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102話「出発の時は一刻と」

少しだけ落ち着いたので投稿期間を早めていきます。

 今日も今日とて冒険者稼業だ。

 最近はドラゴンの襲撃の影響で、依頼がひっきりなしに舞い込んでくる。

 そのせいか、アルケーミを離れてみると提案したものの、中々街から移動できずにいた。

 原因としては、ドラゴン討伐を成し遂げた俺と柳瀬さんの認知度が広まって指名依頼が多かった……訳ではない。

 先のドラゴン襲撃で冒険者の数が大きく減ったからだ。

 アルケーミ支部を中心に活動している全体数からすれば、亡くなったのは三分の一にも満たない数だと思うが、そもそも母数が大きくなればなるほどその分、多くなるのは確かなこと。

 さらに言えば、この一帯が安全では無いと悟った一部の冒険者が別の街に移動したと言う理由もある。

 そういうわけで、アルケーミに滞在している冒険者の数が減り、逆にドラゴンの影響で周囲の生態系が崩れたのか、モンスターの動きが活性化し、依頼はドラゴン襲撃以前よりも多くなっている、とメリーさんが世間話序に教えてくれた。


 ゲームだとドラゴンとか討伐したら、即座に別の章へと進行して別の街へと進めるようになるのに、現実では色々な方面から悪影響が襲ってくる…。

 つくづくこの世界が現実なんだと認識させてくるな……。

 現実世界だと思えば思うほど、生きてのだと実感してやりにくくなるんだよ。


 モンスターの動きが活発化すると、当然のように依頼が多くなる。

 しかも、ドラゴン襲撃で一定数の冒険者の数が減った。

 しわ寄せは生き残って活動を続けている冒険者へと向かう。

 ここまでは俺でも理解できる。予想範囲内だ。

 でもな、何で俺たちがひっきりなしに依頼を受けなくちゃならないんだよ…!!

 これも全部柳瀬さんのせいだ。

 彼女がメリーさんから現状を聞いて、「困っているんだし、動けてこなせる私たちが動かなきゃ!!」って片っ端から依頼を受けるからこうなったのだ。

 ゲームじゃないんだから、何日も休みなしで働かされるこっちの身にもなって欲しいものだよ…。




「はぁ…」

「だから謝ってるし、反省してるでしょ。ツカサ君もいい加減機嫌治してよ」

「治ってるよ。ただ単に休日後の仕事が嫌なだけ。それに、柳瀬さんだって……」

「うっ!!?だ、だってメリーちゃんが困った目で助けを求めて来たから…友達を助けるのは当然だと思うよ!!」


 その考え方は少しばかり理解しかねる。

 確かに困ってる人を助ける行動は良い行いであるが、利益を顧みずに自分の事を度外視してやるべきことではないだろう。

 俺はそう思ている。

 しかし、柳瀬さんは俺とは真反対で自分の利益にならなくても、不利益になっても人助けはしたほうがいい、するべきだ。

 そんな風に思ってる節がある。


 最も誰かの為ではなく、他でもない柳瀬さんの頼みなら……と思って結局は折れて、メリーさんからの回ってきた依頼を全部受けたんだけどな。

 この異世界の人間で仲の良い方であろうメリーさんからでは全く響かないのに、柳瀬さんから言われると響いて妥協してしまう。

 この気持ちはなんだ?

 全く感じた事のない心境の変化だと自分でも思う。

 何回か冷静になって考えてみたこともある。

 でも、何回考えても答えは見つからない。

 だから一先ず後回しにしている。

 ここは異世界だから、不思議に思ったことは不思議に終わらせたらダメだとは分かっている。

 でも、それとはまた別の問題だ。

 俺の心に関する問題だ。

 ならば後回しに出来る。

 疑問感を押し込めて、いつもの自分を演じればそれでいい。

 柳瀬さんが元の世界に戻ってから、一人でじっくりと考えればいいんだ。


 そうやってまた後回しにする。

 本でも何回、何十回と読んだテンプレートだろ?

 だから、後回しにすると…………後々後悔することになるんだぞ、俺。





「ねぇ?聞いてた?」

「…ッ!?」


 不意に耳元で聞こえて来た柳瀬さんの不機嫌そうな声。

 思考が一気に現実に戻ってきた。

 些細な事から思考の海に潜り込むのは良くあること。

 柳瀬さんもその辺りは重々承知だろうが……何故か機嫌が悪い。

 俺が呆けてる間に何か言ったんだろうが、それに反応しなかった俺が悪い。


 でも、その前に耳元で囁くの止めてもらってもいいですか?

 男女どちらとも仲良くなれる柳瀬さんだから軽々しく出来るのかもしれないけど、男子校で同じ年の女性と同じ空間に居るなんて、コンビニのバイトくらいしか有り得ない。

 そんな女子免疫力底辺の俺にそんな事しないでもらえます?

 一応、現実には興味ないと断言している俺でも男の子ですし?

