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106話「鍛冶場での小休憩」

 日が暮れるまで数刻の猶予はあるが、どの位時間が取られるか分からないので早めに行こう、とエドが言ったので急いで鍛冶屋に向かった。


 ドラゴン討伐から数日後、俺と柳瀬さんはドラゴンの素材を持ってゴーヴァストさんの鍛冶屋に行っていた。

 理由は言わずもがな、ドラゴンと言うゲームや小説でも上位に入る素材を使って新しい装備品を揃えてもらう為だ。

 現状で装備品に不満は抱いた事は無いが、素材とお金に余裕があるのならグレードアップしても損はないはずだ。

 ゲームとかでも、既存の物よりも強い装備品が出たら真っ先にそれを揃えてから次のストーリーに進むタイプだし。

 何よりもここは現実世界。

 幾ら魔法チートを持ってるとは言え、もしもの時に備えて装備品を整えるのは当然だ。

 俺一人なら魔法でどうにでもなる可能性や、時間や金銭面の問題から疎かにしていたかもしれないが、俺と違って柳瀬さんにはチート能力を持っていない。

 女神様が何かをしたのか、それとも才能なのかは俺が分かるわけもないが、この世界で俺が見た中で一番の剣の使い手だ。

 だけど、剣が使えるだけ。

 敵の攻撃が当たれば怪我をするし、当たり何処が悪ければ即死もするただの人間。

 余裕ある時は俺が防御障壁を張って守っているが、この先の戦いでそんな余裕が存在するかも分からない。

 防御力があると全く心配が無くなるとは違うし、ゲームみたいにパラメーター上で高ければ高いほど良い、というのも現実世界なので違うが、それでも防具に使う素材はより強固な物が良い。

