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自傷くんとヴァンパイアちゃん

これは筆休めで書くつもりです



「パンパカパーン!いきなりで悪いけど!あなた!大人しく私に血を飲ませなさい!」


学校から帰るとヴァンパイアのコスをした金色の髪にカラコンというには美しすぎるルビーのような瞳をした女の人が訳のわからないことを言い出した。


「ちょっと!なによそのアホを見るような目は!」


いや、アホを見るような目ではなくアホを見る目なんですよね…。あれかな?中二病的な?あったなぁ僕も。あ…なんか死にたくなってきた…。


「ちょっと無視しないでよ!私の話聞いてよ!ねぇ!」


彼女はきっと夢の国の住人か僕にしか見えてないスタンド的なアレなんだ。


「もぉー!ちょっと!……って、あら?なになに?膝付いちゃって、もしかしてようやく私が高貴なヴァンパイアってわかったの?だから跪いて……ってちょっと!なにクラウチングスタート決めて…ちょっととまちなさいよー!!」


あぁ、聞こえない聞こえない。しかし運動苦手なのに全力ダッシュしたせいか脇腹と肺が痛いなぁ…あぁ落ち着くわぁ。


家に着いて破裂しそうな心臓を抑えながら自分の部屋にダイビングをする。

ふかふかもふもふのベットにいると今日や今までの自分の情けない行為、愚かな行為がフラッシュバックしてくる。

その度に死にたくなってしまう。


「ねぇねぇ、これ続きどこにあるの?」


「上から3段目のどっか。…………ってなんでいるの!?」


さっきまで誰もいなかったはずの部屋にさっき巻いたはずの自称ヴァンパイアが僕のジャージを着て漫画を読んでいる。


「やっと、口を開いたわね!なんで逃げるのよ!まったく!あ、なんでいるんだって顔してるわね!考えてるでしょ!ね?!ふっふっふ!血をくれたら教えてあげても…ってなにのんきに寝てるのよ」


「いや、知らない。僕の部屋に女はいない。僕の世界に僕以外いらない。あと、起きたとき帰ってなかったら不法侵入で訴える」


「なんでよぉー!普通こんな綺麗な女の子に言い寄られたらちょっとドキッとなったり、優しくするもんでしょー!そこからぁー始まる二人のラブラブした…」


なにがラブラブだ。金ならないぞ。


「ちょ!人の話は最後まで聞いてよ!なに!そんなに私が嫌なの!?」


yes


「ムキィー!」


地団駄を踏む自称ヴァンパイア様は、見た目こそ18〜20くらいの大人っぽい見た目だが、精神年齢はかなり幼いようだ。


「なんで、僕の血がいいのさ。」


「ふふん!私はそこらのヴァンパイアより鼻がいいの!あなたの血はなんていうか臭いが濃くって、新鮮な香りなの!」


あー…。心当たりしかない。


「んじゃ、血を飲めれば帰ってくれるんですか?」


「えぇ!今日は帰ってあげるわよ!」


「『今日は』ってなに『今日は』って!もう関わらないでください。ほら、血ならあげますから」


「え!?ほんとー!?じゃあいただきまー……ちょっとアンタなにしてんの…?」


僕はグラスを持ってきていつも通りカッターで左手首を2、3回切り裂く。


「ギャァァァァァ!!血!めっちゃ出てる!死んじゃう!死んじゃうわよアンタ!!ドッボドボ出てるじゃない!!」


これくらいでなにを慌てているんだろう。

グラスにある程度血がたまり僕もいい感じにフラフラし始めてきた。ティッシュを傷口に当ててテーピングでぐるぐる巻きにして包帯を巻きベットに横になる。


「そんな処置じゃだめでしょぉぉぉぉお!!ほら貸して!んむっちゅうちゅう…」


自称ヴァンパイアさんは俺の処置した手を無理やり剥がし、傷口を舐め血を吸い始めた。


「ちょ!なにして…」


「ひぃーひはら!」


彼女が舐めた傷は次第にふさがり綺麗に治った。


「ふふーん!私たちの唾液には治癒効果があるのよ!まぁこれは血を飲ませてもらうものとしての最低限の礼儀よね!あ、このグラスの血ももらうわねぇー!ごくごく……ぷはぁーー!!これだわぁー!」


せっかく傷増えると思ったのに。それにしても、こいつ本当にヴァンパイアなのかな…。


「ってか、アンタ!さっきの!バカじゃないの!?死んじゃうわよ!?」


「いや、いいよ。ってか関係ないから。」


「うっさい!あんた、これが初めてじゃないでしょ!腕中傷だらけじゃない!」


うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!

ベットの布団を頭まで被り名前も知らない女の子のやかましい声を無視して眠りについた。



▽ ▽




あれから何時間寝ただろう…。


僕の家は父と母が幼い頃に離婚し、中学までは父親と共に暮らしていたが、高校に上がると共に一人暮らしを強制された。簡単に言えば厄介な僕を遠ざけたかったのだ。しかし、毎月講座にはお金も支払われるし、バイトもしているので不自由はない。そんな僕の家に何やら美味しそうな臭いが漂っている。


「あら?起きたのね!おっはー!夕飯もう少しでできるから待ってなさいな」


「あの、なんでまだいるんです?足りませんでした?また切ります?」


「血はお腹いっぱい貰ったわよ!けど、ほらたくさん貰っちゃったしフラフラしてたからほら!レバニラ炒めにレバ刺し!ほうれん草のお浸し!鉄分とってまた美味しい血作ってよね!」


こいつ、話聞いてないな。

ってか、冷蔵庫には缶コーヒーくらいしかなかったはずだが…


「あ、そうそう!冷蔵庫あんだから、食材を入れなさいよ!何もないから買ってきて作っちゃってるけど今回は奢りでいいわよ!ってかあんた親は?」


「君には関係ないでしょ。あと、レシートください。それくらい支払います。」


「まぁ、よそ様の家のこと聞くのも無粋よねー!私も食べるし、いいわよ。その代わりまた血ちょうだいね!あ、テーブル片付けて?そろそろ出来上がるから。」


言われるがままに机を片付けて台拭きでふく。

って、なんで俺言うこと聞いてんだよ!