 その上女子免疫底辺だと、心臓がバクバク言って悪いんだけど…。


 でも、それは口には出せない。

 思ってること全部口に出すようなタイプではないし、柳瀬さんに聞かれるのは何と無く嫌だ。

 それに、不機嫌な時の柳瀬さんって結構めんどくさい。

 良くこんなのでリア充のトップカースト張れるよな……。


「まーた返事遅い…」

「ごめんなさい。……で、何か言った?」

「それがね、私たちの目標を考えたらそろそろ潮時かな~って。ツカサ君はどう思ってるの?」


 目標?潮時?

 あぁ、この街をいつ出発するかって話ね。


「そろそろ良いと思うけど?柳瀬さんが依頼を沢山受けたから残っていたけど、実際にこの街付近のモンスターは相手にならないし」

「確か、北に向かうほど魔物の出現率が上がって来るんだよね?それなら早いとこ北に向かって魔族を倒しちゃわないと!!」

「確かにそういだけど。焦りは禁物な。急にレベルアップさせても良いことはないから、少しずつ慣れていくのが一番ね。後は……」

「エドさんとエーちゃんだよね。仲間になってくれるかな?一緒だと心強いんんだとけ……」

「それは分からないな。ただ、変に笑い飛ばされなくて良かったとだけは思ってるよ」


 エーゼさんの話によると、Sランク冒険者パーティーでも手も足も出なかったみたいな魔王を倒すって言ってるんだもんな。

 俺がこの世界の人間だったら、絶対に拒否していたことだ。



 そうこう話している内に冒険者ギルドへと到着したみたいだ。

 柳瀬さんと話し合った結果、今日もメリーさんのお使い。

 しかし、何でもかんでも受けるのではなく、出来る限り日帰りで帰れる場所のものだけ。

 それが無理でも二、三日で帰れる近場がベスト。

 最悪依頼を受けなくてもいい。

 先日のドラゴン討伐で俺達は莫大な金を報酬金として獲得した。

 全てがギルドからの報酬と言うわけでなく、領主からも出されたらしい。

 まぁ、街壊滅の危機だったと考えれば妥当な出所。

 なので、金には困ってない。

 まぁ、生活費以外にも装備品の手入れ代、消耗品の追加の購入と色々と出費は嵩む。

 魔王討伐を目標にしているから冒険者を辞めるわけにもいかないので、その辺は仕方ないと諦めているがな。

 それでも出費よりも収益の方が大きいのは事実だ。

 感覚が衰えるのは避けたいが、数日間休むくらいなんてことはない。


 それに加えて、エドとエーゼからの返事がそろそろ来てもおかしくはない。

 いくら何でも一週間と半分あれば答えは出せるだろう。

 向こうにも街を出発するつもりだとは伝えてある。

 そう長くは待たせないだろうな。


 もう一つ、ある案件も終わりそうだしな。






「おはようございます~~!!街の英雄様!!」


 相変わらず元気なメリーさんは、俺と柳瀬さんが受付に着くと同時に大声で挨拶をしてきた。

 そのせいでかなり注目を集めてしまっている。


「め、メリーちゃん声大きいよ!!?目立つから止めて!!」

「目立ってナンボじゃないですか。それに、お二人はギルドに入った瞬間から人の注目を集めてましたよ」


 その注目をさらに集める行為は必要だったんですかね?

 注目を集めていたと言っても、せいぜい数名態度だったのにメリーさんおかげさまでギルド中から注目を集めたのだが?

 大抵の人はマナーが良いから、ほんの数秒視線を向けただけで元の状態に戻っていくけど、中には気に入らないからと言う理由や、あっという間にAランクへと昇格した実力と運を妬む者がチラチラとこちらの様子を伺っている。

