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103話「新たな仲間」

大変お待たせ致しました。

「あの、私たちだけでの話ですのに、この様な場所をお借りしてもよろしかったでしょうか?」

「勿論大丈夫です!!私の力を使えばこんな支部の個室を借りる位何とでもないんですよ!!」

「ホノカさん、この人は一体何なのですの!!?」

「えーっと……ギルド職員さん?」

「ただのギルド職員がそのような事を出来るはずもないでしょう!!?ここは南都のアルケーミ支部ですのよ!!?」


 現在、俺達はメリーさんに言われるがままに個室に案内された。

 応接室程立派な作りにはなっておらず、木で出来たイスとテーブルが置いてあるだけ。

 ギルド職員がちょっとした話などに使われる部屋みたいだ。

 そんな部屋でも、冒険者が雑談に使うには至らない部屋だ。

 こんな部屋でも普通なら料金が発生してもおかしくはない。

 そんな部屋を一存で借りられるメリーさん。

 一体何者なのか、考えるのも馬鹿らしくなってきそうだ。


 エドも悪いと思ったのか、メリーさんに向かって抗議するが……。


「ホントに良かったのかい?今部屋でもお金が……」

「ホントに大丈夫です!!ツカサさんとホノカさんのお陰様でボーナスも入っていますし、それ抜きでも個室を借りるなんて造作もありません!!皆さんは気にせずお使いください」

「……分かった。ありがたく使わせてもらうよ」


 エドを言いくるめたメリーさん。

 「にかーっ」と笑みを浮かべながら、自分の権力の高さと増えたボーナスを自慢してくる。

 エドはこれ以上はメリーさんの好意を無下にすると思ったのか、諦めてメリーさんの好意に甘えることにしたらしい。

 メリーさんには何を言っても無駄な場面があるから、ある程度許容することが大切なんだよな。


 メリーさんが気を利かせて部屋を用意してくれたのなら、俺たちは早めに話すことを終わらせるべきだ。

 他の予定で使われるかもしれなかったのに、メリーさんが強引に割り込んだ可能性も無きにしも非ず。

 それを抜きにしても、さっさと話を聞いて今後の予定を立てたい。

 豪華ではないが座るだけなら全く問題ない椅子に座って、俺たちは向き合った。

 メリーさんはあくまでもこの場で話の内容を聞くようだ。


「それじゃあ、二人の返事を聞きたい。どっちでも私とツカサ君は責めないから、ちゃんと教えて欲しいな」

「分かった。単刀直入に言おう。俺とエーゼは君たちの仲間になろう。同じ志しを持つ者同士頑張ろう!」

「……やった!!やったよツカサ君!!」

「そっか……。それは嬉しい。でもエーゼは良いのか?」


 エドの答えは「仲間になる」

 俺としては戦力増加にもなるから大変嬉しい答えだった。

 だけど、かなり反対していたエーゼは納得してくれたのだろうか?

 嫌々付き合わされているなら、そこまでした付き合わせるのはこちらとしても気が悪い。

 その辺りはキッチリと確認せねばならない。

 そう思ってエーゼの方を向いて見たら、俺の視線を受けたエーゼが喋ってくれた。


「心配には及びませんわ。エドとしっかりと話し合いましたもの。確かに魔王討伐は危険極まりない戯言ですが、見返りもまた非常に大きなことになるでしょうね。わたくし達にはそちらが欲しい。ですので、ドラゴンすら討伐出来るお二人とパーティーを組むのは利害があります」

「ということだ。俺もエーゼもこれからよろしく」


 なるほどな。

 エーゼは魔王討伐の功績が欲しいから説得に応じたと。

 しかし、功績で何をするつもりなんだ?

 経った数時間程度の付き合いでエーゼの人なりを完全に理解したとは全く思わないが、エーゼは常識を持ち責任感も強い人だろう。

 正義感もエドほどではないが人なり以上に持ち合わせていると見る。

 そんな人は欲しい功績での利害とは……。


 なんの利害がある?

 俺如きが知るべきではにプライベートな内容ではあるが、それでも気になって仕方が無かった。

 しかし、考えている場合でもない。

 ここには用心とは程遠い柳瀬さんが居るのだから。


「やった!!えーちゃんありがとう!!」

「わ、わたくしは貴女の為では無くてですね…」

「そんなのどうでもいいよ!!肝心なのはえーちゃんが選んでくれた事実だけ!!」

「……ッ!!?礼には及びませんわ。利益を考えた結果と、エドを放って置けないからですわ」

「優しいんだね!!」


 柳瀬さんが再びエーゼに抱きつく。

 エドとエーゼが仲間になって非常に嬉しいらしい。

 まあ、気持ちは分からなくもない。

 今までは俺と柳瀬さんしかいなくて、同性の仲間という物が居なかった。

 偶に複数のパーティーで合同依頼を受けたりしていたが、あれは仕事上の付き合いと言う事で一定数の距離があったと考えられる。

 仲間になるなら柳瀬さんにとっての距離感は一気に縮まったのではないだろうか?

