初恋の相手は悪役令嬢?でした。
気がついたら、乙女ゲームの世界にいた。
攻略対象として。
激甘なセリフの数々を囁きたくない僕は、ヒロインとのイベントを回避するべく奮闘する。
短編の「初恋の相手は悪役令嬢?でした。」の修正版です。
日本語のおかしな部分や、敬称などを直しています。
内容は短編とほぼ同じです。読み飛ばしていただいても大丈夫です。
2018/07/07 卒業パート、少し修正しました。
パチパチと木の爆ぜる音が聞こえる
遠くで人々の怒号が聞こえる気がする
「 た す け て 」
だけど僕の声は届かない・・・
ハッと目覚めるといつもの天井では無かった。
愛用していた2段ベッドの上段でもなく、天蓋付の大きなベッドの上に居た。
身体中に包帯が巻かれている。
無理矢理起き上がろうとして、痛みに声にならない悲鳴を上げる。
そのまま意識を手放した・・・
――――――――――
「リオナード様ー!どこですかー!リオナード様ー!」
侍従が今日も僕を探している。
「リオナード様!やっと見付けました!今日こそはきっちり勉強して頂きます!」
「やだ!今日の分はもうやってあるし。じゃっ!」
僕は廊下の手すりを越え、中庭の木へ跳んだ。
「リオナード様ー!」
やれやれ、うまく撒けた。
ちょっと僕について語っておこうかな。
僕は リオナード・アスタロイド 5歳
アスタロイド王国の第2王子
家族は父、義母、義兄5歳、義弟3歳
王位継承権は第3位
僕は半年前に起きた離宮の火災に巻き込まれ、一月ほど意識不明だった。
その間に前世の記憶を思い出した。
リオナードとして誕生する前の僕は間宮悟という名前の日本人だった。
まぁ、所謂異世界転生というヤツだ。
まさか自分が。しかも剣と魔法のファンタジー。更に言えば、妹がハマっていた乙女ゲーとは。
それに気付いた時は頭を抱えたよ。
魔法に憧れが無かった訳ではない。
それなりにラノベとか読んでたし。
アニメは魔法学校物とか結構好きだったし。
でも、僕が王子とか絶対無理。
なんだっけな。攻略対象ってヤツ?
あんな激甘なセリフ言わなきゃいけないの!?
前世では妹にせがまれて、アテレコ?みたいな事させられてたからゲームの内容は知ってるんだ。
だって・・・声が良いって煽てられて・・・
でも、リアルであんなセリフは絶対御免だ。
ヒロインには近付かない様に頑張ろう。
そう言えば、巻き込まれた火事の事も少し話しておくかな。
父には正室の他に側室が2人居た。
ちなみに、第1王子と第3王子は正室の子で僕は側室の子。王位継承権は正室の男子の方が順位が上になる。だから第2王子なのに、第3位。
僕の母でない方の側室が妹を産んでから狂ってしまって。よくある「なんで男の子じゃないのよ!」ってヤツだ。元々過激な女性ではあったけれど。
だんだん僕の母の事を逆怨みする様になって、僕と母と妹を切り付けて放火した。
そんでまぁ、彼女と妹と僕の母は死んでしまった。
僕はかろうじて生き延びたけど、背中の刀傷と火傷跡は魔法でもきれいには消えなかった。
そんな訳で、僕は傷物王子って呼ばれてひねくれて、ヒロインがそんなこと気にするなってなって、心を開くってなる。
僕のルートは大体こんな感じ。
はぁ。やってらんないねー。
とりあえず、頭は日本の高3受験間際レベルまではあるから、魔法の練習とか筋トレとかだけして過ごしたい。
まだ出たこと無いけど、舞踏会ってのも有るらしい。ダンスって。マイムマイムで撃沈する高3男子に何させる気だ!って話し。
でも、やんなきゃ。貴族達に馬鹿にされるのだけは嫌だ。
あー、マジ憂鬱・・・
――――――――――
5月。緑が青々と繁る季節になった。
暦はさすがゲームの世界なだけあって、現代日本とほぼ同じ。2月が常に28日ってくらいかな。季節感も同じっぽい。
王族、貴族は13歳になる4月から3年又は5年間、王立学院に通う。平民も難関の試験に受かれば入れる。
まぁ、そこがゲームの舞台な訳だ。
今日、第1王子「アイリス・アスタロイド」が6歳の誕生日を迎えた。
華のある名前というか、まんま花の名前じゃん。
ちなみに、来月には僕が6歳になる。
あ、そうだ。兄が6歳になると婚約者が発表されるんだった。
第1王子ルートの悪役令嬢ってヤツだね。
どんな子が来るのかなー?って、僕は誰か知ってるんだけどね。
ゲームの中では、取り巻きに命令してヒロインを貶めてたな。最後には、婚約破棄されて。そんでもってヒロインにした数々の仕打ちから平民に落とされるんだったかな。
うーん。でも、リアルの性格は謎だな。融通の利かないタイプだったらやだな。
とりあえず、父に兄ともども呼び出されているから行くか。
お、噂をすれば兄がいるじゃないか。
「兄上、本日はお誕生日おめでとうございます」
「ありがとう。リオ」
「プレゼントは後で届けさせますね?」
「本当かい?嬉しいね!」
「ふふっ。楽しみにしていてください」
兄は以外と可愛らしい物が好きで、僕の細々とした趣味の人形細工を気に入っている。
うん。ごめん。所謂美少女フィギュアです。クールジャパン万歳!
