ジャックと豆の木~もしジャックが豆の木を登れなかったら~
冬童話のために書いたんだけど、企画はあの3つから選ぶということだったのか?これは、冬童話2018には当たらない?よく分かんないけど、投稿しないのはもったいなかったので。
むかし、むかしのある国でのお話です。
この国ではジャックという男の子が母親とともに暮らしていました。
この二人はとても貧乏で、お金になるものは、たった一匹の牛だけになってしまいました。
母親はジャックに頼み、牛を高く売ってもらおうとしました。
そしてジャックは牛を引き連れ、市場まで出かけていきました。
その市場に向かう途中、ある男がジャックの目にとまりました。
その男は、ジャックの視線に気づいたのか近づいてきて聞きました。
「坊や、その牛と何をしにいくんだい」
「僕はこれからこの牛を高く売りにいかなくちゃいけないんだ」
それを聞いた男は、ポケットに手をいれると袋を取り出しました。
「この袋のなかには、魔法の豆が入ってるんだ。だから、この豆と牛を交換しないかい?」
ジャックは袋を手に取ると、中を確認してみました。確かに豆が何粒か入っています。
「でもおじさん。これって本当に魔法の豆なの。形の変わった豆にしか見えないな」
「坊や、それは空からふってきた不思議な豆なんだ。牛と交換したって損はしないさ」
「でもでもおじさん。それって、鳥が豆を落っことしただけじゃないの」
ジャックはそういうと男に袋を返し、市場へまた向かっていきます。
「待ってくれ、坊や。ほんとなんだ。ほんとに魔法の豆なんだよ。だから交換してくれ、頼む」
男は必死にジャックに牛と豆の交換を頼みました。
そしてジャックはついに牛と男の豆を交換してしまったのでした。
男はそれは嬉しそうにありがとうと何回もお礼をいうと、市場の方向に向かって、そしてついに見えなくなりました。
ジャックは手に豆の袋を持ち、トボトボと来た道を帰っていきます。
「あぁ、どうしよう。牛をこんな豆と交換してしまうなんて・・・。母になんといえばいいのだろう」
そして家につくと、ジャックは豆の袋を見せながら、母親に牛と魔法の豆を交換してきたと話しました。
もちろん、母親はその話を聞くと怒りました。
「あの牛とこんな豆を交換するなんて、情けない子。こんな豆あっても仕方ないわ」
そういうと、母親は窓から豆を捨ててしまいました。
母親はそのままこれからのことを悲観して、泣き始めてしまいました。ジャックもそれをみて、やっぱり牛と交換してしまったのは間違いだったと後悔しました。
次の日の朝、ジャックが窓の外を見てみると、昨日の捨てた豆が、大きな豆の木になっていました。
大きな豆の木は空高く伸び、天辺が見えませんでした。
「あれは本当に魔法の豆だったんだ。すごいな。よし、この豆の木を登ってみよう」
そういうとジャックは豆の木に手をかけ、登ろうとしました。がすぐに諦めてしまいました。
「僕は高いところが苦手だし、体力もないし、こんな大きな豆の木は登れないよ。途中で落ちたら、絶対に死んじゃうよ」
ジャックはそういうと、何分も何十分も豆の木をみては、ため息をつくばかりでした。
どうしよう。このままだったら、魔法の豆でも何の意味もないよ。ジャックが途方に暮れていると、ふとある考えが思いつきました。
「よし、これならなんとかなるかもしれないぞ」
ジャックは町に来ていました。そして大きな声で叫びます。
「さぁさぁ、聞いて驚け。なんとうちの庭には、天まで届く豆の木がある。ここだけの話、なんとこの豆の木、あの世と繋がっているのです。皆さん、会いたいけどもう絶対に会えない人はいませんか。でもそんな人とでも、豆の木を登り切ったなら、会えるのです。さらには、豆の木の上には、それはそれは、金銀財宝が山のようにあるのです。私も一度登ってみましたが、輝きで目が開けないほどでした」
しかし誰もジャックの話を信じようとしてくれません。誰が天に届く豆の木など信じるでしょう。
「ほら、皆さん。あそこを見てください。ここからでもあの大きな豆の木が見えるはずです」
ジャックがそう言うと、何人かがジャックの指を指す方向を見ました。するとおぉっと驚く声が聞こえます。
「ほんとだ。昨日まであんなのは無かったぞ。すごい。皆見てみろ」
こうなると、町のなかは大きな豆の木の話で持ちっきり。
「おい、小僧。俺をそこに連れていってくれ」どこからともなく、そんな声が聞こえてもきます。
「皆さん、落ち着いてください。あんなに大きな豆の木なんですから、道案内など要らないでしょう。ただし、あの豆の木は僕の豆の木です。もし登りたいのならば、きっちりとお金を払ってもらわないと困ります。では僕はこの辺で失礼しますが、豆の木に登りたい人はしっかりとお金や登る準備をして来てください。待っています」
ジャックが家についてしばらくすると、大勢の足音が聞こえてきました。
「おい、お金持ってきたぞ。さっさと登らしてくれ」
「坊主。ほんとに登り切ったら、亡くなった嫁さんに会えるんだな」
様々な声がジャックに投げかけられます。
「皆さん、こんな豆の木を今まで見たことがありますか。ないでしょう。もうこんな豆の木があることすら、魔法、奇跡なんです。疑って登らなくても構いませんが、登らないと真実は分かりません。さぁ、自分の目で確かめるのです。豆の木の上の魔法の世界を」
ジャックの言葉に皆がそれぞれに声をあげます。そしてジャックにお金を渡すとそれぞれに豆の木を登り始めました。
