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104話「買い出し」

 あれから色々と話し合った結果、アルケーミを出発する日を3日後と決めた。

 街から街へと移動するための地図や食料品、その他消耗品などの道具をそろえなければならないからな。

 その日の話し合いは今後の予定や次の目的地の話し合いで終わって解散した。

 俺と柳瀬さんが止まっている宿『ウーリーの隠れ宿』とエドとエーゼが止まっている宿は別の場所にあり、一々集まらないといけないのが少しだけめんどくさいな。

 ただ、俺にはマップ機能があるから合流は簡単だけど…。


 出発までの準備期間を3日にしたのは勿論理由がある。

 魔王討伐は出来る限り早い方が良いと主張するエドをエーゼと柳瀬さんが押しとどめ、次の街までの食料や地図、その他消耗品の買い出しなどだ。

 人数が増えた事で消耗品の数を足したり、お互いが使っている物で良い物があれば増やしたりと兼ね合いがある。




 と言うわけで、一夜明けた次の日。


「おはよう!今日はみんなで買い物だね!」

「んーおはよ…」


 朝から元気のいい挨拶に俺はやっとの思いで返す。

 俺としては一何時も通りの感じで挨拶を返したのだが、柳瀬さんには雰囲気の違いに気づいたらしい。


「テンション低い?もしかして寝不足とか?」

「寝不足というか寝ていない」

「まさかの上をいく答え!?えっ?今日ってエドさんとエーちゃんと買い物だよね?」


 もしかして予定間違えてた?と慌てる柳瀬さんは何も間違っていない。

 昨日四人で話し合って決めたばかりの予定を忘れる方が難しいぞ。

 では、何故予定があるのに寝てないのか。

 その答えは……


「買い物くらいなら寝てなくても平気だろ?ほら、学校とかでも寝ずに行ったり…」

「それ普通じゃないよね!?夜は寝る。これ大事だよ?」

「いや、そうしないと読書の時間が取れない」

「暇な時ずっと読んでるよね!?あれでも足りないの…」


 呆れた顔を見せてくる柳瀬さんに朗報です。

 あれくらいデフォルトですぞ。

 俺クラスともなれば、むしろ読書をしてない時間を見つける方が難しいからな。

 だって面白いじゃん。

 続きが読みたくなって読んでいる内に全巻読破で終いには続刊をポチってたりしない?


「まあ、ツカサ君がそれで良いならいいけど……。健康的な生活をしようね?」

「善処する。というか、仕事前の日はちゃんと寝てるよ」

「今日の予定は良いんだ……」

「……あれだ。仕事は疲れている脳でやる訳にはいかないが、今日の買い物は少々ボケてて大丈夫だろ。その辺の判断は誤っていない」

「うん、私生活が崩れている時点で誤っていると思うよ」


 難しい。中々理解が得られないらしい。

 まぁ?今更誰かに俺の事を理解してもらおうとは思わないけど?

 これは強がりでもない。ただの言い訳だ。

 ……それを強がりと言うのではないだろうか?


 俺はそれ以上考えないようにして、柳瀬さんと共に厨房へ朝ご飯を取りに行った。






 朝食も恙なく食べ終わった後、一旦準備があると部屋に戻って行った柳瀬さんを待っていた。

 やることは何もないので、アイテムボックスから本をより出して続きを読む。

 昨日起きたのが朝だったのでそろそろ丸一日が経つこの時間帯。

 元の世界なら授業前に惰眠を貪っている頃合いだろう。

 だが、初めて読む本はそんな俺の意識を覚醒状態へと常に持って行ってくれる。

 柳瀬さんの待ち時間と言わず、永遠と本を読んでいたい。

 そんな気分になっていた時だった。


「こんにちは、街の英雄さん」


 聞きなれない女性の声がした。

 初めは「街の英雄」という代名詞が自分の事だとは思わなかった。

 しかし、本の文字列を追っている視界内に手が現れると視線を上げざる負えない。

 視線を上げると、この宿のオーナーさんが手を振って笑っていた。

 俺をしっかりと見ていることから、俺が呼ばれた事に間違いじゃないだろう。

 というか……。


「英雄って……やめてくださいよ」

「あら?絶望的だった戦況をたった二人でひっくり返すどころか、討伐まで成し遂げたと聞いているのだけど?」

「……間違ってはないですけど……英雄は言い過ぎですよ」

「言い過ぎなんかじゃないわ。……ツカサさんはもっと自分に自信を持ちなさい」


 はあ?自分に自信を持ってって言われてもなあ……。

 俺としては自分の魔法はイメージ通りならなんでも出来ると慢心していたり、柳瀬さんを元の世界に戻すと言う身丈に合わない目標を持っているだけで十分自信を持っていると思うんだけど……。