 柳瀬さんの場合、スピードタイプなので動きを阻害されないように要所要所に終点を当てた鎧?防具?だけどな。

 ゲームとかだと、物凄い肌色が多い装備でも高い防御力を誇ったりしていたが、現実世界ではそうもいかない。

 だから防具は重要だ。

 柳瀬さんが怪我を負った所をあんまり見たことないけど、それでも防具は重要なのだ。


「着いたよー」

「こんな場所がこの街にありましたのね。普通なら人通りの多い通りに面した場所へ構えるべきですのに」


 と、人の装備について脳内喋りをしてるだけで鍛冶屋に着いてしまった。

 先頭を歩いて先導していた柳瀬さんが止まり、隣を歩いていたエーゼが外観を見て顔をしかめる。


 稼ぎを重視するならエーゼの言葉は間違っていないと思うが、それを必要としない別な面の特徴があれば話は別だ。

 飲食店なら店員が可愛いや料理が物凄く上手い。

 道具屋や装備品を扱ってる店なら品揃えが良い。

 などが挙げられる。

 ただ、ゴーヴァストさんの性格を考えると、物を作れさえすれば後は何でも良い感じの人物だった。

 商売よりもモノ作りに重きを置いてる人だ。

 と言っても、お金が無ければやっていけないのはどの世界でも同じなので、組合や個人経由でどこかの店にでも作った物を卸してるだろうけど……。

 本人の性格も商売には向いてなさそうだから、こんな辺鄙な場所に工房を構えてるんだろう。


 改めて工房を見ると、煙突から煙が出ているので店は空いている。

 これで留守だったら笑えない。

 マップ機能でも建物の中までは把握出来ない……と思ったら出来ないから、出来ると思えば出来るんだろうなぁ。

 相変わらず謎な能力だ。


「まぁ、職人気質な人なら、表通りから離れた静かな場所で作業する方が集中できるのかもしれないね」

「その様なものですの?」

「エーちゃんが知ってる武具職人さんってどんなイメージなの?」

「普通に工房に籠って黙々と武具を製作してるイメージですわね。先程のは商売を鑑みたら、表通りにと言う意味合いですわ」

「……そろそろ入ってもいいか?」

「エドとホノカさんが一々私に突っかかって来るからですわ!」


 俺からすればどっちもどっちだと思おう。

 意見や感想なんて食い違ってなんぼのもの。

 論議は大切だけど、場と時間を弁えて欲しいな。


 柳瀬さんを先頭にして店に入ると、接客スペースだと言うのに熱気が襲ってきた。

 一部屋離れていると言うのに、相変わらずの熱さだ。

 隣の部屋からは絶えず『カンカンカン』と鉄を打つ音鳴り響いてくる。

 これはあれだな……来客に気付いていないパターンだ。

 ちょっとここで魔法の練習をさせてもらおう。


「暑い……」

「一部屋離れて居ても感じる熱気だけど、職人さんはもっと暑い中で作業してるんだから、感謝しなくちゃね」

「エド、貴方のその性格は素晴らしいですが、一々気にしてたら時間が足りなくなりますわよ」

「うっ…分かったよ。それで、店主さん呼ぶ?」

「いや、一段落するまで待とうと思う。邪険には扱わない人だが、集中してるだろうから邪魔するのはちょっと……」


 エドに聞かれて俺は少し待つと答える。

 エーゼと柳瀬さんも頷いて、ここで少し時間を消費する事を了承してくれた。

 しかし、このまま待つにしても暑い。

 そこで魔法の練習になる。


 閉め切って熱い家の中、此処で過ごすのは現代人で無くても苦である。

 元の世界ならどうするか?