そんなこんなで、入り口の衛兵に声を掛けて父の執務室へ入る。
「父上、お待たせ致しました」
「よく来たな。まずはそこへ座りなさい」
僕と兄は父の向かいの席に座る。
「今日はお前たち2人に話しがあって呼んだ。お前たちの婚約者の話だ。まずはアイリスから」
「はい」
「アイリスの婚約者はセントル公爵家の娘、ソフィアとする」
「はい。父上の決定に従います」
「うむ。次にリオナードの婚約者は無しとする」
「はい。父上の決定に従いま「ちょっと待ってください!リオには該当する者は居ないのですか!?」
うわぁー、兄が被せてきたー。僕には婚約者が居ない方が良いのよ?噂の傷物王子だもの。あ、だからゲームではひねくれてたのかー。
「アイリス。これは決定だ」
「しかし、父上。私には婚約者が居てリオの婚約者が居ないのは不公平です!」
「兄上、僕の事は大丈夫ですから。父上の考えも分かってますから」
「でも・・・」
「アイリス。もう一度言う、これは決定だ。覆す事は無い。以上、話は終わりだ」
「わかりました。失礼します」
「失礼します」
とりあえず、イベントは無事に終わったかー。
兄が婚約者本人に初めて会うのは10歳の誕生日パーティーだったはず。確か、一月違いの僕のも一緒に開催されるんだったかな。クリスマス近辺に生まれた子が誕生日とクリスマスを一緒にされちゃうアレだな。
僕としては、何度もパーティーが有るよりマシって感じかな。パーティーって舞踏会だし?挨拶とか、めんどくさい事は兄に全部押し付けてしまえー!
――――――――――
なんだかんだありまして。
今夜は兄と僕の10歳のパーティーでございます。
いやー、ダンスがあんなにスポーツだったとは。マイムマイムの感覚でいたら、ガチの社交ダンスだった。変なところの筋肉痛がやばかったー。
礼儀作法とかも。思わず遠い目になるよね。
そう言えば!ついに僕の魔法属性がわかったんだよ。ゲームでは紹介されてなかったな。って。
なんと!風、水、雷だそうです!3属性持ちも雷も珍しいんだっ!しかも、魔力量がハンパナイらしい!いやっほい♪
あれだよ?憧れの魔法だよ!もう王様にはなれないから、魔法使いを目指そうと思う!この世界では魔術師なんだっけ?やばい、テンション上がるわー!
そんな現実逃避をしながら、パーティーに出る支度をする。
さすが攻略対象なだけある。我ながらイケてるではないかっ!
・・・ごめん。言いたかっただけ。
パーティー会場は城の大広間。
真っ赤な絨毯が敷き詰められ、パルテノン神殿みたいな柱が壁際に並んでる。天井にはお約束の絵画&シャンデリア。贅の極みって感じ。
パーティーは立食形式で、会場の後方には楽団が居る。中央~前方の広いスペースでダンスをする様だ。
うん。めんどくさい。
兄に丸投げをする予定だったのに、すぐにはぐれた。次から次に貴族が沸いてくる。そろそろ逃げたい。でも、主役その2だから逃げられない。
そんなとき、ラッパが鳴って静かになった。
やーっと王の入場だ。さっさと来てくれればいいものを!王子の挨拶の時間の為に遅く入るって、開始から1時間も遅くなくていいじゃん!
玉座に王、隣に王妃(義母。優しい。)が座る。その隣に僕と兄が座る。弟は今日は不参加だ。
王からのありがたーいお言葉の数々を貴族達は右手を胸に当て聞いている。
いよいよ本題?に入るため、宰相に替わった。
「第1王子、アイリス殿下の婚約者を発表する。婚約者はセントル公爵家の娘であるソフィアとする」
すると人混みの中から1人の娘が現れる。
その娘はとても美しく儚げで、見ている者たちからは溜め息しか出ない。
「今紹介に預りました、ソフィア・セントルと申します」
僕は恋に落ちてしまった。一目惚れというものは、惚れてはいけない相手にも起こるらしい。
ゲームの悪役令嬢とは似ても似つかない清楚な美少女がそこにはいた。
彼女が幸せである為にヒロインには第1王子ルート以外を選んでいただきたい。そんな風に思ってしまった。
その後の事は上の空過ぎて、あまり覚えていない。
――――――――――
4月。花々が咲き誇り、暖かくなった。
今日は僕と兄の入学式。
王子が2人も同時に入学すると言うことで、かなり盛大なものになるらしい。
入学式の後、新入生の説明会が行われた。その後にクラス毎に別れて校内案内が行われる。
僕のクラスにはゲームの通りに兄とソフィア、ヒロインのクレアが居た。彼女は平民で、入試を受けて見事に合格した。魔法属性もお約束の光属性だ。
他の攻略対象は同じクラスに2人。あとは先輩だったり、後輩だったり、他のクラスだったり。
うん。ここはゲームの通りで間違いない。
しかーし!学院は何を考えてるんだよ。なんでこのクラスの平民はヒロインしか居ないの!絶対貴族の令嬢どもに嫌がらせをされてるところを兄が助けるパターンじゃないか!
ゲームじゃみんな同じ制服だから、モブは貴族か平民か分からなかったよ!
代わりに僕が助ければ・・・いやだ、ヒロインに関わりたくない。でも、ソフィアを護る為には犠牲もやむ無しか。どうしよう。このままだと第1王子ルートになってしまう!
