なないと思うけど、やっぱり効果は常識の範囲内に収まるだろうけど」


 補助系魔法は俺の課題でもある。

 自分以外に魔法をかけて強化させるイメージが付きにくいのが原因だろうな。

 呪文を詠唱してかけても普通の魔法使いがやるのとほぼ変わりがなく、それならエーゼに任せた方が確実だ。

 攻撃系の魔法が無詠唱で使っている分、長ったらしい詠唱はうろ覚えだし、呪文は噛むかもしれない。

 だったらチート能力に頼っている俺とは違って、努力と才能だけで魔法使い職をやっているエーゼの方に任せた方が断然に良い。

 彼女の知識量と冷静な判断能力があれば、場面毎に適した補助魔法をかけてくれている。

 ゲームに例えるならエーゼが補助が出来る魔法使いで、俺が火力特化の魔法使いだ。

 両者共にパーティーにいた方が安定するけど、片方しか編成出来ないなら確実に補助が可能な魔法使いの方が選ばれるだろうさ。

 エーゼにしか出来ない事が多すぎる。


「それならこのポーション効果を魔法で付与する時間と、今お金で買っておいていずれ役に立つ時に備えておく。どっちが良いと思う?」

「俺個人の意見なら魔法で解決出来るならお金は取って置くべきだと思うが……。今のところお金には困ってない、とは言わないけど余裕はある方だから念の為に買っておくのもアリだと思うぞ」

「……そうだな。いくらツカサとエーゼが優れた魔法使いだろうと、俺が君たちの側に何時も居るとは限らないだろうし、敵との戦闘中なら尚更だ。パーティーのお金じゃなくて個人のお金で買っておくよ」


 「意見ありがとう」とエドは俺に礼を言ってから他に数点商品を手にとってから店員の下へ行った。

 あれ全部今後の活動で使う物なのだろうか?

 だとしたら普通にパーティーの予算から出せばいいのにと思う。

 そういえば、エドが個人的な買い物をしている所をほどんど見たことがないのに気づいた。

 もちろん、日々の食事や衣類日用品と言った必需品は除いてだ。

 エドに趣味はないのだろうか?

 ……無いからこそ、魔王討伐に必要な物質にまで個人的なお金をかけられるんだろうなぁ。

 趣味が生き甲斐、何よりも優先する事として元の世界を生きていた俺には考えられない生き方だ。


 店員とやり取りをしているエドを見つつ、俺は少しだけ質問してみても良いかもな、と柄にもない事を思っていた。






 マチトリスでの滞在期間は最短で三日とした。

 俺たちが街に着いた時の滞在期間として平均的な日程となる。

 到着した日と翌日は休養日に当て、三日目に情報収取や足りないアイテムや道具の買い出しをする日とする。

 それ以降はその時の事情によって延ばす事も事前に取り決めているが、誰かが大怪我をして念の為に引き延ばしたり、街の中で済ませなければならない用事が出来たりと予定外の用事が出来た場合のみ。


 大怪我は今まで誰も負った事は無いし、負っても小さな傷なら回復魔法で済むがな。

 体の一部が無くなったり大量出血なんかの、この時代では生き残るのが奇跡な怪我だろうが、呪文さえ知れば俺の魔法チートなら治せるはずだ。

 たとえエーゼが知っている回復魔法の範囲を超えていようが、治せるイメージさえ湧けばなんとかなるはずで、逆に言えば死者蘇生と言った俺が治せないと思ってしまった怪我や病気は治せないはずだ。

 チート能力も万全では無い。

 それでもこの世界の常識的な力から逸脱している力なので便利ではある。

 要するに過信しすぎちゃダメで、この能力の真価を発揮出来るように研鑽せねばならないと言うわけだ。

 出来る事と出来ない事はある程度把握できてきたから、これからは出来ることを昇華させて行き、出来ない事をどうにかして出来る事へ変換させなければこの先何処かで止まってしまうだろう。