 ガタが外れると調子に乗り過ぎて破滅エンドを迎えるかもしれないと考えると、どうしても慎重になってしまう。

 これが俺の性格なのだと諦めるしかない。


 俺が英雄かどうかは置いておこう。

 英雄なんてものは自分から言い出すものなのではなく、他人から、後世からそう呼ばれていくもの。

 問題はなぜオーナーさんが俺を呼んだかだ。

 考えても仕方ないので、素直に疑問をぶつけてみる。


「それで、何の御用ですか?」

「少し話題が逸れていましたね。小耳に挟んだのですが、数日中にこの街を出発すると…」

「??そうですけど……?」

「では、そのようにしておきますね。詳しい日程などはお決まりでしょうか?」


 ここまで言われてようやく俺の中で話が繋がった。

 街を出発して他の街に移動するということは、今泊まっているこの宿を引き払うということだ。

 と言うことは、宿泊代やキープを止めるなど、宿の人に伝えておかなければならない事項があったはず……。

 それを、新しく出来た仲間(スケープゴート役)との予定や交流ですっかりと忘れていた。

 幸い、依頼で帰ってこない期間が長かったりするので、宿代の支払はその都度行っている。

 今回も連続して長期滞在している訳でもないので、計算は簡単な方だろう。(個人的な主観)

 長すぎる滞在はこう言った事を忘れる可能性が高いのか……覚えておこうか。

 今度からはエドとエーゼも同じ宿に泊まることになったり、場合によっては資金を賄うために男女で分かれて取るとか……。

 おぉ!!冒険者パーティーっぽい!!



 オーナーさんに明日には街を出るので、今日が最後の利用だということを告げる。

 今まで長いこと宿泊しており出発が急だというのに、オーナーさんは嫌な顔一つせず対応してくれた。

 嫌な感情も表に出さないとか接客業の鏡だな。

 話したかった事はこれで終わりだそうで「後程、ホノカさんにも伝えておいてくださいね」とオーナーさんは言うと俺の下から去っていった。






 数分後、支度を終えて戻って来た柳瀬さんと合流して宿を出て集合場所である冒険者ギルドへ向かった。

 その途中、オーナーさんに言われた事を柳瀬さんに伝えると、彼女も俺と同じ様に忘れていたようだ。

 「もっとしっかりしなきゃ!」と意気込むのは良いけど、失敗している訳じゃないのだがらそこまで気を張る必要はないと思う。


 見慣れたた道を歩いて冒険者ギルドへ向かう。

 しばらく無言の時が流れる。

 不意に、活気ある街並みを見ていた柳瀬さんが俺の方を向いた。


「こうやって改めて街を見ると、守れてよかった……そう思わない?」

「いや全く」

「即答!?それも何も感じてないとか!!?」


 そんなに驚くことか?

 俺は街の為に戦ったんじゃない。

 俺は……


「『ゲームの様に楽しんでるだけだよ。魔王を討伐する為のステップアップとしてしか見てない……』だから何も感じてないわけじゃないけど、柳瀬さんの考えてる方向とは全く逆方向だよ」


 勿論、俺はこの世界が本気でゲームだと本気で思い込んでいるわけではない。

 前の世界で似たような境遇の小説をそれなりに嗜んでいるからそう思えるだけであり、そうやって自分を騙さないとやっていけないから……。

 とまで考えて居る自分が嫌になる。


「そうなんだ……」


 柳瀬さんが俯き気味にそう言った。


 こんな弱肉強食で強くないと生き残れない異世界を全く思っていない訳でもないが、幾ら現実だと言う証拠があっても、俺にとってはゲームや小説のような妄想の延長線上でしかない。

 自分でも感性が狂ってると理解している。

 でも、そう自分を騙さないとやって行けないほど、俺は弱いんだから仕方ないじゃないか。

 俺は……柳瀬さんみたいに強くない。




 沈黙が流れる。

 俺は気まずいこの空気が嫌いだ。

 だから視線をズラす。

 元々目を合わせていたわけではないが、視線を向ける程度の事はする。

 顔の向きを完全に外し、別方向を向いて視界内に映るマップを意味なく眺める事にした。

 ただ黙って歩くより、意味がなくてもぼんやりと何かに集中していた方が楽だった。


 こう言った時に本を歩き読みができると時間が溶けるように過ぎ去って行って便利なのだが、それをやると柳瀬さんが不機嫌になる。

 不機嫌になるとこっちの気持ちなど考えずに、注意をいやというほどしてくるから、2人でいる時は極力しないようにしている。

 ……いや、何で俺は柳瀬さんに注意されただけで、歩きながら本を読むのをやめたりするんだ?