 一定数こういう輩が居るから注目を集める行為は嫌なんだよ。

 俺にはマップ機能があるから俺か柳瀬さんに危害を加えようとすると分かるし、実力的にも差があるから問題はないと思うのだけど……。

 実害が出ないに越したこはない。

 そもそも、俺は図太い神経が備わってないから、こんな悪意のある視線を受けて平気でいられる程出来ていないんだよ。

 ごめんなさいね。もう直ぐこの街を出て行くので辛抱強く待ってください。


 メリーさんには何を言っても懲りないので、そのまま放置して本題に入る。

 今日の依頼を見せてもらうことだ。


「いや~。ホントにありがとうございます。お二人のお陰で犠牲者が出ずに、Aランクの依頼が消化できてます!!」

「ううん、気にしないで。困ってるから助けただけだから…」

「よし、このまま面倒な依頼を全部片付けてもらったら……私の昇進だって夢じゃない!!」

「口に出てるぞ……。それに、依頼を優先的に回して貰えてるから利用してるだけですからね?」


 思わずツッコミを入れてしまう程、清々しい堂々っぷり。

 ある意味では尊敬出来る部分だ。


「分かってますよ~。ツカサさんは現実的な方ですからね。その代わりに報酬金は弾んでいるじゃないですか!」

「「え?そうだったの?」」

「まさかの気づいていなかったパターン!!?私だって値切りならぬ値上げ交渉頑張ってるんですからね!!」


 へーー……。

 裏では頑張ってるんだね。

 何気に実務はできるけど、性格や行動に難があるからなぁ…。


「まー良いですよ。はい、今日の依頼はこんな感じです。昨日はお休みされていましたので、少しだけ溜まっていますね」

「こ、今回は全部受けたりしないよ!!?」

「ありゃ?ホノカさんがそんなこと言うだなんて……。珍しいですね。ツカサさんの入れ知恵ですか?」


 こっちを見るな。

 その言い方だと、まるで俺が柳瀬さんに悪い知恵を授けた様に見えるじゃないか。


「ツカサ君は関係無いよ。困ってそうだったから助けたけど、頼りすぎも良くないと思うよ。長期的に見れば、私とツカサ君だけに難しい依頼を回すべきじゃない……。でも、ホントに困ってたら助けるからね?」

「おぉ…!!流石ホノカさん「どんな依頼だろうが掛かて来い!!」だなんて……やはり天才は凡人とは目線が違うんですね!!」

「あれ??私そんなこと言ったっけ?」

「柳瀬さん、そんなことは言ってないから安心して。メリーさんの思考回路が可笑しいだけだから…」


 一応「ホントに困っている依頼なら」が=「ツカサさんとホノカさんにしか達成出来ない依頼」に繋がってそれなら助けてもらえる。

 だから「(AランクやSランクの)どんな依頼だろうが掛かって来い」になったと説明は付く。

 ぶっ飛んだ思考回路ですな。

 親の顔を見てみたいものだ。




 たった一つの依頼を受けるだけでも一苦労。

 ここまで出発の遅い冒険者は居ないのではないだろうか?

 サクッとギルドに出向いて、依頼を一つ選んで出発するだけなのにね…。


 メリーさんも流石に懲りたのか、真面目に依頼を見せてくれる。

 これは掲示板に貼ってある物の複製。

 あまり一般的な冒険者が受けにくい内容や難易度の依頼をピックアップしてくれている。

 中には報酬の上乗せされている物もあるらしいが、基本的には早い者勝ちには変わりない。

 俺たちが選ぶ前に掲示板を見た冒険者が受注すれば、俺達は原則として受ける事は出来ないからだ。

 例外としては、複数のパーティーを募集してる依頼や、上限を設けていない依頼になる。

 まぁ、そんな依頼は滅多に無い上に、護衛依頼は移動にも最適だからか、余り残ることはない。

 街道なんかを走る場合は、モンスターも魔獣も出にくいから美味しいのは違いないけどさ。


 しかしだ。

 今日はメリーさん以外にも、俺と柳瀬さんを依頼に出させたくない人物が居るようだった。

 メリーさんが見つけてくれた依頼を見て、柳瀬さんと確認しながらどれを今日の仕事にするか決めていると、背中側から声がかかった。


「ふぅ…やっと会えた。相変わらず元気そうで何よりだ」

「わたくし達が休業中にも功績を稼いでいらしたようですわね」


 煌めくようなイケメンボイスと聞き心地の良いお嬢様ボイス。

 振り返ると9日ぶりのエドとエーゼが手を振っていた。


「エドさんとエーちゃん!!久しぶりだね!!」

「キャッ…ホノカさん、急に飛びかかるのは止めてくださいまし」

「えへへへ」


 二人の姿を確認した瞬間、持ち前の瞬発力を生かしてエーゼに飛びかかる柳瀬さん。

 女子は良く抱きつくなどのスキンシップを取るが、男性の前でやらないでほしい。

 非常に百合百合しくて目のやり場に困る。


「っふっふふ…。あの二人は仲が良いな」

「女子ってあんな感じが普通なのか?」

「さぁどうだろう?俺の周りでは居なかったな……。それよりも、久しぶりだねツカサ」

「あ、あぁ。久しぶり」


 じゃれつく柳瀬さんに困惑しながらも嫌がっていないエーゼ。

 そんな2人を見て、笑いながら手を挙げて挨拶をしてくるエド。

 なんか、友達っぽいな。

 正直言って、こんな親しい間柄の会話なんて小学生以来だから、どう反応するのが正解か分からないんだけど…。


「立ち話もなんだから、ギルドの酒場で座って話でもしようか?」

「9日もお待たせいたしました。応えを離しますわ」

「うん。そうしよっか。ツカサ君もそれでいいよね?」

「あぁ、依頼はまだ受けてないから時間はたっぷりとあるぞ」


 挨拶もそこそこにして早速本題へ。

 俺と柳瀬さんの前に現れたということは、仲間になるか拒否するかの話し合った結果だろう。

 俺としては人数は増えた方がやりやすいんだけど……。


 と、四人で酒場の方に移動しようとしていると……。


「あの、重要そうな会話なら、ギルドの個室使いますか?」



 メリーさん……あんた自分が聞きたいだけだろ?

もう少しで二章終了。

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