幼馴染は初対面 中編?
はい! 幼馴染は初対面 前編? の続きでございます。短編なのに結構長くなりそうなのでわけての投稿でございます。もし興味がありましたら、前編もお読みくださいまし、そして後編をお待ちくださいまし!
『あなたの脳神経に直接話しかけておるわけなんですよ』
脳に? 直接?
『そうそう、その通りなんですよ』
なんだこれ? 俺は何ひとつ口に出していないって言うのに、返事が返ってくる・・・・・・。
『だから、あなたの脳に直接なわけですから、声帯を震わせての音声会話ではない訳ですよ』
どう言う事だ・・・・・・。落ち着け、落ち着くんだ。こういう時こそじっくりと腰をすえてだな、深呼吸などしてだな・・・・・・。
俺は大きく息を吸い込んだ。そしてゆっくりとはいた。そして目の前にあるものを直視した。そこに居るのはいつもと変わらない瑠華の姿だけだった。
「たろー、どうしたの? ねぇねぇどうしたのー? どっか痛いの? 大丈夫?」
心配そうな目でこちらを見つめる瑠華の姿・・・・・・。
っておい! いつもと比べて変わり過ぎだっちゅーの!
いつものアイツならきっとこう言うだろう。
『なにアンタ、ブツブツ独り言とか言っちゃってさ。あれなんじゃないの中二病ってやつ? あれでしょ部屋でアニメとか見てんでしょ? 2次元に行きたいとかいつも考えてるんでしょ? うわぁ、キモ! キモい目でこっち見ないでよ、腐るから!』
うむ、自分で想像してみて少し泣きたくなってきたけれど、多分こんな感じの事を言うに違いない。
なのになんだ! この目の前にいる瑠華は、あろうことか俺の事を心配している! ありえん! ありえない事なのだ!
『あのぉ、あなた私との会話中だってこと忘れていませんか?』
「うっさい! お前は黙っとけ! こっちはそれどころじゃないんだよ! 瑠華が俺に優しいとかありえん!」
「ほええ、たろー怖いよぉ。怒鳴っちゃ嫌だよぉ。それにルーはいつだってたろーに優しいよ?」
「い、いや、今のはお前に言ったんじゃなくてだなぁ・・・・・・・。って、今なんて言った?」
じ、自分の事を『ルー』だと・・・・・・。ジーザス、おお神よ! これは世界の終わりの前触れなのでしょうか、遅ればせながら恐怖の大王がおりてくるのでしょうか?
『ええい! こっちの話を聞きやがれこんちくしょう! 泣くぞ! むせび泣いちゃうぞ! 無視されるのすっごい嫌いなんだからな! エーン、エーン。このうんこたれぇい!』
いつの間にか、俺の頭の中に語りかけていた奴は泣いていた。うむ、さすがに無視してやるのはちょっと悪かったかもしれない。しかしだ、頭の中に得体の知れない奴が語りかけてきた事よりも、瑠華が急に優しくなったり、あろう事か自分を『ルー』などと呼び出したことのほうが、俺敵には大問題であったのである。故に無視してしまう事は仕方のないことなのだ。
『仕方ないですみますか! もうめんどくさいので、とりあえず時間軸を止めちゃいます!』
止める? 時間軸を?
その言葉が頭の中に響いた瞬間、世界の全てのものが静止した・・・・・・。
風に揺らいでいた木の葉が俺の目の前でまるで固まってしまったかのように動きを止めた。
俺の目の前にいる瑠華も人形にでもなってしまったかのように、ピクリとも動きやしない。
『ふぅ、これで私の話を聞いてもらえますかね?』
俺はまたしてもその言葉を無視して、自分の左側の頬っぺたをつねってみた。うん、痛い、ちゃんと痛い。
『あのね、あのね、話を聞いてもらえますかぁ?』
いやまて、もしかしたら右側は違うかもしれない! 俺は改めて右側の頬っぺたをつねってみた。うん、痛い、こっちもちゃんと痛い。
『あのぉぉぉぉぉ、はなしをぉぉぉ、きいてぇぇぇぇ、もらえますくわぁぁぁぁ?』
まてまて、片方ずつだからダメなのかもしれん! 俺は両手で両方の頬っぺたをつねってみた。う! こ、これは! さっきより2倍痛い! 新発見だ。
『あのね、あなたの脳細胞を破壊しちゃってもいいんですよ・・・・・・。宇宙人だって怒る時は怒るんですよ!』
「う、宇宙人?!」
『よかったぁ、やっと反応してくれた。そうです! 私は宇宙人さんなんです!』
脳の中に話しかけているので、宇宙人の姿は見えないわけだが、なぜだかマヌケそうな顔が浮かんできた事は秘密にしておこう。
『あのぉ、脳に直截な訳ですから、秘密も何もないわけなんですけど・・・・・・』
「あ、そうなんだ。これは失礼」
『まぁそれはさておき、コホン』
うーむ、脳に直接なのに咳払いってどうなんだろ。そんなどうでもいい疑問がわいた訳だが、そんな事考え出すとさらに話が進まなくなるのでやめておいた。
『ええ、そういうこと考えるのはやめてくれると助かりますです。あ、改めて自己紹介させていただきます。私、宇宙人のロバート山田と申します』
「ロ、ロバート山田さんですか・・・・・・」