 最近ずっとそればかり考えている気がするけど、苦戦しないならそれはそれで楽で良いと思う。

 しかし、テンプレ的にはそろそろ主人公一行の前に立ちふさがる強敵。一度は負けそうになるが……と言う一回目の覚醒パートとか挟んでも良い頃合いだろうに。

 物語のようにトントン拍子に進むはずがないのにそう考えてしまう俺はやはり脳が可笑しいんだろう。




 話が逸れるのはよくある事だ。

 昨日は宿を見つけてベッドに倒れて寝た。

 長旅の疲れもあったのだろう。

 時間の無駄と言って読書タイムに浸る暇もなかった。

 衰えか、それ以上に長旅は身体に来ていたのか。

 多分後者だと考える。

 まだ成長期だから衰えを考えるには早すぎると周囲の人は考えるかもしれないが、俺は自分の全盛期は小学校高学年だと思っている。

 確かに肉体は成長期など考えられない速度で徐々に伸びてきていた、初期値が小さいから平均よりもう低いだろうがそれでも緩やかに伸びていた。

 しかし、この世界に来てからは明らかに取れている栄養価が低いにも関わらず未だに伸びている。

 可笑しい。急激な成長期として片付けて良い様子ではない。

 俺が思いつく点とすれば、この世界に転生召喚される際に女神様が何かしらの要素を加えた、と言うのも。

 ほら、ラノベ的によくある勇者因子とかこの世界の魔力が成長を云々のよくある設定の奴。


 まぁ身体が成長するのは悪い事じゃない。

 力がある程度のものを言う中世ヨーロッパ風の異世界では、身体がデカいと言うだけで何かと有利になる場合がある。

 少なくとも小さくてナヨナヨした見た目の奴よりは強いと思い込んで、高圧的に接して来る輩も少なくはない。

 見た目が全てとは言わない世界でもあるが、やはりこの世界は元の世界とは常識が少しズレて居る部分もあるのだと実感する。

 ともあれ、元の世界の様な燃費の良い生活が出来にくくなって来たというわけで、それ以外だと不便性は無い。

 精々まだギリギリ着れる服がいつ着れ無くなるかヒヤヒヤしている程度。


 寝て起きた俺は既に慣れ、寧ろ野営で食べる食事の何倍も美味しい宿の朝ごはんを胃に入れてからエドと共に出発。

 こうしてぶらぶらと商業区域に立ち並んでいるお店を見て回っていた。




「なぁ、エドって趣味は持っていないのか?」

「急にどうしたんだい? あぁ、さっきの店で俺が手持ちからお金を出した事」


 予てより気になっており、先ほどもエドが自分の手持ちから今後冒険者として使うかもしれないポーションを買った事が背中を押したので、エドに問いただして見ることにしたのだ。

 そう思って話しかけてみたのだが、エドには俺の考えなどお見通しらしい。

 可笑しい。この世界では永い付き合いだが、心を通わせた親友でもないのにどうしこうも簡単に俺が考えている内容を図られているのだろうか?


「さっきの店で俺のお金で買うって言った瞬間、少しだけ表情が変わったからね。少しだけ頭の片隅に置いていて、そこに来て俺に趣味の質問だ。二つの事を繋げるのは簡単さ。もしかして違った?」