どうもこいつはマイペースで調子が狂う。


「さぁー、どんどん食べて美味しい血を飲ませてちょうだい!あ、お残しは許さないわよ!」


久しぶりに食べる人の作った暖かい料理は不覚にも美味しいと小声で呟いてしまうほど美味しかった。


作ってもらいっぱなしは癪なので洗い物は俺がやった。

風呂も沸かしてあり、よく見れば部屋中綺麗になっていた。


「それしても、あんたかなり真面目そうに見えてガサツでしょ!部屋もちゃんと綺麗にきなきゃモテないわよ?」


余計なお世話だ。部屋を汚くしてるのはゴミにまみれることで自分の価値もその程度だと忘れないためだし、なにより俺がモテる?その目は節穴か!俺がモテるなんてありえない。


「おーい、どんどん目が死んでるわよー?あ、そうそう!あんた名前は?私はね、高貴なヴァンパイアの末裔!アリア・ヴァンピール!」


「……小倉幸一…です」


「そう!幸一ね!これからよろしくね!」


………。ん?こいつこれからよろしくと言ったか?


「いやー、私あんたの血かなりハマっちゃって!ほら!見てみて!血でゼリーまで作っちゃった!こんな美味しいのに放し飼いしてたら他のヴァンパイアに取られかねないじゃない?それにあんた、ほっといたら自分で死んじゃいそうだしね!喜びなさい!思春期の男の子なら私ほど美しいお姉さんと暮らせるだなんて泣いて喜ぶところよ?」


「もしもし、警察ですか?」


「ちょぉぉぉぉっとー!!!なんで通報するのよ!そこは文句言いながらもよろしくってなる展開じゃないの!?もしくはこうして僕とアリアの幸せな生活は始まったーとかなるんじゃないの!?」


何を言ってるんだこいつは。

幸せなんてクソ食らえ。自然と中指を立ててしまう。


「ここの家主は僕です。そんなの受け入れられません。それに、何が幸せですか。幸せは酸素と同じで多すぎると毒にもなるんですよ。それなら僕なんかは不幸なくらいがちょうどいいんです。」


「でもでも、その定理で行くなら、幸せも酸素も少な過ぎてもダメなんじゃない?」


こいつ…あぁ言えばこう言いやがって…。

とにかく俺はアリアを部屋の外に投げ込み鍵をかけて風呂に入ることにした。


「ちょぉぉぉぉっとー!!!!開けて!開けてよ!なんで外に放り出すのよ!!」


聞こえない聞こえない。


風呂はちょうど良い温度で、湯船に入るのも久しぶりだった。

しかし、なんだったんだ。あの女は。メシは美味いし、家事もできるし見た目もいい。その上明るくて無駄に元気がいい。

なんと反吐の出るような性格だ。

俺の世界には必要ない存在でしかない。


「タオルここに置いておくわよー?」


「あ、すみません……ってえええええ!?なんでいるんですか!?」


普通に返事をしてしまったが、扉の向こうに当たり前のようにアリアはタオルを持って立っていた。


「もー!いきなり放り出すんだもん、びっくりしたわよ!!ま!よくよく考えたら鍵とか私に関係ないんだけどね!」


「なんでそんなに俺に付き纏うんだよ…………。出てけよ!!!このクソ吸血鬼!!俺の世界にこれ以上踏み込んでくるな!!!!」


何十年ぶりだろう。こんなにも感情に任せて声を張り上げて怒鳴ったのは。

気がつけばアリアの姿は居なくなっていた。



▽ ▽



ふかふかでもふもふのベット…。

けど、今夜はまたいつも以上に心にずっしりとした感覚がある。顎を引っ張られるような息苦しい感覚だ。死にたい。なんだあんなに怒鳴ってしまったのだろう。お礼すら言っていない。アリアはどこに言ったんだろう?いや、考えても仕方ない。もうここにやってくることも僕に付き纏うこともないだろう。


傷の消えた左腕を見つめているとなぜかアリアの顔が頭にちらつく。綺麗になった左腕に行き場のないこの気持ちを刻み込むようにカッターナイフで何度も何度も切り裂いた。

こんなに綺麗なのは俺じゃない。俺はもっと汚くていらない存在なんだ。


「くしょん!ずずすっ」


玄関の方からくしゃみが聞こえてきた。

玄関の扉を開くと鼻水を垂らしながらガクガクと震えているアリアが扉の隣で座り込んでいた。


「あんた、こんなところでなにしてるんです」


「な、なんだっへ、ひひでひょ!へっっくちょん!ってか、あんたまたやったの!?あぁあぁ、こんなに血垂れ流して!もったいないでしょ!!」


こいつ、帰る家はないのか?


「ぐへっ!なにすふのひょ」


「今夜だけ宿泊を許します。ほらさっさと風呂入って寝てください。」


首根っこを掴み風呂場に投げ込むと、ポカンとした表情を浮かべるアリア。


「……いいの?」


「別にいいですよ。どうせ部屋は余ってますし。僕は他の部屋で寝るんで、ベット使ってください。あ、臭かったら使わなくてもいいんで」


「……ありがと」


これが俺と自称ヴァンパイア、アリア・ヴァンピールとの出会いだ。


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