そういえば、入学に合わせて僕に専属の侍従が着いた。名前はレオル。僕と10くらい違うから、今は22歳かな?彼は僕を火事の中から助けてくれたらしい。
亡くなった母から僕の事を助けて。って言われてるからと、「リオナード様に一生着いていきます!」が口癖の超絶イケメン。ただし、女嫌い。あの離宮の惨劇を経験したら、そうなるよね。
さて、面倒事はどんどん回避していきますか。至極無難な学生生活が送りたいものだよ。
――――――――――
6月。雨が降り続く。
いよいよ最初のイベント、文化祭がやってくる。
今のところ、ヒロインが嫌がらせを受けてる気配は無い。
この文化祭でイベントが発生しなければ、僕のルートはとりあえず消滅するんだよね。コンプ狙いだと、確実に発生させないといけないって妹が言ってたっけ。
逆転の発想から、第1王子ルートを阻止する為には、イベントを発生させないと割り込めない可能性があるのか。
どうしよう。決心がつかない。
いや、このイベントがあったからと僕ルートに固定される訳じゃないから。
えぇい!受けてたとうじゃないか!
文化祭イベントと言えば、後夜祭。お約束過ぎる・・・
で、後夜祭の最中に中庭に行って寝てればヒロインは来るはず。
きんちょーするー。
コツっコツっ
きた!
「あれ?こんな所に人がいる?」
ランタンの光で照らされた。
「リオナード様・・・ですか?」
「誰だ」
「失礼しました。同じクラスのクレアです。このような場所で寝ていては風邪をひいてはしまいます」
「お前には関係ない。後夜祭が終わるまではここにいる」
「リオナード様は参加されないのですか?」
「兄上が居れば、別に居なくとも」
「では、私も一緒にここに居ます」
「好きにしろ」
やばいやばい!声が震えそう!
セリフを思い出すのが精一杯だよー。
校庭から花火の様な音と歓声が聞こえる。
「リオナード様、そろそろ後夜祭も終わりの様です」
「そうか。帰るか。お前も気を付けて帰れよ」
言いながら去っていく。
ふいぃー。我ながら頑張った!
次のイベントは体育祭だったかな?
――――――――――
8月。学院は1ヶ月の長期休暇に入る。
ギー バタン ドサッ
あー!つかれたー!
後夜祭のミッションをどうにか成功させて、気分上々だったのに。
次の日、クラスに行ったら変な噂が流れてた。
・・・僕とヒロインが付き合っているらしい。
全くもって不愉快だ!なんだってこんなことに!そりゃ僕は婚約者もいないし、フリーですけども?
そのせいか、クラスの女子からヒロインへの嫌がらせが始まったらしい。平民のくせにってヤツが。
もーいやだー!何のために後夜祭で頑張ったんだー!
このまま第1王子ルートに入っちゃったらどうしよー・・・
ウダウダウダウダ・・・
コンコン
「リオ。ちょっといいか?」
「っ!はい。どうぞ」
びっくりしたー。
とりあえず、僕は兄を部屋へ招き入れる。
「この休みの予定だが、リオは何かあるか?」
「僕は特にありません。強いて言うなら、魔術の勉強をしようかなーと思ってたくらいですかね」
「それならば、いつも通り避暑地へ行かないか?母上が楽しみにしているんだ」
「では、そうしましょう。勉強はどこでも出来ますし。クラウドとも久しぶりに遊びたいです!」
クラウドとは第3王子。
とっても可愛い僕達の弟。ほんとに将来が楽しみです!前世では弟居なかったから、嬉しくてしょうがない。
彼は2コ下だから学院で被る。ちなみに、攻略対象・・・
兄として、絶対にヒロインの毒牙から護ると決めている!
僕の護る対象は身内オンリーなので、他の攻略対象は放置している。
同じクラスには、ベイサード公爵家の息子と、代々騎士団長を務めるフロント侯爵家の息子がいる。
僕としては是非ともこの2人のどちらかと纏まっていただきたい!
近場でいろいろ警戒しやすいし。
あー、今は僕の彼女って噂だったー
休み明けが憂鬱過ぎる。
とりあえず、小旅行が楽しみだ!アハハ・・・
王家の避暑地に来た。
日本の軽井沢みたいな雰囲気に西洋の建物を足した感じ。
ゲームには出てこない街だけど、僕は結構好き。
義母は移動で疲れてるみたいだから、お休みと言う名の放置で。
これから兄弟とお供の何人かで遠乗りに出掛ける予定。
やばい!弟がちょっとおどおどしてて可愛い!
でも、僕はショタコンって訳じゃないからね!これは誰が見ても天使だよ!
遠乗りから邸宅に戻った僕は、とってもびっくりした。
なんと、兄の婚約者のソフィアが来ていたのだ!
夕食の間はどうにか変な態度はせずに済んだけど、明日から1週間居るんだって。
・・・ボロが出そうだ。
出来るだけ近づかない?でも、学院にいない今しか普通に会話は出来ない訳で。
バレてもしょうがない!自分の欲望に素直になろうではないか!