 この先も女の子特有のスキンシップが増えるんだろうなぁ……。


 などと考えていると、エドが俺に向かって手のひらを差し出している事に気付く。

 数秒疑問に思ったものの、やがて俺の思考は結論に達した。

 握手なんてアイドルの握手会か、会社同士の取引が成立した時以外、創造の世界の物かと思ってたぞ…。

 そんな事をサラッとやれるなんて……やはりエドはやれる男だな。

 などと考えていながらも、俺も手のひらを差し出してエドの手と重ねた。


「ああ、握手ね。よろしく」

「うん、改めてよろしく」


 他人の手を握るなんて行為、普段の生活では有り得ない。

 あるとすればアルバイト時の接客時に、お釣りの受け渡しで少し触れる程度。

 人肌はこんなにもあったかいんだなぁ……。

 うわぁ…俺と比べ物にならないくらいガッチリしてるぞ……。

 まさしく剣を握ってる男の手、と言う感想が思い浮かぶ。

 ……実際に剣を握っていると出来る男の手というものは知らないけど。



 まあ、俺の感想などどうでも良いだろう。

 何はともあれ、ここに魔王討伐という目標を掲げたパーティーが結成された。

 今まで俺と柳瀬さんだけで行っていた事が、更にやりやすくなって来るだろう。

 人数というのは時には侮れない物だからな。

 現に、先日のドラゴンだって俺と柳瀬さんだけなら倒せなかったかもしれない。

 魔王討伐を行う上で仲間の増員は殆ど必須だったからな…。

 物語でも、魔王討伐は複数人のパーティーで達成している事が多い。

 この出会いが女神様が関与していることかは分からないが、俺にとっては嬉しいイベントだ。

 物語に近しいほど魔王討伐の可能性は上がり、何よりも……スケープゴートに出来るからな。


 俺がエドとエーゼを仲間に加えようと思った最大の要因。

 それがスケープゴートとして考えてだった。

 無論、初めは全くそんなつもりはなかった。

 エドに目的を共感され、柳瀬さんと共に二人で仲間にならないか?と言ってきたのは向こう側が先。

 当初は仲間など要らないと考えていた俺だったが、やはり柳瀬さんとだけでは戦力的には厳しい面も感じられていた為、エドとエーゼをパーティーに加える事を検討した結果、思い至ったのだ。

 魔王討伐した後の事だ。

 柳瀬さんは元の世界に戻して貰う事を女神様の討伐報酬で叶えた後、俺はどうなる?

 この世界にとどまるのは当然として、何処かの街で冒険者を続けながら、主に本だけ読むスローライフが夢だった。


 しかしだ。

 これまで何百と言う小説を読んできた俺はそこで考えをストップして先を考えない程馬鹿じゃない。

 色んな魔王討伐系やその後の小説を読んできた俺は知っている。

 魔王討伐した者が何事もなくのんびりとスローライフをおくれる訳がないということを。

 もちろん、小説なのだから何かしらの事件や出会いが無ければストーリーが進まないのも分かっているが、それを抜きにして考えて見ても俺は知ってるね。

 魔王を倒せる程の実力者を冒険者ギルドが、国が放っておくと思うか?

 絶対に放って行いと断言しよう。

 少なくても俺の知る小説は全部そうだった。

 絶対にめんどくさい事になるに決まっている。

 国の騎士団入隊、領地や爵位を与えられて飼い殺し、国が対応できないモンスターが現れた時に戦力として投入されれる(報酬無し)、他の貴族に疎まれて色々と失う、果てには暗殺者に命を狙われたり……ともかく、俺が望んでいる異世界生活とはかけ離れた殺伐とした生活になるだろう。

 ……今でも望んでた生活とズレている気がしなくもないが、それはそれで楽しんでいる自分がいないわけでもないのでノーカンにして欲しい。


 と言う感じで、このまま行けばスローライフなど送れないと思った。

 しかし、そこへこの世界で生まれ育った仲間が居たら?