 確かに注意されて鬱陶しかったのは確かだ。

 でも、たったそれだけで従ったのは何故だ?

 ………自分でもよく分からない。

 読書ばかりに時間をかけた俺には、現実の経験が少なすぎた。


 ぼんやりとマップを意味なく眺めていると、映っているマップの隅に仲間を示すマークが表示される。

 現在のマップの表示範囲は特に意識していなかったから、恐らく視界内にギリギリ見える程度。

 街中では人混みや曲がり角なので見えない場所もあるが、幸い表示された場所は真前。

 と言うことは……と視線を上げて前を向くと、エドとエーゼが前方から歩いていた。

 待ち合わせはギルドなはずだが……。


「あっ!おーい!!エド君にえーちゃん!!」

「あれは……ツカサにホノカさんだね。やぁ」

「よく分かりましたわね。かなり距離がございましたでしょう?」


 柳瀬さんが声を上げて手を振る。

 すると、向こうもこちらに気づいて手を振って存在を知らせてきた。

 よく公共の場でそんな目立つ行為が出来るものだ。

 俺には絶対に出来ない。


「じゃあ、買い出しに行こうか?先ずは何処へ行く?」

「安直に道具屋ではなくて?あそこなら基本的なアイテムは揃っていますし……」

「賛成!!」


 エドが指揮を取り、エーゼが意見を、柳瀬さんがそれに賛否を。

 俺が何もしなくても次の目的地へが決まり、合流してそのまま買い出しへと流れた。

 ギルドに集合する手間が省けて何よりだ。

 というか、二人はどうして正面から歩いていたのだろうか?

 気になるとこだが、知っても困らないようなことは黙って疑問のまま終わらせるに限る。

 だって人と話すのは疲れる。




 その後は特にあげることがないまま順当に進んだ。

 道具屋で基本的な消耗品を買い揃え、四人でパーティーを組むのに必要になってくる物、また必要だと思った物を相談して購入を決める。

 テントや焚き火の薪、木製の食器などは各自持っていた物をそのまま使うことに。

 回復薬や回毒薬、魔法薬などは基本的に個人の魔法袋に保管し、パーティー共有で使う物や、個人の魔法袋では入りきらない大きなもの、予備用のアイテムなどは全部俺のアイテムボックスで預かることになった。

 俺の魔力量に応じて増えているのか分からないが、今までアイテムボックスが容量不足に陥った事はない。

 今回の買い出しで初披露したアイテムボックスはエドとエーゼには酷く驚かれた。


「えーっと……毎回持ち物が少ないからなんとなく察してはいたけど……」

「まさか、収納魔法持ちでしたとは。それだけの大量の荷物を収納しておきながら、ドラゴンと渡り合えるだけの攻撃魔法も同時に扱う。はっきり言いますが、ツカサさん異常ですわよ?」


 と、初めてメリーさん以外に収納量の大きさをはっきりと否定された。

 今までは基本的にメリーさんにしか見せてないし、どこかのパーティーと合同で依頼に行く時は大きな荷物だけをアイテムボックスから取り出して、小さなアイテムは普通に持ち歩いてたからな。

 ……この先バレると思うが、今まで殺したモンスターの素材もギルドに売却していない分は全部保管していると知られたら、かなり厄介な事になりそうで怖い。

 先送りにするとそれはそれで厄介そう。

 『何で教えてくれなかったんだ?』『私たちがそんなに信用にならなくて?だとしたら非常に残念でございます』と言う言葉が容易に想像できる。

 今後の事を考えて、俺はハッキリと伝える事にした。


「異常なのは承知の上だけど、今まで狩ってきたモンスターの素材が全部入ってるって言ったら?」

「またまた、いくら何でもその様な冗談はやめてくださいまし」

「…………」

「え?噓、まさか本当ですの?」

「えーちゃん、実はホントだよ。今までツカサ君のお陰で色々と助かったの」

「…………」

「な、なるほどね。詳しくは検索しないけど、容量がほとんどない魔法袋を持ってると言う訳か」

「……可笑しいですわよ。そんなものは王宮宝物庫に貯蔵される国宝にだって指定されていても可笑しくありませんわよ!!」


 エーゼが絶句し、エドに対して呆れる。

 うん、予想通りの反応で助かった。

 エーゼも小さくエドに対して呆れてるけど、エドは冷静すぎじゃあありませんかね?

 若干言葉が詰まっているのは分かるけど、エーゼほどではないし……。

 まぁ、酷く驚いて問い詰めて来るよりはマシだけどさ?

 うん、エーゼさん近いです。

 柳瀬さんが凄い目で睨んでるんで止めてもらってもいいでしょうか?