あ、欲望って言っても襲うんじゃないからね。会話を楽しみたいだけだからね。
1週間がこんなに短く感じるなんて。
充実した日々を過ごせて良かったよ。
兄にはちょっとバレかけたけども。
「リオ、ちょっといいか」
「なんですか?兄上」
「もしかしてだけど、ソフィア様の事が気になる?」
「へ?どうして?」
「いや、学院に居るときとはさ。なんか違う気がしたからね」
「それは、今は学生ではないですから。兄上の婚約者である以上、学院では親しく出来ませんし。でも、将来の義姉ですから仲良くしたいのです」
「なるほど。変な事を聞いて済まなかった」
「僕こそ、挙動不審だったみたいで申し訳ありません」
今思い出しても胆が冷える。
なんとか用意していた言い訳で誤魔化せたみたいで良かった。
遊びの合間に魔術の勉強と言うか練習もした。
身体の中の気?魔力?を全身に滞りなく巡らせる練習と、身体のいろいろな所に集中させる練習を。
総量が多すぎて、初期魔術でも使おうとするととんでもない規模の魔術になっちゃうから、まずはコントロール出来るようにしないとって事らしい。
なんだろ。チートも楽じゃない。
そんなこんなで、僕の楽しい小旅行は終わった。
明日からは新学期だ。
人の噂も75日ってことで、忘れ去られている事を願う。
――――――――――
10月。暑さも和らぎ、秋が近づいてきた。
僕とヒロインの噂はすっかり消えていた。
今度は、体育祭。
うん。行事がまんま日本。
1~3年は日本式の体育祭。(全員参加)
4、5年は剣術だったり、体術だったり、魔術のトーナメント。(選手登録者のみ)
全部で3クラスあるから、赤・白・黄の3チームで競う。
王族も関係なく出場しなきゃいけないって事で、僕は借り物競争、兄はリレーに出る。
全く、なんでこうなった。
兄がアンカーで、その前の走者がヒロインって。
第1王子ルートのシナリオ通りに進んでやがる。
これから放課後はリレー選手だけで練習が始まるんでしょ。そんでもって、ヒロインが転んだところを兄が助けるんでしょ。
僕に介入出来ないじゃないかー!
ただ、希望が一つ。体育祭イベントは兄だけじゃくて、侯爵息子ルートもある。
前振りのイベントはしっかりこなしてたから、そっちの可能性もあり!
頑張ってヒロインを振り向かせてくれー!
とうとうやって来ました。体育祭!
うん。爽やかな朝だ。
なんかね、雲行きが怪しいんですよ。
練習中にヒロインが仲良くなったのは、兄と侯爵息子の両方で。
これ、ヤバくない?ヒロインはコンプリート狙ってないかな?
まぁ、故意ではないんだろうけど。
てな訳で、僕のイベントも発生させる事にした。
実は体育祭には第2王子ルートも存在する。
・・・認めたくないけど。
しょうがない!未来の平和の為だ!
リレーは体育祭のトリ競技だけど、借り物競争は午前の部のトリだったりする。
僕は見事に1位を取って、お昼休みになった。
ふぅ、あっつーい。
これは確かに水浴びしたくなるわぁ。
えーっと、中庭の水栓はっと。
あった。これか。
辺りを確認して、よし、今だ。
ジャージの上とTシャツを脱いで、頭から水を被る。
あぁー水が冷たくてきもちー。
ガサッ
急いで後ろを振り向きながら。
「誰だ!」
「申し訳ありません。同じクラスのクレアです」
「何か用か」
「お昼を食べようと中庭に来たら水音がしたものですから、気になってしまいまして。申し訳ありません」
「用が無いならさっさと去れ」
「分かりました。あの、もしよろしければこちらをお使いください」
あれ、どうしよう。こんなセリフ無かった気がする。
「あ、ありがとう」
「では、私はこれで失礼致します」
パタパタパタパタ
ヒロインから渡されたタオルを持って、考え込んでしまった。
ゲームの世界だと警戒ばかりしていたけど、もしかしてちょっと違うのかもしれない。
ヒロインは普通に平民として何事も無く卒業していくのではないだろうか。
少し、ヒロインを観察する事にしよう。
――――――――――
12月。そろそろ冬も本番を迎える。
クリスマスには星降祭がある。
キリスト教も無いこの世界で。
一応、初代国王の誕生祭らしい。
学院の生徒たちは各々着飾り、おいしい料理を食べたり、ダンスを踊ったりする。
婚約者の居る者、恋人の居る者はペアとなり参加する。
それ以外の者は、フリーですよってことで、星の装飾品を身につける。
一種の大規模お見合いパーティーみたいだ。
貴族の子弟にとっては戦場らしい。将来の伴侶をこのパーティーで見つける者が結構いる。
僕は結婚しないと決めてるから関係ない。って思ってたけど、王子ブランドは伊達では無かった。
会場に一人のんびり入ったら、そこかしこから星を身に付けた女の子が出てきた。
婚約者の居ない王子は、何か問題があるんじゃないかって勘繰らないかな?普通。
言ってしまえば、背中の傷のせいだけど。
父からお前は王族だけどその辺は自由にしていいって言われてる。たぶん、あの妻を止められなかったっていう自責の念が有るんだと思う。
めんどくさいと思いながら、女の子たちをあしらっていると、ヒロインと目があった。
彼女も星を身に付けていた。
うん?侯爵息子はどうした?
確かあのルートならこのパーティーではペアになってるはずだけど。
やっぱりゲームとは違うのかも。
まぁ、今はそれどころじゃないから放置で。
暫くすると、入口付近からざわめきが聞こえた。
あ、兄とソフィアだ。
やっぱりお似合いカップルだな。
このまま幸せになって欲しいな。
だめだ!死ぬ!
って思って、バルコニーまで逃げてきた。
いったい連続で何曲踊らせる気なんだ!
