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11話「俺のチート」



 俺が立ち直った時には、柳瀬さんは元の世界から着ていた制服から冒険者装備に着替え終わっていた。

 初期装備だからだろうか?柳瀬さんの防具は胸当てから始まり、要所要所をガードする簡易的な防具に武器はレイピアの様に細い剣だ。

 中々似合っていると思うのは、少なからず柳瀬さんが可愛いからであろうか。

 柳瀬さんは頬を赤らめて俺の前にやって来るなり、見た目の感想を求めてきた。



「ど、どうかな?フェンティーンさんとメリーさんのお勧めを装備してみたけど…」


「…いいんじゃない?」



 どうして俺に聞く?

 そう思ったが、素っ気なく答えた。

 俺の感想を聞いた柳瀬さんは嬉しそうに顔をほころばせる。

 取り敢えず、褒めて見たのが功をなしたみたいだった。



「ええじゃろう?嬢ちゃんは剣の中でも細剣が一番適正があってみたいでよ!汎用的な武器を用意したぜ!!防具の方は、走るのが得意と聞いたので機動力を妨げない様に要所要所をガードする簡易的で耐久力のある物を選んでみた!!」


「占めて、銅貨八十枚になります!!依頼報酬から少しずつ払わせて貰いますね!」



 後からフェンティーンさんとメリーさんが聞いてもいなのに説明と請求金額を述べてくれた。

 値段的に高いのか低いのか分からない。

 ギルドに着くまでの露店をざっと見た感じだと、銅貨一枚は百円位の価値みたいだったので、銅貨八十枚は八千円位の買い物になる。

 因みに、銅貨一枚に満たない価値の物は鉄貨を使うらしいが、あまり使わない硬貨だそうだ。



「んじゃあ、次は少年だな!!気にすんな、絶対に合う装備を見つけてやるから!!」


「だったら、魔法使いはどうですか!!?規格外の魔力を持っていますし、ホノカさんが前衛をするのなら後衛の方がバランスがいいと思いますよ!!」



 次は俺の番になり、剣を振えなかった俺に対してフェンティーンさんが「大丈夫だ!」と意気込んでくれる。

 その隣でメリーさんが自分の考えを声に出して、フェンティーンさんに「はい!私の意見はこうです」と手を挙げてピョンピョンと跳ねた。



 ピョンピョンと跳ねると……って何故メリーさんが意見を述べるんだ!?

 まぁ、俺が望む本命の職業だったから問題はない。

 出来れば剣も使える魔法剣士!!とか憧れていたんだけど、そう簡単にいくわけなかったな。



 俺は早速、フェンティーンさんに魔法使いの適性を見てもらう事にした。

 弓とか、拳闘……なんて本命でない種類の武器に時間を割く必要はない。



「試してみます」


「おう!だったら、先ずは魔法使い職の適正があるか見てみねぇとな。えっと、確かこの辺りに……………合ったぞ!ほれっ!」



 フェンティーンさんはガサゴソと探し物を見つけると、俺に渡してくる。

 それは本だった。

 かなり古い物らしく、メリーさんが見せてくれた印刷機械で作られた本とは違って、異世界にあってもおかしくないタイプの本だ。

 これが魔法使い職の装備品なのか?



「『基礎呪文集~初球から中級まで~』呪文の本ですか?」


「そうだ!!杖やマントといった装備品も大事だが、魔法使いにはそんなのは二の次だ!!適正と回る口、後は呪文を覚えてさえいれば成り立つ。早速、呪文を一つ、二つ詠唱したらどうだ?あー、攻撃魔法はやめてくれよな」



 本をめくると始めに魔法の発動条件が書かれていた。

 それはまた次の機会に読むとして、初級の欄を見る。

 えーと?

 俺は攻撃用の魔法ではなく、魔力を唯の水や火などに変える呪文の覧を見つける。

 俺は何回か読んで呪文を覚えると、水が何もないところから出てくるところを想像しながら呪文の括りだけを詠唱した。



「『ウォーター』」



 呪文を唱え終わると共に、俺の目の前にバスケットボール位の大きさの水の塊が産まれた。

 少しの間、宙に浮かんでいたが、俺の集中力がなくなる同時に床に落ちた。

 冷たっ!

 思いのほか冷たかった水は俺の足を濡らしてしまう。

 普段の俺なら足が濡れた事にイライラするはずだが、今の俺にはそんな感情など欠片も発生しない。

 代わりに俺の頭を占めるのは嬉しさによる興奮だ。



 これが、魔法ッ!!

 夢にまで見た魔法が自分の手で使えた!!