「いや、違わない。エドって普通に頭良いよな。どうして冒険者なんかになったんだ? 頭さえあれば商人でもそれ以外の職にでも簡単に就けそうなのに」

「うーん。詳しくは言えないんだけど、定住するのが難しくて簡単に何処でも稼げる仕事だったから、かな?」


 しまった。

 人の過去には気軽に立ち寄らないと決めていたはずなのに踏み込んでしまった。

 まぁ、エドが苦笑いしながらも答えてくれたから助かった。

 とりあえず謝っておこう。


「ごめん、言いにくい事だった」

「気にしてないから大丈夫だよ。話したくない理由はツカサとホノカを信頼してないからじゃないんだ。ただ『伝えても良いのか?』ってエーゼと審議中って所かな?」

「いや、俺達だって話してない事はあるからお互い様だと思う」

「じゃあお互いに良い会えるまで長くこのパーティーで冒険出来れば良いな。もちろん魔王討伐が最終目的だけど、もっと色んな場所へこのメンバーで色んな場所へ旅をしたい」


 それはどうなんだろう。

 俺はすぐさま同意する事が出来なかった。


 確かに今のパーティーの居心地が良いのは確かだ。

 どんどん剣の技に磨きがかかっている柳瀬さんに、女神様から貰った魔法チートを持っている俺に普通に着いていけているエドとエーゼ。

 チートも無しに純粋な努力と才能だけでここまでの力を付けているのは正直称賛に値する。

 俺をこの世界に転生召喚させた女神とは別の神様が選んだ勇者なんかじゃないかと考えてしまうほどだ。

 それくらい他の冒険者と比べても技量や知識がある。


 しかし、居心地が良いからと言ってこの生活を何時までも続けたいか?と問われれば即答は出来ない。

 俺本来が求めていた生活はお金が欲しい時や気が向いた時にギルドの依頼を受けて、残りの時間を全て趣味の読書に使う怠惰な生活だ。

 魔法と言うチートがあるのだから元の世界で歩むはずだった生活よも簡単にお金が稼げるはずで、税金だって人里知れない場所に住んでいたらほぼタダだ。

 唯一の懸念点が移動手段なのだが、魔法なんだたらワープとか転移とかそんな感じの移動手段があるはずだ。

 魔法なんだから出来るはずで、俺がまだ使えないのはイメージが足りてないからなのだろう。

 大きく分けると転移魔法ともう一つの魔法が今の俺の課題になる。

 ズレた。

 俺だって厨二病を患っているオタクなので、チート能力を使った冒険とか強敵を幾度も倒すギルドのエースだとか、実は強い実力者ムーブとかやりたい。

 やりたいくて、実際に叶える立場にあると思うのだ。

 何時でもできるなら今じゃ無くても良いや、と現状維持で満足する。

 あれ?これってエド達ともっと色んな場所へ冒険したいと言う意味になるのでは?


「いや、悪かった。こんな街で魔王討伐の旅路以外で冒険をしたいって言うべきじゃなかった」


 忘れてくれ、そういうエド。

 流石に俺でも気を使われたと分かる。

 ダメだなぁ。

 そんな距離まで詰められるつもりは無かったんだが。

 それだけ俺も心を許していると言う事か?

 ……数か月も一緒に旅すればそうなるのも当たり前の状況かぁ。


 俺は魔王討伐の目標が叶った後、どうなりたいのだろうか?

 時間はまだある。

 まあだあると考えていなければ、いつの間にか目前まで迫ってしまう。

 元の世界ならなぁなぁで生きてこられたかもしれないが、この世界で生きるならもっと考えて生きなければならないだろう。

 問題は山積みだ。

 しかし、先ずは魔王の討伐が可能だと断言出来る自身と実績を作りだすのが一番だろう。

 俺たちは魔王軍とは戦った事が無く、人伝やギルドの情報を介してでしか情報を持っていない。

 つまり、相手の強さの指標が分からないのだ。

 俺達の方が強いのか弱いのか、その差はどの程度なのか?

 それを知るためにこの街へとやって来た。

 まだまだ目標の途中だ。

 先のことも考えなきゃ駄目だが、一番は目先のことだろう。

 ゲームや小説ならそろそろ強敵との戦闘がテンプレなのだから、この街でしっかりと準備をしておかなければ。


 考えるのを辞めた俺はエドと一緒に買い出しを続けるのだった。

 仲間と一緒にする買い物は悪くなかった。

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