あ、雪がちらついてきた。
ホワイトクリスマスかー。
今の気分じゃ全然にロマンチックに感じない。
そこへ、ヒロインがやってきた。
「あ、すいません。人がいると思わなくて」
「気にしなくていい」
「その声は、リオナード様ですか?」
「ああ」
ヒロインの相手をしている気分で無いので、このまま立ち去ろう。
「少しお待ちください」
「なんだ?」
「後ろの髪が少し乱れております」
ヒロインが手を伸ばしてきた。
「触るな!」
「っ!」
「済まない。大丈夫だ。では、そろそろ行くから」
ヒロインは頭を下げて見送った。
なんで怒鳴ってしまったんだろう。とにかく、すごく嫌な予感がしたんだ。
あまりヒロインには関わりたくなかったけど、少し彼女の事を調べてみようと思う。
――――――――――
7月。梅雨も明け、初夏の匂いがしてきた。
今日はプールの授業がある。
なんで貴族が通う学院にプールの授業があるかって?
そりゃ、世の女子が欲しがるからでしょ。『男の肉体を惜しげもなく見れる場』を。
まぁ、乙女ゲーの世界だし?
女子はプールの授業ないけども。
プールの授業は背中の傷せいで憂鬱。
先生は免除でも良いって言ってくれたけど、特別扱いはされたくないし。
今日は記録会らしくて、順番待ちの間はジャージを羽織ってる。
やがて僕の番になる。
ジャージを脱ぐと、みんなからの視線が痛い。毎回飽きもせずにジロジロ見てくる。
前世で水泳は得意で、地方大会にも出た。
順位は察して欲しいな。
今世でもしっかり得意で、先生にも驚かれた。
なんだろ、イケメンでスポーツ万能で頭脳明晰?すごいすごい!
すいません。図に乗りました。
授業後、僕は怠い身体を引きずって図書館へ行った。
そこには難しい顔をしたヒロインと他のクラスの友人がいた。
曰、公爵息子が悩んでいる事を解決したいが、自分には力が無いので難しいと。
どうにか出来ないかと相談している様子。
あ、これはイベントのフラグだ。
僕はそそくさとその場を退散することにした。
――――――――――
9月。まだまだ暑さが和らぎそうもない。
僕は体調を崩して、2週間ほど学院を休んだ。
その間に事件が起こってしまった。
兄とヒロインが急接近してしまったのだ。
ヒロインが貴族の女子から嫌がらせを受けていて。その場をソフィアが通ったそうで。その時はソフィアが収めたけれど、その後も何度か現場に遭遇。最終的に兄が解決って流れ。
これは、まんまゲームのイベントではないか。
最初にソフィアが絡んでくる辺りがほんとに。
これでソフィアがヒロインを気に掛けてしまう。自分の婚約者を盗られるとも知らずに。
僕が復帰して暫くすると、魔術の授業が始まった。
僕はその特異性から別メニューだけど、他のみんなは初期魔術の発動練習をしている。
そんな中、教室の隅にヒロインと公爵息子がいた。
確か、公爵息子ルートはここからが本番のはず。
公爵息子は1属性しか持ってなくて、落ちこぼれ扱いされてたところをヒロインに救われたんだったかな。
「私も1属性しか持っていませんからっ」って。特別な光なのによく言う。そして、丸め込まれる君もどうかと思うよ。公爵息子殿。
――――――――――
10月。
体育祭が始まる。
スキップ機能とかないかな。
さっさと終わってほしい。
2年の体育祭は大したイベントも無いんだよね。
あ、出場種目は僕が障害物で、兄が騎馬戦。
兄を上にしちゃどこも勝てないよ。彼は王子様だもの。
――――――――――
12月。
星降祭の日がやってきた。
ここのところ、穏やかに過ごせている。
どうやらヒロインと公爵息子がくっついた様なのだ。
そのせいで嫌がらせはエスカレートしているみたいだけど、公爵息子が護ってやってるみたい。そのままあと3年ちょっと頑張ってください。
今年も一人会場入りすると、星付き女子がわらわらやって来た。
しょうがないから適当に捌く。
去年の経験を生かして、3曲毎に休みを挟む。
何となく壁際をみると、ヒロインが一人で立っていた。
しかも、星を着けて。
・・・どういうこと?
回りの女子に何となく聞いてみると、楽しそうに噂話をする。
公爵息子の父が、平民であるヒロインとのお付き合いを認めなかったのが原因だそうな。
――――――――――
4月。
今年から、我らが天使のクラウドが入学してくる。最近はちょっぴり男っぽくなってきて、少し寂しい。
今年から兄弟学級制度?っていうのが始まって、1年と3年が一緒に過ごす行事が多くなるらしい。
ご都合主義嫌い。
あれだよ。ウチの可愛い弟とヒロインちゃんを巡り合わせる為だけのカリキュラムだから。
最初の行事は入学式後の学校案内。
1年と3年がペアになって一緒にスタンプラリーをするらしい。
生徒会は頑張ったね。いらぬ方向に。
くじ引きの結果、まんまと弟とヒロインがペアになる。
イベント発生させやがって!
これからが心配すぎる。
ちなみに、僕のペアは弟の婚約者。名前はアリス・ベイサード。公爵息子の妹さんだ。
彼女の容姿の出展は絶対に不思議のあの国だと思う。
そういえば、公爵息子はトーマスって名前。最近はヒロインとずっと一緒に居るみたい。彼、婚約者居る癖にそんなんで良いのかね?弟に迷惑だけは掛けないでね?