 熱いならクーラーを付ければいいじゃない作戦。

 いや、お金や部屋に設置されてるか?などの問題点はあるが、何もかも気にしないで良いのならクーラーは誰だって欲しい生活用品だろう。

 この世界にはヒトカラも存在しえない電化製品だが、魔法を使えば似たような現象は起こせる。

 飽くまでも起こすのは現象だけで、エアコンの形から生成するつもりはない。

 ただの高校生だった俺に側なんかは想像できるけど、中身やどういう仕組みで動いているか何て知るはずもないからな。

 エアコンそのものを必要とするなら無理だけど、俺が今欲しいのは涼しい風か空気。

 イメージして魔力を使えば問題なく発動できるはずだ。

 思い浮かべるのは、熱気にうなされながら登校したらクーラーガンガンに効いてる教室に入った時の気持ち。

 サーァっと空気が涼しくなる感じ。

 汗も引いて若干肌寒さも感じる様に……。


「あれ?心なしか涼しくなっていないか?」

「勘違いではありませんわ。完全に涼しくなっていますわよ。魔力反応もありますので……」

「俺がやった。暑いから空気を涼しく魔法を使ったんだ」

「おぉ!!確かにこれな長時間待つのも苦じゃないね」

「えぇ……。私が可笑しいのです?こんな魔法を日常的に使用するだなんて……」


 柳瀬さんが笑ってくれる。

 それだけでやった甲斐がある。

 ……いや、そうじゃない。

 俺が過ごしやすい様にしただけだ。


 しかし、何の前触れも無く魔法を使った事にエーゼは呆れた様子だ。

 それについては悪かったと思ってる。

 反省はしていない。


「日常的に魔法を使うことも鍛錬って感じ?」

「それは良い心掛けだね。だからツカサは魔法のレパートリーが広く、咄嗟の判断力があるんだ」

「でも、魔力は大丈夫ですの?都市の中とは言え、安全な日々が毎日送れるとは限りませんわよ?」


 この前のドラゴンの襲撃がいい例だとエーゼは言う。

 確かにエーゼの言ってる事は正しい。

 俺も全く後先考えずに日常的な魔法の使用をしている訳じゃない事を説明する。


「俺だって考えていない訳じゃない。残りの魔力量は見極めてるつもりだ」

「そっか。ツカサの魔力量は確か……」

「Sランク相当……でしたわよね?王宮お抱えの魔法師団の人間でも数名しか居ない才能。確かにそれなら問題はないでしょうが……」

「緊急時ほど魔力は多く必要だって言いたいんだろ?まあ、分からなくもないけど……」

「いえ、ツカサさんが把握してるならいいです。差し出がましい事を再び申し訳ございません」


 今日何度目になるのか、数えるのも馬鹿らしい回数目の謝罪をエーゼから受け取る。

 エーゼはかなりの心配性……いや、エドと柳瀬さんが気にしなさすぎなだけなのだろう。

 エーゼはどちらかというと常識人。

 この世界に転生召喚されて数か月が経過したが、細かい部分の常識が分からず自分の感覚でやらかしてる俺。

 エーゼからすれば有り得ない事ばかりなのだろう。

 魔力と言うのは魔法使いの生命線だ。

 魔力が無いと魔法を使う事は不可能で、詠唱を覚えるので肉体的な鍛錬が全く出来ていない。

 だから、魔法が使えなくなった魔法使いはどんな冒険者よりもお荷物だ。

 だからこそ、魔法使いは自分の魔力をしっかりと管理して魔力枯渇を行さないようにしている。

 俺だってしているが、状況が状況の為魔力切れを起こしたことは何回かあるから言えない。


 まぁしかし、この程度の魔法を何時間展開した所で俺の所有する魔力量からしたら微々たる差なんだけどな。

 平均的な魔法使いが同じ魔法を使ったら、どの位魔力を持っていかれるなんか考えたくもない。

 俺の魔力量が異常なのか、それとも扱う魔法が簡略化され過ぎて燃費が良いのか……。

 俺にとっては単なる思いつきで使った魔法なのにな。






 部屋を涼しくしながら待つこと数十分。

 エドと柳瀬さんは飾ってある商品の剣を熱心に眺めている。

 同じ剣士として惹かれ合う物があるのだろう。

 エーゼは何処から取り出したのか(恐らく魔法袋)櫛で髪を結っている。

 中世ヨーロッパ風の世界で生きる庶民には有り得ないくらいサラサラな見た目だ。

 顔立ちもエドと揃って整ってるし、やっぱり何か訳アリなのかね?


 俺の方と言うと、時間潰しから時間が無くても無理やり時間を作ってでも価値のある読書だ。

 やはり知らないお話と言うのは読んでいてワクワク出来る。

 アイテムボックスから読みかけの本と椅子を取り出して読書中だ。

 読書してていいのなら、何時間…いや何日だろうと待てる。

 読書だけで他は何もいらないと思ってるほど、俺は読書が大好きだ。

 まぁ、それは今は置いておこう。

 椅子を取り出したのは、建って読めない事もないが単に疲れるから。

 アイテムボックスに入れておけば、何時でも必要な時に取り出せるから便利だ。

 これがあるなら何処だって暮らせる。

 元の世界は本が置いてる自宅こそ最高の環境だった。

 ……これ以上はよそう。

 本の事になると際限なく語れてしまう。


 そうやって各々待つ事数十分?時計が無いから分からない。

 ガチャリと工房に続くドアがようやく開いた。

 工房内の熱気で若干部屋の空気が熱くなる。


「ふぅー少し休憩するか……ってなんだ、ツカサ来てたのか」

「はい。作業中だったので待たせて貰いました」

「おーそうか。そりゃすまんかったな。儂とお前さんの仲じゃ、別に工房まで入って伝えてくれても構わんかったのじゃぞ?」

「集中してたみたいなので、気を逸らすのも悪いかと」


 嘘だ。

 本音を言うなら、わざわざもっと熱い場所に入って声を掛けるのがめんどくさかっただけである。

 時間効率を考えたら声を掛けるのが正解なのだろうけど、そこまでの効率は求めていない。

 俺が効率厨ならそもそも柳瀬さんやエド、エーゼと共に行動しないで一人でいるはずだ。


「ねぇホノカさん?ツカサさんってまともな受答えが出来ましたの?」

「あれは外向きだよー。っていうか、基本的には外向きしか見せないけど、私たちにはかなり本音で話してくれてるから私は嬉しいの」

「外向きなら納得ですわ」


 おい、聞こえてるぞ。

 それにかなり本音を見せてるつもりだけど、ガチなのは自分の胸の中に秘めてるからな?

 エドもにこやかに笑って来るじゃない。

 よくもまぁ、そんなイケメンみたいな行動を恥ずかしげもなく出来るよな。

 これが外見と内面の完璧なイケメンか……。


「なんじゃ。見たことない奴さんも居るようじゃが、ツカサのパーティーメンバーか?」

「はい。ツカサとホノカさんとはこの度パーティーを組むことになりました。エドと言います。それで、隣のに居るのが……」

「エーゼと申します。どうぞお見知りおきを……と言いましても、明日には出立致しますが」

「うむ。儂はゴーヴァストじゃ。見ての通りドワーフ族で鍛冶師をしておる」


 エドのイケメン度合いを評価してると、エドとエーゼがゴーヴァストさんに自己紹介していた。

 互いに知っている者が間に入らなくても挨拶が出来る辺り、二人共流石の社交性と言わざるを得ない。

 ……普通の人はこの程度するだろうって?

 コミュ障には難しいんだよ。

 タイミングが全く分からん。


「……ゴーヴァスト、何処かで聞いた事がありますが……」


 エーゼ、伏線を立てるなら最も分かり難くどうぞ。

 そういうのは、もっと分かり難い様に表情差分だけで終わらさない?

 まぁ、分かりやすいテンプレなら回避する様に動くだけだ。


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