「えーちゃん近い」

「あ…申し訳ございません。少し興奮してしまいましたわ」

「反応はわからないでもないけど、距離が近いのは慣れてないから……ちょっと困る」

「あら、そうなのですの?ホノカで慣れているものだとばかり……。失礼致しました」


 エーゼはそう言うと離れてくれた。

 少し間を置くことで冷静さを取り戻してくれたみたいだ。

 柳瀬さんも元の表情に戻る。


「とりあえず、ツカサがちょっと特殊な魔法袋を持っている認識で良いんだね。こっちも深くは踏み込まないよ」

「あぁ、助かる」

「ですが、わざわざ教えてくいだ去ったと言う事は、パーティーの為で間違いありませんか?」


 エーゼの言葉に俺は頷く。

 そうでもなければチート能力を見せびらかしたりしない。


「なら、普段なら持ち運べない荷物や余分な物資、運搬の関係で捨てなくちゃならない素材なんかも運べる、と言う訳か…。 でも本当にいいのか?ツカサにばかり負担をかけしまうのだが……」

「そうですわね。先ほどのお話しから推測するに、ツカサさんの『収納スキル』?それとも『特殊な魔法袋』?…はパーティーの為の使用を許可すると仰っているので間違いありませんよね?」


 エーゼの疑問に俺は、そう言えば俺の持っているアイテムボックスは『収納スキル』なのか、『特殊な魔法袋』なのか疑問に思う。

 触媒となる麻袋や異空間への入り口となる触媒は存在しない。

 ハジメから持ち合わせており、何御触媒も無しに、おおよそ目の届く範囲なら何処にだって出し入れが可能なモノ。

 確かに、考えてみれば『特殊な魔法袋』よりも『規格外な収納スキル』と言った方が正しい。

 しかし、俺の不可解な能力の一端がゲームに由来しているのなら、この『特殊な収納スキル』は魔法袋でなければならない。

 大概のゲームでは、見た目以上の容量を持つバッグやポーチ…それに準ずる物を装備してる場合がたいていだ。

 ゲームのような視点を持つ事を基準に考えるのなら、俺のアイテムボックスは何かしらのモノを基準とした持ち物扱いが正しいと思う。

 そうなると、基準となるモノは一体なんなのか……。それは俺自身なのではないだろうか?

 …………ダメだ。混乱してきた。

 この話は後にした方が良いな。


 それよりも、今はパーティーで話している事に集中しないと。

 俺はエーゼの言葉にあぁ、と頷く。

 これから協力関係……パーティーメンバーになるのなら、早々隠し通せる事でもない。

 なら、初めから隠さずに話して力を有効活用すればいい。

 エドとエーゼなら不用意に喋る事もしないだろうし、パーティーとしては持ち運べる荷物が増えて基盤が安定る。

 二人は俺の負担を心配してくれているが、俺にとってアイテムボックスは負担でも何でもない。

 容量は無限に近いかもしれないんだし、中に物を入れていると魔力を消費するわけでもない。出し入れする時も同じだ。


「パーティーの為に遠慮なく使ってくれ。まあ、個人的な私物は出来るだけ勘弁した欲しいけど……」

「もちろん。その辺りは弁えてるよ」

「では、持ち運びの面から購入を諦めた物を購入いたしましょうか。何か他に意見はございまして?」

「ハイッ!やっぱり食料は沢山あった方が良いと思うの!」


 エーゼの確認に柳瀬さんが元気よく答える。

 アスリートだからか、人並み以上に物を食べる柳瀬さんにとって日々の食事は大切な栄養源だ。

 中学時代、給食も良くおかわりしてたし、この世界に召喚されてからもホントによく食べる。

 俺とは真逆。

 まあ、この時代、この職種だから食べられる時に満足に食べておくのが正解…って話は聞いた事がある。

 日本ほど食料が飽和してるわけでもないし、何時何処で戦闘が起きて時間がなくなるか分からない。

 保存の問題もあるので大量に持ち運べるわけでもない。

 依頼で街の外に出ている間は、基本的に全て保存食。

 運が良い時などは狩りで新鮮な物を食べられるかもしれないが、調理器具の問題から満足に調理できるとは限らない。

 確かに、柳瀬さんが真っ先に食料を上げるのも納得がいく。


 まぁ、柳瀬さんそこまで考えているかは俺の知る由もないが。

 と、エドの声が耳に入る。


「ツカサもそれでいいか?」


 俺の悪い癖、意識を内に潜めている間に、エドとエーゼは柳瀬さんの提案を受け入れたらしい。

 俺も食料を多めに買い込むことに賛成して移動することにする。


 もうお昼時だ。

 この調子なら一日中買い物などの用事で潰れるだろう。

 まぁ、元々その予定でいたから良いんだけどさ?

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