魔術の授業は、僕だけ別になってしまった。詠唱も陣も使わずに発動させてしまうから。学生で無詠唱なんて前代未聞と大騒ぎ。
でもね、言われた通りに修行してただけなのよ?宮廷魔術師の師匠に。
稀代の魔術師と言われる、無詠唱のスペシャリストの彼に。
――――――――――
5月。
今日は兄の15歳の式典の日。
さすがに15歳は僕とは別々開催。
この国では15歳が成人だからね。
まぁ17歳まで学生な僕らだから、公務とか政務とかは触りくらいしかやらないけど。
最近、兄の様子が変なんだ。
学院ではあまりソフィアと一緒に居ないし、僕とも別行動をしようとする。
ヒロインと会っているらしい。
今日の式典にも呼び出してるし。
この式典は、貴族への御披露目も兼ねてるんですけどー。ソフィア以外の女性を呼んじゃまずいでしょ。
兄よ。それではヒロインが側室候補ってとられるよ?
これから先は嫌な予感しかしないよ。
――――――――――
6月。
僕の15歳の式典は、滞りなく行われた。
準備中にレオルには「御立派になられて!」って泣かれて、パーティーでは貴族に囲まれて「ウチの娘を是非に!」とか言われたくらいで、特筆することも無かったよ。
そして学院では文化祭が始まる。
僕は完璧なイベント回避に徹してる。
なんでかって?あの逆ハー要員にはなりたくないからだよ。
ヒロインはその後完全に兄を落としたみたい。
あと落としてないのは僕と弟ぐらいじゃなかろうか。
ただ、みんなどうした?って思うときがある。なんだか不自然な感じが。うまく説明出来ないんだけど。
ヒロインの調査はなんでか進まない。
ただの平民ならすぐ終わるハズなのに。
謎解きは苦手なんだけどな。
――――――――――
10月。
ソフィアが倒れた。
体育祭の最中に、中庭でぶっ倒れたんだって。
なんで近くに居なかったんだよ。
近くに居たのになんでだよ。
――――――――――
12月。
星降祭。
兄はヒロインと居た。
僕はソフィアと居た。
ソフィアは折れてしまいそうなくらいに細くなった。
でも、気丈に振る舞ってた。
ソフィアをこんな風にしたあの女が憎い。
――――――――――
1月。明けましておめでとう。
新年のあいさつに貴族達が城を訪れる。
その中には当たり前の様にあの女もいる。
やっぱり何かがおかしい。
夜、兄の部屋へ行く。
コンコン
「リオナードです。今お時間よろしいですか?」
「リオナード?今開けるよ」
「夜分にすいません。アイリス殿下、ちょっとお話をしませんか?」
「なんだい?急に改まって」
「今、あなたが大切な人は誰ですか?」
「私の大切な人?大切な・・・うーん・・・・・」
「アイリス殿下、大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。問題ない」
問題だらけじゃないか。バカ兄貴。
僕は兄をアイリス殿下とは呼ばない。それは兄との約束だから。
兄も僕をリオナードとは呼ばない。殿下と呼ばない代わりに僕が約束させたから。
大切な人で一番に出てくるのはクラウド。それは一生変わらない。
僕たち兄弟にもそれなりにいろいろあったから。
さて、どうしたものか。
魔術的な何かで操られている?
でも、僕にはそれから開放する手段が無い…
待てよ?
直接電流を流せば一時的にでも正気に戻るんじゃないか?神経は電気信号の経路だとかなんとか。
静電気くらいのバチッって感じがいいかな。
よし!そうと決まれば!
「兄上、ちょっと両手を貸してください」
「うん?これで良いかい?」
「はい。そのまま」
イメージしろ。
冬の乾燥した日にドアノブを触る瞬間を。
バチッ
「痛っ!リオ!何をするんだ!」
「よかった!戻ったっ!」
「どうした?突然泣き出して」
僕は泣きながらこれまでの事を話した。
兄が僕との距離を置き始めた頃から、今日の年始あいさつの様子まで。
兄はどんどん顔色を悪くして、最後の方では僕と一緒に泣いていた。
「リオ、ごめんね。私が不甲斐ないばかりに。記憶が無い訳ではないけど、自分の記憶では無いみたいなんだよ。たぶんだけど、明日の年始のあいさつにもクレアは来ると思う。そんな約束をした気がする」
「なら、明日も正気に戻します!これからも!」
「それでは根本的な解決にはならないよ」
「では、どうすれば・・・」
「とにかく、毎日夜には報告会をしよう。私がどうやって操られているのか、出来る限りの調査をするから。そのうち解決法が分かるかもしれない」
「わかりました。兄上、無理だけはしないでくださいね」
「大丈夫だよ」
こうして、毎晩兄弟会議が開かれる事になった。
冬休みが明け1週間が経とうとした頃、とうとう欲しかった情報を手に入れた。
あの女の本当の身分がわかった。
とてもまずい事になった。
これ、僕達だけでは解決出来ないんだけど・・・
――――――――――
2月。雪が毎日降っている。
正月の一件から、僕たち兄弟は毎晩会議を行っていた。
あの女の正体も兄には報告している。
いろいろと準備が整っていないので解決にはまだ到っていない。
日中の兄は相変わらずで、僕がソフィアと一緒に居る様にしている。彼女は薄々何かに気づいている様子。
毎日が停滞で、嫌になりそうだ。
雪が止み始めた頃、やっと兄達を操っている方法がわかった。
今や失われたと言われている、古い古い魔道具を使っている。
今すぐ壊したい。
しかし、それは証拠品でもある為今はまだ手を出せない。