この名前のセンスに、何かを思い出したがあえて触れないようにしておいた。勿論、話が進まなくなりそうだからだ。
『もう、ぶっちゃけで言います! あなたのお友達さんは、さっき死にました』
「はぁ、そうですか」
と、俺が何の気なしに返事をしてから約5秒後。いや、今時間が止まっているわけだから5秒ってものがあるのかどうかはわからないわけだけれど。俺の脳は、その言葉を意味する所を理解するに至った。
「と、友達って、あれですか! 瑠、瑠華のことですか!」
『ええ、そう言う名前のようですね』
「なんで・・・・・・。なんで瑠華が・・・・・・」
俺全身から力が抜けていく。あれ、おかしいな、なんでだろ、俺立っていられないや。足が、腕が、まるで俺のものじゃないみたいだ。動かないや、なんでだよ、おかしいじゃねぇかよ・・・・・・。
俺は両膝を地面に着いたあと、上半身から折れるようにして、頬を地面にこすりつけた。土の匂いがした、擦れた頬が温かかった。
『あの、大丈夫ですか? お体のお調子悪いですか? あ、それでですね、さっきの『なんで瑠華が・・・・・・』っていう質問にお答えいたしますとですね。私どもの手違いのせいで事故が起こりまして、それで瑠華さん死んでしまったわけなんですよ。まことに申し訳ない』
えっ・・・・・・・。ちょっと待ってくれ、それじゃ、殺したのはお前って事・・・・・・なの・・・・・・か・・・・・・。
『ええ、私、ロバート山田が殺してしまった事になりますね』
その刹那、俺の中で、何かが火花を散らした。
「てめえ! てめぇが! てめぇが殺したのかよ! ふざけんなよ! ふざけんなよ!」
俺は地面に向けて拳を打ちつけた。何度も、何度も、何度も打ち付けた。地面には俺の拳の形に後が残った。それだけだった・・・・・・。
『そんな事をしてますと、手首を傷めますよ?』
「うっせぇ! 人を一人殺しておきながら、人の体の心配なんざしてんじゃねぇ!」
『なるほど、うまい事をいう』
「どうすんだよ・・・・・・。瑠華は、死んだんだぞ! 死んで・・・・・・。あれ、ちょっと待てよ。さっき居たよな? 瑠華いたよな? 俺と会話してたよな? あれ、ちょっと待てよ、どう言う事だ・・・・・・」
そうだ、さっき俺は瑠華と会話をした。少しおかしい感じではあったけれど、あれは確かに瑠華だった。ちゃんと生きていたし、傷一つ付いちゃいなかった。
『そりゃそうですよ。だって、私がちゃんと治しておきましたもん』
「はぁ?」
『殺してしまったお詫びとして、きちんと治させていただきました』
俺の頭の中には、多数のクエスチョンマークが乱舞していた。
「治したって事は、生き返ったってことなのか?」
『いいえ、瑠華さんは残念ながらお亡くなりになりました』
「ちょい待てよ、治したんだろ?」
『ええ、治しましたよ。我々の生態部品を使って修復する事に成功いたしました。けれど、この世界の道徳的に言いますと、瑠華さんはお亡くなりになっております。すなわち、さっきあなたの目の前にいらしたのは、再生された瑠華さん、クローン体と言う事になるわけなのですよ』
「クローンて、あのSFとかでよくあるあの・・・・・・」
『ええ、それ以前に私宇宙人ですし、時間止めてますし、脳内に語りかけてますから、充分にSFなんですけどね』
「だからか! だから、瑠華の反応がおかしかったのか?」
『いやぁ、私たちの技術をもってしてもですね、木っ端微塵になった脳細胞を完全復活させるのは至難の業でして、何とか頑張っては見たものの、いささか記憶中枢に問題が残ってしまったようでして。あなたあの瑠華さんに覚えはありませんか?』
「あの瑠華って、さっきの変になった瑠華のことかよ?」
『ええ、一応は記憶を繋ぎあわせることには成功しているはずなんですよ。だから、完全に別人になる事はありえないはずなんですけどねぇ。おっかしいなぁ、まちがえちゃったのかなぁ、ロバートったらドジしちゃったかなぁ』
急にピーンときた。なにがって、さっきの瑠華の言動だ。そう、瑠華は自分の事を『ルー』と呼んでいた。そうだ、そんな時があった、それは瑠華がまだ小学校の時だ。アイツは自分の事を『ルー』と呼んでいた。それに小学校のころは俺に対して悪態を付くこともなく、いつも一緒に遊んでいたし、仲だって勿論よかった。
ってことは、まさか・・・・・・
『なるほど、10歳前後の記憶が現在にきてしまっているわけですね。なるほど、そこがうまくいってなかったのかぁ。でも良かった、おおむね再生は成功している訳ですから、これでめでたしめでたしですねぇ』
うんうん、これで納得が付いた。って、そんな事ですむわけがないじゃないか! 今の瑠華はクローン、つまりは本当の瑠華じゃないってことだ。それはだな・・・・・・えっと、なんていえば言いのかわからいけれど、ダメだよ、ダメなんだよ!