 後処理や評価を全てそちらへ向けさせることで、俺なんかは魔王討伐パーティーの一人としか記憶に残らないはずだ。

 だからスケープゴートと丁度いいと思った。



 というのが俺の本音だ。

 エドとエーゼには悪いと思っているが、俺も終わってからの事を考えなきゃならないんだよ。

 まぁ、功績が欲しいと言っていたエーゼからすれば、利害は一致しているはず……。

 その代わり力は惜しまずに貸すから恨まないでくれ…。






「ほへ~~。つまり、いま最も注目されている冒険者コンビのツカサさんとホノカさんが、少し前から着実に実力を見せていたエドさんとエーゼさんのコンビを吸収。もとい、合併して一つのパーティーとなると言うわけですか!!」

「そういえば、ずっと居続けていますけどこの受付嬢誰なのですの?」

「メリーちゃん。クレーミヤって町で活動していた時からの仲なの」

「私はメリーと申します!!魔法使いでも人気ランキング上位にランクインしているエーゼさんですね!!よろしくお願いします」

「私とツカサ君の専属なんだよ」

「……そうですの?専属なら話を聞かれても問題ないですわね」


 俺と柳瀬さんが新しい仲間を迎えると聞いて黙っていられないのがメリーさん。

 受付嬢だから冒険者の関係に口出し出来る訳ではないが、メリーさんは俺と柳瀬さんの専属と言っても可笑しくレベルで関わっている。

 故にここまでの話を聞いていてもいいと思っていたんだけど……思ったより興奮してません?


 メリーさんは俺と柳瀬さん、エドとエーゼのコンビがパーティーになる話興奮した様子で声に出す。

 早口言葉で目を見開いて……オタクが得意分野を解説する場面かな?

 そんなメリーさんにエーゼが「誰だこいつ?」みたいな表情で見ていたが、メリーさんは当然の如くエーゼの事を知ってたらしい。

 受付嬢だから当然と言えば当然なんだけど、メリーさんに限っては単なるオタクっぽいんだよなぁ…。

 好きだから仕事にしたって言われても納得がいく。

 そして直ぐにエーゼと挨拶を交わして仲良くなるメリーさん。

 やっぱり陽キャなんですね。

 それとエーゼさん?ちょいとデレるの早すぎませんか?

 ツンデレにしてはツン感が足りないですね。

 エーゼがツンデレって知る程の関係じゃないから、そこまでの性格は知らないけど。

 第一印象はお嬢様なんだよなぁ~。



 基本的に話しかけられなければ手持無沙汰なのが俺だ。

 となると、柳瀬さんとメリーさん、エーゼの会話を黙って聞いているんだが……。


「メリーさんか……。何処かで聞いたことあるような気が……」


 こう言ったエドの独り言もバッチリと聞こえているんですよね。

 女子トーク……メリーさんのマシンガントークに巻き込まれている柳瀬さんとエーゼには聞こえ無かったかもしれないが、俺には聞こえていた。

 が、そこで聞き返したり、「何か言ったか?」なんて返さないのが俺だ。

 ここは聞かなかったことにしよう。

 如何にも訳ありそうなエドが引っかかる、謎の権力を持った受付嬢とか何かの伏線でしかいない。

 そんな厄介事は無視するに決まっている。

 俺は確かに物語の主人公にあこがれているが、飽くまでもあこがれているだけだ。

 主人公が残り超える苦難とか考えたら、俺はそれは別の場所から眺めているだけでいい。


 確かに気がかりではある。

 しかしそれだけだ。

 ここは物語の中ではなく現実世界であって、伏線とかフラグとかは一切起こり得ない世界だ。

 だから俺は知らないふりをする。

 現実逃避して問題を後回しにすることにかけては定評のある人間だ。(自己評価)

 そう、これは違うんだと思考から追い出した。



「じゃあ、そろそろ今後の予定を話し合っていきたいんだけど、ホノカさんもエーゼも良いかな?」


 エドの言葉は都合が良かった。

 俺は黙ってエドの視線に頷き、柳瀬さんは「あ、ごめんね!」とエーゼは「分かりましたわ」とそれぞれ返事を返す。

 「パーティー結成初の会合ですね!!書記はこの私にお任せください!!」そんな返事は俺には聞こえない。

 聞こえないったら聞こえないのだ。

 俺たちのパーティーは四人なのだから。

 しかしやはりと言うべきか、エドがリーダーを勤める事になりそうだな。


 そんな事を思いながら、俺は三人の会話に加わる。

 単なる世間話ならともかく、この話し合いは今後の生活に関係する内容だ。

 それなら俺だって意見くらい話せる。

 ここに来てアルバイトで培った経験が生かせるとはな……。

私的な用事により次回も遅くなりそうです。

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