――――――――――
3月。段々と暖かくなり、花々が春の到来を待ちわびる。
僕はこの1月で、あの女を突き出す準備を終わらせた。
その間に進級試験やら進路決定やらがあったけど、今はどうでも良い。
あの女が用意した舞台を僕が乗っ取ってやるよ。
卒業式の日。
今日はゲームで言うところの断罪イベントが起こる。
ゲームでの相手はソフィア。リアルではあの女しか居ないね。
なんで今日なのかと言えば、来賓として国王と貴族の皆さまが見に来るから。
卒業式終了後に皆さまには残って頂く予定。
来賓退場なんて絶対にさせません。ま、王子の連名で手紙を出しているから帰る事は無いと信じているよ。
「では、レオル。手筈通りにお願い」
「畏まりました。リオナード様、無茶だけはしないで待っていてくださいね」
「大丈夫。これでも今日は昨日より落ち着いてるよ」
「本当にお願いしますね」
「わかってるって。いいから行って」
「では、行って参ります」
講堂では何の問題もなく、卒業式が終わった。
しかし、誰もその場から出ていかない。
「国王陛下。私、アイリスより陛下へご報告があります」
静寂を破ったのは、兄だ。今はしっかり操られている。
「どうした。申してみよ」
「はい。私の婚約者であるソフィア・セントルとの婚約を継続出来ない為、これを破棄したいのです。よろしいでしょうか」
うわぉ。いきなりぶっこんできた。
敵は兄の性格をわかってないな。
向こうでソフィアが・・・
近くに居たいけど、クラウド達に任せよう。
これからの展開を考えると、僕はここから動けない。
「突然何を言い出すのだ。しかも、この様な晴れの場で」
「申し訳ありません。しかしながら、今日のこの場でないと意味が無いと思いまして」
「・・・理由を申してみよ」
「はい。私はこちらのクレア嬢がソフィアから嫌がらせの数々を受けている事が許せないのです」
おぉ、あの女の回りに攻略対象者(-2人)がズラリと。
ある意味圧巻ですな。
「それは誠の事なのか?お前の勘違いではなく?」
「はい。証人もおります。トーマス、2人をここへ」
「はい」
「陛下、この2人が証人です。彼女達はソフィアの指示でクレア嬢に嫌がらせをしていたと証言しています」
「アイリスよ。ソフィア嬢が直接関与していた訳では無いのだな」
「そうです。自分の手を汚さない卑怯ものなのです」
「そうか。リオナード。お前から見てもそうであったか?」
「――陛下、急に話を振らないでください。そうですね。今の話に僕は 否 とだけ答えましょう。僕の話も聞いて頂けますか?」
「許す。申してみよ」
「そうですね。どこから話しましようか。
まず、そのアイリス殿下は操られています」
「リオナード!何を言いだすんだ!私は操られてなどいない!」
「まぁ、今の発言が証拠です。兄上は僕が殿下と呼ぶと、まず泣きそうな顔をします。今の様に憤慨はしません。そして、僕のことをリオナードとは呼びません」
「確かに。親いものしか知らない事実だ。だが、それだけでは薄いぞ。他にも何か決め手は無いのか?」
「はい。陛下は納得されても他の方々は納得されないと思い、きちんと用意しております。レオル、例の物をこちらへ」
「畏まりました。リオナード様、どうぞ」
彼を見て息を飲む者が多いこと。
学院のイケメン事務員が実は僕の侍従だと知らないものね。
「陛下。これが証拠です。隣国スターレンが崩壊した際に消えた魔道具でございます。クレア嬢の使っている部屋から見つけたものです」
「リオナード、どういうつもりだ!これが本当にクレアの部屋から出てきたと言う証拠はないだろう!」
「まだ僕をリオナードと呼ぶのですね。では兄上、両手を貸していただけますか?」
「何をする気だ?」
「こうするのです」
バチッとな。
「痛っ。リオ、ありがとう。陛下、お見苦しい所を御見せして申し訳ありません」
「アイリス?正気に戻ったのか?」
「はい。一時的にではありますが。
先程私から進言したソフィア様の件は保留させていただいてもよろしいでしょうか」
「構わん」
「ありがとうございます」
「兄上、保留なんですか?撤回ではなく?」
「良いから。リオ、続きをお願い」
「わかりました。次に、クレア嬢に嫌がらせをしていたそちらの御二人ですが、本当はクレア嬢の侍女です。そして、クレア嬢は隣国スターレンの元王族です。他にも何名か協力者がいます」
僕の発言に会場がざわついた。
「静粛に。リオナード、それは誠か?」
「はい。ここからはレオルが説明します。その前に、そこの者達が逃げられない様にしてください。協力者の方は僕が対処しましょう」
パチンと指を鳴らす。
何人かがうめき声と共に倒れる音が聞こえた。
「衛兵、講堂を封鎖せよ。では、始めてくれ」
レオルが前へ進み、臣下の礼をとる。
「ただいまご紹介に預かりました、リオナード様の侍従レオルです。この様な大役を仰せつかり、恐縮でございます。
今回の騒動は簡単に言ってしまえば、隣国の元王族がこの国を乗っ取る為の茶番というところでしょうか。
彼女はまず、この国の国民として学院に潜り込みます。元王族ですから、入試なぞ大した試練ではなかったはずです。
そして、王子を誑かし、この国の王族になる予定だった様です」
レオルの説明に、唖然とする皆さま。
あの女は、攻略対象者に囲まれているから表情は窺えない。
そして更にレオルの説明は続く。