「よし、この調子だ。このお金があれば後2,3ヶ月はお金に困らないぞ」
そしてその日の夜。ジャックは大きな鈍い音で目を覚ましました。今までに聞いたことのないような音です。
何の音か確認をしようとジャックは外に出てみました。
すると、そこには息絶えた人の姿が沢山あります。今日この豆の木を登っていった人達です。ジャックは自分が沢山の人を危険なことに誘い出したことに、ようやく気がつきました。
明日からは町に行くのは止めよう。ジャックはそう決意しながら、亡くなった人達のお墓を寝ずに作りました。
やっと最後のお墓を作り終え、寝ようと家に入ろうとしたジャックでしたが、誰かに呼び止められました。振り向いてみると、大勢の人がお金をもって立っているではありませんか。
「昨日はお金を用意出来なかったんだ。今日用意したから登らせてくれよ」
「噂で聞いたぞ。なんで俺の町には来てくれなかったんだ」
「俺も隣町から来た商人から聞いたんだ。ちゃんとお金は用意した。登らせてもらうぜ」
そういうと大勢の人達はジャックの言葉を聞かずに、お金を投げると、我先にと豆の木を登り始めました。
ジャックがどの町にも行っていないのに、次の日もその次の日も、ますます来る人達は増えていくばかりでした。もちろん、落ちて死んでしまう者も増えていくばかり。
お金が増えれば増えるほど、ジャックの心の傷は増え、また深くえぐられていきました。
ジャックの庭が死体でいっぱいになっても、訪れる人は、俺はこうはならないと言ってジャックの忠告を聞き入れようとしませんでした。
ジャックはついに罪悪感に耐えられなくなり、豆の木を切ろうと斧を片手に持ちました。しかし、今も豆の木を登っている人のことを考えると、ジャックの腕は震えだし、ジャックは豆の木の前で、泣き崩れてしまいました。
「僕はこんなに人を犠牲にしてまで、お金が欲しかったわけじゃないのに」
ジャックはここから逃げよう、この大きな豆の木が見えないところまで逃げてしまおうと考えました。 ジャックはすぐに身支度を整えて、母親と家を出ました。
するとそこには、立派な鎧を身にまとった兵隊たちが、馬の上にいました。
音が高らかに鳴り響くと、兵隊たちが道を作りました。その道を一際立派な鎧をまとった人が歩いてきて、ジャックの前で止まりました。
「私はこの国の王である。天に届く豆の木があると聞き、ここまで来た。ここに私が用意した大金がある。このお金でこの豆の木を買い取らせてもらう」
そう言った王様は、兵隊に宝箱を持ってこさせました。ジャックが中を見てみるとそこには、目がくらんでしまうような大金が入っていました。
「これだけのお金があれば、もう一生何もしなくても遊んで暮らせるぞ」
ジャックが王様をみると、王様は言いました。
「これでもまだ不満かね」
「いえいえ。ですが一つだけお願いがあります。僕たちは今からここを後にしようと思っていたのです。馬車があると嬉しいのですが」
「わかった。すぐ用意させよう。では私たちは早速この豆の木を登らせてもらうしよう」
ジャックが少し待っていると、馬車がやってきました。ジャックは母親を馬車に乗せ、王様に一言挨拶をすると、すぐに出発しました。
「さぁ、どこか遠くにいこう。あの豆の木が見えないくらい遠くまで。僕がしてしまったことを忘れて幸せに暮らそう」
ジャックたちを乗せた馬車は、豆の木からどんどん離れていきます。
ジャックは馬車から豆の木を眺めました。兵隊たちが豆の木を登っていく姿が見えました。
ジャックたちを乗せた馬車が出発してから10キロほど進んだとき、馬車が急に止まりました。
ジャックは何が起きたのか確認しようと馬車を降りました。
馬車の前には屈強な男が3,4人ほどいました。男たちはジャックに近寄ると言いました。
「持っている金を全部寄こせ。そしたらお前の命は見逃してやる」
もちろんジャックは首を横に振りました。すると男たちはジャックを羽交い絞めにして、殴り始めました。ジャックは抵抗しましたが、何の効果もありませんでした。
ジャックは口からは血を吐き、鼻からは血をたらし、目を腫らしながら許しを請いました。しかし男たちは暴力が収まることはなく、ジャックはボロ雑巾のようになるまでボコボコにされてしまいました。
「これくらいでいいか。よし、この馬車ごとずらかるぞ」
「兄貴、この女はどうしましょう」
ジャックの母親は男たちに囲まれて怯えた表情をしていました。
「適当に遊んだあとに、奴隷商人に売りつけたらいいだろ」
そう一人の男がいうと、他の男たちは下品な笑い声をあげながら、馬車のなかに消えていきました。
地べたに倒れているジャックに、リーダーらしき男が近寄ると言いました。
「俺の豆で得しやがって。俺は結局こんなに堕ちてしまった」
そう捨て台詞を吐いた男は馬車を出発させて、どこか遠くに行ってしまいました。
「一体何がいけなかったのだろう。どこで間違えてこんなことになってしまったのだろう」
ジャックは薄れていく意識のなかで考えました。
人を騙して危険なことをさせ、その利潤のすべてを自分だけのものにしていたのが間違いだったのだろうとジャックは思いました。
人を扇動することが悪であるのかは分からないけど、結果として多くの犠牲を生み出してしまったことは事実で、それを忘れようと、逃れようとしたけれど、最後にはお金も大事な人も、何もかも失ってしまった。
ジャックはそんな罪悪感や虚無感や後悔などにさいなまれながら、豆の木に見下ろされながら、意識を失ってしまいましたとさ。
おしまい。