『まぁまぁ、宇宙人とは言え残念な事に万能ではないんですよ。それに今あなたの脳に直接アクセスしているわけですけどね、少しイイなって思ってるでしょ?』
「ど、ど、どう言う事だ!」
『ふふふふ、隠してもわかるんですよ。だって脳に直接なんですから。あなた瑠華さんが自分に優しくしてくれて悪い気してないでしょ?』
「な、何を言っている! そ、そんなことねぇだ!」
『おっと、もうこの空間を維持するのに限界の時間です。それに長時間あなたの脳に直接アクセスしていますと、あなたの脳細胞が負荷に耐え切れなくて偉い事になってしまいますので』
「おいおいおい、お前とんでもないことして語りかけてたんだな!」
『あなたがなかなか話を聞いてくれないかったから時間がかかったんですよ! ロバートは全然悪くないんですよ!』
事故で人を殺しておいて、全然悪くないとはこれいかに・・・・・・。
『まぁそう言うことなんで、さようならー』
「おい! ちょっと待て! そんな中途半端でさよならはないだろ!」
俺の頭の中が、なんだか急に軽くなった気がした。それと同時に、目の前の木の葉は地面へとポトリと落ちた。そう、時間の流れが戻ったのだ。
「ねぇねぇ、たろー大丈夫? 大丈夫なの?」
瑠華は俺の元へと歩み寄ってきては、心配そうな面持ちで俺の顔を覗きこんだ。
俺も瑠華の顔を覗きこんだ。なんだか、頭がぐらぐらした。これはさっきの宇宙人の言う脳に負荷がかかったからなのだろうか? それとも、俺の眼鏡がさっき事故の時におかしくなってピンボケしてしまっているせいなのか。
それがどっちなのかはわからないが、眼鏡の先に見える瑠華の顔が、とても可愛かったと言う事は変わりようのない事実だった。
俺は悩むのをやめて、瑠華を家へと送り届ける事にした。
不思議なもんだ、ほんの少し前までは、俺の事をまるで汚いゴミ虫でも見るかのような目で見ていたというのに、今の瑠華は俺と手を繋いでいるんだぜ。
瑠華と手を繋ぐのなんて、一体何年ぶりだろうか。確かに小学校の頃はこうやって手を繋いで一緒に帰ったりしたこともあったような気がするが、俺にとってはもう遠い過去の出来事だ。
ただ、今感じている手の温もりは過去なんかじゃなく、紛れもない現在の感触だ。
「へへへーっ」
瑠華は俺のほうを見て笑った。俺もつられて笑った。そんな俺を見て、瑠華はさらに笑みを増した。
複雑だ、今笑ってるのは本当の瑠華じゃない、宇宙人につくられたクローンだ。確かに、見た目は全く変わらない。けれど、本当の瑠華は死んでしまっているのだ。
そんな事を考えてしまっていたせいか、俺は電柱に頭をぶつけてしまった。
「い、いてぇ」
俺はおでこを押させてその場にうずくまった。
「たろー、大丈夫? 痛い?」
なんだろ、俺は瑠華にずっと心配されてばかりいる。本当なら、俺が瑠華の事を心配しなければならないと言うのに・・・・・・。
気が付くと俺は少し涙を流していた。きっと電柱にぶつかったせいででたに違いない。きっとそうだ。
「たろー、男の子は泣いちゃダメだよ。そうじゃないと、ルーも悲しくなっちゃうもん」
俺のすぐ横で瑠華が目に涙をためてこちらを見ていた。
「お、おう! 俺は男の子だから泣いたりなんかしないぞ!」
その場でガッツポーズなんかしてみせたりして、そして瑠華の頭を撫でた。少し乱暴に撫でた。何で、こんな事をしたんだろう。小さい頃、俺が瑠華によくしていたからかもしれない。
「えへへへ」
涙をためた顔のまま、瑠華は笑った。
「それじゃ、また明日ね。バイバイ」
瑠華はそう言って手を振って自分の家へと帰っていった。今の瑠華をみて両親はどう思うだろう。それとも、俺との記憶だけがおかしくなっていて、他の記憶は正常だったりするのだろうか。
「わかるわけねぇよな」
俺は自分の家へとたどり着くと、飯も食わないままベッドに横になった。それは色々あって疲れてしまったのと、完全に眼鏡の度がおかしくなってしまて目がしょぼしょぼするのとの二つの理由からだった。
いや、本当の理由は・・・・・・