「その者達はそもそも、自国の滅亡理由を理解していないのです。自ら蒔いた種だと言うのに」
「そんな事はありません!」
侍女がすかさず口を挟む。
「ほぉ、ではなんだと?」
ヤバイ。レオルのスイッチが入ってる。
相手をわざと挑発したな。
「あなた方が祖国に攻め入ったから滅んでしまったのです!あなた方が来なければ姫様にこの様な苦労は無かったのです!」
「それが理解していないと言うのです。元王族の侍女のくせに知らないのですか?この際ですから、本当の滅亡理由を聞いて絶望でもすれば良いのです。
事の発端はスターレン王家が後継者争いをしていた事です。それにより国政が滞ってしまった事を宰相は良しとせず、我々へと助けを求めました。だが、遅すぎた要請だった為、王国滅亡の歯止めにはなれませんでした。
当時のアスタロイド国王はスターレンを形式的に攻め、統合すると共に属国に近い扱いとしました。面倒事を避ける為、何代か先には完全に独立出来るように配慮して。あなた方ではない方の王家がその土地の領主なのですよ。
そもそも、後継者争いで負けたことも忘れている様では救いがありませんね」
毒舌イケメン。目が怖い。
「大体、スターレン家の者共は滅んで当然なのです。リオナード様にあの様な傷を負わせ、母君を殺した者も分家とは言えスターレン家の者なのですから。あなた方は一体何がしたいんですか?アスタロイドに厚待遇で迎えられておきながら、この仕打ち。人間としてどうなんですか?」
父が止めろとこっちを見てくる。
ごめん。僕には怖くて止められない。
待ってれば勝手に止まるから。
しばらく怒涛の言葉責めが続く。
「つい、熱くなってしまいました。申し訳ありません。
この者達は最初、婚約者のいないリオナード様を狙いました。しかし、リオナード様は直感的に避けて事なきを得ました。
リオナード様を手に入れることは難しいと分かったのか、ほかの御令息様を先に籠絡しようと計りました。結果は今そこでクレア嬢を守っている方々です。彼らも操られています。
クラウド様も毒牙に掛けようとしましたが、リオナード様とアリス様のガードが固く、難しかった様です。
後の無いクレア嬢は侍女達と結託し、ソフィア様を上手いこと除けて、アイリス様へと取り入ったのです。アイリス様は悪女達の罠に嵌まってしまい、今に至ります」
紆余曲折あったものの、説明はこれで終わり。
「レオル、ありがとう。陛下、以上が事の顛末です。操られている者達を開放するために、この魔道具の破壊許可を頂きたいのですがよろしいでしょうか。一刻も早く兄上を元の兄上に戻したいのです!」
「許可しよう。リオナード、任せる」
「はい!ありがとうございます!」
魔道具を手に取り、雷の魔術で焼き払う。後には塵ひとつ残らない。
操られていた貴族の子息達がバタバタと倒れた。無理やり壊したのはまずかったか?
その中心にあの女が立っていた。でも、今にも崩れ落ちてしまいそうだった。
「リオナード、あやつらは大丈夫か?」
「たぶん大丈夫ではないでしょうか?多少混乱はすると思いますが」
「なら良い。教師はその者達を介抱せよ。衛兵、そこにいるスターレン家の者と倒れている協力者共を捕縛した後城の牢へ連れていけ。以上、解散」
――――――――――
僕たち3人は、学院の応接室へ移動した。
兄は僕が先に正気に戻していた為、倒れたりはしなかった。あいつらも先に正気に戻せば良かったのかな?
「父上、先程保留にした件ですが」
「そうであった。アイリス、何故保留にしたのだ?」
「それは私がソフィア様の婚約者として相応しくないと考えたからです。此度の騒動は私にも責任がありますから」
「しかし、お前は操られていたのだ。仕方がないではないか」
「そうですよ兄上!これは兄上のせいではありません!」
「父上、私はリオとソフィア様の婚約を望みます。リオはソフィア様を愛していますから」
「兄上、何を言っているんです?」
「リオ。私が気付かないと思っていたのか?1年の夏から薄々感じていたが、最近は確信している」
「違いますよ。確かに一度は惚れましたが。今ソフィア様には兄上と一緒に幸せになって頂きたいのです」
「でも、リオ」
「父上。僕は誰と結婚しようとも自由なんですよね?」
「そうだ。お前が6歳の時とは言え、王との密約だからな」
「6歳って?密約って?」
「兄上にはソフィア様、僕には自由という約束です。そして、僕はすでに結婚相手を決めています」
「ほぉ。リオナードはすでに結婚相手を決めておったのか」
「はい。僕の結婚相手はアスタロイド王国です。僕は僕の好きな人達を護る為に一生涯尽くします」
ちょっと恥ずかしかったけど、言い切った。
僕は父も母も兄弟も。大好きな人みんなを護りたい。
国と結婚すると言うことは、生涯独身を貫くということ。二人は大層驚いていたけど、どうにか丸め込んだ。兄はソフィアと結婚すると約束してくれた。
結婚して僕の子孫を残したくなかった。稀代の魔術師の子孫こそ王に相応しいとかなって欲しくなかったから。
隣国の様な後継者争いは種のうちから焼いてしまえば誰も気付かない。
――――――――――
月日は流れ。
今日、兄上とソフィアは結婚する。
好きな人の幸せって、こっちまで幸せになれるみたいだ。
やっと手にいれた幸せを噛み締めて、僕は城のテラスを離れた所から眺める。
これから彼らにやってくる、更なる幸せに思いを馳せながら。
END
最後までお読みいただきありがとうございます。