「す、凄いよ、ツカサ君!!」


「「……………………」」



 柳瀬さんが俺の魔法を褒めてくれる。

 そんな柳瀬さんの足元は、少しかかったらしく俺よりは少量だが濡れていた。



 悪いことをしたな。



 でも俺を一切責めずに、逆に自分のことのように喜んでくれる柳瀬さんに俺は、少しだけ嬉しかった。

 柳瀬さんは過剰な反応をしてくれたが、肝心のフェンティーンさんとメリーさんは口を開いたまま、固まっている。



 まさに、開いた口が塞がらないだな。

 って何を驚いているんだ!?



 このままでは埒が明かなそうだった為、俺は二人を現実に引き戻す。



「フェンティーンさん、メリーさん?俺は魔法の適正がありますか?」


「……――――どころじゃないです」


「え?何ですか?」



 メリーさんが小声で何かを呟いたが、俺には小さすぎて聞こえなかった。

 柳瀬さんも聞こえていないみたいで、俺と同様に首を傾げている。



 何がどころじゃないんだ?

 もしかして、あのくらいだとダメなのか。



 俺が発動させた魔法について考えていると、フェンティーンさんが復活した。

 そして、開口一番に呆れた口調でメリーさんが言いたかった事を伝えてくれる。



「…はぁ、適正どころじゃないって言いたいんだ」


「……??」



 適正どころじゃない?

 別におかしな所は何もなかったと思うんだが。

 魔法もキチンと唱えたし、水もちゃんと産まれた。

 何がいけないんだ?



 俺が訳が分からない顔をしていたのが分かったのか、フェンティーンさんが詳しく教えてくれる。



「普通はな、初めて魔法を発動しても握りこぶし位の水しか出ないんだ。しかし少年はちょっとしたボール程の大きさを数秒間、宙に浮かせた。ここまででも才能を持ってるんだが、詠唱をしていないだろ?天才と言ってもいいほどだぜ!!」


「魔法名は唱えていましたけど?」



 俺の代わりに柳瀬さんがフェンティーンさんの言葉に異論を唱えてくれた。

 俺は声に出さなかったが、柳瀬さんと同じ様に思ってる。

 俺は『ウォーター』と演唱したはずだ。

 本にもそう書いてあった。



「最後の魔法名だけだろ?その前にも演唱が書いてあったはずだぞ?」


「あ、ホントだ」


「……………………マジか」



 柳瀬さんが興味があったのか肩越しに、俺が持っている本のページを覗いてくる。

 一緒に問題の部分を見たら、確かに書いてあった。


『我ここにあり、我がマナを糧とし、ここに清らかな水を生み出せ……ウォーター』


 そう本には書いてあった。

 わかるかっ!

 そこでメリーさんが補足してれる。



「確か、初めて魔法を使った魔法使いでも、省略演唱はできなかったはずですよ!!魔力量と共に魔法使いの才能もあるなんて、もしかしたらSランクの冒険者になれるかもしれませんよ!!」


「なら、そのSランクの冒険者を見出した俺とギルドの嬢ちゃんは、大出世間違いなしだな。わっはっははは!!」



 メリーさんとフェンティーンさんが一緒になって大笑いし始めた。

 気持ちは分かるけど、周りの視線が痛いから辞めて欲しい。

 ほらっ、先輩受付嬢が物凄い顔でこっちを睨んでいますよ、メリーさん!

 補足すると、俺が飛ばした部分は演唱の大事な『前句』の部分だったらしい。

 ある程度のランクの魔法使いだったら、『前句』を飛ばして最後の『魔法名』だけでも発動できる。

 それを『省略演唱』と言う。

 歴史に名を残す様な魔法使いなら無言で魔法を発動する『無演唱』を操るそうだ。

 それで、俺は初めての魔法で中級者向けの『省略演唱』をやってしまったというわけ。

 どんな魔法使いでもここまでの逸材はいないとメリーさんとフェンティーンさんは言っていた。



 もうこれは魔法チートで間違いないよね。

 魔法はイメージが大切だと、どっかの小説でも書いてあったから試しただけなのに。

 もしかして、その仮説は正しかった?

 イメージで魔法が発動できるなら、『無演唱』でも出来そうな気がするんだけど。

 本当に出来そうだから辞めておこう。

 無駄に注目は浴びたくない。

 変な組織、犯罪集団とか国の騎士団とかに捕まりたくないぞ。

 俺の異世界ライフが総崩れになってしまう。



「……んぅ!」


「…柳瀬さん、どうかした?」



 柳瀬さんが何かうなっていた。

 俺は気になって訪ねてしまう。

 だが、それが間違いであったことはすぐに分かった。



「ツカサ君!!凄いよっ!!!」


「…っ!!お、落ち着いて柳瀬さん!!」


「だって、だって!!最高ランクの冒険者になれる才能を持っているんだよ!!」



 柳瀬さんが大はしゃぎで俺を称賛するものだから、俺はビビった。

 俺はそれを素直に喜べなかった。

 俺を称賛している柳瀬さんだって俺からすれば凄いと言える人だからだ。



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