寝て目が覚めれば、実は夢でした! ってオチで終わってくれる事を期待したからに他ならなかったのだった。
朝が来る。目が覚める。外は寒い。だって冬だもの。
うむ、ここまではいつもと変わらない。なんらかわらない俺の世界。俺の日常。
俺はいつもと同じように、布団の中で制服に着替えると、昨日壊れてしまった眼鏡の変わりに、机の中から取り出したスペアようの眼鏡をかけた。
「うわっ、なんだなんだ! これも度がおかしいじゃないかよ!」
まるで昨日と同じように、眼鏡をつけると頭がくらくらした。
どういうことだ? 昨日の眼鏡はあの事故でおかしくなったとしても、このスペア眼鏡がおかしくなるなんて事があるはずがない。
俺は眼鏡をはずして椅子に腰掛けると、暫くの間思案をめぐらせた。
しかし、考えてみても答えなど見つかるはずもなく、とりあえず今日の授業の時間割の教科書を鞄に詰める作業を始めてみた。
「えっと、一時間目は現国で、二時間目は数学っと・・・・・・・。ちょい待て、あれ、これどういうことだ」
見える。俺は眼鏡をかけてないはずなのに、文字がはっきりと見えている。いいや、文字だけじゃない。普段なら眼鏡が無ければぼやけて見えるはずの部屋の風景も、ばっちりきっちり見える。
これはどう言う事なんだ? 事故のショックで目が良くなっちゃったのか?
ともかく、視力が上がったことは悪いことではない。だから、深く考えるのはやめておいた。だってそうだろ? もし事故のショックで失明しました、とかならば悩んでしまうだろう。今後の生活にも問題が出るだろう。しかし、事故のショックで視力がよくなって日常生活が楽になりました。さらに彼女もできて、お金持ちになりました。とかなら、悩む必要性があろうはずが無い。あ、彼女できてないし、お金持ちにもなってないけどな。
そして、俺は家のドアを勢い良くあけ、外の世界へと飛び出す。
何ら変わることの無い、俺の日常、俺の世界。
「おはよー!たろー。ねっ、一緒に学校いこー」
それはたったの一言、そのたったの一言が俺の日常が変わってしまったと言う事に気が付かせてくれた。
俺の目の前に居るのは誰ですか?
はい、瑠華です。
瑠華は何て言っているんですか?
一緒に学校に行こうと言っています。
昨日までの瑠華ならどう言ってましたか?
うわぁ、朝からキモいの見たわ。キモいのがうつらないうちさっさといこ。あ、わざと時間ずらして学校きてよね! なんか一緒に登校してるとか思われたら、たまんないから!
それが現実のはずだった。そう、それが昨日までの揺るぎのない現実。
「どしたの、たろー? なんか、いきなり両方の頬っぺたつねったりして?」
「いや、なんでもない。なんでもないんだよ。あ、あはははは」
「へんなのぉ。さっ、急がないと遅刻しちゃうよ」
その瞬間、昨日味わったのと同じ温もりを感じた。
繋がれた手。感じる温もり。向けられる笑顔。
昨日まで、どれ一つとしてありえなかったこと。
それがいまここにある。それは嬉しいと思うことなのだろうか?
瑠華の死と引き換えに、それがいまここにある。
それは喜ぶべきことなのだろうか?
宇宙人は言っていた。記憶中枢に問題が残っていると。
それはそのうち治るのだろうか?
そして、また前のような瑠華になるのだろうか?
それを、俺は望むのだろうか?
なにもわからない、わかるのは、今この手が暖かいと言う事だけ。
「たろー、走るよっ」
「お、おい、ちょっと待てよ」
俺は走った。繋いだ手が離れることのないように、いつもより早く走った。
なぁんて、かっこいいモノローグ入れてみましたけど、ちょい待ち!
このまま手を繋いだままで登校したら、なんかちょっとまずい事になると思うんですけど!
色々と変な噂をされるような気がするんですけどぉ。
俺の心配など気にすることもなく、瑠華はどんどんは学校へと歩みを進めていく。
「はぁ・・・・・・」
俺は大きなため息を一つつくと。半ばやけくそになって瑠華と共に朝の日差しの中、学校までの道を駆け抜けたのだった。
続く?!